王国のため?
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「あはははは! 無様! 無様ですね!」
湿地帯の上で静止するライラ様が、そんなゴドウィン達を眺めながら高らかに嗤う。
「っ! な、何をいうか! このような卑怯な真似をしておきながら、さらに我等を侮辱する気か!」
ライラ様の態度に激高した兵士の一人が、ライラ様に向かって罵倒した。
「あはははは! もはや嗤うしかありませんね! 卑怯? 五千もの軍勢を用意しておきながら、たった三人に皆殺しにされた貴様等はどうなのですか?」
「クッ……!」
ライラ様の言葉に言い返すことのできない兵士は、悔しそうに歯噛みする。
すると。
「……ライラ=カートレット伯爵閣下。ぜひ一騎討ちを所望する」
中年の騎士が、ギロリ、とライラ様を睨み、その手に持つハルバードの切っ先を突きつけた。
「あは♪ 正気ですか?」
まるで小馬鹿にするようにライラ様が言い放つ。
そんなものに、何の意味があるのかとでも告げるかのように。
「……その上でお頼みしたい。もし、この私が閣下に一太刀でも当てることができた場合には、何卒、お館様……ゴドウィン公爵閣下と兵士達を見逃していただきたい」
そう告げると、中年の騎士は深々と頭を下げた。
しかし……卑怯な一騎討ちの要求もあったものだな。
これじゃ、たとえライラ様の身体に触れただけで、全てを見逃せっていうことじゃないか。
だけど。
「あは♪ いいですよ? 貴様が私の身体に僅かでも触れることができたら、見逃して差し上げましょう」
ライラ様はますます口の端を吊り上げ、中年の騎士の要求を呑んだ。
「では……ゴドウィン侯爵家騎士団長、アダムス! 参る! 【破城槍】!」
中年の騎士……もといアダムスは馬の上に立つと、ハルバードを構え、その馬を蹴り殺す程の勢いでライラ様へと突撃した。
その姿には、まるで自身の生命を引き替えにしてでもライラ様に一矢報いたいという、騎士団長としての矜持が垣間見えた。
一方、ライラ様はその場からピクリ、とも動かない。
まるで、そんなアダムスの思いに応えるかのように。
そして、ハルバードの先がライラ様の眼前に迫った、その時。
「あは♪」
そんな嘲嗤う声と共に、ライラ様がまるで小枝を振り払うように鎌を横薙ぎにすると。
——ザシュ、ベキョ。
アダムスの身体はその死神の鎌によってズタズタに引き裂かれ、手に持つハルバードも真っ二つに折れ曲がった。
「あは♪ なかなか頑丈な武器でしたね♬」
湿地帯に沈むハルバードを見ながら、ライラ様が嬉しそうに嗤う。
「あはははは! 残すは貴様等ですが、どんな死に方がいいですか?」
ニタア、と口の端を吊り上げながら、ライラ様が残るゴドウィン達に尋ねる。
まあ……少なくともゴドウィンに関しては、ライラ様以上の苦痛を与えてから、になるだろうけど。
「ハンナさん……僕達もライラ様の元に行きましょう」
「え……?」
僕はハンナさんからそっと離れると、湿地帯に手をかざす。
そして。
「【加工】、【製作】」
破壊した橋の木片を【加工】し直すと、また同じように橋を【製作】した。
ゴドウィンの元まで続く、一本の橋を。
「……本当に、アデル様の能力は規格外ですね」
「そんなこと、ないですよ」
僕は小さくかぶりを振ると、ハンナさんと一緒に橋を渡ってゴドウィンの元へと来た。
残っていた僅かな兵士の命は既にライラ様に刈り取られ、残っているのはこの男一人だけとなっていた。
そして、その唯一残ったゴドウィンは、目を見開きながら僕を凝視していた。
「そ、その能力は……」
「これですか? ライラ様とハンナさんがいなければガラクタしか作れない、“役立たず”の能力ですよ」
ゴドウィンの問い掛けに、僕はあえて自嘲気味にそう答えた。
だけど……二人のためなら、どんなものだって【製作】してみせる。
「ハ、ハハ……まさかとは思うが、カートレットのその人間離れした姿も、全部貴様が作った、とか言い出すんじゃないだろうな……?」
今度はライラ様を指差しながら、ゴドウィンは乾いた笑いを浮かべながら尋ねた。
「……まあ、別に否定はしませんよ」
僕は吐き捨てるようにそう告げると。
「フ、フザケルナ! こんなバカげた能力があってたまるか! 失くした腕を作るだと!? これだけの規模の橋を一瞬で壊し、しかも元通りにするだって!?」
すると今度は、僕の能力を認められないゴドウィンが、悪し様に罵る。
まあ、人は自分の理解を超えるものに出遭うと、否定したくなる生き物だけど、ね。
「こんな……こんなふざけたものに、私の大切な部下達の命が全て奪われてしまったんだぞ! こんなこと、許せるか!」
「は? オマエはその部下達を使って、アイザックに住む人達を皆殺しにしようとしたじゃないか」
僕は自分でも驚く程低い声で、ゴドウィンにそう告げた。
「キサマ等は……キサマ等は何も知らんからそんなことが言えるのだ! このままでは王国が滅んでしまうのだぞ!」
「王国が、滅ぶ……? どういうことだ?」
ゴドウィンから突然放たれた言葉に、僕は思わず聞き返した。
「フン! 私のこの肩には、このアルグレア王国に住む全ての者の命が掛かっているのだ! 何の覚悟もない者共が、分かったような口をきくな!」
「はあ……オマエの覚悟なんて、僕達にはどうでもいいんだよ」
偉そうに罵るゴドウィンに、僕は吐き捨てるようにそう告げた。
「黙れ! 私にはこの王国を救う義務がある! 使命がある! そのためには多少の犠牲など、取るに足らんのだ!」
「『多少の犠牲』?」
僕はゴドウィンが放った言葉に思わず反応した。
「オマエの言う『多少の犠牲』というのは、ライラ様や先代伯爵様夫妻のことを指しているのか?」
「だったらどうだと言うのだ! そもそも、カートレット伯爵家が素直にあの街を手放せば、こんなことにはならなかったのだ! そうすれば私も……グアッ!?」
気づけば、僕はこのゴドウィンという男を殴っていた。
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