魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act8希望の輝き
絶体絶命の危機にリーンはミハルを護る為に覆い被さる。
2両の砲がマチハに向けられる・・・
1秒・・・2秒・・・
まるで数時間もたっかのように感じられる時が流れる。
誰もが次の瞬間を目を瞑って待ち構えたが敵弾は当たらなかった。
だが・・・
((ダッダーン バッガーン))
耳を打つ爆発音が2つ聞こえてきた。
自分達にではない命中音が・・・
その音に弾かれる様にぺリスコープを見たキャミーが叫ぶ。
「あっ!嘘だろ・・・敵M4・・大破!炎上中!!」
ペリスコープに2両のM4が揃って炎を噴き上げて撃破されている光景が目に映った。
「誰が・・・何処から?」
ラミルが周りを見回すが味方の影は見当たらない。
「一体誰が?どんな距離から撃ったのよ?」
リーンが弾かれる様にキューポラに登って天蓋を開けて双眼鏡で調べる。
左側で後退して行くM4。
右側で近寄って来て撃破された2両のM4。
その遠方で後退を始める13両のM4。
リーンがざっと観測したが味方らしい車両は見当たらなかった。
ー !?あれは?砲煙!?
やっと気付いた。
遥か遠くに後退している味方戦車隊が見える。
ー まさか、あの距離から撃ったとしても当たる訳がない。
ましてや撃破出来る砲でもない。
このマチハの砲以外では・・・
リーンは更に良く観測しようと注視していると、
豆粒のように見える戦車の中に一際大きい車体の戦車が3両だけ此方に向って進んで来ていた。
ー 何だろう、あの戦車。さっきまでは居なかった筈なのに。
まるで変化後のマチハの様に大きく、頼もしく見える。重戦車なのかな?
リーンが双眼鏡で観測を続けていて気が付いた事があった。
ー あの光。青く浮き出る様に光っているのは・・・紋章?
あれは魔鋼騎の輝き?味方の魔鋼騎なんだ!
双眼鏡の中でその戦車が停止し、すぐさま発砲した。
「うそっ!こんな距離で発砲するなんて無茶だわ」
思わず大声を上げて驚くが、もっと驚いたのは右側で後退を始めた13両の内、
最も遠い所に居たM4に赤い光の尾を引いて砲弾が飛んで行き・・・
((ボッ バッガーーンッ))
狙われたM4は車体を撃ち抜かれて爆発し、砲塔を噴き飛ばされて撃破された時だった。
「う、嘘っ。5000メートル近くある筈・・・なのに?!」
リーンは自分の眼が信じられずキューポラから車内に戻ると。
「ミハル。私の頬を抓って・・・」
呆然とミハルに頼む。
「はい?どうしたのリーン?」
ミハルが怪訝そうな顔でリーンに訊いた。
「戦車砲で5000メートル先の戦車を撃つ事が出来るのかしら。
・・・ねえ、そんな訳無いよね?」
リーンが呆然とおかしな事を言うから。
「むにゅっ!」
ミハルはリーンを正気に戻そうと頬を抓った。
「あいたた。夢じゃない!嘘っ本当に当てたんだ!」
リーンが抓られた頬に手を当てて大袈裟に騒ぐ。
ミハルはリーンの双眼鏡を掴むとキューポラに登って味方部隊を確かめようとする。
直ぐに3両の大型車両を発見して、
行動を見守ると一番先頭を行く特に長大な砲身の車両を見て驚く。
ー あれは何?
あんな太くて長い砲を持っているなんて。
あの魔鋼騎の乗員は、相当の魔法力を持っているのかな?
ミハルが見ている前でその砲から発射煙が上がる。
「え!嘘っ。まだ4000メートルはあるのにっ!」
流れ飛ぶ赤い弾を追いかけて見詰める。
紅い魔鋼弾が、その先に居たM4を噴き飛ばした。
「うっ・・・嘘、こんな距離で?
しかも一撃でM4を粉々に噴き飛ばしてしまうなんてっ!!」
ミハルも信じられなくて目を擦ってしまう。
ミハルもリーンと同じ様に車内に戻って呆然とする。
「車長?ミハル先輩?」
2人の様子がおかしいのでミリアが心配になって声を掛ける。
「あのー?車長、ミハル?何がどうなっているんだ?」
キャミーが振り返って2人に訊く。
「何だか知らないが、凄い威力の砲だな。次々とM4が撃破されていくぞ!」
ラミルがペリスコープを覗き込みながら唸る。
「車長、ミハル先輩。戦況はどうなっているのです。脱出しなくていいんですか?」
ミリアが2人に何がどうなっているのか訊いたのだが。
「うふふ。あはははっ、ははは!」
2人が急に笑い出したのでミリアは更に混乱する。
「あわわっ、2人がおかしくなってしまいましたっ!」
ラミルとキャミーに助けを求める様にミリアが叫ぶ。
「あー。ミリア。違うんだよ、すっごいのが来たから」
リーンが手をパタパタ振って大丈夫だと教える。
「うん、そう。すっごーい味方が現れたから。脱出はもう少し待とうよ」
ミハルも気が抜けたみたいな顔をして笑っていた。
「えーっ、何ですかそれ。どんな味方なんですか?」
ミリアが尋ねるのでミハルが双眼鏡を渡して自分の眼で見ろと、ハッチを指した。
「・・・?」
ミリアは双眼鏡を受け取り、狭い砲尾を潜ってキューポラへ上がる。
双眼鏡を構えて、その味方を見ようとした瞬間。
((ヒュンッ))
赤い尾を引いて側面を弾が飛んでいった。
「ひゃああっ!」
驚いて仰け反り、弾が飛んでいった先を見て更に驚く事になる。
((ガガーンッ))
左側で後退して行くM4の内、一両が炎に包まれて撃破された。
「あ、え?」
呆然と今来た弾道を元へ戻す様に見返ると、
もう数百メートルまで近付いた3両の戦車が砲口から砲煙をたなびかせて走っていた。
「うわっ、あわわっ!」
魔鋼騎状態のマチハと同じ様に前面装甲を大きく傾斜させた車体、長大な砲身。
3両の内でも特に紋章を浮き立たせた先頭の一両は砲塔形状が全く違って、
砲身が突き出た砲塔正面が窄まり、今まで見てきたどんな車両より狭く、
敵から見れば当て辛そうだった。
「なっ!何なんですか、あの戦車はっ!」
ミリアがキューポラから飛び降りてリーンとミハルに訊く。
「あはは、解らない。私には天使に見えたよ」
ミハルが笑って答える。
「そー。天が私達を救う為に寄こした天使!」
リーンが手を相変わらずパタパタと振ってミハルに同意した。
「うーん。無線の周波数が違うのかな?呼んでも答えてくれないな」
キャミーがその戦車に向って何度も呼びかけているが、返事が返ってこない。
((キュラキュラキュラ ギュギイィ))
重いキャタピラ音が停止した事を告げる。
どうやら側面に停止したみたいで、天蓋のハッチが開いた音が聞こえた。
「あ。そうだ、お礼を言わなきゃ!」
リーンが飛び跳ねるようにキューポラに登ると、側面を見せて停車した車両に呼びかけた。
「ありがとう。助かったわ!」
側面に紋章を掲げた魔鋼騎が僅か5メートル先で停車していた。
リーンが礼を言うと、砲手用のハッチらしい蓋が開き中から銀髪の少女が現れた。
美しい銀髪を靡かせてその少女がリーンに訊ねてきた。。
「お怪我はありませんでしたか中尉殿。リーン・フェアリアル中尉殿!」
銀髪の少女は青い瞳をジッとリーンに向けて名前で呼んで来た。
「え?何故私の名前を?」
リーンの問い掛けには答えず。
「他の搭乗員は無事ですか?
無事なら早く本車に移乗する様に言って下さい。敵の増援が来ますので・・・」
静かな口調でその少女は言った。
敵の増援が来ると言われて我に返ったリーンが車内に命令を下す。
「ラミル、キャミー、ミリア、ミハル。本車を放棄、味方車両に急いで移乗します!」
リーンが命令を下すのを遮って。
「移乗される前に、魔鋼機械の破壊措置をお願いします」
冷静な口調で銀髪の少女がリーンに求めてくる。
「え?破壊するの?このマチハを・・・」
リーンが少女に聞き返す。
「ええ、残念でしょうけど・・・
ここまで牽引車が来る事は出来ませんから。敵に鹵獲されない様に破壊しますので」
少女はリーンに説明した。
「・・・解りました。
已むを得ませんね。ミリア、聞いた通りよ。機械の破壊を命じます」
命じられたミリアはそっとミハルを見た。
ミハルが頷くのを見て魔鋼機械の発動スイッチの下に付いている自爆スイッチを空薬莢で思いっきり強く叩いた。
((ビビーッ))
警報音が鳴り響く。
自爆スイッチの作動を確かめて、ミリアがキューポラのリーンに頷く。
「全員避難。隣の車両に移乗します!」
リーンがキューポラから出て全員の脱出を命じる。
ー 今迄よく闘ってくれたのに・・・御苦労様。さよなら、マチハ・・・
ミハルは発射ハンドルをそっと撫でてから砲手席に敬礼する。
「ミハル先輩、早く出てください!」
キューポラから出たミリアが中を覗いて呼ぶ。
名残惜しんでいたミハルが身を翻してキューポラから外へ出た。
リーンとミハルが車外に出たマチハの姿が元の3号J型へと戻り、
描かれた<双璧の魔女>の紋章も輝きを失った。
隣の車両によじ登り、エンジン室の上に身を寄せ合った5人に対して。
「中尉殿残念でしょうが・・・始末をつけます」
一言リーンに告げて、その少女は車内に戻った。
その銀髪の後姿を見たミハルが気になった。
ー あれ?今の後姿、どこかで会った様な気がするんだけど・・・
車内へと消えた少女を見送ってミハルが記憶を辿ろうとするが、
エンジン音が物凄い音を立て思考を止めさせられる。
後退を始めた車両は50メートル程離れると、砲等を僅かに動かしてマチハに砲口を向ける。
開けたままのキューポラから帽子を覗かせた男の人の声が聞こえた。
「残念ですが姫の車両を破壊します。
ラミル、ミリア、ミハル。そしてキャミー、爆風に気をつけろよ・・・」
どこかで聞いたような声が5人に注意する。
「えっ!?」
キャミーがキューポラに目を向けた時。
「撃てっ!」
男の声が響くと同時に発砲された。
((ズッドオオーンッ))
爆音と爆風が襲い掛かり、5人は慌てて目を閉じ耳を塞ぐ。
砲煙が流れた先で、砲塔を高く噴き飛ばされてマチハは破壊された。
幾多の闘いを共に生き抜いて来た歴戦の中戦車マチハ。
その最後は味方に引導を渡されて果てた。
燃え上がり黒煙を噴くマチハに、5人は誰言うと無く挙手の礼を贈るのだった。
味方の魔鋼騎に危機一髪の処で救われたミハル達は、
助けられた車両の上で、とある人物と再会する。
次回 懐かしい人
君は救ってくれた友に何を想うのか?





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