ピクニック
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いよいよ真相に迫る第四章の開幕です!
「ふう……ここはこんなものかな」
僕は額を流れる汗をグイ、と腕で拭いながら、できあがったばかりの要塞の壁を見上げる。
王都から帰って来た僕達は、王国との決戦に備えるため、要塞の建造を再開した。
王都に向かう前は王都とアイザックの街を結ぶ街道側だけに築いていたけど、今は街全体を円型に囲むように作り変えている。
もちろん材料は、地面に含まれている岩や鉄分だから、調達コストもかからないし、利用した分は堀にしているので守りはさらに強固になっている。
「うーん……我ながら良い出来ではあるんだけど……」
僕は目の前の要塞に自画自賛しつつも、肝心の人材難に頭を悩ませる。
王都に戻ってからも、ハンナさんは引き続き傭兵や腕の立つ冒険者を確保するために奔走してくれているけど、やっぱり思うように集まらない。
まあ、こんな要塞みたいに生まれ変わった街を見たら、当然といえば当然か……。
「何とか少人数で守り切れるような仕組みを作れればいいんだけど、ね……」
そう呟いてはみたものの、もうできることは全てやり尽くしている感があるからなあ。
城壁の上には旋回式のバリスタを全方位に配置してあるし、中には投石器だって用意してある。
本当は、ハンナさんのフギンやムニンのような武器を用意できればいいんだけど、さすがにあれを作るためにはまた限界を超えないといけない。
……さすがに、それをするのは二人にしかしたくないし。
すると。
「「アデル様ー!」」
ライラ様とハンナさんが、手を振りながらこちらへとやって来た。
「ライラ様、ハンナさん、どうされたのですか?」
「そ、その……そ、そろそろ休憩でもいかがかと思いまして……」
僕が二人に尋ねると、ライラ様が頬をほんのり赤く染め、俯きながらおずおずとそう提案した。
「あはは、そうですね。僕もちょうどひと段落したところですので、そうしましょうか」
「! は、はい!」
ライラ様は尻尾の幻影をブンブンと振り回しながら、なにやら背負っているザックから毛布を取り出し、地面に敷き始めた。
「うふふ、お嬢様ったら『アデル様とピクニックする』と言って聞かなかったんですよ」
「あ! ハンナ! あなただって乗り気だったじゃないですか!」
ハンナさんが揶揄うように言うと、恥ずかしかったのか、ライラ様がハンナさんの肩をポカポカと叩きながら抗議する。
あはは、今日も二人は仲が良いなあ。
「確かに、今日は天気も良いですし、絶好のピクニック日和ですよね」
「! そ、そうです! ピクニックには最適です!」
そう言うと、ライラ様は我が意を得たりとばかりに、少し背伸びしながらグッ、と僕に顔を近づけた。
「さあ、ではアデル様、こちらへお座りください」
そんな僕達のやり取りを見ながら、いつの間にかピクニックの準備を終えたハンナさんがポンポン、と敷いている毛布を叩いた。
「あはは。それじゃ、失礼します」
僕はハンナさんの指示する場所に腰を下ろすと。
——ぴと。
「え、ええと……ハンナさん?」
「何でしょうか?」
「そ、その……ものすごく近くないですか?」
ハンナさんは、僕の左側に座ると、思い切り肩を寄せてきたのだ。
う、嬉しいけど、その……僕の左腕に、ハンナさんの大きな胸が……。
「む! ハンナ、少しあざと過ぎではないですか?」
「うふふ……ならお嬢様も、同じようにすればよろしいのでは?」
どこか勝ち誇った表情のハンナさんが、ライラ様を挑発する。
できればそういうことは、僕を挟んでしないで欲しいんだけど……。
「くうううう……! そ、そんな無駄肉、邪魔なだけです!」
ライラ様が悔しそうに指差しながら猛烈に反論するけど……逆にライラ様がますますダメージを負っているんじゃ……。
「うふふ……頑張ってください、お嬢様」
「むううううううううううううううう!」
ダ、ダメだ……このままじゃ埒が明かない。
「と、ところで、ライラ様が持っているそのバスケットは何ですか?」
僕は何とか空気を変えようと、無理やり話を逸らしてみる。
「あ、え、そ、その……」
すると、ライラ様が急にモジモジしてしまった。
何だろう、すごく可愛いんだけど。
「ほら、お嬢様」
「は、はい……」
ハンナさんにせっつかれ、ライラ様が意を決したように顔を上げて僕を見つめた。
「あ、あの! じ、実は、食事を持って来たんです……」
「食事ですか! ちょうどお腹が空いていたところなんですよ!」
「あ、あうあう……」
僕が少し大げさなくらい喜ぶと、ライラ様はますます俯いてしまった。
「うふふ。実はお嬢様、アデル様のためにって自分で食事をお作りになられたのです」
「そうなんですか!」
うわあ……! それは少し……いや、メチャクチャ嬉しい!
「あ、ありがとうございます!」
「はは、はい……」
僕はライラ様の白銀の手を取ると、ライラ様は耳まで真っ赤にしながらますます恥ずかしそうに俯く。
「まあ、いずれは身の回りのことは自分でできるようになる必要がありますから」
ハンナさんはさも当然とばかりにそう告げる。
だけど、これはハンナさんの言う通りだ。
だって……ライラ様は復讐の全てを果たしたら、もう貴族をやめるのだから。
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次回はこの後更新!
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