5、寝ていても進む馬車は偉大よね
「ありがとう」
馬車の中は、樽が三つと木箱が十個ばかり。乱雑に積まれてるわりには、意外とスペースがある。
座席なんて洒落たものはないので、荷台に尻を直接置く。クッションゼロ、腰にダイレクトアタック。
幌にはスリットが入ってて、そこそこ明るい。薄暗いよりはマシだ。
お姉さんが馬車の後ろから顔を覗かせて声かけて来た。
出発かな。
外の景色が気になってスリットから覗いてみたけど、これがまた中途半端で、見えるような見えないような。首も痛いし。
ちょうどそんなタイミングで、馬車がゴトリと動き出した。
ドワーフさん(仮)が御者台から中に入ってきて、なにやら異世界語で話しかけてくる。
「ミda? かッs サ taはd にha ヴァadエt ゔぁイjaす?」
……はいはい、何言ってるかはさっぱりだ。でも笑顔なのでたぶん怒ってはいない。
と思ってたら、彼は幌の下を器用に外して両サイドをくるくるっと巻き上げた。
おお、風が通る! 急に世界が開けた。
気持ちいいじゃないか。これぞ旅って感じだ。
馬で横を走ってるお姉さんがこちらを見て笑いかけて来た。
馬の人(仮)は後ろからついて来ている。
にこやかに手を振ってみたがしっかり無視された。
馬の方がまだ愛想いいぞ。
ドワーフさんが、わたしの持ってたウォーターボトルを指さして何か言う。
「お茶が欲しいの?」なんて聞いても通じるわけないし、たぶんボトルが気になるんだろう。
差し出してみたら案の定、フタの開け方がわからないらしい。
ひねるジェスチャーで教えると、パカパカ開け閉めして感心している。かわいい。
やっぱりドワーフはモノづくりが得意なんだろうな、という個人的偏見が脳内で確信に変わる。
夢中になっているので、ちょっとお礼でもしようと思って、カバンをガサゴソ。
折りたたみハサミとボールペンを取り出して差し出す。
「アー、コレあげマス。馬車に乗せてくれたお礼デス」
「へmm? ミs セe おn?」
「プレゼント。お礼。thank you」
通じたらしい。ボトルを返してくれて、今度はハサミとペンに釘付け。
「あっはっは、文明開化でございます」って顔してる。
使い方説明しようと思ったけど、あちこちイジるのが楽しそうなのでそのまま放っておく。
ドワーフさんもハサミやボールペンをイジりながら時々「ゔau!」とか「おh いっさnd!」とか言って完全に自分の世界へ旅立っていった。
お姉さんは前を走り、馬の人は依然として無表情。
景色も代わり映えしないし、床にゴロンと横になった。
いつの間にか眠っていたのか、気づいたら街道横のちょっとした広場っぽいところに馬車は止まっていた。
ドワーフさんはも居ないし、デッカい馬モドキも馬車から外されて、道端で馬たちはモグモグ草タイム。
道草? 休憩?
馬車の上からキョロキョロ見回していたら、それに気づいたお姉さんがこっちにやって来た。
「メ やme タna おtul シイあ telきマ」
……うん、わかんないけど降りろってことだな。
身体も伸ばしたいし、お花摘みもしたいので取り敢えず降りてみる事にした。
馬車の上からではわかんなかったけど、広場は結構広く、石造りの小さな小屋っぽいモノが点在している。
広場の真ん中辺りで、馬の人とイヌミミさん(仮)が木と動物の皮を使って屋根型のテントを建てていた。
今日はここで泊まるのかしら。
まだ日は高いように思うんだけどね。
整備されたキャンプ場みたいだし、ここを過ぎちゃうと次の野営が大変なのかもね。
おっと、お花摘みに行かないと。
適当に奥の方の林の中でいいのかな。
お姉さんに聞いてみましょ。
「えーっと…」
さすがに身振り手振りで聞くのは恥ずかしいぞ。
どうしたもんだろ。
ってお姉さんの前で悩んでいたら、察してくれたのか、石の小屋の中でも一際小さい電話ボックスっぽい所に連れて行ってくれた。
ここがトイレのようだ。
ドアの上がスカスカに空いてるけど、まあ野原でやるよりはずっとマシ。
2カ所にテントを張り終わった馬の人はドワーフさんと食事の準備に取り掛かった。
イヌミミさんは、お散歩か見回りかわからないけど広場から少し離れて行った。
お姉さんは馬のお世話かな、なんか楽しそうに馬たちと喋って?っぽい。
食事の準備を手伝おうとしたら、やんわり断られた。
……メシマズのオーラ、そんなに出てましたか。
お味噌汁を味噌湯にしたこととか、パスタをモッチャリ団子にしたこととか、そんな黒歴史をなぜ知っている。
仕方ないので、馬車の番でもしておく。
夕暮れ、一つ目の太陽が沈みかけた頃、豪華な馬車が二台やって来た。
護衛いっぱい、お金持ちパーティ確定。
あっちはあっちでキャンプというか石の小屋にチェックインしてるみたい。
庶民チームとは格が違う。
うっかり近づくと揉めそうだし気をつけないとだね。
お金持ちパーティの鎧の人が二人食事の準備をしているドワーフさんと馬の人に近づいて行った。
二言三言会話しただけですぐに離れて行ったけど、特に問題は無さそうな感じね。
しばらくして食事の準備が出来たのか、お姉さんがわたしを呼びに来た。
イヌミミさんもいつの間にか戻って来ていたようで、わたしを含め五人での夕食となった。何かのお肉とお芋っぽいモノが入って塩っぱいスープと火で炙ったパン。元々堅いのを炙ってあるので、さらにカリカリになって齧り付いたら歯が折れそうよ。
パンを手に持ったままどうしたものかとボーゼンとしていたが、他の四人はそれを手で細かく砕いてスープの中に入れていた。
なるほどと真似するも、外側がポロポロ剥がれるだけで、あんなふうに砕けやしない。
お姉さんがやってきて、ナイフでシュパシュパ。
そのナイフを「はい」って渡されて、まさかのセルフ作業。
これ、どう見ても手を切る未来しか見えないんですが。
それでもなんとか、手も無事で夕食を完食。
パン半分とナイフを返そうとしたら、どっちも「持ってけ」って。
おお、異世界初のマイナイフゲット。記念品
食後は、お姉さんと同じテントで就寝。
色々聞きたいことは山ほどあるけど、言葉が通じないから、今日はもう無理。
夜中、お姉さんが外に出た気配を感じたけど、疲れてたのでそのまま夢の国へ。
気づけば朝だった。
──どうやら、異世界でも寝付きだけは良いらしい。




