モンスターボックス
「早速作ってみよう。えい!」
テオの目の前に、ちょうどコルクくらいの大きさをした薄赤色の鉱石が出現する。
銀色鉱石のように金属っぽさはなく、まるで宝石のようだ。
「これが深紅の鉱石かー」
向こう側が透けて見える。
「魔石の色違いみたいだな」
スライムが出した青色の魔石を薄赤色にしたような見た目だ。
「もっと純度を上げた方がつよいガーディアンが作れるよ、えい!」
トライドットが同じようにすると、ルビーのような鉱石が出現した。
テオドールが作ったものより濃いだけでなく、カッティングもされていてそのまま装飾品として使えそうな程だ。
「おードット兄様すごーい」
はしゃいでいるテオドールの横に、すぅ・・・と魔王が立つ。
「・・・テオ、その鉱石で練習したらこの鉱石で自分のダンジョンにガーディアンを設置しなさい」
魔王の手には拳大の深紅の鉱石があった。
・・・ほぼ黒色。
あんなので作ったらどんなガーディアンになるんだよ・・・。
「えー。僕自分で作るー、えい!」
ポンッと薄赤色の鉱石ができる。
すぅ・・・と魔王が壁の中央に移動する。
「・・・テオ、このあたりでやってみなさい」
「えー、うーん・・・えい!」
中央でテオドールが掛け声を放つと、先程より濃い色の鉱石ができた。
「うむ!さすがテオだ。短期間でよくぞここまでの純度を練り上げた」
満足気に両手を組んでいる。
・・・うん。
この魔王、思ったより親ばかだ。
明らかに細工してただろ。
そういえば「天才だ」って褒めてくれたって言ってたっけ。
うん、親ばかだな。
「もーお父様はテオに甘いのですから」
ノルトラインが呆れなように手を腰にあてている。
「う、うむ。鉱石ができたのなら移動して早速作ってみるがいい」
魔王が手をかざすと魔法陣が現れ、元いた部屋に転移した。
ノルトラインの講義が再開される。
「ガーディアンは卵を孵すように作るんだ。そうすることで言うことを聞いてくれて、頼もしい相棒になるんだよ」
「卵?温めるのか?」
はっとしたようにテオドールが手の中に宝石を包み込んだ。
・・・多分違うぞ。
「【モンスターボックス】を作るんだ。よくミミックとか言われてるけどね」
「・・・まさか英雄伝に出てきたミミックって、熟成途中のガーディアンだったのか?」
「そうそう。昔は冒険者が強いし、多すぎてねー。「隠し部屋だ!」とか言って小部屋に乗り込んできてボックス片っ端から開けられたんだよ」
ノルトラインが懐かしそうに語る。
それ英雄伝では「宝物庫」って書かれてたぞ・・・。
「私は自分のダンジョンでやりますね」
トライドットが大切そうに深紅の鉱石を3つ布にくるんで鞄にしまった。
俺たちはノルトラインのワイナリーがある地下室に向かった。
今回は酒を飲むためじゃない。
ボックス作りのためだ。
「よし、テオはここで作ってみなさい」
ビシッとノルトラインが指さした先は【ワイン木箱】の材料が置かれていた。
「わかったー!ディー、作ってー!」
「自分でやるんじゃねぇのか」
わかったって言ったじゃん。
「やれるからって全部1人でやる必要はないんだよー」
「あぁ?」
いつだったか俺の言った言葉だ。
でもこういう時に使う言葉じゃない。
「・・・えっとね、苦手なの」
すぃ・・・とテオドールが目をそらす。
「・・・まったく、苦手は克服しとけよ」
俺はノコギリを手に取った。
「箱はいちから作らないとダメなのか?」
「そんなことは無いよ。グラなんて使い回してるはずだから」
あのメイドさんたちは同じ箱出身だったか。
「隙間があるとダメとか?」
「あーそうだね、隙間と蓋が空いてると逃げちゃうことがあるね」
だから昔は頑丈な宝箱に入れてたのか。
「ならワイン木箱をもらっていいか?」
見れば俺がギリギリ入れるくらいの大きなワイン木箱がある。
「ワイン木箱ならいいよ。樽はあげれないなー。あれでインテリア作ると色よし香りよしの味わい深い逸品になるんだ」
なんだって?!
「今度ぜひ見せてください」
「もちろん!ワイン飲みながらだね!」
ガッとノルトラインと握手する。
「ねー早く作ってよー」
テオドールの横でトライドットも苦笑いしている。
俺はノコギリを片付け、ワイン木箱をもらった。
蓋付き、模様付きのかなり高級なワイン木箱だ。
「このまま入れるの?」
「いや。せっかくのヴィンテージ木箱だ。少し手入れをしよう」
ワイン木箱は重い瓶を保管するため頑丈に作られている。
中でガーディアンが生まれても壊されることはないだろう。
「蓋には鍵を付けよう。裏は蝶番でいいかな。それと移動するならキャスターか取手をつける。生まれて傷が付かないように中にクッションも敷くか」
ざっと思いつく限りアイデアを出す。
「ディーすごいね、よくそんなに思い付くね!」
D 奴隷商で
I いつも
Y やってたからな
子供の多い奴隷商ではおもちゃの取り合いも日常茶飯事だった。
しょうがなく端切れで大量のぬいぐるみを作ったが、保管場所に困った・・・。
チェル姉から古くなったワイン木箱をもらって、絵の具で模様を付けておもちゃ箱にした。
みんな自分でお片付けできるようになったっけ・・・懐かしいな。
テオドールには蝶番などの材料を探しに行ってもらい、俺は木箱に付いた汚れを乾いたタオルで擦り落とした。
・・・魔王が見てる、見てるから!
箱を磨く間、また現れた魔王が俺の後ろに立っている。
愛息子が俺みたいなの頼るのは不愉快だと顔に出てますよ!
嫉妬で殺されるのは不本意だ!
「あの・・・見られると集中できなくて・・・」
「気にするでない」
気にするわ!
ちょうどテオドールが道具を片手に戻ってきた。
「お父様!これは僕のガーディアンだから。お父様は手を出しちゃダメですよ」
よく言ったテオ!
でもこれ、本来ならお前の仕事だからな!
魔王が俺の視界からいなくなり、落ち着いて作業を続ける。
少しくすんだ色合いの木箱は汚れが落ち、木目と焼き入れられた模様が美しい。
古いとは言っても管理が良い環境にあったのか、傷やささくれは見られない。
テオドールにが持ってきたのは金属の取手と蝶番、それにネジだ。
探しに行くついでに俺の鞄も取ってきてもらった。
「まずは取手をつけよう」
同じ位置に付けられるよう高さと幅を定規で測って印をつける。
軽くキリで穴を開け、ネジを入れやすくする。
「よし、抑えててくれ」
「了解ー!」
テオドールに抑えてもらいながらキュッキュッとネジを閉めていく。
コツは真っ直ぐ進むよう力を込めることと、ネジが壁を突き抜けないように予め長さを確認するくらいだ。
「次はこれだね」
テオドールが蝶番を箱の背面に付けて抑える。
「テオ、蝶番は箱の内側に付けるんだ」
この蝶番はアンティーク蝶番などの魅せる金属加工を施されていない。
中央のナックルだけ背面から出し、羽部分は内側にして見えないように止めるのだ。
パタンと蝶番を折る。
「背押し付きか」
「何それ?」
背押し付きは蝶番を閉じた時、羽がピッタリくっ付くのだ。
付いていないとナックル(回転軸)より内側に折り曲げれない。
「簡単に言えば、蝶番を付ける際の削りが少なくて済むってことだ」
折り畳んだ蝶番を箱と蓋の間に噛ませる。
「ほら、羽2枚分蓋が浮いてるだろ?これを無くすために蓋と箱を軽く削るんだ」
「へー!」
位置を決めて印を書き込み、彫刻刀で薄く削っていく。
箱を横に寝かせ、蓋と箱に蝶番をネジ止めする。
「おお!動く!」
パカッとテオドールが蓋を開ける。
「蝶番の種類によっては色んな開け方ができるから面白いよな」
俺としてはキャビネット蝶番や曲がり蝶番みたいにチラッと金属加工を見せつつ、扉が大きく動くやつが好きだ。
ぴったりと合わさった蓋と箱の正面に、鍵の留め具をそれぞれネジで止める。
「蓋についた金属を箱の輪っかに通して、その輪っかを横に回して、パドロックを通して鍵をする」
「おー!宝箱みたいになったよ!」
簡単な鍵だが、まぁ思いっきりぶつかったりしなければ中から壊されることはないだろう。
「あとはクッションを敷くか」
鞄から真っ赤な布と黒の布を取り出す。
どんなガーディアンができるかわからないが、いきなり箱の中で生まれるんだ。
緩衝材は必要だろう。
箱の口より少し大きめに裁断し、2枚とも同じサイズに成形する。
重ねて縫い合わせ、裏返して縫い目が見えないようにした。
「重しを乗せて角を付けて・・・」
「これアイロン使った方が早くない?」
ノルトラインが後ろから覗き込む。
「アイロンって、火属性付与のあれですか。あれ高級品なんですよね・・・」
本来ならこれくらいのシワ伸ばし程度、アイロンをすいーとかければ終わってしまう。
だが火属性魔法の中で最弱の温め機能、スキルをアイテムに付ける付与スキル、繰り返し使えるような加工、と要望が重なるためどうしても高級品になる。
まぁ買うよりスキル持ちを雇って欲しいから高額になったとも言われているが。
「あーならこれあげるよ」
ノルトラインが木材の取手に、三角形の金属を付けた工具を手にしている。
「これ、アイロン・・・動力はまさか」
「魔石だよ」
伝説級の高級品?!
「いいんですか?!」
「ラベル剥がすのに使ってたんだけど、私は新しく作るからいいよ」
ノル様最高かよ!
アイロンを手に入れた。
縫い合わせた布にアイロンをかける。
あー・・・すっごい便利。
今度アイロン台とあて布作らなきゃ。
形を整えた布に綿を詰め、木箱の底にセットした。
「ふう・・・こんなものか」
「わーかわいいね!」
パカッパカッと蓋を開け閉めするテオドール。
「ディー君はソーイングスキル持ちだと聞きましたが、こんな才能もあるなんてすごいです」
トライドットも覗き込む。
みんな褒めてくれるのはありがたいが、やめて。
魔王が・・・。
嫉妬でどす黒いオーラ出してるから!




