3、半日も歩けば足も笑う
なんだろう、この妙なハイテンション。
自分でも「おかしいな」と思うけど、今のところ、それがわたしを保ってるんだと思う。
テンションが死ねば、心も折れる。だから、無理にでも元気なふりをして歩き出した。
拾った木の枝で草を払いながら、けもの道を進む。
途中で見つけた木の実をとりあえず採取してカバンに放り込む。
食べられるかどうかは──あとで考えよう。
だいたい、腹が減ったときには理性よりも運のほうが役に立つ。
分岐がいくつも現れるたび、カッターナイフで木の幹に印をつける。
進行方向の反対側にも刻んでおく。
面倒だけど、帰り道がなくなるよりはマシ。
文明社会のありがたみを、いまさら痛感する。
三十分ほど歩いたころ、目の前に「人の手が入ってるっぽい」道が現れた。
おお、道路だ。つまり、ここには何らかの“文明”がある。
“人類”かどうかはさておき。
さて、右か左か。
どっちに行っても当たりかハズレか。人生と一緒だな。
太陽が二つもあるせいで、方角の見当もつかない。
結局、動いていくほう──つまり夕方が遅くなりそうな方向へ進むことにした。
まったく根拠のない選択。でもまあ、わたしの人生、だいたいそんなもんだ。
道が整備されているぶん歩きやすくなったが、景色は相変わらず同じ。
片側は森。もう片側は斜面。
岩と草のコラボレーション。自然が悪ふざけしてるみたいな風景。
女子高生と女優、二足の草鞋は体力勝負。ジム通いなんかもして、それなりに鍛えてたとはいえ、半日も歩けば足も文句を言う。
「道、間違えたかなぁ」
独り言が風に消える。引き返す気力もない。
カバンを椅子代わりに腰を下ろして、お茶を一口。
残り少ない。これが尽きたら“詰み”だ。
水を探す? 沸かす道具もないし、火おこしなんてキャンプ動画でしか見たことない。
生水を飲んでお腹を壊して、そのまま「異世界でピーヒャラエンド」──いやだな、それ。
ぼんやり街道を眺めていると、遠くにうっすら砂煙。
速くはない。けど確実に近づいてくる。
あれは……馬車か何か?
残りのお茶、体力、陽の高さ。全部計算してみて、ギリギリ余裕あり。
じゃあ、茂みに隠れて様子見しよう。
見つけてから逃げるより、最初から隠れる方がまだ理性的。
草の陰でじっと息を潜めていると、砂煙の正体が見えてきた。
──馬車だ。
しかもけっこう立派なやつ。ばん馬みたいな巨大な馬が一頭、幌のかかった荷車を引いている。
幌は御者の頭上までかかっていて、見た感じ、運転しづらそう。
その後ろには、やや小ぶりの馬が二頭。どちらにも人影が乗っている。
どうしよう。出るか、隠れるか。
──と思ったけど、御者台の隣に小さな人影が見えた。
子ども? それなら、まあ、危険は少ないかも。
そう判断して、わたしは街道脇に出た。
近づいてくる馬車を見て、いくつか勘違いしていたことに気づく。
まず、馬。ツノが二本、ねじれて生えてる。
そして御者だと思ってた“人”──犬耳が生えてる。
操ってるのはその隣の小さい方。よく見たら、子どもじゃなくて髭モジャのおじさん。
……うん、ドワーフだな。異論は認めない。
後ろの騎乗者たちは見た感じ、人間っぽい。
そのうちの一人がこちらへ馬を進めてくる。
今さら隠れたら、逆に怪しい。
──腹をくくろう。
やって来たのは、肩と胸を革鎧で固めた金髪の美人。
なんかもう、テンプレート的な「冒険者」そのまま。
その人が馬上から声をかけてきた。
「Miだ sa シin tえd ?」
……え?
聞き慣れない音の並びに、頭が真っ白になる。
ああ、ついに来た。
言葉の壁。いや、世界の壁か。




