『天国への階段』からの脱出②
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「ハア……ハア……む、無駄に長い階段ですね……」
ライラ様から降ろされ、今では自力で走っているソフィア様が、息を切らしながららせん階段の上を見上げて呟いた。
階段を降りる時でもあれだけ大変だったんだ。それを駆け上がるとなると、それ以上に体力を消耗してしまう。
「ホラ! 死にたくなければ頑張りなさい!」
先頭を走るカルラが振り向いて檄を飛ばす。
だけど、その檄は一体誰に向かって言っているんだろうか……。
「アデル様、大丈夫ですか?」
「はい……大丈夫です」
汗一つかいていないライラ様が、心配そうな瞳で尋ねたので、僕は少しでも平気だとアピールする意味も込めて、ニコリ、と微笑みながら返事した。
本音を言えば体力的にも結構キツイし、それに……。
僕はチラリ、とハンナさんを見やる。
「クハ! お前、少しなまったんじゃねえの?」
「……師匠、うるさいですよ」
ニヤニヤしながらジャックという男がハンナさんに絡み、それを彼女は鬱陶しそうにあしらう。
だけどその雰囲気は、それがまるでいつもの日常であるかのようで……。
「アデル様……」
すると、ライラ様が僕の手をそっとつないでくれた。
私が傍にいるよと、そう言ってくれているように。
「ライラ様……はい……」
その冷たい白銀の手は、いつだって僕の心を温かくしてくれる。
僕は……幸せだ……。
「……ちょっとは空気読みなさいよね」
そんな僕達を見て、カルラが悪態を吐く。
確かに、そんなことを考えている場合じゃないか。
「それで、カルラは一体何を見たんだ?」
僕は雰囲気を変えるため、カルラに尋ねた。
このままのペースで走ったって、地下水路まで最低でもあと一刻近くはかかりそうだしね。
「……バケモノよ」
「バケモノ?」
バケモノって……魔物の類?
でもそれなら、上級魔物のオーガですら子ども扱いするカルラが、ここまで慄く筈がない。
「信じられないかもしれないけど、今まで見たことがないような、巨大なナメクジみたいな、芋虫みたいな、ムカデみたいな……そんなキモチワルイ生き物にニンゲンの顔や手脚のようなものがあったり……とにかく、普通じゃない」
そう言うと、あのカルラが身震いした。
「それで、“黄金の旋風”は? 何故カルラはアイツ等と一緒に行動を?」
分かり切っていることではあるけど、僕はあえて問い掛ける。
「まず……“黄金の旋風”は全員バケモノ共に食われたわ」
「食われた!?」
「ええ……元々、私はそこの[聖女]様の依頼を受けて、あの連中を監視していたの。そしたら、夜明け前に水門を閉じて勝手にここに入って行くでしょ? だから、気づかれないように距離を開けながら後をつけていたのよ」
成程、ね……カルラは“黄金の旋風”の動きを追っていたって訳か。
「じゃあ、カルラ達は赤い帽子を被ったゴブリンもどきに襲われたりしなかった?」
「したわよ。全員殺したけど」
「そうか……」
やっぱり、僕達が倒したゴブリンもどきはもっといたんだな……。
その時。
——カサカサ……。
「ん? 今、何か物音が……」
「ア、アデル様! あれを!?」
「え……!?」
それは、壁伝いに走る、黒光りした巨大な昆虫のような生き物だった。
しかも、顔や手脚はニンゲンのそれで。
「っ!? カ、カルラ! あれが君の言っていたバケモノか!?」
「そ、そうよっ!」
だ、だとすると、追いつかれたのか!?
「クッ!?」
——ドン! ドン!
ハンナさんが咄嗟にフギンとムニンを構え、引き金を引いた。
『ゲゲ……!?』
放たれた弾丸は全て命中し、昆虫のバケモノは変な呻き声を上げると、壁からズルリ、と落ち、階段の上で横たわった。
「や、やりましたか……?」
「分かりません……」
「と、とりあえず確かめてみます……」
そう言うと、ライラ様は死神の鎌を突き出し、昆虫のバケモノを突いてみる。
すると。
『ゲキョゲキョゲキョゲキョゲキョゲキョゲキョゲキョ!』
「っ!? この!」
突然起き上がり、昆虫のバケモノが不気味な鳴き声を上げながらライラ様に襲い掛かってきた!?
だけどライラ様はすぐに死神の鎌を返し、下からかち上げた。
『ゲ……ギュ……』
消え入るような鳴き声を漏らし、昆虫のバケモノは今度こそその動きを止めた。
「な、何なんですかこれは!? なんでこんなバケモノがこの崇高なる『天国への階段』に!?」
ソフィア様がひどく狼狽しながら叫んだ。
「知らないわよ! “黄金の旋風”がこの穴の底にあったハンドルを回したら床が開いて、そこからコイツ等が湧いて出てきたのよ!」
カルラが衝撃の事実を告げる。
つまり……このバケモノは……!
「……“神の眷属”……?」
僕はポツリ、と呟く。
「そ、そんな筈がありません! こんなバケモノが眷属であるなどと! 認めない……こんなの、認めてたまるかああああああ!」
頭を掻きむしりながら、ソフィア様が絶叫する。
確かに[聖女]であるソフィア様からすれば、こんなものが神の眷属だなんて、到底受け入れられないだろう……。
「ア、アデル様! 早く逃げましょう!」
ハンナさんが僕の肩をつかみながら訴える。
そうだ! 今はこんなところで立ち止まっている場合じゃない!
「はい! 皆さん、行きましょう!」
「「はい!」」
「ええ!」
「クハ!」
僕の号令に頷くと、みんながさっきよりも全力で走る。
そんな中。
「こんな……こんなの、聞いてない……聞いてないですよ……」
放心状態のソフィア様が、その場で膝を落としていた。
「ソフィア様!」
「こんな……ああ、こんなの……」
僕は無理やりソフィア様を担ぎ上げると、みんなの後を追って走り出した。
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