ア=ズライグ③
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「アデル様……後はゆっくりとお休みくださいませ……!」
ハンナさんが嗚咽を漏らしながら、僕を優しく抱き締める。
ソフィアも、涙を零しながらも必死に僕に【神の癒し】をかけてくれていた。
そんな僕達を、カルラは茫然と眺め、ただ唇を噛み締めていた。
だけど……僕はまだ、終わっていない。
「あつ! アデル様!?」
僕はハンナさんの制止も聞かず、積まれた魔石と全ての魔法陣に両手をかざす。
さあ……今度こそ本当に、これで最後、だ……。
「——【設計】!【加工】!【製作】!」
僕は大量の魔石と魔法陣を、極限まで圧縮する。
どこまでも……どこまでも……!
「ギ……ギギ……!」
「アデル様!」
ハンナさんが僕を後ろから抱き締めた。
ああ……ハンナさん……あったかい、なあ……。
圧縮して、圧縮して、圧縮して……大量にあった魔石は、全部僕の掌に収まってしまっている。
僕がゆっくりと手を開くと、そこには。
「虹色の、弾丸……?」
そう……僕が作ったのは、圧縮に圧縮を重ね、この世に存在する全属性の魔法陣を掛け合わせた、途轍もない魔力を包含したたった一つの弾丸。
「ハン……ナ……さん……」
僕はハンナさんの手を取り、その弾丸をその掌に乗せた。
「ア、デル……様……!」
「愛……して、ま……す……」
僕は……最愛の人をこの目に焼き付け……その目を、閉じた……。
◇
■ハンナ視点
「っ!? アデル様!? アデル様あっ!?」
アデル様は最後に微笑んで、私の胸に前のめりに倒れ込む。
だけど……。
「息、してない……?」
アデル様の息遣いが、その心臓の音が、何も聞こえない!? 感じられない!?
「そんな! アデル様! アデル様あ!?」
私はアデル様の身体を何度も揺する。
だけど、アデル様は何も言ってくださらなくて。
だけど、アデル様はあの微笑みを見せてくださらなくて。
アデル様……は……!
「っ! どきなさい!」
「あっ!?」
突然カルラが私を突き飛ばし、アデル様を抱え込む。
「アデル! 起きなさい! 私が……この私が、アンタが勝手に死ぬことなんて許さないんだから!」
カルラは必死で何度も胸を押しながら、人工呼吸を繰り返す。
「ソフィア! アンタも[聖女]だったら、そんな呆けてないでアデルを救いなさいよ!」
「あ、ああ……は、はい! 【神の癒し】!」
カルラの言葉で我に返ったソフィアが、【神の癒し】をアデル様にかけた。
すると……ソフィアの鼻から血が流れ出した。
「あ、あなた……」
「……アデル、様が……限界のその先を超えてしまわれた、のです……だ、だったら、この私が限界を超えないで、どうやって、アデル様を救おうと、言うのです……か……!」
ソフィアはただアデル様を見つめ続け、その限界を超えた能力を解き放つ。
その時。
「っ! アデル! あと少しよ! 頑張りなさい!」
カルラが必死にアデル様に呼びかけ、心臓に耳を当てた。
「……このバカ」
そう呟くと、カルラがぽろぽろと涙を零し始めた。
「ア、アデル様は……アデル様はあ……?」
「……還って、来たわよ……!」
「あ……ああ……!」
アデル様……よか……た……!
「うああああああああああああん……っ!」
気がつけば、私は子どものように大声で泣いた。
フギンとムニンをその手に取り、力強く立ち上がりながら。
「……どこへ……行くの……?」
カルラがアデル様を抱き締めながら問い掛ける。
だけど、行先は決まっている。
向かう先は“神の眷属”。
私は……アデル様が命を振り絞って【製作】された、この弾丸で。
——“ア=ズライグ”を殺す。
◇
■ライラ=カートレット視点
「あは♪ ようやく姿を見せましたか」
アデル様によって幾重にも覆われたその拘束を破り、“ア=ズライグ”がその姿を現す。
『ゴオオウウウアアアアアアアアアアッッッ!』
蜥蜴の表情なんて分からないけど、“ア=ズライグ”アデル様に束縛されて怒り心頭だということは理解できた。
だけど。
「あははははははははははははは! 怒っているのは私のほうなんですよ!」
蜥蜴の分際で!
オマエのせいで、アデル様はまた傷ついて! その生命を削って!
「あは♪ これでアデル様にもしものことがあってみろ! オマエの肉片残らず、切り刻んで魚の餌にしてやる!」
『ゴオオウウウアアアアアアアアアアッッッ!』
“ア=ズライグ”は、その標的を私に定め、ものすごい速さで襲い掛かってきた。
——キイイイイイイイイイイイン……!
私はクロウ=システムを発動させ、“ア=ズライグ”の攻撃を躱し、すれ違いざまにその赤い鱗目がけて鎌を振り下ろす。
——ザシュ。
『ゴアアアアアッ!?』
「あは♪ さすがはアデル様のお作りになった鎌です! 蜥蜴の鱗も、この武器の前には大して役には立たないみたいですね!」
私は“ア=ズライグ”に向かってニタア、と嗤うと、“ア=ズライグ”は私から離れようと上空へと飛んだ。
『ゴオオウウウアアアアアアアアアアッッッ!』
そして、私を見据えながら“ア=ズライグ”は威嚇するように咆哮を繰り返す。
“ア=ズライグ”からすれば、上空に逃げてしまえば攻撃も当たらず、大したことはないと考えているのだろう。
「あはははははははははははは! だから蜥蜴だというのですよ! 私の……私のアデル様が、そう易々とオマエを逃すと思っているのか!」
アデル様……今こそ、アデル様が命を懸けて授けてくださったこの“翼”で、あの“ア=ズライグ”を討つ!
——キイイイイイイイイイイイン……!
——キイイイイイイイイイイイン……!
私の背中に背負う一対の漆黒の“翼”から、青白い炎が射出される。
そして。
『ッ!?』
——ザシュ。
一気に上空を飛行し、私は“ア=ズライグ”の身体を切りつけた。
「あは♪ さあ、蜥蜴の解体ショーの始まりですよ!」
私は、口の端を三日月のように吊り上げた。
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次回は明日の夜更新!
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