地下水路探索③
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「オマエ等! この俺を無視するんじゃねえよ!」
すると、僕達を見かねたエリアルが声を荒げた。
「……まだいたんですか?」
僕の胸の中から顔を覗かせ、冷たい視線を浴びせながらライラ様が言い放つ。
「っ! 街の住民からも見捨てられた失格領主の癖に、偉そうにしてんじゃねえよ!」
「なっ! ふざけるな!」
エリアルの言葉に激高した僕は、エリアルに向かって叫んだ。
「……あんな男、もう生きていても害悪でしかないですね」
無機質な声でそう言うと、ハンナさんがフギンとムニンを抜いてエリアルに狙いを定める。
「ハッ! そんな変な形のナイフが、この距離でどうにかなると……!?」
——ドン!
ハンナさんがフギンの引き金を引くと、轟音と共に弾丸がエリアルの頬をかすめ、そこから血が流れた。
「次は外しません。せいぜい自分の行いを後悔するのですね」
表情を変えず、ハンナさんはフギンとムニンの筒の先をエリアルの額と心臓に照準を合わせた。
一方のエリアルはというと、何が起こったのか理解できず、たじろぎながら視線を泳がせている。
「そこまでです!」
すると、ソフィア様が二人の間に割って入った。
「私達の目的はあくまで『天国への階段』についての調査です。とにかく、私達は過去にアデル様達が行ったことのあるという現場へ、“黄金の旋風”の皆さんはそれとは別の場所へ向かってください」
冷静にそう告げるソフィア様に、全員が押し黙る。
ソフィア様の凛としたその姿や言葉には、何故だか分からないけれど惹きつけられるような何かがあった。
「……チッ、行くぞ」
「「「う、うん……」」」
エリアルは顔を歪めながら舌打ちすると、他の三人と一緒に地下水路の奥へと入って行った。
「ふう……では、私達も参りましょうか」
そんな“黄金の旋風”の連中の背中を眺めながら一息吐くと、ニコリ、と微笑みながら、ソフィア様が告げる。
「……ですね、行きましょう」
図らずもカルラが加わることにはなったが、僕達五人はブラウンラットの駆除場所へと向かった。
◇
「……ここね」
駆除場所にたどり着くと、カルラが呟く。
「本当に、あの頃と変わってないや……」
辺りを見回し、僕は感慨にふける。
あの時は村を出てほんの一か月くらいで、まだ僕とカルラの二人だけのパーティーだったんだよな……。
もちろん僕とカルラは、仲の良い恋人同士で……。
でも。
「特に変わった様子はないですね……」
「はい……」
同じように、周りを確認しているライラ様とハンナさんをチラリ、と見る。
そんな過去の思い出も、こうやって二人との新たな思い出で上書きしていこうと、僕は心の中で静かに誓った。
「さて……それじゃ、早速試してみたいことがあるんですが、いいですか?」
「? は、はあ……」
僕はソフィア様にそう言うと、彼女はキョトンとしながら頷いた。
「では……【設計】」
僕は能力を発動し、この場所を作り変えるための図面を思い浮かべる……ことはできなかった。
「……ふう」
「「どうでしたか?」」
僕の能力を一番理解しているライラ様とハンナさんが尋ねる。
「やはり、僕の【設計】では何も確認できませんでした」
「というと……」
「いえ、判断するにはまだ早いです」
そう言うと、今度は水路の壁に手を当てる。
そして。
「……【加工】」
今度は水路の壁を【加工】しようとすると。
——ツウウ……。
「「っ!? ア、アデル様!?」」
僕の鼻から血が垂れたのを見て、ライラ様とハンナさんが思わず僕の名前を叫ぶ。
それと同時に、水路の壁が掌ほどの範囲分だけ砂に変わった。
……とりあえず、【加工】はこれが限度、か。
僕は鼻から垂れた血をグイ、と腕で拭うと、四人へと向き直った。
見ると、四人が四人共、不安そうな表情で僕を見ていた。
事情を知るライラ様とハンナさんだけでなく、ソフィア様や、あのカルラまで。
「……あの見取り図は、この水路で間違いないようです」
「「「「っ!?」」」」
僕の言葉に、四人が息を飲む。
「そ、それはどういうことでしょうか?」
ソフィア様が身を乗り出して僕に問い掛ける。
「はい。そもそも、僕達がこの地下水路に来る前に、【設計】で街の中にあの見取り図と同じ場所がないか探索していましたよね?」
「は、はい……」
「でも、僕の頭の中には図面が何一つ浮かばなかった。つまり、この街には見取り図の場所がないか、僕の[技術者]の能力の限界を超えるものである可能性があると。ここまではよろしいですね?」
そう確認すると、カルラを除く三人が頷く。
「ですが、カルラに見取り図を見せた時、これはこの水路を示していると即座に答えた。それは、水路がこの街全体に張り巡らされているのに、僕の【設計】が及ばなかったことを意味するんです」
「「「あ……」」」
「そして、今ここで壁を【加工】してみてその推理は確証に変わりました。だって、ここの壁は……」
ここで僕は一拍置いて四人を見回す。
四人は僕をジッと見つめ、次の言葉を待っていた。
「僕の能力の限界を超えた、未知の素材でできているんですから」
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