植物と成長
「ここが牧場よ」
天井の青い光より、さらに明るく光る湖の畔。
ユニコーンでも出るんじゃないかと思うくらい神秘的な牧場だ。
「あ、ルーイたちここにいたのか」
見れば牧草を齧ったり自由に駆け回っている。
「リラックスできてるみたいでよかったわ。ほら、テオもスキル覚えないと乗せて貰えなくなるよ」
「えーそれは困るー」
口ではそう言っているが、先程からどうもやる気を感じない。
「ノームの祝福って上位のカテゴリースキルなのか?」
「そうね。だからこんなことも出来るの」
インテグラは手を前に突き出すと、その手に向かって地面が細く伸びた。
金属の槍だ。
ひゅん、とバトンでも振り回すように軽やかに回転させる。
「ふふ、驚いた?」
イタズラが成功した子供のようにふわりと笑う。
「驚きました。笑うとますますお美しいのですね」
からかったつもりは無い。大真面目だ。
「え、そんな・・・もう!」
耳まで真っ赤にする。
褒められ慣れていないのだろうか。
「ほ、ほら、テオもスキルの練習!」
「えー上手くいかないんだもん」
駄々をこねる子供かよ。
・・・いや、子供か。
「【土属性魔法】は前に教えたわね。次は【植物成長】にしましょう。今後も馬を連れていくなら便利なスキルよ。ここみたいに牧場も作れるわ」
そう言うと黒と白の種をテオドールに手渡した。
「あれ難しいのにー」
種を見ながらブツブツと文句を言っている。
「ディー君はウールだったね。ほらあそこ、羊がいるから好きなだけ取っていいわ」
見ればモコモコと体積を増やした羊がこちらを見ている。
「毛を刈り取る時は足で挟み込んで、固定してあげると羊も安心するの。毛の根元から刈ると長い毛が取れるわ」
はいっとハサミと袋を貸してくれた。
俺は今、羊の背中の毛を刈っている。
・・・羊に乗せられて散歩しながらだけどな。
跨いで体重かけても平気とか、力強すぎだろ。
チョキチョキと刈った毛を首から提げた袋に入れていく。
あとで洗って汚れとゴミを取ってから毛糸にするんだ。
「ディー!アドバイス!これ無理ー!」
何やらテオドールがお手上げのようだ。
羊をポンポンと撫でると、空気を読んでテオドールの元まで歩いてくれた。
「なにが無理なんだ?」
「種を蒔いても芽がでないー」
見れば足元に黒と白の種が落ちている。
「ディーは植物育てたことない?」
「奴隷商で家庭菜園をした程度しかない」
チョキチョキと毛刈りを再開する。
「それでいいから!どうやるか教えてー」
家庭菜園の内容でいいのかよ。
テオドールが目を瞑って両手を広げている。
イメージが大事なんだろうか。
俺は手元の毛を刈りながらエールたちとトマトを育てたことを思い出し、手順を口にする。
「そうだな・・・種をまく前によく土を耕すように言われたな。空気と栄養を混ぜるんだ」
しっかり下の方まで混ぜないと水捌けが悪いから、クワを使って深くまで何度も混ぜた。
「種をまいて、水をまいて」
エールが魔力切れを起こす程頑張っていたな。
「途中で余分な草が生えるから抜いて。栄養と水分がしっかり吸収できているか葉っぱを見ながら世話をしたな」
雑草抜きはアルとミィの仕事だったな。
「たくさん栄養の詰まった野菜が取れるように・・・」
「テオ!ディー君ストップ!」
「え?」
「は?」
「メェ?」
顔を上げた俺の前には、ぐるぐるとうねる太い幹があった。
上を見れば、リンゴとカボチャが同じ位置に生っていた。
俺は羊から降りると木に近付いた。
あーなるほど、あの黒い種がリンゴで、白い種がカボチャだったか・・・。
「・・・テオ、お前、カボチャがどうやって生るか知ってるか?」
すぃ・・・とテオドールが目をそらす。
まじか・・・。
「もう、テオ!カボチャは地面に付いた状態で大きくするの。こんな重いものが上になったらすぐ落ちちゃうでしょ」
重力に耐える枝がミシミシと音を立てている。
「うーん・・・」
叱られた子供のように口を尖らせて下を向いている。
「・・・ま、一応生ったし、成功でいいだろ。収穫しちゃおうぜ」
あの高さはどうやったら届くか知らねーけどな。
インテグラの出した金属の螺旋階段を登り、リンゴとカボチャを収穫する。
「ダンジョンでこれができればアップルパイとパンプキンケーキが作り放題だな」
「それいいね!」
テオドールの足元のカゴには、リンゴとカボチャが山積みになっている。
「ダメよ。危険だからまだ1人じゃさせられないわ。それにお菓子作りなら麦も育てられるようにならなきゃ。牧草にも使えるから便利よ」
「えー。そーだけど・・・」
「麦か・・・それならビール工場ができるな・・・」
ぜひダンジョン産ビールを作ってもらいたいものだ。
「ぶはっ。ディーはビールのこと大好きだねー」
「ビールだけじゃないぞ。搾りカスでクッキーを作ると甘くて美味いんだ」
甘い麦汁を搾り、汁はビールに、搾りカスはクッキーに。
「麦は万能なんだ。夢が広がる魔法の食材なんだぞ」
ウィスキーも作れる万能性を兼ね備え、加工方法を変えるだけで酒が何種類もできる魔法の食材だ。
「うん、いいね。作りたい!」
「おーい、夕食だよー」
城の方から男の人が手を振っている。
俺たちはカゴいっぱいのリンゴとカボチャを持って城に帰った。




