愚王の懐刀
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■エドガー=フォン=アルグレア視点
「アイザック王は、どうやって“神の眷属”を従えていたか知っているか?」
余はアーガイル卿とグロウスター卿の二人に問い掛ける。
「そ、それはもちろん、アイザック王が魔女“ティティス”を打ち破り、死の森において手に入れたとされる、聖剣“カレトヴルッフ”の力で……」
「そうだ。そして、その“カレトヴルッフ”はどこにあると思う?」
「それは……」
すると、アーガイル卿が言い淀む。
それもその筈……何故なら、聖剣“カレトヴルッフ”は、遠い昔に聖遺物としてファルマ聖法国によって接収されてしまったのだから。
「そう……叔父上の考えている通り、聖剣“カレトヴルッフ”はファルマ聖法国にある。ただし」
余は目を見開き、二人を見据える。
「……ファルマ聖法国に祀られているものは、聖剣のレプリカ、だがな」
「「っ!?」」
余の言葉を聞き、二人が息を飲む。
「そ、それはどういう……」
「なに……簡単なことだ。余はこの時のために、あらかじめ聖剣を手に入れておったのだ」
「ど、どうやってですか!? あそこはこの世界で最も厳重な場所なのですぞ!?」
グロウスター卿が声を荒げる。
そして、彼の言葉も正しい。
だが、一つだけ間違っている。
「フ……厳重ではあるが、不可能ではないのだ」
「そ、それは……!」
「そう……余は九年前、一人の男に依頼したのだ。ファルマ聖法国から、聖剣“カレトヴルッフ”の入手を」
「い、一体誰がそれを成し遂げたというのですか!?」
「卿も知っているだろう? アルグレア王国最強の暗殺者を」
そう告げると、グロウスター卿は思い至ったようだ。
あの……“ジャック”という暗殺者のことを。
「あ、あの男にそれ程の実力があったとは……」
「フ……そうだな、余も驚いている……いや、驚いていた、が正しいか。今ではあの男の評価は余の中では揺るがぬ」
あれは“賢王”と呼ばれ、更なる名声を高めようと躍起になっていた九年前のあの頃、余は暗殺者ギルドの掃討を考えておったのだ。
ある日の深夜、余の寝室にあの男……“ジャック”が余の寝室にやって来た。
暗殺者ギルドを見逃すよう、余を説得するために。
そして、余はあの男に要求を突きつけた。
『かのファルマ聖法国より、我が王国の至宝、聖剣“カレトヴルッフ”を奪還せしむことができたならば、暗殺者ギルドは不問にいたそう』
その言葉を受け、あの男は単身ファルマ聖法国へと赴き、そして……見事、聖剣“カレトヴルッフ”を取り戻してみせおった。
今から思えば、何故あれ程の男が暗殺者ギルドに固執したのかは分からんが、とにかく、ジャックは不可能と思われた偉業を成し遂げたのだ。
「まあ……だからこそ、『天国への階段』をも入手し、余は覇を唱えることにしたのだがな」
余は二人を見ながら、口の端を持ち上げる。
アイザック王の血を継ぐ余が、聖剣“カレトヴルッフ”を手にしたのならば、次に為すべきは唯一つ。
アイザック王ですら成し遂げることができなかった、世界の統一。
となれば、次に余がすべきこと……それは、『天国への階段』の入手。
だが、アイザック王とその友ハリソン=カートレットとの盟約により、『天国への階段』に関する一切について、王である余すらもカートレット家に手出しはできん。
更に言えば、『天国への階段』へと至るには、カートレット家の血に受け継がれる力が必要。
そしてその力を持つ者は、ただ一人。
つまり、今代のカートレット伯爵のみしか『天国への階段』へと至ることができないのだ。
とはいえ、今代のカートレット伯爵が余に協力する筈もない。
いや、そんなことがカートレット伯爵に露見すれば、むしろ『天国への階段』を永遠に封印されかねない。
ならばと、余はカートレット家に駒を配置して、王家すら知らないカートレット家の秘密を探らせる。
だが、当然ながらカートレット伯爵がそれを易々と悟らせるような真似をすることはない。
それどころか、送り込んだ駒はすぐに始末されてしまった。
打つ手もなく悶々とした日々が何年も続いたが、ちょうど一年前……突然、ジャックが余の元にやって来た。
そして、どういう訳か余が『天国への階段』を求めていることを知っていたジャックが、提案を持ちかけた。
それが、一年後に十五歳となって成人を迎えるライラ=カートレットを利用して、『天国への階段』を手に入れる、といったものだった。
確かに……今代のカートレット伯爵に期待できないのならば、次代を引き込めば良い。
余はジャックの提案に乗り、そのために必要な権限をジャックに与えた。
するとジャックは、宰相のカベンディッシュと軍務大臣のゴドウィンを首謀者として陣頭指揮をとらせた体を取り、自身の部下を実行部隊にしてすぐに行動を起こした。
つまり……賊の襲撃に見せかけてカートレット伯爵夫妻を排除すると共に、次代のライラ=カートレットを心身共に壊したのだ。
それにより、ライラ=カートレットを操って『天国への階段』を入手できるようにするために。
「……とにかく、聖剣“カレトヴルッフ”は余の手中にあり、『天国への階段』も解放された今、むしろ“ア=ズライグ”がこの王都へ飛来するのを待つのみだ。そして、見事“ア=ズライグ”を使役して大陸へと攻め込もうぞ」
「おお! 国王陛下、万歳!」
余の言葉を受け、顔を紅潮させながら諸手を上げるアーガイル卿。
やはりカロリング皇国との長き戦いを経験した叔父上にとっては、かの国の打倒は悲願であるからその想いも一入だろう。
「さて……でしたらこの私も、一度領地に帰って準備しましょうかね」
口の端を吊り上げながら、グロウスター卿が一礼した。
「ふむ……準備、とは?」
「決まっておりますよ。いざ戦となれば、我が領地の“ブラムス”から出征することになりますからね。では、失礼いたします」
そう言うと、グロウスター卿は踵を返して謁見の間を出た。
「フ……せっかちな男だ」
卿が出て行った扉を眺めながら、余はこれからのことを思い、薄く笑みを浮かべた。
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