三人で一つ
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いよいよ第五章、開幕です!
「ん……」
いつの間にか眠ってしまっていた僕はゆっくりと目を開けると、窓から見える空が白みがかっていた。
「すう……すう……」
隣には、僕の肩に顔を寄せ、寝息をたてているハンナさんがいる。
ハンナさん……。
僕はハンナさんの頬をそっと撫で、そして、その額に優しく口づけをした。
「んう……あ……」
「あ……すいません、起こしてしまいましたか……」
瞳を開けたハンナさんに、僕は苦笑しながら謝る。
「うふふ……アデル様、おはようございます……」
「はい、おはようございます」
朝の挨拶を交わすと、僕とハンナさんはコツン、とおでこを合わせた。
「アデル様……」
「何ですか?」
「その……愛しています……」
「はい……僕もです……」
そう言うと、お互いがお互いの鼻をすり寄せ合い、そして……。
「ん……ちゅ……ちゅぷ……」
少し、長めのキスをした。
「ん……ふふ……早く支度しないと、お嬢様とソフィア様が起きてしまわれますね……」
「そうですね……では、最後にもう一度だけ……」
「は……ちゅ……ちゅく……ぷは……」
お互い名残惜しそうに唇を離すと。
「さあ、行きましょう」
「はい!」
僕はハンナさんの手を取って厨房に向かい、朝食の準備に取りかかった。
◇
「アデル様! おはようございます!」
「おはようございます、ライラ様」
食堂に降りてきたライラ様が、元気に挨拶をした。
そんなライラ様を見て、今日の『天国への階段』の調査のことが頭をよぎる。
そうなってしまうと、僕の中が不安で溢れた。
この愛しいライラ様が大切で、絶対に失いたくなくて……。
「あ……アデル様……」
「ライラ様……」
僕はライラ様の傍により、彼女を強く抱き締める。
すると、ライラ様も下からそっと僕の顔を覗き込んでいた。
だから。
「え……? ん……ちゅ……」
僕は、驚くライラ様にそっとキスをした。
「……絶対、みんなで帰ってきましょう……」
「はい……」
昨夜、ハンナさんに告げた言葉を、ライラ様にも同じように僕の想いを込めて伝える。
ライラ様も、ギュ、と僕の服を握り締めると、その右の瞳から涙が零れた。
その時。
「おはようございます、お嬢様」
キッチンから焼きたてのパンを持って来たハンナさんが、微笑みながら挨拶した。
「ハンナ……」
「お嬢様……」
ライラ様はそっと僕から離れると、ハンナさんと向き合い、お互いに頷き合う。
そして。
「あなたも一緒、ですよ……?」
「はい……お嬢様も」
二人が抱き締め合いながら、笑顔で涙を零した。
そんな二人を、僕は包み込むように抱き締める。
「アデル様……愛しています……」
「私も、アデル様を愛しています……」
「僕も……お二人を、愛しています……」
僕達は想いを告げた後、そっと離れると。
「ふふ……次は私の番、ですからね……?」
「ライラ様!?」
「お嬢様!?」
揶揄うようにそう言うと、ライラ様は自分の席に着いた。
昨夜のこと、ライラ様は知って……。
「おはようございます」
すると、ソフィア様が食堂へと笑顔でやって来た。
「? アデル様、顔が真っ赤ですよ?」
「え、あ……そ、そうですか!?」
ソフィア様に指摘され、僕は思わずしどろもどろになる。
「す、すぐに朝食をご用意いたします!」
「あ……」
僕はソフィア様にこれ以上悟られないようにするため、大慌てで厨房へと逃げ込んだ。
「アデル様……お嬢様は知ってましたね……」
「は、はい……で、ですが、結局はすぐに分かってしまうことですから……」
「そ、そうですね……それに、私達は三人で一つ、ですので……」
「はい……」
頬を赤らめ、はにかむハンナさんの言葉に、僕は力強く頷いた。
僕達は……三人で一つなんだから……。
朝食をカーゴに乗せ、ライラ様とソフィア様に給仕をする。
「ソフィア様、どうぞ」
「アデル様、ありがとうございます」
ニコリ、と微笑むソフィア様に、僕も笑顔で返した。
そして、カーゴを押して次にライラ様の傍へと向かう。
「ライラ様」
「ふふ、ありがとうございます」
僕は皿をテーブルに乗せる、その時に。
「……か、帰ったら、その時は……(ポツリ)」
「っ! …………………………はい(ボソッ)」
耳元でそうささやくと、ライラ様が顔を真っ赤にして俯き、消え入るような声で受け入れてくれた。
「コホン」
「「ハッ!?」」
……ソフィア様が咳払いをしながらジト目で睨んでる……。
僕はそんなソフィア様の視線から逃げるように、また厨房へと戻って行った。
◇
「さて……では、行きましょうか」
「「「はい」」」
ソフィア様の号令に、僕達三人は頷く。
とりあえずは街の北門でカルラや“黄金の旋風”の連中と合流し、水路の水をせき止めてから『天国への階段』へと向かう手筈になっている。
で、支度を終えて僕達は北門へと来たんだけど……。
「いませんね……」
「ええ……」
そこにはカルラも、“黄金の旋風”も、誰一人としていなかった。
「ま、まあ、しばらく待ってみましょう」
「はあ……」
気を遣うようにソフィア様がそう言うと、僕は少し気の抜けた返事をしてしまった。
「で、ではカルラ達が来る前に、今のうちに水をせき止めてしまいますね」
「あ、お願いします」
僕はそう言うと、昨日外れに作った水門へと向かう。
すると。
「っ!? どういうことだ!?」
——既に水門が閉められ、水がせき止められていた。
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