紂王死すべし!
姫伯邑考と紂王の因縁の戦い。
この長き因縁の結末は?
う、うぉととと?
紂王の怒りに身動き出来なかった私の視界に入ったのは、待ち構えていたのか?紂王の背後に飛び出して剣を振り払った姫伯邑考であった。
その一線に紂王は油断し、その首に線が入り、血が噴き出した。
「ぐぉおおおお!」
首を押さえ、止血する紂王が振り向くと、姫伯邑考は容赦なく剣を顔面に突き出す。
「無礼者がぁ!」
紂王の怒りに空気が振動し、迫る姫伯邑考の前に壁が出現したかと思えば、破裂した。
「ヌッ!」
しかし姫伯邑考は翻して剣を盾に受け止めると、爆風は軌道を変えて天井を貫いた。
「今ので始末出来るとは思ってはいなかったが、多少なりとも傷を負わせられたようだ」
「お前は姫伯邑考か?曲者がこの余に気付かれずに近付いた事は褒めてやろう。しかし、かすり傷程度でそう喜ぶな」
「それはどうかな」
「?」
姫伯邑考は剣を構えて念じる。
「七星の剣の一撃は星をも砕く。かすり傷程度でも、その身に刻まれたのなら」
直後、紂王の首から血管が浮き出して全身に広がり、裂けた血管から大量の血を噴き出したのだ。堪らずに膝をつく紂王に対し、見下ろしながら姫伯邑考は答えた。
「嘗ての私とお前とは、逆の構図だな?たとえカミシニの不死の力を持ち合わせていようが、始祖の神々がカミシニへの対抗策として造りし無双の剣の前には無力となろう」
「何だと?ならばその剣が七星の剣か?」
「我ら親子の悲願。紂王死すべし」
突如現れた姫伯邑考は、私の知る姫伯邑考とは何か異なっていた。
それは若々しく、そして以前とは比べ物にならない余裕が見て取れた。
あの紂王を前にしても。
「この短時間で何が起きたと言うのだ?まるで別人のようではないか?」
すると姫伯邑考は笑みを見せて答えたのだ。
「裏返ったのだよ」
裏返り?
それは姫伯邑考の中に眠る二つの魂が入れ替わった事を意味していた。
姫伯邑考は、父親の中に息子の伯邑考が宿っていたのだ。
「お前は息子の方か?この余の手で死刑に合った恨みを今世に持ち越して来たと言うわけか。憶えておるぞ。前世、あの門仲が同等の力と認めたと言っておったな」
門仲と同等だと??
た、確かに。
以前の姫伯邑考相手になら勝負しても負けるとは思ってはいなかった。
しかし今の姫伯邑考相手に戦い、勝てる気がせん。
この忌眼を持ってしても全く隙が見えんのだ。
(しかしだ!)
この状況は私にとって良い流れなのでは?
出鱈目な二人が戦い、最後に傷付き勝利した方を私が倒せば良いのでは?
これが漁夫の利と言うのだよな?
「聞いた事があるぞ。いや?カミシニの血が教えてくれた。カミシニの進化には、忌眼を覚醒させるものとは別に、裏返りと呼ばれる進化があるのだと。なるほど。余が忌眼を選んだが、お前は別の進化形態で相手してくれると言うのだな。興味深い」
「余裕だな。紂王。しかしお前の余裕も直ぐに終わる」
「面白い前座だ。余に見せてみよ」
その指先から血が伸びると、宙に九本の剣が出現し浮かぶ。
「九尾の血剣」
紂王の意思で剣が姫伯邑考に向かって飛んで行くと、
「歪め!」
差し出した姫伯邑考の掌から空間が歪められ、飛んで来た全ての剣が軌道を変えて消える。
「そして元に戻る」
「!!」
直後、紂王の全身に繰り出した剣の全てが己を貫いたのだ。
「な、何が起きたと言うのだ?何かしたのか?今?」
空間が捩れたように見えたぞ?
「これがカミシニの持つ万能の力。歪みの力だ。紂王よ」
その手から淀むオーラは、その空間を歪ませて見えた。
「お前の身体をむしりとってあげよう。嘗て、この私にしたように」
差し出した手を捻るように握ったその時、
「うがぁああ!」
悲鳴の方を振り向くと紂王の腕がひしゃげるように捩れて、空間に飲み込まれるようにして消滅したのだ。
「先ずは腕を貰った。次は足にするか?」
「どうして一思いに殺さん?弄んでおるのか?お前にそのような余裕があると?」
「この状況を見て、まだこの私を見下しているのですか?良いでしょう」
直後、再び捩れた空間が紂王の左足を捻りながら消失させたのだ。
堪らず崩れるように倒れる紂王は、
「お前は確かに才能があった。この余が惹かれるほどお前には資質があった。歪みの力を身に付け、この余に膝を付かせるほどに。だが、しかし・・・」
「何でしょうか?」
その時、私は紂王の忌眼が光輝き、その口元が笑むのが見えた。
(この状況で諦めてない?)
姫伯邑考の力は本物だ。
あの歪みの力で消された腕と足が元に戻らぬのは、あの能力は再生を拒んでおるからに違いあるまい。そうなると私の目からも紂王が逆転勝利の方程式は全く見えやしない。
つまり姫伯邑考が紂王を倒し、その勝者の姫伯邑考を私が倒さねばならぬのか?
せめて紂王がもう少し手傷を負わせてくれたのなら、多少は好機が見えたのだが、あの歪みの力に対抗策は全くないぞ~
が、紂王はその忌眼の力を最大限に光輝かせ、指先を鳴らす。
「えっ?」
それは姫伯邑考から漏れた声だった。
突如、崩れるように視界が斜めになって地面に崩れたのだ。
「な、何が?」
気付くと自分の左足が付け根から失われていたのだ。
「うがぁああ!」
突然の状況に姫伯邑考の冷静な顔が歪む。
「所詮は、凡」
すると今度は紂王が立ち上がって姫伯邑考を見下ろした。
失われたはずの左足が元通りになり、自らの足で立って。
「次は腕を貰うぞ」
「!!」
指を鳴らしたと同時に姫伯邑考の腕が消えて、代わりに紂王の腕が元通りになる。
「な、何が?起きた?いや、何をした!紂王!」
「言ったであろう。余は返して貰ったに過ぎん。国民の物は全て余の物であるからな」
それは紂王の持つ生前の魔眼の能力が忌眼に引き継がれたのだ。
「相手の物を己の物と交換する能力」
しかもこの場合、失われた自らの腕と足を姫伯邑考の腕や足との交換。
「で、出鱈目過ぎやしないか?私でも考えつかない勝利の方程式を、出鱈目な反則技でひっくり返しおった!!!」
さらに紂王が奪ったのは、腕や足だけでない事は、恐る恐る気付いた。
「お前の手に入れた歪みの力、余が使わせて貰おう」
「や、やめ、止めろぉおお!」
姫伯邑考は最大限の力を解放して倶利伽羅の覚醒を試みたが、手遅れだった。
胸に小さな穴が開き、捻るように波紋の如く広がりながら、
「い、一度ならず、に、二度も、この私をこ、殺すのか?ち、紂王!」
「二度も三度も関係あるまい。余の前に現れた地点で、お前は全てを失う運命。この余に全てを捧げてな!」
「ぉおお、おのれぇえええええええ!」
が、姫伯邑考の声が消えた時には、その場には紂王しかおらんかった。
そして目の前には?
「待たせたな。余へと捧げられた力をお前にも試してやろう」
その目は、豹変するかのように無情にも殺意の塊だった。
「ひょえぇえええ~」
こ、これは、楽に殺すつもりないな~
「ご主人様ぁ~こ、恐いです~」
「うん。全部、お前のせいな?お前が原因な?お前の口が災いだったな?」
今、最終決戦が繰り広げ・・・
ん?
同時刻、この新殷国城にて凄まじい戦いが既に繰り広げられていた。
まるで閃光の如き光速の斬激が繰り出され、対して四方八方より重く激しい無数の鞭が衝突しては、破裂音が後から波紋の如き広がり、新殷国城を激震し揺らしていた。
ナタクと門仲の最強決戦は、今もなお続いていたのだ。
次回予告
ナタクと聞仲の戦いは・・・わ、忘れてなんて、いなかったんだからね




