記憶の忘却
沙悟浄は孫悟空と相打ちし足止めさせた。
そして法子は麗華の血に飲み込まれたまま・・・
私は誰?
私は歩いていた。
その隣には美猴王が手を握り、私を見詰めていた。
仏頂面だったけれど今まで見た事がないような優しい目だった。
照れ隠しだと分かるツンデレ男。
私がクスリと笑うと、美猴王は「何を笑っているんだよ?気持ち悪い奴だ」と、ソッポを向いたの。私は美猴王が狩りで鳥や魚を採って来てくれてから、山で採取したキノコや野菜と合わせて料理した。
アレ?
私って料理出来たっけ?
私は桶に溜まった水に浮かぶ自分の顔を見て、我に返る。
わ、私は麗華?
そうね、私は麗華。
私は美猴王との結婚生活を送る。
心が穏やかで、笑ったり喧嘩したり、それでもお互い求め合う魂の幸福感。
これが愛なのかしら。
愛って何?そんな難しい事を言葉にして自分自身を納得する必要なんてない。
今、確かに私は幸せを感じているのだから。
それは間違いなく愛なのだと。
胸が熱くて、ドキドキする。
何て心地良いのかしら。
ただ一緒にいるだけなのに。
変なの。
一緒に食事して、他愛もない今日の出来事を話して、そしてお互いの顔を見合わせて笑うだけの事。コレが幸せなんだと実感する。
この幸せがいつまでも続けば良い。
「!!」
その時、頭が強く揺さぶられる感じがしたの。
そして目の前が真っ暗になって、とてつもなく気持ち悪くなる。
な、何?何が起きているというの?
私、どうしちゃったの?
私は見えない壁の中に閉じ込められ、何らかの液体を流し込まれたの。
身体に触れる液体は私を私でないモノへと変えていき、視界が闇に覆われるように意識が消えかけていく。
い、嫌だ!!
し、死にたくないよ。
美猴王との時間を、幸せを失いたくない。
私が消える・・・
違う。
もし私が消えたら?
美猴王はどうなるの?
もし美猴王が私なら、生きていけない。
心を引き裂かれてしまう。
そんなのは嫌!
私は生きたい。
何があっても生を掴んでやる!
例えどんな事をしてでも!
私が私で無くなったとしても!
『お前のその魂の声を聞き受けた。もし私の手を取るなら、お前の強き願いを叶えてやろう』
私は藁をも掴むように私へと差し出された手に腕を伸ばしていた。
「ハァ、ハァ、ハァ」
気付くと私は失われたはずの肉体を取り戻して、その場に存在していた。
けれど私には途切れる前の記憶が残っていた。
私は間違いなく一度死んでいる?
私は錬体魔王の人体実験で鬼人となって愛する美猴王を襲った。
そして美猴王の手で命を終わらせたはず?
「私、生きているの?何故?」
けれど私は私の身体から発する人成らざる強い力を感じて震える。
「私、鬼人になってしまったの?」
私の恐れに対して背後から声がした。
「お前は鬼人如き下等な雑種ではない。お前はカミシニとして甦ったのだ」
「カミシニ?」
そして私に新たな生を与えた者は他に五人のカミシニ(サクヤ龍王、一角鯨龍王、剛力魔王、怪力魔王、刀剣魔王)を従えて、私に選ばせた。
「我が下僕として新たな生を選ぶなら、お前の望みである孫悟空をお前にくれてやろう」
「孫悟空?」
孫悟空とは美猴王が転生した者だと言う。
私の選択は決まりきっていた。
「従います」
主は死者を甦らせる事が出来、その中から適正者を選び下僕としていた。
そして私達に目的を告げる。
蛟魔王と呼ばれる龍神族の王が持つ魔眼の奪取。
そして必ず邪魔に入るはずの人間の娘が率いる一行の陽動。
その一行に美猴王がいる事を知らされた。
当然、美猴王のいる一行の陽動任務に私は立候補したの。
「良かろう」
戦闘に向かない私には怪力魔王が共に同行する事になった。
そして私は美猴王から孫悟空であった記憶を消し去り、私だけの美猴王を取り戻したのよ。
これで私達は全てを忘れて、二人だけで幸せになれば・・・
その為に邪魔なのは今の美猴王にとって縛り付けている絆。
孫悟空として転生した後の記憶。
そこで主が私に手渡したのは記憶を消し去る霊石だった。
これさえあれば・・・
私はそこで知った。
今の美猴王の周りには強い絆で結ばれた仲間が存在している事。
そしてその中心にいる人間の女の子。
彼女さえ存在しなければ、彼女の事さえ忘れてしまえば美猴王は私のもとに戻って来るに違いない。戻って来るはず・・・
「!!」
ち、違う。
わ、私は違う。
「・・・そ、そんな事は、ないわぁー!」
私は叫んでいた。
叫ぶと同時に自分自身に絡みついていたような呪縛から解き放たれ、私は私自身が何者なのかを自覚したの。
「違うわ!わ、私は法子よ・・・」
私は力尽きたように膝を付くと、自分の身に起きていた事を理解したの。
「私に何故見せたの?麗華さん?」
すると私の目の前に麗華さんが立っていた。
そんなこんな。
次回予告
孫悟空と麗華の記憶を実体験した法子
その目的は?
法子「他人のイチャイチャ見るのって何か複雑だわ」




