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ガーディアン

「ほら貴方たち。起きなさい」

「うぅ・・・グラ様?」

テーブルにぴったりとくっついていた頭を持ち上げる。


「こんなに散らかして・・・しょうがないわね」

パンパンと手を叩くと、昨日のメイドたちが静かに瓶やグラスを片付け始めた。



どうやら俺たちはあのままワイナリーで寝てしまったようだ。

テーブルに突っ伏して寝ていた俺とノルトライン。

床には野宿用の布団と、それにくるまったテオドールがいた。


・・・俺も床で寝ればよかった。

バキバキとしなる背中を伸ばし、立ち上がった。


ワイナリーをメイドに任せ、のろのろとダイニングルームに移動する。

「あのメイドってノームの末裔なのか?」

「違うわ。あれは【ガーディアン】。・・・そうね、今日テオが覚えたら見せてもらうといいわ」

「えー・・・僕今日は二日酔いなの」

すぃ・・・と目を背ける。

バレバレな嘘をつくな。



ダイニングルームに魔王はいなかった。

朝食は俺たち3人だけのようだ。


背もたれにぐったりと体を預けるノルトライン。

前屈みにテーブルに肘をつく俺。

「・・・朝食は簡単でいい」

「あ、俺も・・・」

ワイナリーで幸せな時間を過ごしたんだ。

これくらいの不調は受け入れよう。


「もう、2人とも朝食は取らなきゃダメよ。昨日のリンゴとカボチャを使わせてもらったから。食べて」

朝食はインテグラの手作りのようだ。

なにそれ食べなきゃ。



テーブルの上にはパンプキンタルトにリンゴのキャラメリゼ、ビシソワーズが置かれている。

ビシソワーズはジャガイモの冷製スープで、作ったあと冷やしたり面倒だから奴隷商ではあまり作らなかったな。

逆にキャラメリゼはアップルパイの中身としてなら何度か作った。

バターと砂糖で焼いてからアップルパイにすると、ただのリンゴより甘みと香りが増すから人気だった。



荒れた喉と胃に冷たいジャガイモの甘みが優しい。

リンゴのサクサクした食感を残しつつしっとりした香ばしい甘みが優しい。

こんな料理を準備してくれたグラ様が優しい。

「グラ様が料理上手で幸せです」

「もう!ディー君はすぐからかうんだから!」

ホントのことなのに。

顔を赤らめるインテグラにホクホクしながらキャラメリゼを食べた。



「あぁ、ノル。テオのスキル練習だけど、今日は貴方にお願いするわ。ドットも参加するからよろしくね」

いつの間にかインテグラの隣には、紫色の長髪の男がいた。

「えぇーぶどう畑がー」

ぶどう命なんだな。

昨日一晩でよくわかったよ。


「私のガーディアンを放つから1日くらい大丈夫でしょ。ほら、ドット。きちんと挨拶なさい」

「ノル兄様、ご指導お願いします」

ニコッと笑い、サラサラな前髪が揺れる。

「もーしょうがないなー早く食べちゃお」

モグモグとパンプキンタルトを頬張っていく。

頼まれるのは嫌ではなさそうだ。



朝食を終えると、最初に馬で登場したホールでくつろぐことにした。

「そういえばきちんと自己紹介をしていませんでしたね。ディートハルト様、私はトライドットと申します。ドットとお呼びください」

なかなか丁寧な男のようだ。


「あぁ、俺のことはディーでいいよ。敬語も必要ない。よろしくな」

「よかった。まだ人に慣れていないので切り替えが難しいので、このままの話し方になりますがよろしくお願いします」

テオと同じくらい貴族っぽさが言葉と顔に出ている。


「テオより大人な感じだな」

「ドット兄様は120歳くらいだもん」

・・・思ったより年上だった。


「それじゃあグラ様やノル様はそれ以上なのか」

「グラ姉様とノル兄様は同じくらいで、200歳近くだっけ。お父様が300歳くらいだったかなー」

結構アバウトな数字だ。

寿命500年ともなると数年くらい誤差なのだろう。



「ドット兄様もガーディアン作り初めてなの?」

「いや、私の担当してるダンジョンに強い冒険者が現れるようになってね。ガーディアン1体を残して全部やられてしまったんだ・・・せっかく作ったのに」

俺は初級ダンジョンをサイコ騎士にボロボロにされたことを思い出した。

あれは結構こたえる。


「ひどい冒険者もいるんだな」

「そいつに炎の矢を降らされて、ダンジョン内の魔物が一掃されてしまったんです。まだ若い女の子なのに・・・やることがえげつなかった・・・」


女の子で、炎の矢・・・妹の顔が浮かぶ。


「あの、そのダンジョンって・・・」

「ベニチェア王国のすぐ近くにある中級ダンジョンですよ」

この人の担当地域は故郷からだいぶ離れている。

考えすぎだろうか・・・。

・・・それに俺の妹はえげつなくない。




「はい!今日の授業は、ダンジョンを放置しても経営できるシステムの構築についてでーす!」

「「はーい!」」

「ディー君も返事してくださーい」

「・・・はーい」

お兄様たちとダンジョンについて講義中だ。

フランシスの授業の方が大人びてて良かったと思わなくもない・・・。


「初歩のダンジョン整備、魔物の出現は2人ともうまくいっているな。次は何年かいなくても大丈夫な、手のかからないダンジョンにしていく方法【ガーディアン】の作成についてだ」

スラスラとテーブルの紙に図を書き出す。


「ガーディアンはダンジョン内の魔素を吸い上げて体の中に蓄積させたら、鉱石を作成して魔物を作ってくれるんだ」

・・・絵心はない。

よく分からないが中央にいる謎の生き物に魔素が入り、それを魔物として出している。


「もちろん、名前通り魔物たちを冒険者から守ってくれるから、上級みたいに人が多すぎるところでは重宝できるよ」

代わりに戦ってくれるのか。

素晴らしいな。




「ほらテオ。まずは【深紅の鉱石】を作るところから始めよう。普段使ってる銀色鉱石じゃだめだぞ」

「うーん、・・・えい!・・・えい!」

テオの目の前に銀色鉱石がいくつも転がっていく。


「違うんだよ、もっとこう・・・宝石みたいに作るんだ」

両手を羽ばたくようにバサバサと動かすノルトライン。

そんなジェスチャーよりもっと具体的なアドバイスをしてやれと思うのだが、こればかりは感覚で覚えるしかないのだろう。



「何をしている」

「あ、お父様」

気付けば魔王が立っていた。

いつ入ってきたのだろう?

威圧感控え目だから気付かなかったか。


「深紅の鉱石を作ってるんだけど、うまくいかないの」

「なるほど。・・・それはこの広間では作れない。あれは銀色鉱石と違って材料となるものが要るのだ」


「「「そうなんだ」」」


「・・・何でノル様も知らないんですか」

教える側だろ。

「いやー、ガーディアン使わないからねー。また1回しかやったこと無いんだわ」

あははと赤い髪を掻いて笑っている。

ワイン作り以外はちょっとポンコツなのだろうか。



「まぁよい。作り方を教えてやろう」

魔王が手を前に突き出すと、足元に魔法陣が浮かぶ。

ふっと周りが眩しくなったと思うと、周りを水晶のような鉱石の壁に囲まれた洞窟に立っていた。



・・・え?転移?



あれ?ノームの祝福がこいつらのスキルだろ?

なんで使えるんだろ・・・。

まぁ魔王だし、そういうもんなのか。



俺は改めて周りを見渡す。

光る石はなく、水晶のような壁がうっすらと発光している。

壁際に落ちていた壁の一部を拾うが、光は失われていない。


すごく綺麗だ。

俺はポケットに石をしまい込んだ。



しばらく魔王に付いて歩くと、透明度がなく、くすんだ色合いの壁が見えてきた。

「ここの壁の中に深紅の鉱石の材料がある。掘り起こす必要はない。壁の前で、中から取り出すように作るんだ」

魔王が壁を指さす。


「あの・・・ちなみに材料は何なんですか?」

魔王に睨まれ、思わずテオドールに隠れる。

だって気になるだろ。

企業秘密だったのかな。


「・・・ここは【ロンダルキア】最大のダンジョンの最深部だ。ここには強い冒険者が集い、転移陣を通りながらフロアを移動していた」

あ、説明してくれるみたい。

思ったより魔王様は優しいようだ。



「そして、最後の転移陣の行先が、この壁の中だ」



前言撤回!

この人は間違いなく魔王だ!

ダンジョンになんて仕掛けを作ってるんだ。


「ふーん冒険者が材料なんだね」

3人とも普通に受け止めてる・・・。

「ダンジョンにいくつも同じ仕掛けを作っているとそのうち知られてしまうだろう。そのためこの仕掛けと深紅の鉱石は人に知られることがないように作るのだぞ。・・・貴様もわかっているな」

そんなに睨まなくても、誰にも言いません!

俺は首をカタカタと上下に振った。




・・・と言うか、もしかして、ここが最終ダンジョン【邪神の祭壇】か?

英雄伝に出てきた魔王ミルドレウスと勇者アリスが戦った氷の大地。



俺はとんでもない所に立っているんだな・・・。


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