遠くを見る瞳
エレナ視点
私、エレナ。
ベニチェア王国冒険者育成学校の卒業生だよ。
隣にいるのは私の元先生で、今は旦那様。
ホール大陸の上級ダンジョン【バルバラ神殿】が魔王の手で復活したんだって。
だから専門家でもある先生とはるばる海を越えてやって来ました。
でも上級ダンジョン前で止められてます。
「調査だと?ウォルトアから?なるほど、帰れ」
「えーせっかく来たんだから中に入れさせてよ。可愛い魔物とかいるんでしょ?」
魔王と魔物の保護団体、略して魔保のおじさんたち、態度悪すぎ。
「可愛い魔物というが、あれが幼体である可能性もある。下手に刺激して成長の妨げとたったらどうする」
「魔物は雌雄の性質はないので、幼体である可能性は低いですよ」
珍しく先生も前に出て反論します。
「それと・・・最深部の調査に伺いたいので、戦闘スキルのある方に同行を求めます」
あれ?先生がいつもより表情が硬い?
気のせいかな。
「ダメだ。最深部はデュラハンって鎧の魔物がいる。・・・俺たちでは太刀打ちできない」
魔保のおじさんは無くなった左腕を指さします。
・・・痛そう。
「ダンジョンからのドロップ品ならそこの露店で売ってる。それの調査なら認めてやる」
どこまでも上から目線だなー。
仕方ないので上級ダンジョンを離れて露店に行きます。
ペシャンコの犬?に鳥?それに汚れたエプロンにスカーフ・・・これはリボン?
簡素なテントの露店には、謎のドロップ品がずらりと並んでいます。
よく見ればぬいぐるみの元じゃん。
けっこう可愛らしく作ってあるし、犬と鳥を買ってみました。
先生は並べてあるドロップ品を手に取り、銀色の刺繍を撫でています。
刺繍に興味があるのかな?
2日後
「結局ダンジョン調査できなかったねー。ドロップ品もよくわかんないし・・・」
私の手にはペシャンコの犬が伏せっています。
一応鳥のぬいぐるみを膨らませてみたけど、何も起きず。
これ提出しても怒られるやつじゃないかなー。
よし、報告書だけ書いて、これは持って帰って部屋に飾ろう。
「まぁ、仕方ありませんよ。船はウォルトアに帰るそうですが、しばらくここに留まって・・・」
先生はそう言いかけて止まってしまいました。
その視線の先には豪華な金髪を編み込んだ貴族のような男とその従者かな?身なりのいい男の子がいます。
「先生の知り合いだから声かけて欲しいって言われたけど、あの人たち初対面って感じだったよ?」
2人の護衛に名乗り出て、見送るはずだった船に乗っています。
「あの子たちは私を知らなくても、私は知っているんです」
先生は静かに遠くを見ています。
・・・ずっと昔に捨てた祖国を見てるのかな。
あんまり詳しくは教えてくれなかったけど、話したくないならしょうがないよね。
「あーあ、ハネムーンって嘘までついたのに。ドロップ品完成しても魔物にならないし、あの子たちが魔王って勘、外れたのかなー」
「ふふ、そんな事考えていたんですか」
先生は笑っています。
・・・いつか色々聞けるといいな。
船旅は順調そのもの。
先生の授業も久しぶり。
釣りなんて課外授業以来かな。
「これは冒険者育成学校の生徒が作ったものです。スキルが2つとも戦闘スキルとは限りませんからね」
その帽子、私のハンドメイド!
卒業間近に徹夜して作った帽子を、先生が自慢しています。
やばい!まじ照れる!
スキルアップの書を読み込んで、先生の髪色や雰囲気に合わせて材料から調達した自信作。
「先生、早く1人前になるからね」と渡したのに、プロポーズだって気づいて貰えなかった酸っぱい思い出付き・・・。
先生鈍感なんだもん。
船旅5日目、海底ダンジョン付近で先生の雰囲気が硬くなりました。
あの2人を部屋に残して準魔物の討伐を行うそうです。
「この海域、そろそろしっかり討伐隊組んで掃討すればいいのにー」
「仕方ありませんよ。ベニチェア王国も戦争中なんですから。こんな所まで人を出せないのでしょう」
しばらく甲板で立っていると、雲行きが怪しくなってきました。
海面からヌメヌメとした黒茶の脚が何本も出てきた。
準魔物【クラーケン】。
船と同じサイズになったタコなんだって。
あのサイズで魔石が無いなんて、ガッカリ。
「「「おおぉぉぉ!!!」」」
船長さん率いる海の男達がモリを持って突撃しています。
流石というか、連携の取れたその動きはクラーケンの脚を1本ずつ吹っ飛ばしていきました。
私もマストの1つを脚が当たらないようにガード。
ウィンドカッターは近接攻撃型のスキルだから守備には向かない。
でも先生曰く、スキルは訓練次第で真価を発揮するのです。
私は切り裂くための風ではなく、風の刃を丸くして、乗せて運ぶようなイメージでスキルを発動させます。
ふぉん!と飛んできたクラーケンの脚が、マストを避けて海に飛んでいきました。
いつかこのスキルで空を飛ぶのが私の夢。
上手になってきたけど、2回に1回はザックリ切れているので飛ぶのはお預けです。
早く飛べるようになりたいなー。
「ーーーなんでここに!来ちゃいけない!」
そんなことを考えていると、先生が叫びながら船内に走っていきます。
「え?先生?!」
それと同時にクラーケンが身を乗り出し、その脚から小さいタコを投げつけるように出現させました。
それも大量に。
「うっわ!キモッ!!」
思わず口走ってしまいましたが、仕方ありません。
だってキモいんだもん。
船長によってクラーケンはトドメを刺されたようです。
周りの人達も「干物にするぞー!」と笑顔で道具を持ち出してきました。
でも小さいタコたちは動きが止まらず、次々と先生を追って行きます。
「タコ!待てー!」
私は風の刃を鋭くして先生の後を追いました。
翌朝、ちょっと生臭いクラーケンが干物にされる様子をテオ君と見ています。
「これってタコなのかなー?イカなのかなー?」
「食べてみればわかるんじゃない?」
そっか!頭いいね!とはしゃいでいます。
喋っていると年下の面倒を見ているような気分になるのはなんでだろ?
テオ君を構っている間、先生はディー君と何か話しています。
・・・なんか悲しそうな顔してるし。
ちゃんと話して欲しいな。
私だって一人前なのに。
「クラーケンは見ての通り9本足の準魔物でな。長年イカなのかタコなのか、偉い先生方が議論して、それでもまとまらなかったそうだ。でも俺はタコだと断言できるね。なんせ俺にも立派な【3本目の足】が付いてるからさ!」
HAHAHAと笑う船員。
なにそれ?3本目?
テオ君も首を傾げています。
すぅ・・・といつの間にか背後に来た先生が私の耳を塞ぎました。
さっきまでの悲しげな顔はなくなって、笑顔なのに雰囲気がひんやりしてる。
ディー君もテオ君の耳を塞いでるけど、なんなんだろ?
後で聞いてみよー。




