解放と破壊
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「それで、ライラ様は?」
足を引きずりながら屋敷に帰る途中、僕はハンナさんに尋ねた。
「お嬢様は屋敷でアデル様のお帰りをお待ちです。それはもう、心配されておられましたよ?」
ハンナさんが少しジト目で僕を見た。
「えーと……念のためお聞きしますが、僕がジェイコブの屋敷に行っていたことは、その……ライラ様はご存知ではないんですよね?」
まさかとは思うけど……ハンナさん、このことはライラ様に内緒にしていただいてますよね……?
「いえ、お嬢様はご存知です」
「ええ!?」
ハンナさんが澄ました表情で答えると、僕は驚きの声を上げた。
「ど、どうして……!」
「当たり前です。だって……」
すると、ハンナさんが僕を上目遣いでジッと見つめた。
「……あなたはお嬢様や私にとって、最も大切なお方ですから。私達には、あなたを心配する権利があります」
「っ!」
ハンナさんの言葉に、僕の胸がかあ、と熱くなる。
「ですから……あまり無理はなさらないでください」
「……はい」
僕はハンナさんから視線を逸らして俯いた。
その言葉が嬉し過ぎて涙を流している僕を見られたくないから。
「さ、さあ、急ぎましょう! お嬢様が待っています!」
「で、ですね!」
少し恥ずかしくなったのか、ハンナさんが誤魔化すようにそう言うので、僕もそれに乗っかり、明るい声で答えた。
◇
「アデル様、ハンナ、お帰りなさい」
屋敷に着いて玄関の扉を開けると、ライラ様が出迎えてくれた。
ひょっとして、ずっと玄関で待ってくれていたんだろうか……。
「それで……」
「はい。帰りに襲われましたが、ハンナさんのお陰でこうやって捕らえることができました」
ライラ様がチラリ、と男を見たので、僕がそう答えると……突然、ライラさんが右手で男の首をつかんだ。
「げ、げげ……!?」
男からメキ、メキ、と軋むような音が鳴り、たまらず男はライラ様の右腕をつかみながらジタバタともがく。
「オマエ……アデル様の脚にこんな真似をしてえええええ!」
「ば……ばば……」
男が口から泡を吹き始め、顔も紫色に変わっていく。
「ラ、ライラ様! まずはこの男から情報を聞き出さないといけませんから!」
僕は慌ててライラ様を止めると、ようやく男を離した。
「ひゅー……ひゅー……」
男が息をするたびに、その喉からすきま風のような高い音が鳴る。
「それでアデル様、この男から何を聞き出すのですか?」
「はい……その前に、お二人に伝えなければいけないことがあります……」
そう、僕はこれから二人に話さなければならない。
とても……とても悲しくて残酷な事実を。
「……アデル様」
するとライラ様が、その右の瞳で僕をジッと見つめると。
「私達なら大丈夫ですから……どうか、お話しいただけますか?」
そう言って、僕の手を優しく握った。
「はい……ライラ様やご両親を襲った犯人……それは、“ジェイコブ”の手の者でした……」
そう告げると、僕はライラ様の手をギュ、と強く握り、唇を噛み締めた。
「そう……ですか……」
ライラ様がそっと俯く。
だけどライラ様のその右の瞳は、爛爛と輝いていた。
僕はあえてその瞳に気づかないふりをして、男の髪をつかみ、ぐい、と頭を持ち上げた。
「おい。オマエの知っていることを全部話せ。でないと僕も、ライラ様をこれ以上止めることはできない」
そう言うと、男がビクッと身体を震わせた。余程さっきのアレが効いたらしい。
「まず……オマエ達の一味は何人いるんだ?」
「ご、五十人……」
「僕が見た時は九人だったけど?」
「ほ、他の連中はあの屋敷とは別のところにいるんだ。う、嘘じゃない」
「そうか、じゃあ次の質問。オマエ達のリーダーはあの執事で間違いないのか?」
「そ、そう、トマス様だ」
「それで、なんでオマエ達はジェイコブの下についてるんだ? 金か?」
そう尋ねると、男が急に口をつぐんだ。
「言えよ。じゃないと……」
「わ、分かった! 言う! 言うから!」
男は僕……じゃなくて、その後ろを見て、顔を真っ青にしながら必死で訴えた。
余程、後ろに控えるライラ様に恐れをなしたんだろう。
「そ、それはトマス様がジェイコブとは別の御方から指示を受けていて、それで俺達もトマス様と一緒にジェイコブについているだけだ!」
「別の御方? それは誰だ?」
「し、知らない! その御方はトマス様だけしか知らないんだ! ほ、本当だ! 信じてくれ!」
ふうん……あの執事だけがその御方と繋がってる、ねえ……。
「そういやオマエとあの九人のごろつきみたいな連中とは似ても似つかわしくないんだけど、どうなんだ?」
「ア、アイツ等はトマス様が適当に雇った、俺達とは別のグループだ! アイツ等が表で派手に暴れて、その裏で俺達が本来の仕事をするんだ!」
成程ねえ……で、いざとなったらアイツ等を切り捨てて、全部なすりつけるってことか。
「じゃあ次が最後の質問。これを応えてくれたら、僕はオマエを解放してやるよ」
「ほ、本当か!」
そう言うと、男は縋るような瞳で僕を見た。
「ああ。で、質問だけど……オマエ、ライラ様達を襲った時、その場にいた?」
「っ!?」
僕の質問に、男は思わず息を飲んだ。
まあ、それだけで答えを言ってるようなものだけど。
「……答えないと永遠に解放されないぞ」
「わ、分かった……お、俺はその場に……いた……」
「そう。じゃあ解放しよう」
僕は男を縛るロープに手をかけ、結び目をほどいてやる。
すると。
「っ!? は、話が違っ……!?」
男はライラ様に首をつかまれ、ジタバタともがく。
その姿はまるで、無邪気な子どもに捕まった虫のようだった。
「……ライラ様、もういいですよ」
「……(コクリ)」
ライラ様は無言で頷くと、もがく男をズルズルと引っ張って外へと出た。
そして。
——グシャッ!
玄関の扉の向こうから、無情にも人体を破壊する音が響いた。
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