中級ダンジョン
テオドールとヨルヨンはオリビアと一緒に馬車での移動だ。
俺はトライドットの後ろをルーイに跨って走っている。
ピコーン!
もう!誰だよ!
時々ピコピコと警告音が頭に鳴り響く。
誰かがスキルで攻撃しているようだ。
スキルキャンセルのハンカチを手首に巻いているから当たらないけどな!
俺の持っている空間作成のマジックアイテムが欲しいのだろうか・・・。
いや、俺を殺してもアイテムは主人のテオドールの物だろうに。
・・・ってことは、単純に俺を殺したい。と。
俺は自分の価値を高められなかったことに頭を抱えたくなった。
でも失敗したことはしょうがない。
幸いスキルキャンセルで今のところ無事だしな。
しばらく平地を進み、林を抜ける。
川のふもとに中級ダンジョンの入り口はあった。
中級ダンジョン【ベニチェア墓地】
一面花で覆われた平地に、サラサラと流れる小川。
墓地なのに公園のような清々しさがあるダンジョンだ。
そういえば俺、ダンジョン攻略は初めてだったな。
・・・ちょっとワクワクしてきた。
白い壁に草が這いずるように登っているダンジョン入り口。
その近くにちょっと薄汚れたテントがある。
ダンジョン御用達の行商人だろうか。
「話を聞いてきます」
「もうトレインしてくるなよ」
「わ、わかってます」
まぁ女性はいないようだし大丈夫だろう。
トライドットは行商人たちと会話しに向かった。
「テオ様はお強いのですか?」
「どうでしょうね、危険を冒すような真似をしていませんので」
テオドールとオリビアはふふっと笑い合っている。
馬車から降りた所からしか見てないが、相変わらずの貴族モードで姫さまの相手をしている。
普段からそれならイケメン貴族に見えるのに。
周りのメイド軍団も「お似合いですわ」とか言っている。
・・・いや、お似合いはダメだろ。
隣国に嫁に出すのに。
「パパさまも行くの?」
いつの間にか隣にヨルヨンが来ていた。
・・・メイド軍団の視線が痛い。
「・・・そうだね、俺には戦闘スキルがないから荷物持ちになるけど、ドットもテオも戦えるみたいだし、ヨルヨンも危険があったらすぐに逃げるんだよ」
逃げ遅れてウールンみたいに捕まっては大変だ。
もちろんトライドットが魔物のいない道を選んでくれるか、弱い魔物を倒して終わりってのが理想だ。
「でもヨルヨンも戦えるよ」
「そっか!ヨルヨンは偉いな!誰か助けを求めてたら助けてあげてくれ」
「はい!パパさま!」
うちの子、可愛い過ぎだろ。
「お待たせしました。ディー君、ちょっと来てください」
メイド軍団に聞かれない位置まで移動した。
「妹かもしれない人物についてですが、ここに来たのは冒険者育成学校の授業の一環なんだそうです。すでに実地訓練を終えて各地に散らばってしまったそうです」
「一足遅かったか。・・・しょうがないさ。気にかけてくれてありがとう。それはそうと、あの姫さま、やけにテオに絡むな」
メイド軍団もやたら2人の仲を取り持っている。
「隣国との王子と婚約と平和条約が締結したと聞いていたのですが・・・こんなところを見られたら隣国と揉め事が起きてしまいます」
これ以上揉め事はいらないぞ!
「さくっと潜って帰るか。もちろん弱い魔物の部屋で頼むぞ」
「大丈夫。さぁ行きましょう」
姫さまを手ぶらで帰らせるわけにはいかないからな。
ちょっと魔石が手に入れば満足して帰るだろう。
護衛にたくさん人が来るかと思えば、そうでもない。
護衛は全部で7人。
前衛パーティーと後衛パーティーに挟まれるようにして俺たちとオリビアの5人は固まって移動していた。
すべすべとした大理石のような岩肌。
吹き抜けとなったエントランスには、墓なのに新鮮な空気が循環し、カビひとつない。
墓地というより博物館のような落ち着いて過ごせそうな雰囲気はトライドットの趣味だろうか。
細かな設計がされており、トライドットの技術の高さがうかがえた。
「あ、魔物ですわ!」
そこには剣を持った骸骨がいた。
骨が白くツヤツヤしていて、健康的だ。
「私が仕留めます!はぁ!」
オリビアの掛け声とともに土属性の刃が魔物に突き刺さる。
あっという間に魔石になってしまった光景に、俺とトライドットの視線は生暖かい。
誰がその魔物を作ると思っているんだ。
もう少し魔物作りにかかる労力や情熱を考えて、手軽に倒さないでもらいたい。
「テオ様、仕留めましたわ」
うふふ、と笑うオリビアはテオと同じ金髪を揺らしながら走り寄っていく。
「ふふ、すごいですね。でもヨルヨンだって強いんですよ」
お前は何を対抗心燃やしてるんだ!
今のは「オリビアは凄いね」って褒めて一段落するところだろ!
「まぁ!ヨルヨンも戦闘スキルがあるのね!」
「あの・・・えっと」
あーほら、ヨルヨンが困ってるだろう。
「ほら、ヨルヨン。次に魔物が出たら力を見せてね」
「はい!おとうさま」
にっこりと笑いかけるヨルヨンは天使に見えた。
管理が行き届いているダンジョンはこれと言ってアクシデントはなかった。
明らかにテオドールを意識し「王族は宝玉の力のおかげで土魔法の術者が多く生まれていますの」とか「王族はみんな金髪ですの。私たちもお揃いですわね」と声をかけても、「ヨルヨンは土属性魔法使えなくても強いんですよ」とか「ヨルヨンは銀髪だけど同じ髪型だもんね」と全て返り討ちにしている。
違うんだよ!姫さまはお前とキャッキャウフフなダンジョン攻略をしたいんだよ!
なんだか不憫にすらなってきた・・・。
「このままアクシデントなく帰りたい」
会話は既にアクシデントだらけだけどな。
怪我でもして責任取れとか言われても困る。
「ガーディアンも別の部屋にいてもらっています。これで何もないと諦めて帰ってくれるでしょう」
「ここで終わりですのね」
墓石が等間隔にひしめく最下層。
ここまでに倒したのはスケルトン1体だけだ。
ちょっと物足りなそうに辺りを見回している。
「姫様!こちらに隠し部屋がありますわ!」
壁沿いを歩いていた兵士の一人が声を上げた。
しまった!
索敵か捜索スキル持ちか。
「みなさん離れてください!はぁ!」
オリビアが土壁を壊すと、壁の向こうから一つ目の巨人が姿を現した。




