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ソーイングスキルで目指せ魔王様~その魔物、俺たちのハンドメイド~  作者: あーちゃんママ
第10章 アーステア大陸
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フォーリット教会

歩いていると色んな視線を感じる。

もしかして女装ってバレたのかな・・・いや、ネガティブだな。

もっとポジティブに・・・そう、もうバレちゃってもいいじゃないかって・・・いやそれはダメージがでかいからヤダ!


ふと視線が隣からも来ていることに気付いた。


「ソフィア?どうした?」

「あ、えっとね、私にも似合う服とかないかなーって。みんなズボン似合ってたし!私も履こうかなって」


確かにジェスカみたいなパンツスーツやベネッサみたいにデニムパンツでもいいかもしれない。


でもソフィアには太ももが足りない。


少しむっちりと収まってこそのパンツなんだ。


「パンツよりレギンスのが似合いそうだね」

「え?なに?パンツ?」


「ズボンのことはパンツって言うんだ」

ちなみにレギンスはスパッツのことだ。


「え?じゃあパンツはなんて言うの?」


ズボンのことをパンツと呼ぶなら、パンツはなんと呼ぶのか?だと?


愚問。


パンツはパンツだ。


気取ってショーツなんて呼んでもいいが、ショーツには男物の短パンって意味もある。

パンツと呼びにくい時は下着と呼べばいい。


カボチャパンツがズボンであり、ズボンはパンツなんだ。


世の中にはパンツが溢れている。


それでいいじゃないか。


「・・・下着とかショーツとか言うけど、パンツはパンツでいいんじゃないかな?」


よし、自然な顔で言い切ったぞ。




「じゃあレギンスにしようかなーでもこのメイド服作るの大変だったからまだ着たいしー」

「それ作ったのか。凄いね」

「えへへー。一応ソーイングスキル持ってるからね。こういうの憧れてたんだー」


ふわっとスカートの裾を持ち上げる。

ちゃんと端まで縫い目が一定の間隔になっている。

フリルも付いていて、なかなかの技術だ。


憧れていたものを自分で作る・・・。

そうだな。せっかくソーイングスキルがあるんだもんな。


俺も何か独創的な物を作って、魔王と商業ギルドの両方を仕事にしたい・・・そうだ!


「私も作ってみたい物があるんだ。その・・・エルフの知り合いが付けてたブラジャーなんだけど・・・」


ベニチェア王国でメルリオーネにガッチリホールドされた時、後頭部で受け止めた胸の感触。


あれはブラジャーを付けていたのだろうか。


それすら疑うレベルの質感だった。


「もしかしてエルフのブラってやつ?」


「え?なにそれ?」


「特殊な素材を使ったブラジャーだって・・・ハッ!」


「ん?どうしたの?」


「あ、その・・・女の子が下着の話とか、あんまりしない方がいいのかなーって。ほら、下品に見られちゃうし」


「んー、いいんじゃない?自分に合った下着って大事な装備品だよ」


何より今更だし。

もう町中でパンツパンツ言いながら歩いてきた所だよ!


しかし、エルフのブラか。

あの質感ならきっと売れるだろうな。


魔王として魔石とミスリルとキノコ作って、エルフのブラを作って職人として商業ギルド入りをする・・・。

うむ、完璧な人生設計だな!


今度メルリオーネに会った時に作り方聞かなくっちゃ!

ソーイングで作れるといいな!



「あ、下着売場・・・ちょっと行ってきていい?」

ソフィアが女性用下着専門店を指さしている。


「いいよ、ここで待ってるから」


さすがについて行くほど変態ではない。


「時間かかるかもしれないから他のところ見てきていいよ?」


「いや、大丈夫。待ってる」


下着売り場に行くか護衛なしで1人で歩き回るかなんて、選択肢として酷すぎる。


変態になるか命の危機に晒される究極の2択。


ホール大陸とアーステア大陸は違う。

奴隷に対する認識が古いままの地域もあるから隷属の首輪(おまもり)があるからって、過信してはいけない。





ソフィアが店に消えたあと、俺は道の端のある空の木箱に腰掛けた。

こういう時は動かない方がいい。


顔を上げなければ目が合ったと因縁付けられることも無いだろう。


・・・ガヤガヤと人の話し声に混じり、ガラガラと音がする。


チラリと顔を上げれば、馬車に乗る人達が見えた。

栄えた土地から来たのだろう、みんな身なりが綺麗だ。

その中でも一際目立つ真っ白な服を着た女の人が馬車を降りた。


女性は俺を見ると、隣のおばさんとヒソヒソと会話し・・・。


ニヤリと笑った。


・・・これ、関わっちゃいけないやつ!


こんな事なら下着売り場について行けば・・・いや、男としてそれは・・・。


「もし、そこの方。あなたのために祈らせてください」


ごちゃごちゃ考えているうちに話しかけられてしまった。

お姉さんの透き通るような、それでいて優しい声が響く。


「えーと・・・祈る?」


「はい。戦闘スキルだけが尊重されるこの世の中、人を恨むな憐れむな、とは難しいことです。しかし、私たちは見つけたのです。捨てられてゆくスキル持ちが、生まれた意味を理解するすべを・・・」


うっとりと語りかける美人なお姉さん。

少し離れたところにおばさんが待機している。


・・・関わりたくねぇ!!


「・・・それはすごいね」


「もし興味がおありなら、ぜひ私たちの教団にお入りください。この教えを広めることで不幸な子供がいなくなることを一緒に叶えましょう」


「あー・・・興味ないんで」


興味があればと言ったよね?

興味ないからほっといて!!



「ですがー」

「ごっめーん!遅くなったー!」


ドシャ!


話を続けようとしたお姉さんを、下着入りの買い物袋が襲った。


おいトロール(ソフィア)?!何してるの?!


「あっれー?誰かいたの?見えなかったー」


見えてたでしょ!!


「お連れ様がいたのね。良ければあなたも・・・いえ、失礼します」


お姉さんはくいっとおばさんに袖を引かれると、すぐに立ち去ってしまった。


多分ソフィアが戦闘スキル持ちだからだろう。


「・・・おばさんが鑑定持ちで、お姉さんと組んで非戦闘スキルや奴隷を狙った勧誘・・・ってとこかな」

「えー鑑定スキルって結構レアだよねー珍しいもの見たー」


俺もパンツ類が凶器に変わる珍しい瞬間を見たよ・・・。


この町も犯罪が少ないわけじゃない。

もしかしたらあの2人も犯罪のために声をかけてきたのかもしれない。


「・・・フォーリット教会に寄っていくか」


この町には奴隷商はないが、フォーリット教会付属の孤児院があったはずだ。

念の為に忠告して、アペリティフと敵対しないために寄付もして印象を良くしておくか。





真っ白なフォーリット教会。

その隣に孤児院はあった。


貴族は教会の鑑定士を館に呼んで子供の鑑定をするが、平民は教会に来るのが一般的だ。


そして子供が戦闘スキルでなければそのまま置いていくことがある。


非戦闘スキルなんて言われるが、商業スキルとして胸を張って生きられるのはほんのひと握りだ。


だからといって捨てていくことないだろうに・・・。


教会の扉を開けると木の香りとロウソクのくすんだ独特の匂いが溢れてきた。


ステンドグラスから光の差し込む、清らかな空間。


誰もいないのに沢山並んでいる長椅子の横を通り過ぎると、祈りを捧げているシスターがいた。


「あなたは・・・どうぞこちらに」


「あ、はい」


歳は30台くらいだろうか。

真っ白な肌に濃い紫の瞳が印象的なシスターに招かれ、最前列の長椅子に腰掛けた。


目の前には4つの神様の像が並んでいる。

信じん深くないから名前は忘れたが、世界を作り、世界を安定させるため・・・何だったかな。

とにかくすごい4人がフォーリット教会の神様なのだそうだ。



「どうしても、もう一度お会いしたかった・・・ディートハルト様」


・・・バレた!!


「・・・どうして俺の事を?」


「ふふ・・・私は鑑定士です。・・・ディートハルト様のスキル鑑定をしたのも私ですから・・・」


俺は雪の降る日に生まれたそうだ。

そんな日に館まで来てくれたシスターがこの人なのか!


「そうでしたか。その節はありがとうございました」


「礼を言われるようなことはしておりませんわ。あの日・・・私は新人として、初めての仕事でした。先輩たちから『大きな仕事だ、ミスをすれば殺される』と脅され、とても緊張していたのを覚えています」


そんな大きな仕事を新人に任せた・・・。

その先輩、逃げたな!


まぁお父様たちの周囲の噂を聞いていればビビるのもわからなくはない。



「ふーん。鑑定するだけなら誰でもできるのにねー」


ソフィア!誰でもできる発言は失礼だからやめて!!


「あらメイドさん。それは違いますよ」


ほーら、シスター怒ったよ。

仲良くしに来たのに、やめてよー・・・。

「連れが失礼しました。どうぞ悪く思わないでください」


「ふふ、怒ったわけではないのですよ。スキルは最初の鑑定により具現化します。そのため、生まれて初めての鑑定は重要な意味があるのです。

私たち鑑定士は日頃から語学を極め、その子の一生を左右するスキルに名を与える役目があるのですよ」


「スキルに名前付けてたのシスターたちなんだ」


「すごい仕事だね」


人のスキルに名前をつける仕事か。

もしかして言語を学んでいないやつに鑑定されたら、とんでもないスキル名にされることもあるのだろうか?


いるよな、変な名前付けるやつ。

・・・俺か!



「名付けると言っても、魔力を使うスキルはほとんど名前が付いていますので、それを拾い上げるような感覚ですね・・・ただ、魔力を使わないスキルはここにある道具を使わないと具現化しないのです」


スっと祭壇に置かれたカートのような道具を見る。


「あれに赤ちゃんを乗せて鑑定するのです。人は必ず魔力を使うスキルを1つは持って生まれます。

・・・でも、魔力を使わないスキルのほとんどは戦闘スキルではありません・・・」



「あぁ・・・なるほど。それで1つしかないスキル持ちが生まれるのか」


親が勝手に鑑定して、スキルを覗き見して捨てるせいでスキルが1つしか持たない人間が生まれるのだろう。


鑑定のお布施を払うのをケチるためか、産まれたことを隠すためか・・・どちらにしても酷い話だ。


「嘆かわしいですわ・・・。1つしかないスキルで社会に貢献できるのでしょうか。何のために私たちは語学を極め、スキルに願いを込めているのでしょう・・・」


シスターが胸を押さえて首を振る。


確かに1つしかないスキル持ちの弟分は売れ残っていた。

1つしかないから捨てられたと思っていたが、親にスキルを厳選されて捨てられていたのか。


・・・ってことは!

ドルドーラの奴隷商にいる1つしかないスキル持ちの弟分たちにちゃんと鑑定を受けさせれば、スキルが増える!

非戦闘スキルなんて言われるが、商業スキルとして胸を張れるスキル持ちかもしれないんだ。

職につける可能性が上がる!

もしかしたら商業ギルドに入れるエリートになるかもしれない!!


この事手紙に書いて、給料のお裾分けと一緒に届けなきゃ!

待ってろみんな!!



「すみません、買い物の途中なのでここで・・・」


そうと決まれば早速行動せねば!

水玉(ウォーターボール)1つしかない弟分のエールが奴隷商で俺を待っている!!


「・・・ディートハルト様、お帰りになる前に、一つだけ・・・私の悩みを聞いていただけますか?」


「え?な、なんでしょうか?」


「・・・あの時、鑑定で映し出された魔力を使うスキルは【糸作成】・・・でした。ディートハルト様は・・・」


「魔力を使うスキルが、糸作成の1つしかなかったのですね・・・」


魔力を使うのに戦闘スキルじゃないとか。

俺もなかなか引きが弱いな。


「はい・・・ですので、私はもうひとつのスキルを選ばなければなりませんでした。魔力を使わない、得意なスキルを。でも・・・スキルが2つあり、私はどちらを選ぶか迷いました」


なんと!

俺得意なスキル2つもあったのか!


「それは・・・どんなスキルなのですか?」


「ひとつは『ソーイング』もうひとつは・・・『目測』です」


「・・・はい?」


聞いたことの無いスキルだ。

レアスキルなのだろうか?


「目測は・・・距離を測ったり、サイズ測定に使う程度で・・・私に選ぶ勇気は・・・」


「・・・・・・」


それ、スリーサイズ測るくらいしかできないゴミスキルだろ!


選ばれなくて、ほんとに助かった!

危うく魔王にもなれず、商業ギルド入りの夢まで壊される所だった!


「ちなみに選ばなかったスキルはどうなるのです?」


「鑑定で表示できるスキルが2つまでなのです。得意不得意なだけなので使えますよ」


なるほど、覚えがあるな。

みんなのサイズチェックが楽にできたわけだ。


と言うか、糸作成にソーイングに目測って、なかなかいい組み合わせじゃないか。

ザ・ソーイング!

俺、恵まれてるな!


「私は・・・ディートハルト様を社会に貢献できるよう、送り出すことができたのでしょうか?」


シスターが指にぐっと力を込めている。


「・・・ソーイングスキルを選んでくれたこと、嬉しく思います。これのおかげで仲間ができ、自分の夢や目標を持つことができました。・・・全てシスターのおかげです」


今だからこそ、本心からそう思える。


「良かった・・・長年のつかえが取れたようです」


シスターがふわりと笑う。

俺も自分のスキルに向き合えてよかった。


「もしよければ、これをお持ちください」


【ソーイングの基礎基本。コツを掴んでいっぱい作ろう!初心者応援キット付き】

【特殊な生地はもう縫った?伸びる素材と分厚い生地の縫い方特集!職人手作りの針プレゼント!】


どうやらソーイングスキルの初級と中級のスキルアップの書のようだ。


奴隷商では独学で服を作っていたから、ここで基礎基本に戻るのもいいかもしれない。


「もしあなたが捨てられてここに来た時に、私の贖罪として渡そうと思っていたのです。・・・でもあなたは家族に愛されてきました。社会に必要とされる人物にスキル鑑定ができたこと、誇りに思いますわ」


「ええ。私も大事に育ててくれた家族を誇りに思います」


だからこそ、今度は俺がみんなを守るんだ。

俺もアペリティフの1人として、誇り高く生きなきゃ!





「それじゃ買い物に・・・って、そうだ。あまり多くはありませんが、孤児院に寄付をしたい」


いい調子で教会を出ようとして、ここに来た用件を思い出した。


まだ鑑定していない子供がいるなんてバレて関係が拗れるのは嫌だからな。

それに教会入りさせるべき回復スキル持ちも村にいる。


誇り高いアペリティフとして隠し事はしたくないが、今は敵をひとつでも減らしたい。


ここは寄付をして、良好な関係を築こう!



「まぁ、ありがとうございます!ですが、この孤児院は働かざる者食うべからず。できればクエストを用意して頂きたいのですが・・・」


クエスト。

それは孤児たちがこなせる程度の買い物や掃除などを頼むシステムだ。


「そうですね。では買い物クエストを頼みます」


「わかりました。みんな、お使いに行ってくれますね」


「「「はーい!!」」」


どこから見ていたのか。

子供たちが聖堂になだれ込んできた。


みんなお揃いの白い服と青いバンダナを頭に巻いていた。

中にはうさぎの耳のように装着している子もいて、自由度が高い。


ドルドーラの奴隷商では緑のスカーフが所属を示すアイテムだったが、ここでは青いバンダナなのだろうか。


「買い物、何買うのー?」

「おねーちゃん、はやくー!」

「ちょっと待ってね、買う物メモするから」


この町は近くで戦争がある割に物流もあるし、物価は高騰していない。


商業ギルド所属の旗がそこら中にあったから、あの人たちのおかげだろうか。



とりあえず買う物は

バターやミルクなどの乳製品。

塩コショウ、マヨネーズなどの調味料。

イノシシ肉以外の肉や魚類。

保存のための時間停止のマジックアイテム。

それに布かな・・・。


村人50人くらいいるから・・・ざっと金貨5枚くらいか。


ちょっと多いが、銀貨で渡した方がいいな。

どうせ魔法付与で重さはない。

それに銀貨で払わないとお釣りが出せないって店から怒られるんだ。



「買い物メモとお金です、みんな頑張ってくださいね」

子供たちに銀貨の入った袋とメモを渡す。


「「はーーい!」」


子供たちが教会から走り出し、塀から見えなくなって・・・すぐだった。


「・・・シェリー、1人ダメな子がいるよ」


『ダメな子』それはクエストを放棄して預かったお金や品物をくすねてしまう子だ。


「まじか・・・連れてこれるか?」

「もちろん」



シュバッ!とソフィアが地面を蹴って教会の塀を超えていく。


・・・やだな。ダメな子に会うの。


孤児となった子は心に色々抱えている。

親の顔も知らずに捨てられた子もいれば、戦争で親を亡くした子もいる。


環境の変化に適応できないのはわかるけどな・・・。


俺も泣くことはあっても『ダメな子』にはならなかったぞ・・・。


・・・あぁ、エール、みんな・・・俺たちくらい良い子ばっかりなら誰も苦労しないんだよ・・・。


って、現実逃避は無駄だな。


ソフィアが片手で引きずってきたのは、俺より年下の男の子だった。


「おい!離せよ!」


「シェリー、これ」


投げ寄越された財布は空になっていた。


「・・・ここに入っていたお金は?」


「知らねぇよ!お前が預けた金は知らない奴に盗られたんだよ!」


「もー!わっかりやすい嘘つくんだからー」


あーもー!とソフィアが呆れながらその子の鞄に手を突っ込む。


ズボッと出てきたのは、少し汚れた財布だ。


「ほら、ここにあった」


見れば銀貨だらけだ。

孤児の財布なら銅貨が数枚程度のはずだ。


「ぜんっぜん、知らねぇ!」


「・・・その銀貨。買い物クエストで消費しないと爆発するけどいいんだな?」


「「え?!」」


もちろん嘘だ。

・・・でも何でソフィアまで引っかかるかな。


「はぁ・・・ドルドーラの奴隷商、掟その2・・・善意を受けても社会に馴染めない者は、犯罪奴隷として棲み分けされるべし・・・」


『衣食住整えれば人間は集団になれる。あとは清潔を保って愛想よくすれば職にありつける』

ドルドーラの奴隷商での教えだ。

これを守れず犯罪に手を染めるやつは、犯罪奴隷が根城にする奴隷船に乗せられてきた。


『馴染めないなら社会に出るな。犯罪者だけの社会に棲み分けされろ』というものだ。


厳しいようだが、子供にも適用されてきた俺たちのルールだ。


この子は奴隷商の子じゃないから衛兵に引き渡すか。



「うっせぇな!俺は戦闘スキルだぞ!イキってんじゃ・・・」


パキャ・・・。


男の子が立ち上がる直前、ソフィアがシャベルを振り抜いた。


男の子はゴロゴロと転がり、壁に打ち付けられた。

起き上がろうとして、男の子の動きが止まる。


「あ・・・うわ・・・腕が・・・」


男の子の右腕がぐにゃりと曲がっている。


「あれ?戦闘スキルにしては柔らかいねー」


ソフィアは首を傾げながらシャベルをコンコンと叩いた。



・・・と言うか、ソフィア強え!!


身体強化のスキルも強いんだろうけど、何よりメンタル!

こんないたいけな少年をよくぶっ飛ばせたね?!



「ソフィアさん・・・衛兵呼ぼうか」

ソフィアが捕まるかもしれないけど、男の子を引き渡さないと。


「何でさん付け?・・・あ、衛兵は呼んであるから、すぐ回収されると思うよー」


「そうなのか?」


いつ呼んだんだろう?

まぁ、すぐ来るならいいか。



「ああ・・・なんてことでしょう。バルトロ、嘘ですよね・・・」


シスターが駆け寄ってくるが、男の子は目を合わせようとしない。


「何だよ・・・だって職がねーんだもん!何が働かざる者食うべからずだよ!このままどうせ奴隷に落とされるんだろ!」


孤児院にいたままより、奴隷商にいたほうが職につきやすい。

身寄りがないだけでどう扱っていいかわからない子供より、ちゃんと奴隷商で教育を受けて『労働とは何か』をわかってる方が雇いやすいからだ。


そもそも奴隷に対する認識が違うのか?

貧困奴隷と犯罪奴隷は全然違うものだというのに。


「それでもやってはいけないことの区別くらいつくでしょ?」


「・・・何だよ!・・・。お前みたいに良いとこの奴隷商に引き取られたやつに・・・俺の何がわかるんだよ!!」


痛そうに腕を庇いながら、俺の首輪を睨んでいる。


「はぁ・・・『良いとこ』というが、ドルドーラの奴隷商は確かに有名だし、引手数多の大手奴隷商だ。

でも大手でやれているのも、引手数多の奴隷がいるのも、全部みんなでルールを守っているからだ。

お金を騙し取るのも、力を悪用するのも、自分の環境を悪くするだけだよ」


みんなでルールを守ることで、『あそこの隷属の首輪をしてるやつは礼儀正しい』って評価を貰えるんだ。

1人が和を乱せば、全体の評価に響く。

その下がった評価は、職を得る機会に直結していく。


子供でもわかることだ。

自分のしたことが、みんなの未来を脅かすものだって。




「この孤児院から社会に適さない子が・・・うっ・・・」


シスターが目を押えて教会に走っていってしまった。


「シスター!」

「シスターまってー」

他の子たちもお金を俺に返して教会に戻っていく。


クエストどころじゃなくなってしまった・・・。



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