救うために!守るために!
牛角魔王が修駝覇蛇を倒した。
しかし熔毒覇蛇を追った紅孩児は?
話は遡る。
東の地を離れた熔毒覇蛇は一直線に西の地へと向かっていた。
その進行は前方にある全ての村々や国をも根絶やしにして行く。
それは熔毒覇蛇の身体から発する猛毒の障気の他なかった。
熔毒覇蛇の恐怖は体臭の如く噴き出す猛毒、まさに存在その者が生命を脅かす。
この脅威に滅び去った国々も対策を試みなかったわけではなかった。当然、遠方からの砲撃が試されたが、その全ての攻撃は発する蛇気によって軌道を曲げられ不発に終わったのだ。
誰も止められぬ進撃の蛇神。
熔毒覇蛇は八体の覇蛇でも位は三本の指に入る。
皇蛇覇蛇、魔導覇蛇、そして熔毒覇蛇。
この三体は覇蛇の中でも別格と言っても良い。
熔毒覇蛇はその身が猛毒の塊と化した蛇神。
しかも不死性にも優れ、自在に猛毒濃度を変え、近寄る全てを死滅させる。
そして今、人間達の大国が目前にと迫っていた。
「あれが噂に聞く障気を纏う蛇神なのか?」
一国の王は全身を震わせて恐怖の中にいた。
「王よ!恐れる心配はございません!」
神官達はその脅威に対して冷静を保っていた。
この国は今の今まで妖怪の襲撃に合った事がないのである。
それも自国の誇る防御壁が幾重にも張られた要塞だから。
「我が国は決して落ちませぬ!ご安心を!」
「そ、そうか?そうだな」
神官達の言葉に王は安堵する。
しかしそこに外部から訪れていた数人の修行僧が助言する。
「王よ!今、この国に迫る化け物は今まで襲撃して来た魔物とは比較になりませぬ。城塞が崩壊する前に国民と共に国を放棄して逃げる事を進言致します!」
「小奴ら!何を王を惑わすかぁ!」
しかし修行僧達は険しい顔をして神官達の言葉を無視して王に国民と避難するように告げる。
彼らは魔物を退魔するために結成された武闘寺院の修行僧であった。
「おのれら!魔物退治が専門であろう?魔物に背を向け逃げるとは何てザマだ!恥を知れ!」
すると修行僧のリーダーが答える。
「我々は魔物を退治はすれど、天災を相手には出来ませぬ。今、この国に迫るは人の身では抗う事は決して出来ませぬ」
その言葉は己の誇りを捨ててでも、非力な国民達を救う事を優先した言葉であった。
「武闘寺院の者よ?この国を捨てて、我らは何処へ行けば良い?例え今、逃れられたとしても、あの化け物は追い掛けて来るのだろう?時間の問題なのだろう?ならば我は国とともに死を選ぼう」
その王の言葉に神官達は涙する。
「ならば、せめて国民達の避難を我々にお任せください!国民達にも自分達の生死を決める権利はあります!」
その言葉を聞いた王は、変な顔をした?
「はて?何を言っておる?国民は国の宝。この王である儂の所有物じゃ!国民達は儂とともに死ぬのじゃ!そうでなければ儂だけ死ぬのはおかしいとは思わぬか?そしてお前達も儂のために、共に死のうぞ!」
すると兵士達が修行僧達に斬りかかる。
「狂ったか?王よ!」
一人の修行僧が不意打ちに斬られると、他の修行僧が印を結んで勾玉を床に叩きつける。
「閃光玉!」
閃光が部屋を覆い、気付くと修行僧達の姿は消えていた。
「に、逃すなぁー!追え!そして殺して首を持ってまいれぇー!」
蛇神の恐怖に王は狂ってしまった。
同時に城が突然揺れ始めたのである。
「な、何じゃ?息が苦・・・あ、あら?」
すると王の目の前の神官の顔が蒼白くなって、口から泡を吹き出しながら膝を付くと、その肌が変色していく。
「お、王よ、お助けををを」
足下を掴む神官に対して王は、
「ひぇえええ〜」
その掴む手を払い蹴って逃れる。
そのまま四つん這いになって離れる。
「まさか、もう?魔物が来たと言うのか?我が国の鉄壁の城塞はどうなったのだ?」
その時、全身が麻痺している事に気付く。
「う、動けぬ?あれ?儂の足は?」
痛みはなかった。
けれど王の目の前には腐って転がった自分の足が転がっていたのだ。
「わ、儂は・・・」
その直後、猛毒が全身を駆け巡りボロボロと身体が崩れ落ちたのだった。
猛毒の障気は徐々に国を覆っていく。
国民は何が起きたか分からなかった。
突如、国中を障気が逃げ場を塞ぐように覆うと、嗅覚を襲い、その後に視力を奪った。突然の痛みに気付いた時には身体中から沸騰するような高熱を発して意識共々肉片残らず消えていた。
まるで石の塊のような残骸が転がる。
逃げ場を求めて彷徨う国民。
けれど、既に猛毒に侵された歩く屍は呻き声をあげながら次々と動きを止めていく。
まるで地獄絵図であった。
そして崩壊する国から馬を走らせている者達がいた。
例の修行僧達である。
「手遅れだったか。すまぬ」
修行僧達はいち早く脱出していた。
しかし国は一人残らず滅びた。
何も知らないまま国で生活していた国民共々。
「我々は可能な限り人を生かすのが役目!次の村へ急ぐぞ!」
彼等は熔毒覇蛇の進む道を先回りしては、その通り道にある村や国へ逃げるように訴えかけて回っていたのだ。しかし信用されなかったり、時間が間に合わなかったり、そして生きる事を諦めたりして、思った以上に助ける事は叶わなかった。
「一体の魔物に世界は滅ぼされてしまうと言うのか?こんな事が本当に起きるなんて・・・やはり、あの方の予言は真実であったのか」
彼ら妖怪に対して戦う集団、武闘寺院にはかつて英雄が現れた。
その者は最高僧よりも高度な術を使い熟し、その身に神を宿した男だった。
その男は武闘寺院に世話になった礼にと、かつて手も足も出なかった妖怪に対抗出来る様々な術を修行僧達へと伝授した。そして旅に出る前に男は今より数年先に、蛇の魔物が世界を滅ぼすと予言を残した。
「あの方は仰有った。決して手を出すなと!そして、その労力を人を救うために使うようにと!さすれば、その危機に再び救世主は現れると」
その予言に武闘寺院の総勢三十万の修行僧は旅立ち、この日にかけて人を逃す事を最優先に働いていたのだ。
「救世主様は必ず現れる!」
そう、唯一の希望を信じて。
そして、馬を走らせていた修行僧の一人が前方の村に気付く。
「あの化け物の進路に必ずあの村は飲み込まれる。少しでも残っている人命を救おうぞ!」
「おーう!」
馬を走らせ前方にある村へと方向転換させる修行僧達。
しかし、その村は少し特殊であった。
四方を強力な結界で守られ、恐らく並以上の妖怪とて入り込む事は叶わない村だった。
「これ程の結界、一体何者が?」
「それより今は村人を集め、早急に避難させる事が優先だ!時間は限られているのだからな!」
「うむ」
村に入った修行僧達は村の中心の広場で馬から降りると、声を荒げて叫ぶ。
「村の者達よ!聞いてくれ!今にこの村に向かって恐ろしき化け物が迫りつつある!早急に村を捨てて避難して欲しい!」
その声に何事かと村人達が集まって来る。
疑心暗鬼。
突然、村を捨てろと言われて信じる者がいるのか?そもそも、この村は自給自足で大きくはないが豊かで、食べる事には苦労しなかった。
「嘘ではない!既に我々が来た国も村も全て全滅してしまった。信じられないのも分かる。しかし一人でも構わぬ。この村を捨ててでも安全な場所へと避難してくれ!お願いだ!」
その鬼気迫る修行僧達の説得に村人達は顔を見合わせ判断に躊躇する。
そもそも逃げると言っても何処に?この村ほど安全な場所はないのでは?
そこに村の男達の中を一人の女が割って入ると、その僧侶達の前に出て言葉を発する。
「聞いて良いかい?この村はそこいらの結界よりも強固に出来ているんだよ?その結界に入って村に入って来れる妖怪なんて信じられないね?」
「うむ。確かにこの村の結界は我々が知る限り最高の出来である事は間違いあるまい。我々が束になっても敵わない妖怪とて入り込む事は出来んだろう。しかし!今、この地に向かって来ているのは、そういったレベルを遥かに超えている。間違いなく結界は崩壊し、この村の人間は全て生き残れまい」
その言葉を聞いて女は溜息をついて首を振る。
その姿に信じられなかったと暗い顔で諦める修行僧達に女は言った。
「後、どのくらい時はあるんだい?私らが逃げる時間はありそうかい?」
「し、信じてくれるのか?」
女は他の村の皆にも急ぎ伝えるように指示をする。
少なくとも村長よりも、その言葉は信頼が厚く、村の男達は直ぐに取り掛かる。
鐘を鳴らし、人を集め始める。
「なんて手際だ」
驚く修行僧達に、女は答える。
「この村も幾度と妖怪に襲われ、それでも生き残れるすべを毎日考えているのさ」
驚く事に、この村では避難訓練が実施されていた。
「押さない、かけない、喋らない!この三つを守って安全な場所まで避難するよ!あんた達が先導してくれるのよね?」
「あ、あぁ」
修行僧の男は信じられない顔付きだった。
なにせ、この村の前にも何度と同じく声を荒げて叫び続けても、誰一人信じて貰えずに、救う事が出来なかったのだから。そして、今回もまた半分諦めムードもあったのだ。
「教えて欲しい。どうして信じてくれる気になったのだ?」
すると女は目を丸くして答えた。
「何を言ってるんだい?あんたらは本気で私らを守りたいと願っていたろ?そんな想いを真摯に受け取らなければ、死んでも当たり前さ!だから私達は生き残るために信じただけさ」
「そうか、」
修行僧達は涙ぐんでいた。
自分達の行動が初めて実を結んだのだから。
しかし、その時村の見張りの塔の鐘が荒々しく鳴り響いたのだ。
「そんな馬鹿な!は、速すぎる!」
熔毒覇蛇の動きが突如速まり、この村に向かって迫って来ていたのだ。
それは苦しくも強力な結界を察知してしまったから。
「急ぎ村の反対側へ!」
その急の出来事に女は逆方向へと向かおうとする。
「何処に向かうつもりだ?」
すると女は強い眼差しで答える。
「家に夫と子供達がいるんだよ!」
「なんと!?」
女は駆け出していた。
突如、村の中は騒がしくなる。
熔毒覇蛇が近づく度に、村を覆う結界が反応して揺れ始めたからである。
「そう長くは保たない」
それでも結界は熔毒覇蛇から発する障気を止めていた。
その時、女は家族のもとへ走っていた。
その途中に見かける村人にも声をかけながら
そして、食事屋を兼ねた宿を営む自分の家に駆け込むと、店を開こうと準備をしていた亭主に叫ぶ。
「あんた!店終いよ!直ぐに村から逃げるわよ」
突然扉が開いたかと思えば、女の言葉に亭主は驚きつつも心配して聞き直す。
「何を血相変えて?どうしたんだ?」
「アンタ?子供達は?」
「二人は隣のマオに世話を頼んでいるが?」
「急がないと不味いんだよ!もう直、この村は化け物の汚染で消えてしまうらしいのさ!だから子供達を連れて村から避難するのよ」
「なんてこった!?」
二人は外に出ると、いつも子供達の世話を手伝ってくれている隣のマオの家の扉を叩く。
「なんてこったい!いないわ」
「まさかもう避難したとか?」
「いえ、違う!そう言えば子供達と養豚場に行くとか言ってたわ」
宿の料理に使う動物を飼育している養豚場があり、豚だけでなく牛や鶏、山羊といった動物と触れ合うのが好きで時折遊びに行っていた。
養豚場は村の端に有り、しかも化け物が迫る方角の近くにあった。
この状況で万が一、そこにいなかったら、間に合わない可能性もあった。
「なら俺が向かう!お前は先に避難していてくれ」
「そうしたいけど養豚場には私が行くよ」
「な、何故?」
「少なくとも私のが足は速いし、それに村の避難で男手が少ないんだ。あんたは先に行って村の皆を誘導してやってよ?」
「そんな!」
「大丈夫。私は死なないよ!絶対に。私が何度死線をくぐり抜けて来たんだと思う?」
「そ、それはそうだが・・・」
彼女は幼き日に大震災にあい、父親とともに異なる世界へ辿り着いた異邦人であった。
その後、父親は先に亡くなった後も彼女は一人で宿を切り盛りしながら生きて来た。
そこで村の村長の次男であった今の亭主と一緒になり、子供を授かった。
しかしそこに村に現れた妖怪によって子供を目の前で食い殺され、そして自分も生死を彷徨う怪我を負ったのである。
その後、夫婦は子供の死を乗り越え、共に生きて来た時、再び三体の黒豹の化け物に村が襲われたのだった。黒豹の妖怪達に標的にされながらも、ひょんな事から村に現れた二人の少年と知り合った事から、黒豹妖怪から村を救われたのである。
「私は強運なのよ!だから私に任せて?」
「う、分かった!絶対に死ぬなよ?俺も避難誘導が終わったら迎えに駆け付けるからな!」
「その時は子供達と一緒に戻るさ」
二人はお互いを信じて別れた。
そして彼女は一人、子供達のいる養豚場へと駆けていく。その間、上空に見える村を覆っている結界は徐々に変色しながら消えかけていく。
このまま結界が失われれば、外から村を覆う障気が村全体に広がり、全てが塵と消えてしまう。
「急いで二人を迎えに行かないと」
彼女は嘗て妖怪に一人息子を目の前で食い殺された。そして自分も傷を負って二度と子供が産めない
身体になってしまった。
そのはずだった。
しかし村を救ってくれた妖怪の少年との間に絆にも似た関係になった事で、親子のような間がらになっていた。その妖怪の少年もまた産まれて間もなく母親を失い母親の愛情を知らずに生きて来たから。
旅の中でちょくちょく村に立ち寄るようになった妖怪の少年がお土産に持って来たのは燃えるように真紅に輝く鳥の羽根だった。それを貰った彼女は御守代わりに肌身離さず持っていた。
しかしその真紅の羽根は彼女の身に奇跡にも似た変化をもたらす。それは過去に受けた呪いにも似た消えない身体の傷痕を消し去り、更には諦めていたはずの子供を授かったのである。
しかも二人も!
姉と弟。
その奇跡に男勝りな彼女も涙した。
そして我が子のように変わらぬ関係の妖怪の少年も二人の子供を自分の妹と弟のように可愛がった。
二人の子供の名はファンとフォン。
まだ幼い姉弟。
そんなかけがえのない子供達を再び妖怪の魔の手で死なすなんて絶対に許せない。
彼女は急ぎ足で走る。
この村を守る結界はもう長くはなかった。
村を覆う障気が結界を弱めつつ上空に光る亀裂が入っていく。
そして少しずつ障気が割れた結界の亀裂から噴き出して来ていたのだ。
その障気は少しずつ村を汚染し始める。
水源が変色し魚が浮かび上がり、木々が枯れ始める。そんな中を彼女は子供達を探し回る。
そして、ついに養豚場へと辿り着いたのだ。
「!!」
飼っていた動物達が泡を吐いて倒れている。
鶏が奇声をあげ動かなくなり、小屋の中でも馬や牛の鳴き声がした後に静まり返る。
そんな静寂の中で、声が聞こえて来た。
それは人間の子供の泣き声?
間違いなく彼女の子供達だった。
すぐさま声のする方へと向かうと、そこにはフォンとファンが寄り添いながら泣いていた。
その隣には二人を任していたマオが障気に侵されて動かなくなっていた。
突然倒れて動かなくなったマオに不安と恐怖を感じた幼い二人は、その場から動けずにいたのである。
「ファン!フォン!」
彼女は二人の子供に駆け寄り抱きしめる。
「お母さん、マオが動かなくなったの」
そして安心したと同時に再び泣き出す。
「もう心配ないよ?けどね、直ぐにこの場所から離れないといけないの?だから一緒に走れるかい?」
「うん!」
まだ赤子に近いフォンは彼女が抱き上げ背負うと、ファンの腕を引っ張り逃げる。
「動物さん達は?マオは?」
ファンは残して来た動物も、動かなくなったマオの事が気がかりだった。しかし彼女は心を鬼にして首を振ると、その幼いわが子の手を握り振り返らずに走る。
このまま逃げて、助かるか?
それは微かな希望。
それでも諦めるわけにはいかなかった。
周りの風景が淀んでいくのがわかる。
本来なら助からない障気が満ちていた。
それでも三人が無事な理由はお守りのお陰だった。
紅色に輝く羽根が浄化の光を放ち、障気から身を守ってくれていたのである。
「ファン!大丈夫?絶対に母さんの手を離すんじゃないよ!」
「お母さん!恐い!」
脅えて震える手が硬直しているのが分かる。
せめて子供達だけでも助けなければ
羽根の加護のお陰で障気の毒から守れていても、もしこれ以上の障気に覆われたら長くは保たない。
とにかく安全な場所にまで離れないと。
しかし、時は残酷だった。
突如、空が割れたのだ!
そして結界が硝子が割れるように粉砕して障気が視界を覆っていく。
そして、障気の中心に人影が自分達に向かってゆっくりと近付いて来たのである。
何度も危険な目に合った彼女は直感で分かった。
今、迫るのは、危険な魔物だと!
「何故、人間が俺の毒を浴びて生きていられるのだ?俺の毒は生者根滅の能力。実に不可解。例外なく見逃せん事なのだ」
「!!」
それは最も危険な相手であった。
熔毒覇蛇!
彼女は全身が無意識にガクガクと震える。
けれど握る二人の子供の手の温もりに気付いた時、その震えは止まる。
「絶対に死なせてたまるか!」
熔毒覇蛇を前に人間の身で気を保つのは母親としての力だった。
そんな時、この壊滅寸前の村に迫って来ている者がいた。猛スピードで飛ぶ紅色の雲にしがみつきながら飛んで来て、ついに障気に覆われた村の頭上から飛び降りたのだ。
「うぉおおおおおお!」
その者は紅色の髪に頭上に二本の小さな黒い角のある妖怪の少年、紅孩児だった。
全身から炎が噴き出して村を覆う障気から身を守る。
そして障気に覆われた村の中に入った。
着地と同時に辺りを見回す。
障気が濃くて視野が閉ざされる。
「邪魔だぁー!」
その身から発する覇気が障気を吹き飛ばすと視界が広がった。
「何処だぁー!何処にいるんだぁー?何処にいるんだよぉー!」
叫びまわりながら見回し探しているのは?
「何処にいるんだぁー!!」
ほんの少し前まで、この辺りから彼女の気を感知出来ていた。
近くにいるのは間違いなかった。
「俺様が来たぞぉー!もう安心だ!だから声を聞かせろー!」
辺りを見回しながら探す。
その様は真剣で焦りが見えた。
吹き消された障気が消えた後の村は元の面影が全くなかった。硫黄のような異様な匂いに、朽ち果てた建物に枯れた草花。まるで地獄絵図だった。
それでも紅孩児は導かれるかのように足を進める。まるで誰かに呼ばれているような感覚だった。
そして、その先で見つけたのである。
「あ、アッ!あっアッああぁ!?」
その直後、全身が寒気を感じた。
その目に映るモノが何なのか理解した。
信じたくなかった。
けれど現実は目の前から離れやしない。
それは受け難い真実。
「う、嘘だぁ・・・」
放心状態の紅孩児は目の前に残されていた物体に手を触れると、その手が焼けるように爛れる。
それでも構わずに抱きしめたのである。その物体は人の形こそ残してはいなかったが、間違いなく人間だった者の変わり果てた姿。全身に猛毒を浴びて、まるで石のように凝固してしまった人間の骸だった。
当然命の灯火は消えていた。
残酷にも、その変わり果てた躯は紅孩児が探していた人間の女性だった。
「!!」
するとそこに迫るのは桁違いの蛇気を纏う熔毒覇蛇。
「小僧ぅ!俺の毒を浴びながらまたしても俺の前に現れたのか?実に胸糞悪い!こうなれば俺はお前の存在が消え去るまで殺し尽くしてやるぞ!」
蛇神の猛毒こそ最強と自負する熔毒覇蛇は幾度と猛毒を浴びてるにも関わらずに孩幾度と目の前に現れる紅孩児に対してプライドを傷付けられ頭にきていた。
「この手で熔かしてやるぞぉー!」
振り上げる腕が猛毒の蛇となって頭上から紅孩児を口を開き飲みかかる。
『毒射漏出流!』
※ドクシャモデル
全身を猛毒で包み込み肉体どころか魂までも飲み込む猛毒攻撃であった。
全身に猛毒が降りかかり逃げ場もない紅孩児。
そして熔毒覇蛇の巨大化した猛毒の手が蛇の頭となって紅孩児の姿を飲み込むように覆い隠したのだ。
飲み込むように、握り締めるように、体内で消化するかのように猛毒が紅孩児の身体を溶かしていく。
「ぐふふ。実に爽快!最初からこうしておけば良かったのだ。これで目障りな虫けらは跡形もなく消え去ったわけだな。俺の蛇毒消化は塵どころか魂も残さないのだからな!あははははは!」
その時、閃光が!?
それは紅孩児を掴む自らの腕の中から?
そして消し飛んだのだ!
「な、何が起きているのだ!?」
熔毒覇蛇は吹き飛んだ自らの腕の中から、金色の炎を纏った人影を見る。
「馬鹿な?俺の蛇毒の中で生き延びられるなんて、絶対にえりえん!あのガキィー!!」
その人影とは、死んだかに思えた紅孩児だった。しかも、その涙する瞳の色は、
金色に光り輝いていたのだ。
一体、紅孩児に何が起きたのか?
次回予告
愛音の死に紅孩児の身に起きた変化は?




