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それぞれの変化

「お祈りは終わったかしら?」

顔を上げると部屋にインテグラがいた。

その顔は優しく、目を細めている。



「ちゃんとやったよー」

「やったのはほとんどディー君ですけどね」

なんでばらすのー!とテオドールとトライドットが追いかけっこをはじめた。

お前ら子供か。



「ふふ、ちゃんとできたのね。ランチの時間だから呼びに来たの」

もうそんな時間だったのか。

意識するとお腹がすいていたのがわかる。

外は相変わらずの星空で、時間の感覚がない。

今度時計を買って飾るのもいいな。




ダイニングルームに移動すると、またメイドたちが食事を準備してくれた。

「ガーディアンができたらダンジョンでもこんな風に食事を準備してくれるのかな」

「どうでしょうね。もしかしたら食事を準備しないといけないかもしれないわ」

それは困る。

・・・いや困りはしないか。

1人分増えるくらい、どうということはないだろう。




ランチのメインは四角く折り畳まれたガレットだ。

中心に卵が乗っている。

「まだ調子がわからなかったから簡単なものにしたわ」

グラ様の心遣いが優しい。



「ガレットと言えばこれだろ」

ノルトラインが細いシャンパンボトルを取り出す。

どこから出したんだ。


「じゃーん、シードル!」


シードルはりんごのお酒だ。

ノルトラインはぶどうだけでなくりんごも酒にしているのか?

「またお酒ですか」

トライドットが苦笑いしている中、俺の目は自分のグラスがあるか、チラチラとノルトラインを見ていた。




ガレットにはそば粉が入っている。

小麦粉と違う風味のある甘みが、中に包んだチーズやハムのしょっぱさに合う。

「やっぱり、しょっぱ美味いガレットには甘いシードルだろ」

「合いますね」

俺とトライドットの手にはシードルの入ったグラスがある。

伝統的な陶器のコップで飲むのもいいが、鮮やかな琥珀色をグラスに注ぐのも華やかだ。

非炭酸のシードルもあるが、りんごの爽やかな香りを楽しむならやっぱり炭酸があった方がいい。


「お酒を飲めるくらいなら普通のランチにすれば良かったわね」

全くもう、とインテグラが呆れているが、その手にもグラスに入ったシードルがある。

みんなでお酒を味わうのもなかなか楽しいものだ。




「ねぇディー君、このあとお茶会なんてどうかな?」

食事を終えダイニングルームを出ると、インテグラからお茶会を誘われた。

淑女からのお誘いだ!

「ぜひ!」

「あ!僕も!」

・・・だから、なぜお前は付いてくるんだよ。


「あらダメよ。テオは私のマニキュアを勝手に使った罰として今から牧場の整備よ。それに、これは私とディー君の秘密のお茶会なんだもの」

なんと!秘密のお茶会!

「えー」

「そういう訳だ。行ってくる」

ぐずるテオドールを置いて、俺は笑顔でインテグラについて行った。




広い廊下を通り、軽やかな茶色の扉を押し開ける。


「凄い量の本だな」


インテグラの部屋は本棚で埋め尽くされていた。

ホールから円を描くように本棚が並び、階段の先には2階もある。

明るい黄色の光が書庫全体を照らしていた。


「歴史書、言語、スキルアップ・・・なんでもあるわ」

「この中に俺を強くする本はあるのかな」

「さぁ・・・どうかしらね」

すっ・・・と悲しげに目を細めて本を見つめていた。



「どうぞ座って」

ホールにある丸テーブルに案内される。


メイドたちが紅茶とマカロンを持ってきた。

いい茶葉を使っているのか、柔らかい甘みがあって香りも良い。

一緒に出されたマカロンはインテグラの手作りだそうだ。


「最初はぺしゃんこで、とても人に出す代物ではなかったの。でも練習して外はさっくり、口の中でほどけるように消える仕上がりになったの」

ふふっと懐かしむように笑う。

ピエと呼ばれるレース状の膨らみがしっかりと入っている。

きっと何度も練習したのだろう。


「美味しい。これだけのお菓子をスキル無しで作れるなんて。テオたちが羨ましい」

「ふふ、ディー君は何でも褒めてくれるのね。テオもみんなも全然褒めてくれないのよ」

貴族の頃のような女性に対する社交辞令ではない。


努力することの大切さも、続けることの大変さも、それで結果が出た時の喜びも、俺はよく知っている。




「それで、俺に何か聞きたいことがあるのか?」



俺だって流石にインテグラが惚れたかもなんて楽観的ではない。

テオドール抜きで聞きたいこと、言いたいことがあるのだろう。


「お話がしてみたかったの」

「こんな分厚い本を楽しむ方に興味のある話ができるかな」

「ふふ、本当にお話をしたかったのよ。・・・でもそうね、ディー君が今までどんな人と人生を歩んで来たか。外でのテオの様子とか・・・色々教えて欲しいわ」

・・・やっぱり情報収集かー。

ちょっとだけ、ホントにちょっとだけ、ワクワクしてたんだけどね・・・。




俺は今までの身の上を話した。

お裁縫スキルで生まれたこと。

奴隷商での楽しくも忙しい日々。

上級ダンジョンでぬいぐるみの魔物を増やしてきたこと。

普段の魔物と姿形が異なり、可愛らしい姿や行動になっていること。



「ふふ、ぬいぐるみが走り回るダンジョン。なのに魔王を名乗ってきたなんて」

「そういえばテオは魔物作りが苦手なようだな。さっき物の扱いが雑だからって言われていたが、そういうものなのか?」

雑な扱いを改善すれば、魔物作りも改善するんじゃないか?


「そうね・・・テオの部屋って何も無かったでしょ?」

すっ・・・と目を伏せる。


この顔は知ってる。


相手に同情する時の顔だ。


「テオは・・・物に執着しないの。自分の怪我にも無頓着で・・・見ていられなかったわ」

「・・・そうだな」

初級ダンジョンの近くで狼にやられた時も何ともない様子だった。

ノームの末裔はみんなそうだと思ったが、どうやら違うようだ。



「あの子が帽子を大事にしてて驚いたわ。ディー君が作ってくれたんですってね」

「日光が苦手だと聞いたからな」

鏡の前でくるくると回っていたテオドールを思い出す。

大事にしていたのなら今度は色違いか、違う形の帽子でも作ってやるか。



「それと、テオのスキル練習に付き合ってくれてありがとう。これはお礼よ」

そこには深い藍色の宝石を付けた腕輪があった。

「これは?」

「【空間作成】付与のマジックアイテムよ」

「なっ!」



高額マジックアイテムのトップ3に常時ランクインする【空間作成】【転移】。

便利だが希少なスキルで、スキル持ちは生まれた時から国に保護される。

それの付与スキルとなれば・・・そのスキル持ちを巡って戦争が起きるほどだ。

現存するマジックアイテムは200年前に作られたものしかない・・・はずだ。

ここに真新しいものがある理由は・・・。


「・・・空間作成の付与もノームの祝福で行えるのか」

「そうね。上位のカテゴリースキルだもの。練習すれば使えるようになるわ」

まじかよ・・・。


「そういえば、まお・・・ミルドレウス様が転移を使ったり、ノル様がお湯を沸かしたり。これもノームの祝福なのか?」

「・・・違うわ」

授けられたスキル以外でも使えるだと?!

「何で使える?俺でも使えるのか?」



「・・・それを使ってディー君は何がしたい?」



インテグラの硬い声が響く。

その目は俺を真っ直ぐ見ている。

「俺は・・・昔なら、戦闘に参加したいなんて言ったと思う。今は・・・便利だなーとか、ちょっとかっこいいかなって思うくらいだな」

「テオを使って富を得ようとは思わないの?」

あぁ、なるほど。

確かにここまでできるスキル持ちなら、狙われてもおかしくない。


でも俺はーーー

「俺の親は・・・俺が戦闘スキルを持って生まれなくても育ててくれた。奴隷商で初めて、捨てられずに育てられた幸福な人間だったと気付かされた・・・」

毎年増える幼い弟や妹。

貴族は戦闘スキルでなければ捨てられるのが当然だった。



『男のくせに戦闘スキルじゃないのか』

ーーー俺は男として、あるべき姿になりたかった。

『戦闘スキルを有して生むことができずにごめんなさい』

ーーー目を伏せられ、同情されるのが嫌だった。


「子供の頃は女っぽくてヤダとか、足でまといはヤダとか・・・色々努力したつもりだった。俺は自分を変えないといけないと、足掻いていただけだった」



『ディー兄さんは弟分たちの憧れですからね』

支えてくれる兄貴や姉貴たち。

対等に接してくれる同い年たち。

頼ってくれる弟や妹たち。

ーーー俺は自分に、もっと自信を持つべきだった。



「俺はあいつと金儲けをするつもりはあるが、利用する気は無い。自分の稼ぎは自分の力で、と決めているからな」

俺は真っ直ぐにインテグラを見た。

多少金にがめつい所は自覚しているが、友人を悪用するつもりはない。




ふぅ・・・と息を吐くと、インテグラは目線を下げた。

「・・・テオは10年以上前、外の人間に接触しました。・・・変わってしまったわ。まるで祈ることを無意味であるかのように」

「・・・何があった?」

「教えてくれないの。ただ、時々大怪我をして帰ってきたの「僕にもわかるかもしれない」って。なんの事か私にはわからないわ・・・」

何があったんだろう・・・。


「・・・試すような真似をしてごめんなさい。ノームの祝福は願う力、望む光。あの子が再び祈りを捧げられたこと、一族を代表して御礼申し上げます」

インテグラが立ち上がり頭を下げる。

「やめてくれ。俺は自分の都合で一緒にいるんだから」

「テオやドットが外の人間に接することが怖かったの。お父様も・・・そして私も、変わってしまったから・・・」

悲しげに伏せられた目。

俺はかける言葉がなかった。


「その・・・俺は色んな人に出会って、色んな経験をして・・・やっと変われた、大人になれたと思う。まだ解決できてないこともあるけど・・・。テオも色んな経験をして、変わってる途中なんだと思う」

「解決できてないこと?」

「・・・」

故郷も、妹かもしれない女の子のことも。

テオドールから給料をもらって、1人ででも見に行けたというのに。


ずっと、心のどこかで避けていた。



「・・・ごめんなさい。余計なとこを聞いたわね。ディー君から色んなお話が聞けてよかった」

「・・・ちなみにグラ様の変わってしまったことってなんですか?」

「ふふ、・・・乙女の秘密よ」

ふわりと微笑まれ、それ以上聞けなかった。





「なぁテオ、ここを出たらどこに行くんだ」

「ん?上級ダンジョンに戻る予定だけど?」

寝室のベッドの上、ガーディアンの箱を眺めて寝そべっている。


「俺は金が溜まったら故郷アペリティフを見に行こうと思っていたんだ。・・・戻らなくてもいいんだけど・・・でも一度けじめをつけておきたくて」


「いいんじゃない?一緒に行こうよ」


「え?!・・・でもダンジョン整備の仕事があるだろ」

「どうせディーと一緒じゃないとうまくいかないよー。それにドット兄様が言ってた女の子、気になるんでしょ?」

顔に出ていたのか・・・。

行動が心配な精神年齢6歳だと思っていたが、ちゃんと人の顔を見て気持ちを察していたのか。

「・・・ちゃんとそういう所、グラ様に見せてやれよ」

「え?なにー?」

「なんでもない。ついでにドット様のダンジョンを覗いて今後の参考にさせてもらおう。明日には新しい下僕が増えるし、この地下帝国よりもっと凄いダンジョン作らないとな」

「そうだね!」



俺たちは明日のガーディアン誕生を楽しみにしながら眠りについた。

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