2.危うい少女。
「ふーん……? アレが、さっきの話に出てきてた二人組、か」
――遅れて高校に到着した天音たち。
彼らが校門を通る様子を屋上から、双眼鏡で眺めて笑う少女がいた。口にくわえていたキャンディを手に持ち替えてから、彼女は後方で中腰に構えていた男子学生に言う。
「どっちも興味がそそられるけど、危険かどうかでいえば――」
双眼鏡を外しながら。
少しばかり眉をひそめ、真剣な声色で。
「アタシからしたら、間違いなく男の方だね」――と。
◆
「まったく、入学早々に面倒ごとに首を突っ込むとは。分かっているのか?」
「そうは言っても、先生! あの状況で無視なんか――」
「朝倉さん、落ち着いて……?」
学校に到着すると、早々に職員室へと呼び出しを喰らってしまった。
いま話している相手は生活指導の担当教師だ。警察の方から学校に事情は通達されているはずだけど、お叱りは避けられない様子。しかし朝倉さんは善行を咎められたと感じたらしく、思い切り反抗の意を示していた。
僕は前のめりな彼女の肩に手を置いて、ひとまずなだめる。
そして、
「先生、本当にすみません。次からは気を付けます」
「――天音くん!!」
深々と頭を下げると、朝倉さんが困惑した声で自分の名前を叫んだ。
そんな彼女の声は職員室内に響き、関係のない他の教員も何事かと振り返る。その状況を見て、彼女もようやく雰囲気を察したらしい。悔しそうに拳を握りしめて、引き下がってくれた。
だけど、そこで意地悪く追撃したのは――。
「まったく、三年も家出していた奴には常識もナシ、か」
「………………っ!」
――指導教員の方だった。
彼は朝倉さんを見下ろしながら、どこか嘲笑うようにそう口にする。
おそらく他の教員の耳には届いていない。いまの発言を聞いたのは僕と、当事者である朝倉さんだけだった。だからいま、ここで自分がこの教員を殴れば、どうなるかは明白。
それでも少女が息を呑むのを感じて、思わず頭に血が上りかけた。
その瞬間だ。
「あー……そのくらいにしてやりなって、な?」
「……え?」
後方からもう一人、別の女子の声が聞こえたのは。
驚き振り返るとそこには、肩までの髪を赤と金に染めた派手な女学生の姿。耳にはピアスを開けて勝気な顔立ちと、態度を隠そうともせずにキャンディをくわえていた。
制服はだらしなく着崩しており、一見して不良学生だと分かる。
僕が思わず眉をひそめ、その少女の出方をうかがっていると――。
「芳澤……お前、どうして?」
指導教員は、その女子をそう呼んだ。
その声色には動揺の他にも、何か恐怖心のようなものが感じられる。そして職員室内にも先ほどより、あからさまな緊張感が広がっていた。
いったい、この女子生徒は何者なのか。
そう訝しんでいると、芳澤という少女は指導教員と僕らにだけ聞こえる声で言った。
「今回だけじゃなく、今後一切この子らには口出ししないでやってくれよ……先生? 報酬はそうだな、一本くらいでどうかな?」
「………………」
そのやり取りには、明らかなきな臭さがあって。
僕は一つの核心に至った。だけど、いまはあえて何も言わずに様子を見る。
「…………分かった。仕方ないな」
「ありがとよ、先生。いやー……話が分かる相手は、助かる」
すると指導教員は完全に毒気を抜かれた表情で、額を押さえて首を左右に。
対して芳澤は僕と朝倉さんを見て、キャンディをくわえたまま言った。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。アタシは芳澤――」
どこか意地悪な笑みを浮かべて。
「芳澤朱音、だよ」――と。
僕はその名前に聞き覚えがあり、勝手に一人で納得していた。
そして、思う。
この少女は朝倉さんとは違う方向で『危うい存在』だ、と。




