地下水路探索⑧
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「んう……」
「ライラ様!」
「お嬢様!」
ライラ様がゆっくりと目を開けると、僕とハンナさんは思わず大声で呼びかけた。
「あれ……私は……」
「……私達も分からないのですが、お嬢様が鍵を差し込んだ時、突然苦しみ出して……」
まだぼんやりした状態のライラ様に、ハンナさんが状況を説明する。
「あ、そ、そうでした! それで……あ……」
「大丈夫です……もう、大丈夫ですから……」
僕は、我に返って慌てふためくライラ様を抱き締め、優しくその頭を撫でた。
「アデル様……」
落ち着きを取り戻したライラ様が、右の瞳を潤ませて僕を見つめた。
「……もういいんじゃない?」
すると、少しイライラした様子のカルラが、顔を背けながらそう呟いた。
その指摘を受け、僕はチラリ、とハンナさんを見てみると……あ、頬がプクー、と膨らんでる。
「そ、そうだね……ライラ様」
「あう……」
このままだとハンナさんが本格的に拗ねてしまいそうなので、ライラ様に声を掛けると、ライラ様は名残惜しそうにしながらも、ハンナさんの様子を見て渋々立ち上がった。
「それで……肝心の『天国への階段』はどうなったのですか?」
「あれをご覧ください」
いつもの様子に戻ったライラ様が尋ねたので、僕は紋様と鍵穴があった場所を指し示した。
そこには。
「……階、段……?」
「はい」
ライラ様の呟きに、僕は頷く。
「まあ、実際に近くで見てみてください」
僕はライラ様の手を引き、階段の傍へと連れて行くと。
「っ!? こ、これはっ!?」
階段とその先を見た瞬間、ライラ様が驚きの声を上げた。
だって……暗闇の中、下へとどこまでも長く続くらせん階段が、そこにあるのだから。
「こ、これ……」
「はい……僕達も、この階段がどこまで続いているのか、どこまで深いのか見当もついていません。これを見てください」
僕は傍にいたカルラに目で合図すると、彼女は僕にたいまつを手渡してくれた。
そして、それを暗闇の中へと放り込む。
落下するたいまつの揺らめく炎がどんどん小さくなっていき、そのまま見えなくなってしまった。
「……見ての通り、です」
「…………………………」
そう告げると、ライラ様が息を飲んだ。
「ソフィア様……それで、どうしますか?」
振り向いて声を掛けると、ソフィア様が人差し指に顎を乗せ、思案する。
そして。
「……今日のところはここまでにしましょう。しっかりと準備を整え、明日こそこの『天国への階段』の調査を開始します」
ソフィア様が宣言すると、僕達全員が頷いた。
「では、戻りましょうか」
「では、せき止めている水についてはまた流しておきますね」
踵を返してここから移動しようとしていたソフィア様にそう伝える。
この街の住民があまり残っていないからといって、たった一日とはいえ水をせき止めたままというのはさすがに問題だからね……。
「はい、よろしくお願いします」
「分かりました」
微笑みながら頭を下げるソフィア様に、僕も同じく頭を下げた。
「アデル様、お手伝いします」
「助かります。ライラ様にはぜひ手伝っていただきたいこともありましたので」
「そうなのですか?」
お手伝いしてくれることに感謝しながらそう伝えると、ライラ様がキョトンとした。
「はい。水を流すとなれば、あの穴に蓋をしないといけませんので」
「ああ、つまり蓋となるものをここへ運ぶのですね?」
「はい」
うん、話が早くて助かる。
「ソフィア様、俺達は宿屋に戻ります」
「はい、明日もよろしくお願いします」
アイツ等にも丁寧に頭を下げるソフィア様。
「そ、それで、よろしければこの後一緒に食事など……」
その姿にエリアルは何を勘違いしたのか、調子に乗ってそんなことを言い出した。
「ふふ、せっかくのお誘いですが申し訳ありません。この後、主神ファルマに祈りを捧げないといけませんので……」
「そ、そうですか……」
体よく断られると、エリアルはあからさまに肩を落とした。
それを、他の三人が複雑そうに眺めていた。
「「「死ね」」」
で、ライラ様、ハンナさん、カルラの三人は、それを見て吐き捨てるように呟いた。
◇
「ふう……」
今日すべきことを全て終え、僕は自室のベッドに寝転がる。
だけど、僕の頭からはあの穴……つまり、『天国への階段』の映像がこびり付いて離れない。
アレは……相当ヤバイ。
僕の直感が、今もずっと警鐘を鳴らし続けている。
「……ソフィア様に、これ以上の調査を中止するよう進言すべきだろうか……」
だけど、ソフィア様はあの『天国への階段』にかなりの思い入れがありそうだし、仮に進言したとしても、受け入れてはもらえないだろうな……。
なら。
「せめて、僕達三人は調査から外してもらうよう頼んでみるか……?」
これなら僕達も、あの“黄金の旋風”と一緒にいなくて済むし、危険な目に遭うこともないだろう。
正直、僕からすれば『天国への階段』に何の思い入れもない。
最優先すべきは、ライラ様とハンナさんなのだから。
「……一応、馬車の様子を見ておくか」
そう思い立った僕は、ベッドから降りて馬車を格納している納屋へと向かう。
もし万が一、この街から逃げ出さなければいけないような事態になった時、いつでも対処できるように準備しておかないと、ね……。
——キイ。
納屋の扉を静かに開けると。
「あ……アデル様」
「え? ハンナさん?」
そこには、馬車を眺めているハンナさんが立っていた。
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