覇蛇と覇蛇!
紅孩児が覇蛇の最強格を倒した。
その事で蛇神達の動きも騒がしくなっていた。
ここは覇王の居城。
突如入って来た伝達に居城を警護していた蛇神達はざわめき合っていた。
何故なら、その伝達の内容は覇王直属の八体の覇蛇のうち、三体も何者かによって葬られたとの事であったから。それは蛇神族にとっては信じられぬ事であった。
報告を受け居城に残っていた覇蛇が覇王に報告へと向かう。
蛇神の鎧を纏った覇蛇の名前は軍蛇覇蛇。
強者を求め自由に戦場へと出向く他の覇蛇と違い軍蛇覇蛇は蛇神族の軍団長を任されていた。
「硬剛覇蛇と喰殖覇蛇が敗れた事は百歩引いて理解出来ても、覇蛇の中でも三本指に入る熔毒覇蛇が倒された事は今だに信じ難いな」
するとその背後から別の覇蛇が気配を現してその隣に姿を見せる。
「あ〜れ?軍蛇覇蛇もやっぱり外に出たいわけ?」
新たに現れた覇蛇は髪の長い化粧をした妖しい微笑を見せる男の姿だった。
名を妖輝覇蛇。
「もう!無視は無しよ〜!軍蛇ちゃん?私と貴方は人間だった時からの腐れ縁なんだから仲良くしましょうよ〜」
人間だった時?
それはどういう意味なのか?
「人であった時の事は忘れた。俺は覇蛇覇蛇、その生を生きるだけだ」
「相変わらずね〜」
この二人の会話を理解するには、覇蛇誕生の話をせねばならないだろう。
覇王が現世に再び姿を現した時、その蛇神達はこの居城にて大掛かりな祝杯が盛大に開かれた。酒を溢れるほど飲み尽くし狩って来た人や妖怪等の肉を喰らって盛り上がる。
すると覇王は立ち上がり剣を握ると、
「腕に自信のある者よ!この俺と立ち合え」
その言葉に一瞬で場は静まり返る。
何故なら立ち合えば死を意味していたから。
余興の為に死にたくはないし、このまま誰も前に出なければ全員首を跳ねられると震え上がる。
そこに白蛇の巫女が覇王の願望に応えるための案を提供したのである。
「覇王様、飲み過ぎでございますよ?お戯れでございます。今、この場にいる者で覇王様と太刀会える者は勿論、これから始まる覇王様の勇姿を見れずに命落とすは皆無念でありましょうし」
白蛇の巫女の言葉に、その場にいた全員が
「グッジョブ!」と頷いた。
「覇王様は余興がお好きで、力ある者を望んでいるのでありましょ?しかしこの世に覇王様を楽しませる猛者はおりません。そこで良い手段があります」
「良い手段だと?言ってみよ?」
すると白蛇の巫女は剣を抜いたのだ。
「お前が俺の相手をすると言うのか?」
「畏れ多い。私は、ただ!」
「!!」
直後、白蛇の巫女の振るった剣が閃光の如き速さで覇王に斬り掛かると、覇王は指二本で受け止める。
「流石でございます」
「不意打ちがお前の言う余興か?」
「めっそうございません」
すると覇王の指先から血が垂れる。
少なくとも覇王に傷を付ける白蛇の巫女の実力もまた、この場にいる全ての蛇神をも凌駕していた。
「無礼極まりない手荒な真似を申し訳ありませんでした。私めが欲するは覇王様の神聖な血でございます」
白蛇の巫女は剣に付いた覇王の血に念を籠め始める。
すると目の前に八つの血の結晶が浮かび上がり、水晶の瓶の中に収まる。
「それは何だ?白蛇の巫女よ?」
「覇王様、この瓶に収めしは覇王様の血清より錬金された覇蛇の血。この血を得た蛇神は覇王様の力を分け与えられ、極限の力を手に入れる事が出来るのであります」
「ほぉ〜。つまり俺を倒せるのは俺の分身と言うわけか?白蛇の巫女よ?」
「左様でございます。しかしこの血を受け入れるには資質が必要であります。身分不相応な者が手にすれば血の力に耐えられずに身を滅ぼしましょう」
そして行われたのだ。
覇王の血を承るために選抜された蛇神の猛者が一万、同じ場所に集められて幽閉される。
この中から生きて出られるのは、たった一人!
そして百日が過ぎ、出て来たのだ。
その者は見事に覇王の血を手に入れ、初の覇蛇が誕生したのだ。
その最初の覇蛇の名は輝皇覇蛇!
間違いなく現在も含め最強の覇蛇と呼ばれている。
だが、その後同じ試練から出て来た蛇神は覇蛇になる事は叶わなかった。
他の蛇神と輝皇覇蛇と何が違うと言うのか?
その秘密は出生であった。
元々、輝皇覇蛇は人間の皇帝の血族だったと言う。
それが蛇神を人の身で倒した事でその血を浴び呪いを受けて、自らが蛇神と化したのだ。
それを知った白蛇の巫女はある手段を試みる。
「彷徨える時の魂よ!」
白蛇の巫女は祈りを捧げると、空間に穴が開き、その先から禍々しい邪悪な魂が飛び出して来たのである。更に魂は試練の間に封じ込められる。中には蛇神の骸と障気に覆われていた。
蠢く闇の空間から強大な力が外壁を破り、そこから新たな蛇神が七体誕生したのである。
邪悪な人間の怨念が絡み合い融合し蛇神の血や肉を手に入れて新たな生を手に入れた。
それが残りの七体の覇蛇達であった。
「私と熔毒覇蛇、それに貴方は人間だった時に同じ時代にいた記憶が残ってる。だから愛着があるのよ」
「あんまりベタつくな!」
腕を絡めて来る妖輝覇蛇を振り払う。
「うふふ。それよりあの兄弟は弟の方が死んだみたいよ?」
それは蝕王覇蛇と喰殖覇蛇の事だった。
「あの兄弟が覇蛇の中で手を組むもんだから私達も手を組んでいたのに喰殖覇蛇の奴!くたばってどうするのさ!そう思わない?」
「それだけ強き猛者が蛇神以外にもいるって事だ」
「何か楽しそうね?」
「そう見えるとしたら俺の蛇神の血が騒いでいるのだろうよ!」
「そうかしら?貴方は昔からそうよ」
二人は覇王の王室へと向かう。
「少なくとも私達覇蛇は覇王様と立ち合う事。その時までに地上から蛇神以外の生き物を全て狩りながら経験を積み、力を得る事。もし覇王様に勝つ事が出来れば私達が覇王に成り代わる事も夢ではないのよ。少なくとも私達覇蛇は覇王様と同等の力を持つ事が出来る器なのだから」
「真蛇の覚醒か」
「覇王様より承った血は成長と共に覚醒する。その覚醒を私達は真蛇の覚醒と呼ぶの。今は北の辺境に城塞を持つマダムと、南の荒野に消えたマダラ、それに覇蛇からは輝皇覇蛇のみ。先ずはこの三人が先に覇王様と交えるでしょうね」
「真蛇の覚醒は力だけでは覚醒はしない。輝皇覇蛇に匹敵すると言われていた熔毒覇蛇も、そして魔導覇蛇の奴もその領域に達してはいないからな」
「貴方もその領域に手を伸ばすつもりなのでしょ?」
「当然だ!だから俺は既に標的を決めた。奴と戦えば、この俺はさらなる力を手にするだろう」
軍蛇覇蛇は先に遭遇した覇王に楯突いた魔神の少年を思い出していた。
その者から発する覇気は覇蛇であった自分達の足を止める迫力があった。
阿修羅である。
「お前はどうするつもりだ?」
「えっ?私?私は覇王を目指す理由もなければ楽しく生きられたら良いのよ。そう、貴方と一緒にね!けれど力が無くては自由に生きられないのも本音。だから私も妖怪討伐に出るわ?目を付けた可愛こちゃん達を見つけたのよ。ふふふ」
「お前に目を付けられた奴は気の毒だ」
二人は王室の前に到着すると、中へと入る。
「覇王様!急ぎお伝えしたい事があります!」
覇王に向けて軍蛇覇蛇が倒された熔毒覇蛇の事を伝えようとした時、
「ちょっと?これ、どういう事よ!?」
「?」
妖輝覇蛇の声に軍蛇覇蛇は頭を上げると、その意味を理解したのだ。
二人は立ち上がると、玉座に座っているはずの覇王の姿はなく、代わりに別の何者かが座していた。
その者は髑髏の頭をした蛇神。
本来、蛇骨覇蛇と呼ばれる覇蛇であるが、自らを魔導覇蛇と名乗り、その実力は覇蛇の中でも三本指に数えられた。
「どうしてお前が覇王様の玉座に座っている?」
軍蛇覇蛇の問いに魔導覇蛇は威厳を込めて答えた。
「これより覇王神殿はこの私が主だ。この私に従うならお前達を配下にしてやっても良いぞ?」
「何をふざけた事を!覇王様は何処だ?まさかお前が倒したとは言わんだろ?」
「残念ながら覇王はいない。その間にこの私が居城を貰い受けたわけだ。しかし時間の問題。この私には覇王を倒す策があるのだからな」
「何が策よ!盗っ人猛々しいとはお前の事よ!」
「愚かな。確かにお前の強さは覇蛇の中でも指折り数えられる。しかし俺達二人の覇蛇を相手に無事で済むと思うか?」
軍蛇覇蛇と妖輝覇蛇の蛇気が一気に高まって膨れ上がっていく。
その時!
強力な力を持つ蛇神の気を感じると、二人を囲んでいたのだ。
しかも蛇神の軍全てを任されているはずの軍蛇覇蛇も見覚えのない者達だった。
「噂の覇蛇様を相手に出来るのは光栄」
「クスクス。私達の晴れ舞台には丁度よい相手だわ」
「油断はするなよ?蛇神の最高峰の力の象徴だからな!」
「それでも魔導覇蛇様にあの二人の首を捧げましょう」
不敵に笑うこの者達は一体?
しかも覇蛇である二人も警戒する潜在能力を秘めた者達であった。
「驚いたか?その者達は私の直属の配下、九蛇の称号を与えた頼もしい戦士だよ」
「まだ、このような蛇神が残っていたとはな」
軍蛇覇蛇は魔導覇蛇に向かって飛び出す。
その前を全身甲殻の鎧を纏った大柄の蛇神が道を阻み攻撃を仕掛けて来る。
「!!」
互いの拳が衝突すると居城が激震した。
覇蛇と互角!?
「その者は甲殻九蛇。攻撃力、防御力、共に最強を誇るに相応しい」
「まさか軍蛇ちゃんと引き分けるなんて!?」
妖輝覇蛇が驚くのも仕方なかった。
まさか、こんな強者が今の今まで名もなく潜んでいたのだから。
「驚くのも無理はあるまい。その九蛇の者達はこの私自ら産み出した最高傑作だからな!そう、あの白蛇の巫女が我々を産み出した術を施してな?しかもこの私に従順。いくら覇王とて私を含む九蛇を同時に相手して無事であるとは想像出来んな」
その余裕の笑みに軍蛇覇蛇は睨みつける。
「小賢しい!お前の策とはそんなものか?」
その直後、軍蛇覇蛇は一瞬で飛び上がると魔導覇蛇の目の前に現れ、渾身の拳を振るう。
「策とは万全でなくてはならない。この私もまた究極の力を持っている。真蛇の覚醒のな!」
その直後、空間が歪みながら軍蛇覇蛇と妖輝覇蛇は覇王の神殿から遠く離れた場所へと転移されたのだ。
「こ、ここは?」
気付くと軍蛇覇蛇は西の大陸の外れに転移されていた。
しかも追手が同じく転移して来ていた。
「儂は九蛇の一人、大老九蛇と申す。我が主の命にてお主を討つ」
そして別の地へと飛ばされてしまった妖輝覇蛇の目の前にも九蛇の戦士が迫っていた。
「俺は絞殺九蛇。お前を絞め殺すよ!」
まさかの覇蛇同士の戦いが始まる。
覇王の居城に残った魔導覇蛇は一人寝室に戻っていた。
そして鏡を見て溜息をつく。
「こんな姿じゃ驚かれるかもしれないな〜まさか、学園のマドンナが僕と同じ異世界に転生しているなんて、マジに僕って主人公じゃないか?しかも僕のこのチートと来たら敵無しだもんな〜」
ん?ん?ん?
この魔導覇蛇とは一体、何者??
展開は怒涛の異世界ものに?
次回予告
まさかの覇蛇同士の戦いが勃発!?
しかも魔導覇蛇は何かとんでもない秘密がありそうだ。




