ア=ズライグ①
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その“紅い竜”は異様だった。
鼻の先に真っ直ぐに前へと伸びた角を持ち、大きな顎から覗く舌は、鋭利な槍のような形状をしていた。
銅のような色をした鱗が全身を覆い、蝙蝠に似た大きな翼を羽ばたかせている。
さらに、その巨体は港に停泊するどの舩よりも大きく、四本の手脚には何者をも切り裂くと思われる鋭い爪をあらわにしていた。
「こ……れが……“神の眷属”……」
絶望したような声で、グロウスター公爵が呟く。
だけど、この場にいる全ての者が、その圧倒的な姿に絶望しているだろう。
だって……こんなの、どうしろっていうんだ……っ!
そして。
「「「「「うわああああああああああああああああああ!?」」」」」
港にいる全ての者が一斉に悲鳴を上げ、逃げ惑う。
ある者は、海の中へと飛び込み。
ある者は、建物の中へと隠れ。
ある者は、船でこの場から離れようとし。
ある者は、全身を震わせながらただ祈りを捧げる。
……そんなことをしても、無意味だというのに。
『ゴオオウウウアアアアアアアアアアッッッ!』
“神の眷属”は、ブラムスの街全てに響き渡る程の咆哮を放つ。
それを聞いた者達は、皆真っ青な表情でその場にへたり込んだ。
……それはもちろん、この僕も。
そんな僕達の様子を嘲るかのように、“ア=ズライグ”は大きな口を開けると、口の中から閃光が走った。
——ドオオオオオオオオオオオンンン……!
その閃光は一本の光の筋となり、その先にあった船が激しい音と共に次々と破壊され、海に沈んでいく。
このたった一度の【竜の息吹】で、港にあった船の三分の一程度が海の藻屑と化した。
次に“ア=ズライグ”は、逃げ惑う人々へと目を付ける。
大きな翼を羽ばたかせたかと思うと、“ア=ズライグ”が急降下した。
「ヒイッ!?」
「ハガガガガ!?」
地面すれすれの低空飛行で旋回し、“ア=ズライグ”は人々をその口の中へ次々と攫って行く。
——ぼり、ぐしゃ、ぺき。
ア=ズライグが咀嚼するたび、ニンゲンが壊れる音が響き、その口元から鮮やかな赤色の雫が垂れた。
「あ……ああ……こんな……!?」
僕と同様、地面で腰を抜かしているグロウスター公爵が、“ア=ズライグ”を絶望の表情で見上げながら、ずり、ずり、と少しずつ後ずさる。
——ギロリ。
……どうやら、今度は僕達に目を付けたみたいだ。
「……アデル様」
気づくと、ライラ様とハンナさんが僕のすぐ後ろに控えていた。
「……私とハンナで何とか隙を作ります。その間に、アデル様はどうかお逃げください」
「っ!? な、何を!?」
ライラ様の口から零れた衝撃の言葉に、僕は思わず声を荒げた。
「……あは♪ 大丈夫ですよ。あんな蜥蜴一匹、私達で仕留めてみせます」
「……うふふ♪ 私のフギンとムニンで、ハチの巣にしてやります」
二人が身体を震わせながら強気の発言を繰り返す。
この僕に心配かけまいと、精一杯の強がりで。
そんな二人を見て、僕は……震えが止まった。
「あはは……なら、蜥蜴退治といきましょうか。僕達三人で」
「「っ!? アデル様!?」」
二人が驚きの声を上げた、その瞬間。
「——【加工】!【製作】!」
『ゴア!?』
——ドオッ!
僕は[技術者]の能力を全開にして、“ア=ズライグ”の真下から勢いよく地面で突き上げた。
突然のことに驚いた様子の“ア=ズライグ”は、そのまま上空へと押し上げられていく。
「おおおおおおおおお! 【加工】!【製作】!」
叫び声と共に地面を石や鉄、様々な物質に変化させ、“ア=ズライグ”を何重にも覆い、拘束した。
さらに僕は、同時並行で【設計】する。
あの、“ア=ズライグ”を倒す手段を。
「ぐうううううううううううううっ!?」
「「アデル様っ!?」」
“神の眷属”を倒すっていうんだ。
何度も超えた限界をさらに超え、これ以上ない程の激痛を味わうことは分かっていた。
なら……耐えろ!
僕はガキン、と歯が割れる程食いしばり、なおも【設計】を続ける。
拘束して“ア=ズライグ”が身動き取れない、ほんの僅かな時間で答えを見つけるんだ……!
「【神の癒し】!」
いつの間にか僕の傍まで近寄っていたソフィアが、【神の癒し】で僕の身体を治していく。
くそ……癪だけど、今のこの状況じゃ頼るしかない……。
そして。
「っ! 見えた!」
無数に浮かび上がる図面が導き出した。
——ア=ズライグを倒すための、二つの答えを。
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次回は明日の夜更新!
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