ア=ズライグ②
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『ゴオオウウウアアアアアアアアアアッッッ!』
幾重に覆われている岩や鉱物の中から、“ア=スライグ”が咆哮する。
まるで、“神の眷属”への不敬な仕打ちに怒りを示すように。
「クッ!? 【加工】!【製作】!」
脱出させまいと、僕は“ア=ズライグ”を覆う岩や鉱物の塊に、さらに重ねていく。
何としても、時間を稼ぐんだ……っ!
「ライラ様! ハンナさん! 馬車を……馬車を僕の元へ!」
「「っ! はいっ!」」
僕はそう叫んで指示すると、二人は馬車へ向かって飛び出した。
馬達はア=ズライグの咆哮で使い物にならないけど、ライラ様の白銀の手脚とクロウ=システムなら、あの鋼鉄の馬車を引くことは可能な筈。
何とか……僕が抑え込んでいる間に……っ!?
だけど、そんな願いもむなしく、ア=ズライグは覆っている岩や鉱物を砕き、右前脚を露わにした。
——ギロリ。
そしてその開いた穴から、巨大な眼球と顎を覗かせると、閃光が走る。
っ!? ま、まさか!?
「くそおおおおおお! 【加工】オオオオオオ!」
——ブシュウウウウウウウウ。
僕は限界を超えて顔中から血を吹き出しながら、目の前に強固な壁を形成した。
これで耐えられる保証はどこにもないけど、やらないよりはましだ!
「私が……私が、アデル様をお護りします! 【加護】!」
こんな状況なのに、何故か逃げようともせずに僕に寄り添いながら、ソフィアが[聖女]の力で、僕の作った壁に重ね合わせるように光の壁を展開した。
「ソ、フィ……ア……どう、して……?」
「どうして……? 当然です! あなたは私の光! 私の希望なのです! あなたがいない世界を、どうして[聖女]の私が受け入れられましょうか!」
ソフィアが涙を零しながら、必死で叫ぶ。
その声に、その瞳に、嘘偽りは感じられなかった。
「私は……私は! アデル様と共に!」
くそ……ありがとう……。
——ドオオオオオオオオオオオンンン……!
轟音が響き渡り、僕が作った壁が消失する。
だけど……ソフィアの【加護】もあって、僕達は【|竜の息吹《
ドラゴンブレス》】を耐え抜いた。
「「アデル様あああああああああ!」」
ライラ様とハンナさんが、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、鋼鉄の馬車と共にやって来た。
これで……あの“ア=ズライグ”を……倒せる……!
「ソフィ……ア……」
「っ! はい!」
「僕、を……」
「はいっ! 【神の癒し】!」
僕の意図を汲み取ったソフィアが、【神の癒し】で治療を施す。
お陰で、身体の激痛もなくなり、回復していくのが分かる。
僕が[技術者]の力を使うのは……あと、二回。
「「アデル様! アデル様あ!」」
ライラ様とハンナさんが僕の傍に着くなり、この身体を強く抱き締めた。
「さあ……今こそ……僕の……“役立たず”だった、僕の力を……!」
二人に抱えられながら馬車に乗り込むと、積まれている鉄、ミスリル、魔石、炭、灰色の岩石、魔法陣……それら全てに向けて手をかざすと。
「——【設計】!【加工】!【製作】!」
僕は最後の力を振り絞った。
これが……僕の……アデルの、集大成だ……!
鉄は【加工】して玉鋼に作り変えると共に、ミスリルを螺旋状にしたものを形成する
炭と岩石は、灰がかった白の素材へと変化させた。
この辺りは、ライラ様の白銀の手脚やクロウ=システム、フギンとムニンで慣れており、スムーズに【加工】、【製作】していく。
問題は、ここからだ。
玉鋼は三本の長細い四角形の筒に形成し、それを並列に接続したものを二つ作成する。
そこに灰がかった白の素材を筒状にし、圧縮した円盤状の魔石に、光属性、炎属性、雷属性の魔法陣を重ね合わせ……っ!?
——ブシュウウウウウウウウ。
「ア、アデル様!?」
「ソ、ソフィア様! 早く! 早くアデル様に【神の癒し】を!」
ライラ様とハンナさんが慌てながらソフィアに【神の癒し】を促す。
だけど。
「も、もうとっくに使っています! ですが……ですが! アデル様に効かないのです!」
「そ、そんな!? どうして!?」
三人の狼狽する声が僕の耳に響く。
でも、こうなることは分かっていた。
だって……僕は限界の、さらに限界を超えているんだから。
ソフィアの【神の癒し】がなかったら、もうとっくに僕の身体は壊れ、息絶えていたと思う。
「あ、はは……ソ、フィア……あり、がとう……」
「っ! アデル様あっ!」
僕は血まみれの顔でソフィアに微笑みかけると、また作業に集中する。
灰色の素材の筒に、魔法陣を重ね合わせて組み込んだ魔石を取りつける。
これを合計六つ【製作】した。
「あと、は……これ、に……」
筒状の容器を接続して作った一対の翼に、灰色の素材の筒を取りつける。
そして、玉鋼で作った可動式の装置の箱にその一対の“翼”を接続したら……。
「ラ……ライラ、様……」
「は、はい!」
僕はライラ様の名を呼ぶと、彼女はすぐ僕の前に来てくれた。
「これ……を……」
ライラ様の背中にそっと手を回し、できあがったばかりの装置をその背中に取り付けた。
「こ、これは……?」
「ライラ、様、の……“翼”、です……」
「“翼”……」
「あとは……その、左眼が教えてくれる筈、です……」
そう言うと、僕はライラ様にニコリ、と微笑んだ。
「最後、まで……ライラ、様に……頼……ってしまい、本当、に……不甲斐なく……」
「っ! 不甲斐なくなんかありません! それは、このライラ=カートレットが一番理解しています! あなたは……あなたは、私の世界でたった一人の……愛しい、人です……!」
ライラ様は大粒の涙をぽろぽろと零しながら、僕の頬を撫でてくれた。
そして。
「アデル様……行って、まいります……!」
ライラ様はぐい、とその涙を白銀の腕で拭うと、馬車から飛び出していった。
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次回は明日の夜更新!
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