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機械仕掛けの殲滅少女  作者: サンボン
第三章 復讐その三 ハリー=カベンディッシュ
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ハンナの覚悟

ご覧いただき、ありがとうございます!

 ——ガタ、ガタ。


 あの事件から五日。

 あの後、僕達はすぐにヘイドンの街を出て真っ直ぐ王都を目指していた。。


 今日滞在する予定の“コルチェスト”の街を抜ければ、もう王都は目の前だ。


「「「…………………………」」」


 あれから僕達の口数も少なくなり、今も無言のまま馬車に揺られている。

 事件のこともあるが、いよいよ王都の直前まで来ていることへの緊張もあるのだろう。


 王都に着けば、いよいよ僕達は最後の復讐を果たすことになり、そしてそれは、僕達のこの旅の終わりを告げる意味もある。


 ……復讐の果てに、僕達はどこに向かって行くことになるんだろうか……。


 だけど、復讐の前に乗り越えるべき壁がいくつもある。


 まずはヘイドンの街で出遭った、ハンナさんが師匠(・・)と呼ぶ人物。

 後で詳しくハンナさんから聞いた話では、その師匠というのは“ジャック”と呼ばれる王国の暗殺者ギルドの長で、[暗殺者(アサシン)]として王国最強とのことだ。


 そんな男は、僕達の敵である王国に雇われているんだろう。

 依頼主こそ明かさなかったが、僕達の監視をしている時点でそういうことなのだろう。

 それに先日の事件の時も、“ジャック”は本気を出している様子はなかった。


 この“ジャック”対策も何とかしないと、ね……。


 そして、“ジャック”の依頼主の存在。

 ゴドウィンの発言やこれまでのことを考えれば、国王自身か側近中の側近である可能性が極めて高い。

 そしてそれは、ライラ様の復讐対象である訳で……。


 そんな相手に、僕達はどうやって鉄槌を叩き込む?


 謁見中に隙を突くか?

 いや、そもそも武器や甲冑の持ち込みもできない上、僕とハンナさんは王宮の敷地内にすら入ることができない。


 なら正攻法で正面突破するか?

 馬鹿な……近衛兵を含め、万全の警備が敷かれている中で、それこそ自殺行為だ。


 ……本当は、ここはやり過ごした上で、機会をとらえて万全を期して復讐に臨むのが一番良いんだけど……かといって、向こうがそれを待ってくれる訳じゃない。


 なら、今できる最善を考えないと……。


「アデル様……」


 見れば、ライラ様が心配そうな瞳で僕を見つめていた。

 はあ……どうやら僕のこの不安や焦りが、表情や態度に出てしまっていたみたいだ。


「あはは……すいません、ちょっと考えごとしてただけですので」

「アデル様……本当に、ご無理なさらないでくださいね?」

「ええ、もちろんです」


 僕はライラ様にニコリ、と微笑み返すと、ライラ様はそれ以上何も言わなかった。


 一方で左隣のハンナさんはといえば、どこか思いつめたような、苦しそうな表情を浮かべていた。


 ハンナさんの師匠である “ジャック”という男のことで思い悩んでいるんだろう。

 特に、自分を救ってくれた筈の“ジャック”が、同じ境遇のメル達を殺害したことへの疑問、そんな師匠と敵対することへの葛藤が、ハンナさんの胸の中に渦巻いているんだと思う。


 そして、そんな師匠に対し、ハンナさんが語る術(・・・)を持たないことへの悔しさも。


「あ! アデル様、見えました!」

「本当ですか」


 ライラ様が前方を指差す。

 どうやら無事、コルチェストの街に着いたようだ。


「さて……では街に着いたら早速食事でもしますか?」

「いいですね、それ!」


 空気を変えるために少しおどけながら提案すると、ライラ様が乗ってくれた。

 でも、やっぱりハンナさんの表情は冴えない。


 すると。


「ハンナ……話があります」

「はい……」


 見かねたライラ様が、ハンナさんと一緒に御者席から車内へと入って行った。


 ……僕が、ハンナさんにできることは何だろうか。


 左手を握ったり開いたりしながらジッと見つめる。


 そうだよな……僕には、“役立たず”だった[技術者(エンジニア)]の力しかない。

 だったらこの力を使って、ハンナさんのためにできることを……!


 そう心に誓い、僕は拳を握り締めた。


 ◇


「ふう、ご馳走様でした」

「ふふ、美味しかったですね」

「ええ、お嬢様」


 コルチェストの街に着いた僕達は、早速この街一番というレストランに入り、食事をした。


 ハンナさんもこの街に来るまでの暗い表情はなりを潜め、今は微笑みを浮かべている。

 もちろんこれは、ライラ様が馬車の中で話をしてくれたお陰だろう。


 そしてそれは、僕には入り込む余地がない程、二人の絆が強い証なのだろう。

 そのことに、僕は羨ましさと若干の寂しさを感じてしまった。


「それで、食事が終わったら今日は宿でゆっくりしますか?」

「そうですね……僕はちょっと用事があるので、この街を散策します」


 そう提案するライラ様に、僕はそう告げた。


「あ……それでしたら私達もご一緒しても?」

「ええ、構いませんよ」


 少し遠慮がちにライラ様が尋ねるので、僕は微笑みながら快諾した。

 僕はクロウ=システムを作った時にライラ様に(たしな)められたあの時から、変な隠し事や遠慮、自己犠牲はしないと決めた。


 だから。


「……僕は、この[技術者(エンジニア)]の力で、ハンナさんの新たな武器を作ろうと思います」

「「っ!?」」


 僕がそう告げると、二人が息を飲んだ。


「このことをお二人に告げたのは、決して僕自身が死ぬ気ではないことを示すためです。僕は、二人とこれからも一緒にいるために、この力を使うんです……」


 すると。


「アデル様! ……私のためというなら、そのようなことはおやめください……!」


 ハンナさんが僕に縋りつき、懇願するような瞳で僕を見つめた。

 でも、僕の決意は揺るがない。


「僕は、大切なあなたのために作ります。あなたが、あの“師匠”と呼ぶ男と対話(・・)するための力を」


 僕は、泣きそうな表情のハンナさんの瞳をジッと見つめる。

 僕の、ハンナさんへの想いを知ってもらうために。


「ハンナ……あなたがこれから先もアデル様のお傍にいたいのなら、アデル様の覚悟、受け止めなさい」

「お嬢様……」


 ライラ様が、ハンナさんの背中をそっと押す。

 それは、これまでそんな僕の覚悟を受け止めてきてくれたライラ様の、覚悟と想いの強さの表れだった。


 そして。


「アデル様……どうぞ、よろしくお願いします……」


 ハンナさんは涙を零しながら、深々と頭を下げる。


「はい、お任せください」


 僕はそんなハンナさんの身体を起こすと、ニコリ、と微笑んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回はこの後更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ハリネズミの抱擁みたいなものかなあ。 お互いを傷つけあうと判っていも、せざるを得ない。 自分を傷つける事も、相手を傷つける事になってしまうから。
[良い点] おおっ、今度はハンナさんの武器かぁ! どんな武器になるんだろう? そして今度も代償はあるのだろうか……
[一言] ここからが本番だねぇ。王というより他国の聖女も関わっていそう、、、つまり、王都編から先もあるのかな?
2021/04/07 18:45 退会済み
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