地下水路
ご覧いただき、ありがとうございます!
「それは大丈夫ですので、今すぐあの子どもを追いましょう」
「へ?」
ハンナさんの言葉に、僕は思わずキョトンとしてしまった。
「今、あの子どもはアデル様から財布を盗んでいきました」
「ええ!?」
僕は慌てて懐にしまってあった財布を探すと……………………ない。
「す、すぐに追いかけましょう!」
「「はい!」」
僕達はあの子どもが走り去っていった方向へと駆ける。
「あ! あちらです!」
ライラ様が子どもを見つけ、彼女が指を差す方向へと視線を向けると、どうやら路地裏に逃げ込んだようだ。
「アデル様、急ぎましょう! 路地裏をねぐらにする子どもにとっては、全て庭のようなものです! 逃げ込まれたら捕まえるのが難しくなります!」
「はい!」
ハンナさんのアドバイスを受け、大急ぎで路地裏に入った。
すると。
「い、いない……?」
路地裏には、さっきの子どもはおろか、誰一人としていなかった。
「アデル様……あちらをご覧ください」
ハンナさんの指示するほうを見ると、この街の地下水路につながっている蓋が開いていた。
「恐らく、ここから逃げ込んだものと思われます」
「そうですか……」
僕は地下水路の入口へと近づき、中を覗き込む。
「アデル様、どうしますか?」
ライラ様が尋ねる。
まあ、僕としてはそれほどお金が入っていた訳でもないし、子どもにも事情があるんだろうから、このまま諦めても構わないんだけど……。
「せっかくですし、中に入りましょう」
「「あっ」」
この時の僕は、何故かこの地下水路と子どもに興味が湧き、二人が何か言う前に中へと降りて行った。
「うわあ、暗いなあ……」
入ってみると、当然だけど中は真っ暗だった。
「ええと、確かカバンの中に……お、あったあった」
カバンの中から蜜蝋の塊とナイフを取り出すと。
「【加工】、【製作】」
僕は蝋燭とランプを【製作】した。
で、火打石で蝋燭に火を灯して、と……うん、これで見えるようになった。
「アデル様、とりあえず少しずれましょう」
「え? ハンナさん?」
僕はハンナさんに誘導され、少しずれた。
すると。
——ズウン……!
……ライラ様が、上から落ちてきた。
「……ふう、脆いはしごというのも困りものですね」
ライラ様はやれやれと言わんばかりに肩を竦めてかぶりを振った。
ですが、ライラ様の重量に耐えられるはしごは、ほぼ無いように思われます。
「……アデル様、何ですか?」
「あ、い、いえ!」
ジト目で見られ、僕は慌てて顔を背けた。
「さ、さあ、先に進みましょう」
僕は話題を逸らすため、地下水路の先へと進んだ。
◇
「……いませんね」
しばらく地下水路を探し続けたけど、あの子どもは一向に見つからない。
というかこの地下水路が広すぎて、探しようがない……。
「さすがに、これ以上探しても見つからなさそうですね……」
そう言って、僕は諦める素振りを見せると。
「その……私にお任せいただけますでしょうか」
ハンナさんが、おずおずと申し出た。
「え、ええと、さすがにもう無理かと思うんですが……」
「いえ、た、多分、何とかなるんじゃないかと……」
提案した割には、どうもハンナさんの歯切れが悪い。
何かあるんだろうか……。
「あ、で、では、お願いしてみてもいいですか?」
「は、はい」
そう告げると、ハンナさんはピト、と壁に耳を当てた。
「ふう……こちら、でしょうか」
そう言って進むハンナさんに、僕とライラ様は顔を見合わせながらもその後をついて行った。
そんなことを何度か繰り返して進んで行くと。
「どうやら、ここのようですね」
ハンナさんが指差したのは、鉄格子があって行き止まりとなっているところだった。
「で、ですが、ここから先は行き止まりのようですが?」
「少々お待ちください」
するとハンナさんは鉄格子の棒を一本一本確認すると。
「「あ!」」
鉄格子の一本が、簡単に外れた。
「子どもであれば、この幅があれば通り抜けが可能ですね……」
だけど、鉄格子の棒が一本抜けた程度では、僕達は通り抜けることは無理そうだ。
「アデル様、お下がりください」
ライラ様がズイ、と前に出ると、白銀の手で鉄格子をつかんだ。
そして。
——メキ、メキ。
ライラ様はその両腕で鉄格子をいともたやすくこじ開けた。
「さあ、行きましょう」
「「は、はい……」」
事もなげに鉄格子をくぐるライラ様に、僕とハンナさんは思わず顔を見合わせた。
ま、まあ、あの腕を【製作】したのは、僕ではあるんだけど、ね……。
それから先へと進んですぐのところ。
「っ!? な、何でここが!?」
広場で僕にぶつかった子どもが、ここに確かにいた。
だけど……。
「子どもが、ひい、ふう、みい……」
数えると、さっきの子どもを含め十五人もいた。
しかも、こんな地下水路に。
「み、みんな! ウチの後ろに隠れて!」
「「「「「う、うん!」」」」」
あの子どもがそう叫ぶと、他の子ども達は一斉に後ろに下がった。
「うふふ、大丈夫よ。私達は少しお話ししたいだけだから……」
僕とライラ様の前にス、と出ると、ハンナさんが優しく微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回はこの後更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




