見えない戦い
「ここは何も知らないで通すしかないでしょ!宝玉の姫についても名前についても、何も知らない!」
「知らないで王族が引いてくれるとは思わないけどな」
だよねー・・・とみんなでため息を吐く。
「・・・一応ここからの脱出を考えておきます。この国の地下はスキルキャンセルがばらまかれているので、地下に逃げることができないのです」
防犯対策なのか知らないが、余計なことを。
コンコン・・・。
ドアをノックされる。
「どうぞ」
「失礼致します。ヨルヨンお嬢様に流行のお召し物をお持ちしました」
先程のアナリーゼとメイドたちが入ってきた。
メイドの手には様々な大きさの箱がある。
「頼んでいませんが・・・」
「頼まれなくても動くのが一流のメイドにございますわ」
メイドたちがわらわらとヨルヨンに群がっていく。
赤や黄色のドレスを取り出し、あれも素敵、これも素敵、とヨルヨンを持ち上げている。
「もちろんその紺色のワンピースも素敵ですわ。商業ギルドが手がけた素敵なワンピースですものね」
ん?作ったのは俺だぞ。
「これ、パパさまが作ってくれたんだよ?」
「パパさま?」
ちらっとヨルヨンか俺の方を向く。
そうです。俺がパパさまです。
「・・・ヨルヨンお嬢様はこちらの方の御息女にございましたか」
アナリーゼが俺を見て、ヨルヨンを見る。
・・・舌打ちでもしそうな顔したぞ、この女。
「ヨルヨンはそのワンピースと、エビ色のワンピースがお気に入りなんだよね」
「はい!おとうさま!」
「おとうさま?」
アナリーゼの目が信じられないと言わんばわりに開かれている。
「失礼ですが・・・ヨルヨンお嬢様はどなたの御息女でしょうか」
「それを知ってどうする。これらの服も必要ない。持って下がれ」
「・・・わかりました」
トライドットが魔王の覇気を出しながらアナリーゼたちを部屋から追いやった。
「思った以上にまずい状況ですね・・・」
「あぁ・・・」
俺も薄々だが、自分に向けられる視線の意味くらいはわかる
ゴミを見る目。
多分スキルカードに記入されていたスキルの内容を知られたんだ。
今までみんなに大事にされてきたから、こんな目に晒されたことは無い。
俺、泣いちゃうよ?
・・・いや、俺が泣くだけならいい。
でもヨルヨンはダメだ。
「ヨルヨンに危害が及ぶかもしれない。ヨルヨンはテオの娘ってことにしよう」
ちょうど同じように三つ編みにしているんだ。
さっきも勘違いしていたし、名前にノーブル・ロットって入ってなくても誤魔化せるだろう。
「それでもディー君への危険が減るわけではないでしょう。・・・あまり頼りたくはありませんが、仕方ありませんね」
トライドットが右手を握り力を込めると、ふわっと光りが宿る。
その光を床に向かってそっと投げ捨てた。
「・・・これで気付いてくれれば良いのですが」
「何をしたんだ?」
「ノームの末裔が使う連絡手段です。ノームの末裔同士でなければ内容までは見られませんが・・・気付いて会いに来てくれることを祈りましょう」
結構運任せな手段だな。
コンコン・・・。
再びノックが響く。
「・・・どうぞ」
なぜかアナリーゼが戻ってきた。
・・・メイドの数、増えてないか?
「先程は失礼致しました。ヨルヨンお嬢様がエビ色がお好きだと聞きましたので、昼食前にドレスを、と持って参りました」
「だから要らぬと・・・」
先程より多いメイド軍団はアナリーゼとトライドットの脇を抜けていく。
「ヨルヨンお嬢様、こちらのピアスも素敵ですよ」
メイドの1人がいかにも高級そうな宝石の付いたピアスを勧めている。
おいやめろ!
ヨルヨンの可愛い耳に何をするつもりだ!
「ヨルヨン、ピアスは穴が空くから止「まぁ!なんて口の利き方をされるのでしょう!」
「信じられませんわ!」
・・・ええ、アウェーイ・・・
メイド軍団の集団暴行を受け、俺のメンタルがゴリゴリ削れたのがわかる。
「ヨルヨンお嬢様に失礼でしてよ!ディートハルト、様」
いま、様って付け忘れてただろ!
アナリーゼが相変わらずゴミを見る目で俺を見てくる。
・・・仕方ない。
「・・・ヨルヨン様にはピアスで穴を開けるようなことは必要ありません。そうですよね、テオドール様」
俺は縋るようにテオドールを見た。
「そうですね。ヨルヨンにはまだ早いでしょう」
ニコニコと答えるテオドール。
俺を射殺せそうな視線を飛ばしてくるメイド。
「・・・ええ、ピアスはまだ早いようですわね」
ヒシヒシとヘイトを感じるが、俺はヨルヨンの耳たぶを守りきった!
「・・・ディートハルト様はフェンタークの一族であらせられるとか。あの『首狩りのフェンターク』とはどのようなご関係で?」
「は?首狩り?」
そんな物騒な親戚はいませんよ!
「まあ!あの野蛮なアーステアの首狩りですって!」
「なんて恐ろしい。育ちの悪さは所詮奴隷ですのね!」
誰が野蛮人だ!
知らない人と俺を一緒にするな!
あと俺のことはしょうがないと思えるが、奴隷商のことは悪く言うんじゃねぇ!
「そん「ヨルヨンお嬢様!商業ギルドから最新のエビ色ドレスをお持ちしましたわ!」
俺の声を遮り、アナリーゼがメイドに命じて濃い赤色のドレスを広げた。
俺に反撃すらさせない気か!
ふわりと広げられた鮮やかな濃い赤色のドレス。
白いフリルがふんだんに使われ、高級感が漂っている。
「それエビ色じゃないよ?」
「え?」
ヨルヨンが鞄からエビ色ワンピースを取り出す。
「これ、ヨルのエビ色ワンピース」
「まぁ・・・」
ふっと鼻で笑うように、俺を見る。
ええ、そうですよ。
それも俺が作りましたがなにか?
「ヨルヨンお嬢様、これはシュリンプピンク・・・つまり小エビにございますわ」
・・・え?
「まぁ・・・これがエビ色だなんて・・・」
「こんな事も知らないなんて・・・」
ヒソヒソと遠巻きになじられる。
やめてくれる?
真面目に間違えた事で人を貶しちゃいけないって教わらなかった?
「ヨルヨンお嬢様、こちらが正真正銘エビ色にございます。これをエビ色だなんて・・・己の無知を恥じるべきですわね」
クスッと笑い、俺を見る。
痛恨の一撃。
このままでは・・・泣かされてしまう。
俺は、シェリーに・・・、妹に会うまで泣くわけには・・・。
ふとシェリーの顔と、あの本が頭に浮かぶ。
『誰でも撃てる大魔法、簡単威力アップで一撃必殺』
魔物との戦いで周りを囲まれた時『全てを巻き込む全体攻撃を放ち、まとめて倒せ』って書いてあったな・・・。
全体攻撃・・・全体攻撃・・・。
ダメだ。
アイデアが浮かばない・・・。
俺の視界にテオドールの指輪が映る。
シンプルなデザインなのにこいつが付けるとなんでも高級そうに見えるんだな。
ここは話題を変えて体勢を立て直そう。
「テオ、その指輪似合ってるな」
「まぁ!テオドール様になんて口のきき方を!」
焦ってテオドールに様付け忘れた。
くそ・・・これで終わりか・・・。
「え?ディーも同じの付けてるでしょ?」
アナリーゼたちの視線がテオドールと俺の左指に集中する。
・・・これだ!!
「ああ!お揃いの指輪って素敵ですよね!おや!皆さんは指輪は付けないのですか?ああ、仕事中は外してらっしゃるんですね!」
俺は中指の指輪を薬指に通し、残りの力を振り絞って笑ってみせる。
その年ですからぁ!結婚して指輪くらい貰ってますよね!
ほーら!こんな風に付けちゃいますよね!
付いてないのは仕事で外してるだけですよね!
ええ?!結婚してないの?!
あらあら!仕事熱心なのね、おほほ!とな!
・・・あ、全部伝わったみたい。
ヘイトがやばい。
物理で殴れそうな殺気が来てる・・・。
あぁ、さすが誰でも撃てる大魔法!
メンタルをクラッシュさせ、俺はメイド軍団に勝ったんだ!
チラッとアナリーゼがメイドの1人に視線を向ける。
すっ・・・とドアから出ていった。
「・・・そろそろ昼食となるのだったな。先に言っておく、私たちの食事に口にしてはならない物が入っていた時は・・・即座にここから出ていかせてもらう。わかったな」
「ふふ・・・もちろんですわ」
アナリーゼはチラッと違うメイドに視線を飛ばし、退室させた。
・・・さっきのメイド、昼食に何か入れに行ったってことか?
今のメイド、止めに行ってくれたんだよね?
・・・俺の昼食、無事に終わるよね?!




