天蓬元帥の誇り、八戒の最期!?
玄徳と改伯の危機に八戒が現れた。
このチャンスに硬剛覇蛇から逃げられるのか?
逃げる?
八戒の言葉に、玄徳と改伯は顔を見合わせる。
そして同時に飛び出していた。
このチャンスを逃したらもう二度目はない。
二人は駆け出していた。
「に、逃がさん!逃がすかぁー!」
怒り狂う硬剛覇蛇。
この状況に見ているだけだった蛇神兵が襲いかかるが玄徳と改伯は薙ぎ倒していく。
このまま上手く行けば逃れられる。
「ぐぅおおおおお!」
硬剛覇蛇の雄叫びが大地を震わせ八戒の作った落とし穴を猫削ぎ消し去った。
「一人も逃すものかぁ!」
激怒する硬剛覇蛇が殺気が迫る中振り向く余裕はなかった。
そんな僅かの時間すらも惜しい。
が、その時気付く。
こんな状況の中で違和感を感じたのだ?
いない?姿が見えないのだ?
何故?
「!!」
その時、初めて二人は八戒の姿がいない事に気付く。
本来なら誰よりも先に一目散に逃げるはずが?
まさか既に先に逃げている?
しかし二人が過ったのは、それ以上のまさかの方だった。
その「まさか」に二人は逃げるよりも足を止めて振り返る事に貴重な時間を使わせた。
「な、何故?」
二人の視界の先には、落とし穴から這い出て来た硬剛覇蛇が目の前にいる八戒を見下ろし立ち止まっている姿だった。
「どうしてお前は残ったのだ?逃げずに諦めたのか?」
「逃げるらと?オラは逃げたくとも逃げられないのら。何せオラは天峰元帥らからな!」
「はぁ?お前が天界の元帥だと?がははは!何をトチ狂った?頭を打ったか?この俺を前にして虚言か?」
八戒は硬剛覇蛇を前にして気張って叫ぶ。
「例え如何なる強大な敵であろうとも背中を見せず!どの者よりも先陣に立ち!仲間の武神を先導し、負けず敗れずの誓いの下『元帥』の称号を与えうる者のみに託される最強の称号。決して逃げたりはせんら!元帥の称号を持つと言う事はそういう事ら!」
弱小妖怪の八戒に啖呵をきられても余裕の硬剛覇蛇。
「愚かなり!身の程知らずとはお前のような奴を言うのだな?そして死に急ぐか」
「オラは負けんらぁー!」
その時、八戒の身体から黒い妖気が立ち籠める?
「ん?何だ?その力は??」
その変化に気付いた時、八戒は釘鈀に黒い気を流し込む。
すると凄まじい力が釘鈀より発する!?
「おうらぁー!!」
その振り払う釘鈀の一撃は硬剛覇蛇の胸を削った!
「ぐぅおぅ!?」
まさかの攻撃力に硬剛覇蛇はたじろぐ。
更に八戒は釘鈀を振り回して斬り掛かる。
硬剛覇蛇のガードする太い腕が血を噴き出す中で八戒は改伯の台詞を思い出していたのである。
この釘鈀は持ち主の魂の力を吸い取り力と変える。ならばその魂の力を限界にまで使って攻撃すれば、例え倒せずとも二人を逃がす時間稼ぎくらいは出来ると信じていたのだ。
八戒はこの戦場に来る決心をした時から命をかける覚悟をしていた。
どうして見も知らずの者達のために命をかけるのか?
「もしお節介の法子はんがいたら、同じように首を突っ込むからな・・・。本当にオラの周りには馬鹿バッカれよ、知らんうちにオラまで馬鹿になっちまったらよ」
八戒は連れ去られた法子が首を突っ込もうとして気を失わされ無理やり引き離された場面を見ていた。
もし目覚めた後に、きっと法子は助けられなかった事で自責の念で悔やむだろう。
八戒は法子のそんな顔を見たくなかったし、させたくなった。
そして個人的に、助けを求めに来た改伯の過去の後悔が何故らか自身が見てきて実体験して来たような感覚に陥ったのだ。何故?
それが八戒の心を揺れ動かしていた。
まるで自分自身の贖罪を償うために残ったような。
そんな衝動にかられたのだ。
「釘鈀よ!オラの魂をくれてやるらぁ!らから、もっと力を見せるらぁー!」
すると釘鈀が八戒から力を吸い出す。
黒いオーラが釘鈀に纏われると、その攻撃力は硬剛覇蛇の強固な身体をも傷付ける。
「なぁ?何だぁ?こらぁ!」
八戒はこの日のために釘鈀の能力を引き出す修行を人知れずに特訓していたのだ。
まだ未完成ではあったけれど、改伯が説明したように釘鈀が持ち主の魂を吸収して力を発揮する事には気付いていた。魂を吸い出されるのは肉体に傷を負うのとは異なる傷みを感じる。全身の体温が急激に下がるように凍て付く感覚から意識が飛ぶのを堪えなければならない。気を抜けば意識が消えて、魂が全て枯れ果てそのまま死に繋がってしまうのだ。
八戒は沙悟浄と喧嘩別れした事を思い出す。
「・・・もう少し良い別れ出来たらかな?」
素直でない八戒の精一杯の手段が喧嘩別れだった。
「オラの魂をくれてやるんら。せめて目の前の化け物一匹くらい土産に貰っていくらぁー!」
釘鈀から噴き出す黒い斬撃が鋭い爪のように硬剛覇蛇の身体を切り裂き両断した。
「や、やったらか?」
しかし硬剛覇蛇の両断した身体から無数の蛇が噴き出し裂かれた身体を繋ぎ合わせていく。
「なんら?再生しているらか」
そうはさせまいと八戒は追い打ちをかけるように釘鈀に魂の力を注ぎ込もうとするが、
「あぁぁ!?」
まるで空っぽになったかのように釘鈀からは力が発揮せずに、逆に重くて握る手が痺れる。
そして目の前に硬剛覇蛇の身体が元通りに再生を終えてしまった。
「ぐほほほ。残念だったな?まさかお前のような下等種が分不相応な武器を持ってはしゃいだようだが、それも持ち主が雑魚であれば宝の持ち腐れ!」
硬剛覇蛇から発する蛇気が八戒の身体を押し潰す。
「そのままミンチの如く潰れてしまえ!」
が、硬剛覇蛇の目の前で八戒の身体が再生していく?
「お、オラはまだ死なねぇらよ」
「そうか、お前のその再生力のお陰で先も甦って来れたのか?蛇神のお株を奪う再生力だな?下級妖怪にしては興味深い能力だ」
力任せだけの蛇神だと思っていたが硬剛覇蛇の分析力、知能も高いのだ。
それだけに倒すすべがなかった。
「しかしその再生力も魂の力が枯れ果てれば二度と甦ってこれまい?」
「んなっ??」
すると八戒の再生が止まってしまい、塞がりかけていた傷が開き血が噴き出して倒れる。
血溜まりの中で八戒は満足していた。
時間は稼いだ。多分、玄徳と改伯は蛇神包囲網から脱出しているはず。
子供達も天界の武神に託し自分の役目は終わったと。
後は自分の死で幕引きなのだなと。
「馬鹿め、逃げていれば良いものを?例え天界へと逃げ延びようと我ら蛇神からは絶対に逃れられないがな」
何を言っているのだ?意味が分からない。
しかしボヤける八戒の視界に入ったのは?
「おい!八戒?まだ生きているか?」
「勝手に死ぬな!この愚か者!」
それは八戒が逃げてない事に気付き引き返した改伯と玄徳の姿だった。
「な、何で引き返してるらか!馬鹿らか?」
「馬鹿はお前の方だ!俺達を逃がすために残るなんて、らしくない事をして!」
「お前を残して逃げ延びて私達が喜ぶと思うか?私達にも武神としての誇りはあるのだぞ?お前の犠牲に生き残ってなんとする!」
「言ったろ?お前のような奴でも見捨ててしまえば俺は俺でなくなる。二度と武神として生きていけなくなるからな・・・」
「私も過去の過ちは二度と繰り返さん」
二人は八戒を助けに戻ったのだ。
しかし硬剛覇蛇は三人の会話に笑い出す。
「綺麗事、正義感、偽善!そんなつまらない事で死んでしまえば結局は生ゴミ!生ゴミ!生ゴミ!生ゴミ!生ゴミィ〜!!俺に殺されるために虫けらが戻って来たようだが、良いだろう。俺がこの手で一番苦しむ方法で殺してやろう」
二人は勇猛果敢に戦った。
しかし硬剛覇蛇の力の脅威に三人はなすすべなく倒されてしまった。
立つ事はもちろん指一つ動かない。
全身傷だらけで地べたに転がる。
硬剛覇蛇は玄徳に向かって腕を伸ばす。
「先ずはお前の頭を握り潰してやろうか〜」
だが、飛んで来た石が硬剛覇蛇の後頭部に当たる。
「あ〜ん?今のはお前かぁ〜??」
石を投げたのは改伯だった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
既に戦う力は残ってはいなかった。
「そうかそうか?お前から死にたかったか?俺は慈悲深いからな?その願いを叶えてやるからな!」
硬剛覇蛇は動けない改伯の膝目掛けて踏み潰す。
骨が砕ける鈍い音が響き渡ると同時に、改伯の叫び声が響き渡る。
「良い声で泣くよな〜ぐへへ。もっと聞かせてくれよ〜なぁ?おい?」
次はもう片足を踏み潰そうとした時、
「止めろぉー!」
玄徳が叫んだ。
「はぁ?安心しろよ?お前も直ぐにミンチにしてやるからよ〜?あの豚のようにな?」
そこには八戒が転がっていた。
八戒は既に瀕死の状態だったのだ。
得意の再生力も発揮する事もなかった。
その理由は釘鈀が魂の力を急激に吸収した事で既に回復力が尽きかけていたから。
八戒の再生力は魂の力が源なのだ。
その魂の力が弱まれば再生は出来ない。
つまり八戒も死ぬって事なのだ。
八戒は両腕も両足も踏み潰されていた。
声を出したくても歯を割られて舌を潰された。
そして数度となく殴られ全身の骨は全て砕けている。
最後に数本の刺が胸に突き刺さって大量の出血が地面を鮮血に染めていたのだ。
もう後は死を待つだけだった。
それでも八戒は残る魂の灯火を燃やして再生させる。
完全ではないが動けるようになると玄徳と改伯を助けるために立ち上がる。
しかしそれまでであった。
立ったまま動く事までは出来なかった。
「あ〜あん?目障りだ!」
硬剛覇蛇は掌に蛇気を圧縮させると八戒に向かって投げつけると、蛇気は八戒の身体を覆いながら
「破裂しろ!」
木っ端微塵になったのだ。
八戒の最期を見た玄徳と改伯は涙を流しながら地面を握りしめて悔しがる事しか出来なかった。
「悲しむ事はないぞ?次はお前達も同じく後を追わせてやるのだからな」
しかし玄徳と改伯はもう恐怖はなかった。
例え目の前に迫る絶望の中でも最後まで武神として戦えたのだから。これも妖怪である八戒が自分達に教えてくれたのだ。武神としての誇りを!
ただ玄徳は改伯を、改伯は玄徳を守りきれなかった事が唯一の後悔だった。
「あ〜俺はお前達の泣き叫ぶ声が好きなんだ〜」
硬剛覇蛇は玄徳に目を向ける。
「次はお前の泣き叫ぶ顔を見たくなったぞ?ふふふ。どうやって泣かしてやろうか?」
すると硬剛覇蛇は玄徳ではなく改伯に近付くと、手にした刺を改伯の背中に突き刺したのだ。
「がぁっ」
何度も何度も殺さない程度に痛みを与えるように。
「改伯様ぁー!!」
改伯は玄徳に叫び声を聞かせないように唇を噛み締める。激痛がやがて麻痺してくる。
「おかしいな?急所刺してるのに泣かないぞ?せっかくコレを先に壊した方が面白いと思ったのにな?つまらねぇ〜な。もう壊すか〜」
硬剛覇蛇が改伯の頭を潰そうと足を振り上げたその時、その足を掴むように玄徳が飛び込み抑えて持ち上げひっくり返したのだ。
「はぁ、はぁ、俺はまだ戦える!」
玄徳は立つ事も限界に近かった。
それでも立ったのは、
「アイツが見せたんだ!俺も武神として最期まで恥じない戦いをしてみせる!」
だがもう戦う神力は残ってはいなかった。
腕を振り上げる力も残ってはいまい。
それでも立ち上がったのは誇りと意地以外なかった。
「もう飽きたぞ?しぶといクセに泣かないのは無駄な時間を浪費するだけだ。あの豚同様、木っ端微塵にしてやろうか〜」
硬剛覇蛇の掌に蛇気が高まっていく。
「終わらせてやろう」
硬剛覇蛇の蛇気が玄徳に向けて放たれようとした時だった。
突然、全身に鳥肌が立つ!?
「!!」
それは玄徳も改伯も感じた。
それは強大な妖気の高まり?
蛇神とは違う別の異質な力?
一体、何処から?
いつの間に現れたのか?
その者はその場にいたのだ。
「なんだ〜?お前、何者だぁ〜??」
硬剛覇蛇はその存在に興味を示す。
そして近付いて行き見下ろしたのだ。
その直後、凄まじい衝撃が大地を揺らした。
何が起きたと言うのか?
硬剛覇蛇が仰け反りながら吐血し膝をつく。
「あ、がギガァが!?」
そこには黒上褐色の肌の少年が立っていた。
その少年からは神力とも蛇気とも違う漆黒のオーラが立ちこめる。
その格好と発する異質の気はの魔神族特有の物。
その姿を目の当たりにした玄徳と改伯は驚くよりも別の感情が胸を熱くしたのだ。
彼等はその背中を知っていた。
彼等はその者を知っていた。
彼等はその者と因縁があったのだ。
「あ、貴方様は・・・まさか、まさか?間違いない。貴方様こそ、かつて天界にその名を轟かせた・・・」
改伯は涙を流していた。
その者は恩人でもあり、かつて自分が陥れてしまった伝説の武神だったから。
硬剛覇蛇は腹を抱えて立ち上がると、その者に向かって怒鳴り散らす。
「お、お前はぁ?何者だぁああ??」
すると少年は硬剛覇蛇を睨みつけて答えた。
「オラか?オラは八代目天峰元帥ら!」
しかしその喋り口調は間違いなく死んだはずの八戒と同じ。
それは何を意味しているのか?
次回予告
その少年は黒髪、褐色の肌。
その身に纏う気は漆黒の神気。
それは魔神国の神の特徴だった。




