羅刹女との約束?牛角魔王の負けられぬ思い!
紅孩児を先に向かわせるために修蛇覇蛇の相手をする牛角魔王。
牛角魔王と修蛇覇蛇の勝負は?
俺は牛角魔王。
俺は思い出していた。
それは今は亡き妻との約束。
俺の妻、羅刹女は魔神国の女戦士達の頭だった。
その羅刹女が俺の統治する東の地に女ばかりの大軍を率いて進軍して来たのである。
羅刹女の強さは計り知れなかった。
この東の地に進軍する前に俺の義兄弟である北の地の鵬魔王と、南の地の蛟魔王をもくだしたとか。
この俺も気を引き締め羅刹女を前にした。
「がががが!?」
全身に雷が落ちたような感覚に襲われた。
そして俺の口から叫ばれた。
「俺の女になってくれ!」
戦場で起きた愛の告白にその場の緊張が違う意味で静まり返った。
その後、
最初は相手にしない羅刹女であったが引き退がらぬ俺のストーカー行為・・・ではなく猛アタックが花を開かせ夫婦となったのだが、その時に起きた出来事が今後の幸せと同時に不幸へと続く原因となる。
率直に言うと羅刹女はこの俺、牛角魔王よりも強い力を持っていたのだ。
女だから手を抜いてはいない。
ファーストコンタクトは一対一で対峙し戦ったのだが、ワンパンで白目を向かされたのだ。
その後も何度も何度も挑戦したが返り討ちに合い、戦場に気を失ったまま放置された事も何度か。
それでも俺は手応えがあった。
「あの女、この俺を殺す事は容易いはずなのに殺さぬのは何故だ?そうかぁ!この俺に気があるのだなぁー!嫌よ嫌よも好きのうちって奴だ!がははははは!」
正直、俺は女に不自由する事はない。
妖怪世界では指折りのモテ側だと自負している。
だが今まで女には全く興味がなかったのだが、あの羅刹女と出逢った時に俺は虜になっていた。
しかし羅刹女を俺の女にする為には、あの女に勝たねばならないのだ。
だからこそ俺は死にものぐるいで修行した。
女のために修行するなんてと思うか?
正直、俺もイカれたと思う。
だからこそ恋は盲目と言うのだと悟ったのだ。
そんな時、百一回目の決闘の約束を交わしたあの日、俺は目を丸くした。
俺よりも先に羅刹女が別の男と空中戦をしていたのだから。
しかも、その相手は羅刹女と互角の戦いを繰り広げていたのだ。
「な、何者だ?奴は!?」
だが俺は足を震わせていた。
羅刹女は俺を相手にしている時よりも遥かに強く、今まで手を抜かれていた事もそうだが、その羅刹女相手に互角の力を持つ敵に俺はなすすべも無かったのだから。
この最強と呼ばれた牛角魔王が初めて無力を感じたのだ。
「!!」
その時、二人の間で決着がつく。
しかも不本意の形で!
相対する敵は俺の存在に気付き、何を血迷ったのか俺に攻撃を仕掛けて来たのである。
強力な斬撃が俺に迫る直後、身動き出来ないでいた俺を庇って羅刹女が傷を負ったのだ。
「お、お前は何故!?」
すると羅刹女は言った。
「お前は私が相手をする約束だっただろ?他の奴に横取りされるのが許さなかっただけさ」
そう言って崩れるように倒れる羅刹女を俺は抱きかかえて抑えたのだ。
「羅刹女ー!」
そんな俺と羅刹女との前に敵が近付いて来た。
どうする?戦うか?逃げるか?
しかしその者は俺が何者かに気付いて呟く。
「牛角魔王だと?」
その者は俺を知っていた。
知っていて、抜いていた剣を鞘におさめる。
「邪魔が入ったようだ。今宵はこのまま引き下がろう。だが一週間後に再び私はお前(羅刹女)の前に現れよう。その時には必ずお前から聖天の力を貰い受ける。良いな?そして、そこのお前!万が一再び我等の戦いに水を指すのであれば次は遠慮せずに始末する。嫌なら決して関わるでない!」
そう言って立ち去って行ったのだ。
あの男、この俺を牛角魔王と知っていたにも関わらず、知らない素振りを見せただと?
俺の見知った者か?いや、あの者程の力を持った者に気付かないはずはない。
本当に何者なのだ?
だが、奴は再び現れると言っていた。
そして次は無いと・・・
確かに俺が敵う相手ではない。
次に関われば今度は俺もただでは済まないだろう。
しかし、俺を庇った羅刹女は傷付いたまま。
俺はどうしたら良いのだ?
俺は傷付いた羅刹女を魔神国の女傑族の副将に託した。
蝎子精と鉄扇。
「あんた、牛角魔王!羅刹女姉さんに何をした!」
怒り形相の鉄扇を宥めながら蝎子精が羅刹女を引き取ると、俺に礼をする。
「羅刹女姉さんは私が必ず救うわ。大丈夫。二週間あれば完全に回復出来るはずよ」
「!!」
二週間だと?あの男との再戦は一週間後だぞ?
俺は無言でその場を去ると、その足で向かう。
その先は俺の知る限り、最も危険な場所であり、そして最短で力を得る場所であった。
「昔、鵬魔王と蛟魔王の奴が言っていた場所は此処で間違いあるまい」
その場所とは俺のいる東の地に在る霊山。
何者も立ち入れぬ秘境。
そこには伝説の聖獣が棲まうと言われていた。
しかも最強の聖獣の棲家。
それは鵬魔王と同じ四霊の血統にて、蛟魔王の父親である龍神族最強の武神である応龍と引き分けた実力を持つと言う霊亀の棲まう聖地だった。
本来なら何者をも寄せ付けぬ聖地であったが、この俺もまた古の魔神の血族。
その血が結界を開き霊山に入り込む事には成功した。
しかし、何処を探しても霊亀の居場所は分からなかった。
それほどの伝説級の力を持つなら気を探れるはずとたかをくくっていたが、甘かった。
このままでは時間だけが過ぎていく。
闇雲に探しても無駄だ。そこで俺は座禅を組んで、この結界全ての気を探る事に専念したのだ。
「虫一匹逃さぬ」
伝説だと孫悟空の聖獣である玄武と類似していると聞いていたから大柄の者と思っていたが、その思い込みとは逆に小さな体躯かもしれんしな。
そして結界全てに気を廻らせて探索を始めて、その真実に気付いた時、俺は驚愕したのだ。
「どうりで見付からぬわけだ。俺の予想を遥かに裏切りやがったぜ」
探しても見つからないわけだ。
何せ、俺はもう見付けていたのだから。
「牛斗雲!」
俺は自分の飛行雲に乗って上空にまで飛ばすと、その場から見下ろしたのである。
「四霊・霊亀!俺が探していたのに気付いていたくせに黙しているとは良い趣味だ!コノヤロー!」
すると結界に覆われた霊山が突然地鳴りをあげて動き出したのである。
そう、つまりこの霊山そのモノが霊亀だったのだ。余りにも驚く程の巨大な姿がゆえに気付かなかった。しかも霊亀の身体の上を行ったり来たり探し回っていたのだから滑稽だ。
《この儂に何用だ?小僧》
「この俺が小僧とはな。まぁ、良い。俺の名前は牛角魔王!四霊であるお前の力が必要だ!この俺と契約し、俺の力となれ!」
その言葉に霊亀は身体を揺らしながら、
《この儂を欲しいと?愚か者め、この儂を手に入れたくば霊亀の試練を乗り越えてみせよ!》
「試練だと?何でも構わん。さっさと試練を済ませてやるから出してみろ!」
聖獣の中でも最高位の四霊は嘗て何者の聖獣として仕えた事がなかったと聞く。唯一鳳凰の一族であった鵬魔王は孫悟空に、その妹の彩鵬は後に羅刹女を通して紅孩児の聖獣になったのは本当に奇跡の事例だった。そして目の前の難攻不落の霊亀に俺は挑もうとしていたのだ。
そして約束の一週間が経った。
その日、約束通り来なくて良いのに奴は現れたのだ。
その目的は羅刹女であった。
羅刹女はまだ回復していなかった。
そして俺は副将の蝎子精と鉄扇に羅刹女に襲撃がある事を伝えてなかった。
その理由は勿論!
「牛角魔王だな?何故お前が立ちはだかる?お前には手を出さぬと言って置いたはずだぞ?」
その場には俺が羅刹女の代わりに単身戦場に現れていたのだ。
「そう言うな?この俺を倒さぬ限り、羅刹女には手も足も出させん。それとも俺の顔に免じて身を引くか?」
「そうはいかん。仕方あるまい。この俺の特例として、牛角魔王!お前を討伐させて貰う」
俺は察しがついていた。
俺が戦おうとしている者の正体を。
「その前に正体を現せ!この俺をも上回る強さを持つ者はそう容易くいるものではない。そして最初に俺に手を出さなかった事も含めて、その正体は限られて来る。俺達妖魔王は天界との盟約で地上界を任されており、天界の者は手を出さない事になっている。そう!お前の正体は天界の、それも最高神級の武神に間違い無い!」
その推理に対して返答はなかった。
「ならばその首を貰うぞ!」
俺は妖気を高め、その者に向かって斬撃の連打を繰り出す。しかし奴から発する力は俺の攻撃を全て撥ね退け、俺に向けて閃光の光を放ったのだ。
「くっ!?」
その攻撃は俺を貫通し、消滅させるほどの凝縮させた神気の光線。
これで勝負がついたかに思えた。
しかし俺は光線を片腕の盾で弾き返したのだ。
「お前、その姿は!?」
その時、俺は真言を唱えて契約を果たした霊亀の鎧を纒い、その盾で光線から身を守ったのだった。
「まさか四霊を手懐けていたとはな?驚いたぞ!ならば俺も本気を出して相手をせねばなるまい」
「望む所だ!」
俺は勇み戦おうとした。
けれど、その勝負は中断させられたのだ。
「待ちな!その者とは私が相手をするのだろ?」
そこに現れたのは羅刹女だった。
「お前、何故此処に!?」
場所も告げていなかったのに現れた羅刹女に俺は目を丸くして驚く。
「それは、こっちの台詞だよ!お前には関係のない話だ!」
「そうはいかん。惚れた女を守れずして何とする!俺はお前を他の男に奪われるほど落ちぶれてはおらん!」
「んなっ!?」
流石のド直球な告白に羅刹女も赤面した。
しかし気を取り直して羅刹女は敵の男に対して交渉をしたのだ。
「お前が欲しがっていたモノはくれてやる。だから私と、コイツを見過ごせ!」
俺達を見過ごすための条件?
何を渡すと言うのだ?
俺にも分かる。
俺がこのまま戦ったとしても勝てる確信はなかった。羅刹女の身体も完全とは言えないようだ。
このまま無駄死にになるならと、羅刹女の提案をした。その返答は?
「良かろう。その力さえ受け渡すと言うのなら、お前達のいのちなど安いものだ!この俺の誇りにかけてお前達には手を出さぬ」
何と!?
「信じたよ!」
すると羅刹女は自らの胸に手を押し込む光輝く黄金の玉が抜けて、奴に向かって投げ付ける。
「確かに頂いた」
男は光輝く玉を手にすると、そのまま天に向かって飛び去っていったのだ。
「何だかよく分からないが命拾いしたな?」
呆気にとられていた俺はその場に倒れる羅刹女に気付き抱きかかえる。
「どうした!?お前、さっきのは何だったのだ?何を引き換えにしたと言うのだ?」
羅刹女は力が抜けるように弱々しく答える。
それは羅刹女の力の源とも言える魂の力だと言う。
それは天の称号を持つ羅刹女の聖天の力と言うらしく、その力は世界の命運をも左右するとか。
「そんな力を何故手放した?俺とお前が手を組めば、もしかすれば何とかなったかもしれんじゃないかぁー!」
すると羅刹女は答えたのだ。
「だったら、いつかお前が強くなって取り返しておくれよ?それまで奴に預けるだけの話さ。その時間を稼ぐためのレンタル代と思えば安いものだろ?」
「うぐ、それはそうだが」
「正直、驚いたよ。まさか霊亀を従えるなんて思ってもみなかった。大した男だね?牛角」
初めて俺の名前を呼んだ。
「なら俺は一生お前を守り抜く。二度とお前を傷つけさせん!俺は強くなってお前が惚れる男になってやるぞ!それまで待っていろ?」
すると羅刹女は溜息をついて言った。
「残念だが、それは無理な話だ」
「へっ?」
お、俺のガチ告があっさりと流されるなんて〜
その直後、俺の頬を支えた羅刹女の顔を迫り、
「!!」
唇を合わされた。
目を丸くしてアホのような顔の俺に、
「残念だったね?気付いていたら私はお前にもう惚れていたみたいだよ」
「あ、あはは・・・」
そして俺は羅刹女を妻にしたのだった。
それから先の未来、
羅刹女は聖天の力を失ったがために本来の力を失い、その後に俺の弟、蚩尤と玉面公主の謀反で暗殺された。もしあの力があれば・・・
俺は羅刹女を失ったが、今は俺と羅刹女との忘れ型身である紅孩児がいる。
羅刹女との約束。
一生守り切る約束は今、紅孩児を守る事で償ってみせる。
そしてもう一つの約束。
羅刹女の力を奪った天界のあの者を見つけ出して、必ず取り返してやるからな!
だから、俺は負けられぬ。
あの約束はまだ果たされていない。
だから、今このような場所で蛇神如きに負けるわけにはいかないのだ!
俺が今対峙しているのは覇蛇になり立ての修蛇覇蛇。その攻撃力は俺も目を見張る実力者だった。
蛇神の能力のみにかまけず、戦場で磨き上げた拳から繰り出す一撃は至高の拳。
しかし俺は霊亀の鎧と盾で修蛇覇蛇の攻撃を凌げているだけ?ん?霊亀の鎧が無ければ負けていた?
馬鹿目!
それは素人の考えである。
何故なら霊亀との契約の試練に求められていたのは俺の攻撃力なのだから。
「さぁ、これからが俺の本気だ!修蛇覇蛇よ!心してかかってこい!」
「面白い。霊亀の盾を破壊すれば、この俺の名声もさらに上がるだろう!」
修蛇覇蛇は蛇気を高め始める。
その気圧に全身が震えてきやがる。
『覇蛇、超振動の拳!』
修蛇覇蛇の繰り出した拳はその名の如く超振動の攻撃。
俺に向けて空間が歪むように迫って来た。
そして俺も同時に極限にまで妖気を高めていた。
「見せてやろう!この俺の真の本気ってやつを!」
その直後、俺の背から皮膚を破るかのように新たに四本の腕が出現する。そして、元々の腕と合わせて六本の腕には漆黒の刀が握られていた。
「霊亀の試練は実に単純だった。その最強の盾をも凌ぐ攻撃を見せる事のみ!そして俺は霊亀の試練に打ち勝ったのだ。この奥義でな!」
六本の腕から繰り出された斬撃は交差しながらぶつかり合い連鎖の如く広がる。
「亜座武・六角斬!」
「そ、そんな馬鹿な・・・これが現魔王の真の力なのか?くっ、くそぉおおおお!」
俺の繰り出した奥義・六角斬は修蛇覇蛇の繰り出した攻撃をも飲み込みながらその威力を取り込み、更に強大な威力で修蛇覇蛇を飲み込んだのだ。その斬撃は豪雨のように躱す事叶わずに全身を斬り裂いていく。そして静けさが戻った時、俺の目の前には全身がズタボロの修蛇覇蛇が倒れていた。
「覇蛇のこの俺がこんな簡単に敗北するとはな。恐れ入ったぞ?牛角魔王よ!」
修蛇覇蛇の身体は徐々に崩れ始める。
「俺は不死体ではないのでな。ここまでのようだ。しかし安心するのも一刻の事。残る覇蛇はこの俺よりも遥かに恐ろしい連中だ」
「何者もこの俺が斬り伏せるまでだ」
「俺の見立てではお前より力のある者は覇王様の下に最低でも六人はいるぞ?そしてお前の息子が追った熔毒覇蛇もまた最強を誇る不死の魔王だ。今から追っても間に合わんと思うが、足掻けるなら足掻いてみせよ?」
その忠告に俺は自信をもって返した。
「心配無用。俺の息子は俺よりも強くなる資質を持っている。そして必ず熔毒覇蛇を倒すだろう」
「そうか。その確信の結果を見届けられないのは残念だ。最期にお前のような男と交えた事を歓びと思うぞ!」
そして修蛇覇蛇の身体は完全に消失したのだった。
残された俺は紅孩児が飛び去った西の方角の空を見上げる。
「決して死ぬなよ!紅孩児!」
そして、戦いの舞台は西の地へ変わる。
次回予告
熔毒覇蛇を追った紅孩児。
その向かう先には?




