ヨルヨンの装備品
結局「責任を持って育てるように」と言い渡され、その場は即座に解散となった。
・・・途中でヨルヨンのお腹が鳴ったからだ。
そういえば早朝からガタンゴトンと箱を揺らしていたんだった。
早く何か食べさせてあげないと。
くきゅ~~~・・・
ヨルヨンがお腹を押えてこちらを見ている。
「待って、待って!何か作るから!」
「テオ落ち着け。見てるだけだ。責めてるわけじゃない」
ヨルヨンを抱えてキッチンまで走ってきたが、何を作ろうか。
「冷蔵庫開けるぞ」
「え、うん!どうぞ!」
人の家の冷蔵庫を開ける際は一言言ってからにしろとドル爺に言われたからな。
ちゃんと守ったぞ。
ガチャっと冷蔵庫を開ける。
「・・・空間作成と冷却の二重付与とかどんだけ」
扉の向こうにはひんやりとした倉庫が広がっていた。
わかる範囲でいえば二重付与、もしかしたら三重かもしれない・・・。
高級品の数々を見せられ過ぎて感覚がおかしくなりそうだ。
「とりあえず好みがわからないからバタートースト、サラダとコンソメスープでいいだろ。先にミルクセーキ作って飲ませてやろう」
「ミルクセーキって何?」
「卵とミルクと砂糖、それにバニラエッセンスを加えてかき混ぜたものだ。シェイカーかミキサーがあればすぐできる。なかったら泡立て器だな」
インテグラがお菓子作りをしていたんだ。
それなりにキッチン用品や食材もあるだろう。
「ミキサーならあるよ!」
ドーン!と持ってきたそれ、どうせ動力魔石だろ。
そして俺が開けたトースターも湯沸かしポットも、どうせ動力魔石なんだろ。
もういちいち驚かないぞ。
「それに卵、ミルク、砂糖、氷、バニラエッセンスを入れたらできる」
「卵何個入れる?」
「3個」
ついでに俺たちの分も作ろう。
サラダは簡単にアボガドとトマトのサラダでいいや。
ドレッシングはオリーブオイルと塩コショウ。
あ、バルサミコ酢ちょっと隠し味に入れるか。
「ミルクってどれ位?」
「その容器半分くらい」
お湯沸くの早いな。
ってパンもいい色してる。
さっさとバター塗ろう。
「・・・砂糖は大さじ2、氷はそのサイズなら3つ、バニラエッセンスは5滴な」
「・・・大さじってどれだっけ」
くきゅ~~~・・・
「できたー!」
角張ったガラス製のゴブレットにミルクセーキを移し替える。
「朝食もできたし、座って食べよう」
コンソメスープはお湯で溶かすだけの手抜きだが、朝食はこれくらいお手軽でも許されるはずだ。
「あ・・・」
ヨルヨンをイスに座らせるが、座高が足りない。
「待ってて!」
テオドールが部屋から飛び出し、モンスターボックスに使った赤いクッションを持ってきた。
今日は走ってばっかりだな。
「二つ折りにすればいいか。お、サイズぴったりだな。ヨルヨン、テオが走って取ってきてくれたんだ。ありがとうは?」
「おとうさま、ありがとう」
「・・・うん」
「偉いぞヨルヨン。ちゃんとお礼言えたな」
よしよしとヨルヨンの頭を撫でた。
ヨルヨンを真ん中に座らせ、ようやく朝食だ。
「ヨルヨン、それおいしい?」
ヨルヨンがミルクセーキを半分くらい一気飲みしている。
「あのね、ヨルこれ好き」
「よかった!」
テオドールがニコニコと隣でサラダを食べ始めた。
「ヨルヨン、そのサラダもおいしいよ」
テオドールの方をチラチラ見ながらフォークを掴むと、アボガドに刺して口に運んだ。
・・・そういえばまだテーブルマナーどころか、食器の使い方も教えてなかったな。
「おいしい!」
ニコニコとサラダを食べている。
テーブルマナーはまた今度でいいか。
いまは楽しく朝食を食べよう。
「ヨルヨン、俺のことはパパでいいからな」
「ぶふっ」
「パパさま?」
いい響きだ。
テオドールはサラダが変な所に入ったのか、しばらくむせていた。
「ドット兄様、中級ダンジョンを見に行きたいんだけど、行ってもいいかな?」
朝食を終えてトライドットの部屋を訪ねた。
部屋の中はアンティーク調の小物がいくつも置いてある。
「構いませんよ。テオに見せるなら豪華絢爛なダンジョンにリフォームしておくんでした。出発はいつにします?」
ちらっと俺を見る。
トライドットも俺が件の女の子を調べに行くためと察しているのだろう。
「中級ダンジョンを見て、俺の故郷を見て、そのあとに上級ダンジョンに帰る予定だ。あんまり時間が経つと魔物たちが全滅して冒険者たちが泣くかもしれない。早めがいいかな」
「それでは今日準備して、明日にでも出かけましょう。私は深紅の鉱石を取りに来ただけなので用も済みましたし」
「ありがとう、助かるよ」
・・・俺はようやく一歩前進したと思う。
トライドットの部屋を出ると、インテグラがふわりとスカートを揺らして階段を降りていた。
これで女装とか。
クオリティ高すぎだろ。
「あ、グラ姉様、僕たち明日ここを出るね」
「あら急なのね。お父様にも挨拶していくのよ」
「うん。ドット兄様の中級ダンジョン見せてもらって、アーステア大陸行ってから上級ダンジョンに帰るの」
・・・そうだった。
ここはウォルテア大陸で、俺の故郷はアーステア大陸だ。
あまりに遠回り過ぎる。
「すぐ帰らないなら上級ダンジョン、私が見てきてあげるわ」
「いいの?」
「ええ・・・昨日ディー君にダンジョンについて色々聞いたから、行きたくなったの」
「うん。・・・ありがとう、助かるよ」
「・・・ふふ、どういたしまして」
目を細めるインテグラがふわりと笑った。
「テオ・・・その、ありがとう」
「え?何?」
「きちんとお礼を言ってなかったと思ってな」
職をくれて外に出る機会をくれた事、遠回りをしてでも故郷に帰る機会をくれた事。
ヨルヨンにお礼言いましょうと教えながら、俺が実践できていないのでは示しがつかない。
「その、どういたしまして・・・恥ずかしー!」
「俺だって顔熱いわ!ほら、さっさと明日の準備するぞ」
俺たちはヨルヨンの手を引いて部屋に帰った。
俺たちはヨルヨンの付け襟とボレロ、それに換えの洋服とサンダル、下着各種を作っている。
付け襟はその名の通り、襟のないシンプルな服にお気に入りの襟をリボンやボタンで付けるものだ。
レース状のクロシェだけでなく、フェルトやパールなどの素材を組み合わせることもできる。
カーデガンのような覆うタイプの付け襟もあるが、今回は首周りだけでいいか。
俺はカギ針を取り出し、モチーフを編んでいった。
花柄モチーフをいくつもあしらった真っ白な付け襟に、赤色のリボンを通した。
「ヨルヨン、おいで」
「はい!パパさま」
とてとてと歩く姿も可愛い。
俺は付け襟を巻くとキュッとリボンを締めた。
「うん、似合うよ」
「・・・パパさま・・・見えない」
一生懸命覗き込もうとしている。
何だこの可愛い生き物は!
「・・・テオ。鏡が必要だな」
俺たちの買い物リストに姿見鏡が追加された。
ボレロはニットで作った。
レース生地で作った方が大人っぽいが、これから寒くなる時期だ。
保温性を高めた方がいい。
サイズは様々あるが、今回はワンピースに合うよう腰上までしかない短い仕上がりだ。
こちらも真っ白な毛糸で作った。
ありがとう、牧場の力強い羊さん。
換えの洋服は紺色のワンピースを作ろう。
狼のぬいぐるみを作った時の光沢のある紺色の布を使う。
胸の下から布の広がりの異なるエンパイアシルエットのエビ色ワンピースがあるから、今回は上半身はぴったりと、スカートはふんわりと広がるフィット&フレアでちょっと大人っぽく仕上げる。
あとノースリーブで肩を出してもいいが、今はそんな時期じゃない。
「室内は温かいから、フレンチスリーブにフリル袖を付けるくらいに・・・いや、流行を取り入れてラッフルスリーブにしようか・・・」
「なに悩んでるの?」
いつの間にかヨルヨンはテオドールの膝に座っていた。
おいずるいぞ。
「半袖とノースリーブの中間くらいにあるフレンチスリーブは肩が少し隠れるから、二の腕が細く見えて女性らしいシルエットになる。これにフリル袖を付けようか、ラッフル、つまりフリル袖より幅の広いヒダ飾りを付けようか迷っている」
「可愛い方で!」
「なに着せても可愛いから迷うんじゃないか!」
結局控えめにフリル袖を付けた。
無闇にゴテゴテヒラヒラさせるより、素材の良さを活かした方がいい。
ヨルヨンの二の腕は元々細いのだ!
サンダルは靴底に穴を開けて紐を通す簡素なものだ。
奴隷商でも靴のサイズがどんどん変わったから、みんなこれを履いていた。
靴を作ってあげたいが、レザークラフトはまだ全然習得出来てない。
だってあれ、硬いんだよ!
ハサミで切れて、菱目打ちしなくても針が通るものでないと。
「テオ、できたか?」
「右のが小さいかな・・・」
まな板の上でコルクボードをナイフで削っている。
ノルトラインからワインのコルクを抜き終わったコルクガシから、コルクボードを作ってもらった。
これなら木でサンダルを作るより足への負担は小さい。
もちろん一時的なものだ。
町に行ったらちゃんと靴を買おう。
削り終わったら穴を開け、四つ編みにした赤い紐を通す。
簡素だったから白い花のモチーフも付けた。
とてとて・・・とサンダルを履いて歩き回っている。
「ヨルヨン、履いてて痛くない?」
「痛くないよ!あのね、可愛い」
可愛いのはお前だよ!
さて、下着だ。
俺はとっておきの布を取り出した。
真っ白な綿100%の肌触りの良い布だ。
P素材の布の方が通気性に優れているが、肌触りが違う。
子供の下着といえばこれだろう。
まずはキャミソール。
タンクトップでもいいが、こっちのが可愛いじゃないか。
肩紐、前身頃、後身頃をできるだけ縫い目が体に当たらないよう繋いだ状態で布から切り取った。
ワンピースから見えることはないと思うが、どんな服を着ても合うように胸元は三角に。
薄くレース編みを作り、胸元の三角に沿って縫っていった。
そしてパンツ。
今の俺なら丈の長いドロワーズだろうが、クロシェで体のラインを出す扇情的な下着だろうが何でも作れる。
しかし、着るのはヨルヨンだ。
であれば、ノーマルパンツ一択だろう。
縫い目が股下に来ないよう布から切り取り、股下に布を足して縫う。
ゴム素材を通せば完成だ。
さらに、かぼちゃパンツを作る。
かぼちゃパンツは子供にとってズボンのようなものだ。
スカートが捲れてパンツが見えてしまう心配も、お腹が冷える心配も、これ一つで解決できる優れものだ。
作り方も簡単だ。
トランクスのような形に切り抜き、ゴム素材を通せば終わり。
こんな簡単なのに可愛いし温かいということで、冬になると履く子が増えるのだ。
綿100%の真っ白なキャミソールにパンツ、かぼちゃパンツをそれぞれ3セット作った。
「ほら、ヨルヨン履い・・・なんでいるんだ」
何故か魔王が部屋にいる。
「出立の支度の最中、貴様がよからぬ事をしているのではと思ってな・・・」
威圧的な目で俺と、俺の持つかぼちゃパンツを見る。
「これはかぼちゃパ・・・子供用のズボンなんだ」
装備するかい?とヨルヨンに見せる。
「うん!」
たたたっとヨルヨンがかけてきた。
「・・・テオ、これで町に行ったらちゃんとしたものを買いなさい」
視界の端に、かぼちゃパンツより膨らんだ布袋が見える。
多分今回の旅もお金の心配はなさそうだ・・・。




