襲撃
町を出てから5日目、ダンジョンの中がリボンをヒラヒラさせるスライムだらけになった。
各層で元気に跳ねまわるのを見届けると俺たちは町に帰ることにした。
・・・戻るときの馬車がなかった。
忘れていたわけじゃない。
半日も歩けば着く距離なんだ。そんなに悲観することじゃない。
「えー歩くのー」
「つべこべ言うな。荷物はもってやるから」
と言っても俺の荷物しかないから、持たされるものは何もないけどな。
歩き出して数刻、テオドールがうるさい。
「ねーまだー」
「まだだって。街道をあるいてるんだから、ひょっとしたら馬車が通るかもしれない。あんまりうるさいと近くに来たのがわからず乗せてもらえないぞ」
ハッとしたようにきょろきょろしながら静かに歩き出す。「うるさいと職にあぶれるぞ」なんて弟分たちへのしつけに似てる。
だがテオドールが聞きつけたのは希望とは真逆だった。
「うーん、あれもしかして犬かな。こっちに向かってる」
そっちを向き・・・俺は青ざめた。
「―――狼じゃねぇぇか!!」
こっちに向かって走ってくるのは大人と変わらない大きさの狼だった。
黒いたてがみをはためかせ、鋭い牙を覗かせている。
「まずい・・・まずいぞ、どうする」
狼なんて戦闘スキルないとどうにもならないだろ。俺はゴブリンキラーを強く握ると狼に向き直った。
狼は減速することなくまっすぐテオドールののど元に食らいつく。
「うわっ!!」
「テオ!くっそ!」
俺は狼に向かってゴブリンキラーを突き刺す。
戦闘用にグリップを改造していなければ手がすり抜けてしまいそうなほど、狼の肉は硬く、深手を与えられない。
「ガッガッ」
テオドールからぐちゃりと音がする。
――――こいつ、俺に見向きもせず食い始めた・・・
「このっ・・・このぉぉお!!」
俺はがむしゃらにゴブリンキラーを突き出し、大きな体に蹴りを入れた。
「グルルルル・・・」
狼が俺を見据える。口には血を滴らせている。
「そいつを離せよ!!くそがぁぁ!!」
狼がそれを避けようと首を持ち上げた時だった。
「――――逃げちゃだめ」
白い腕が狼の首に纏わりつく。
突進した俺のゴブリンキラーは、狼の眼球を貫いた。
バッと狼の背に飛び乗ると、差し込んだ刃をグリグリとねじり差し込んでいく。
「がぁぁぁぁぁ・・・」
狼は断末魔を上げると、その場に倒れ動かなくなった。
「テオ!テオ無事か・・・」
狼から飛び降りて駆け寄った。
―――俺は言葉がなかった。
首が裂け、腹を食われた姿を狼の下に見つけた。
「そんな・・・」
白い腕は最後の力を振り絞ったのか、いまだ狼の首を抑えている。俺をかばって・・・。
「・・・ねーこいつ重いー」
顔色の悪いテオドールが目を開ける。そして何事もなかったかのように上半身を起こす。
「・・・は?」
「だーかーらー、足が潰れてるのーどけてー」
いや、お前足より、首と腹が・・・。
俺は狼の下で血まみれでもがくテオドールを見たまま、しばらく動けなかった・・・。




