魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep3エレニア平原Act7絶体絶命
右舷側のキャタピラが抜け落ちて、
左舷のキャタピラのみで何とか姿勢を保とうと試みるラミルだったが。
「車長!このままでは側面に回り込まれてしまいます。
脱出して下さいっ。
私はここで敵に動いている所を見せ続けます。
そうすれば直ぐには近付いて来ないでしょうから!」
ラミルは左舷側のキャタピラだけで何とか闘おうと試みる。
「馬鹿っ!言ったでしょう。全員で闘うと言ったじゃない。
全員脱出しない限り、私は此処に踏み止まるから!」
((ガッ ギュイイイーン))
停止したマチハに敵弾が再び命中する。
「くそっ!右側の一両を倒すわよっ!」
リーンは攻撃の続行を命じる。
突撃して来たM4に砲を旋回させながら・・・
「リーン中尉、砲塔後方のM4に注意していて下さい!」
左側に残っているM4を観測する事を頼んで照準を合わせる。
「了解、ミハル。左舷のM4は只今横陣へ展開中!撃つなら今よ!」
突っ込んで来るM4に十字線を合わせ、指をトリガーに添えた。
「撃っ!」
撃ち放った弾がM4の砲塔を噴き飛ばした。
それを確認する暇もなく急いで砲向レバーを倒して左舷に向けるミハルの耳に。
「左舷、敵M4隊発砲っ!」
リーンの叫びが聞こえた。
((ガンッ ガンッ))
車体のあらゆる場所に敵弾が当たる。
((ガキッ ガンッ))
衝撃で取り付けていたビスが抜け跳び車内で跳ね回る。
((ビシッ))
左舷の車体を狙い撃たれ続けて何発かが車体に食い込み装甲を削り取る。
その徹甲弾の中に高速徹甲弾(APCR)が混ざり始めた。
敵もマチハの装甲に対して普段は使うと砲身寿命が早く減ってしまう高速徹甲弾を用いてでも、
マチハを撃滅しようと考えていた。
ー このまま真横から砲弾を受けたら・・・
いくら私の能力で護っていても耐え切れない。もう限界に近い・・・
リーンが苦しい息を吐きながら最後の時が近い事を悟ると。
「皆、良く頑張ってくれたわ。ありがとう・・・」
4人に感謝の言葉を吐いた。
だが、ミハルは首を振って拒む。
未だ輝きを失わない瞳を敵に向けたままで。
「まだ諦めてませんから。
最後の、最期の瞬間まで私は諦めません。私の勤めを果すその時までは!」
トリガーを引き絞り敵に向って砲撃を続行する。
「ミハル?!」
リーンは、苦しそうな声を出しても射撃を続けるミハルを見て声を呑んだ。
青く輝く髪を靡かせて照準器を睨み、次なる目標を狙うミハルの姿。
敵弾を受けて飛び散ったビスに身体を疵付けられても未だに射撃を続けるその姿に、
リーンはミハルの諦めない強さを知った。
ー そうだ、私も諦めてはいけない。諦めたら全てが終わってしまうから!
リーンは自分にはない強さをミハルから教えられて頷く。
「よしっ、解った。最期まで諦めないわ。ミハルを信じてるから!」
リーンがミハルの背に向けて覚悟を示すと、
ミハルは血で濡れた左手の親指を立てて、リーンに合図を送った。
ー リーンも私を信じてくれている。
そう、2人ならどんな苦しい事だって越えて見せるから。
私とリーンでみんなを護ってみせるから!
決意を秘めたミハルの瞳が敵のM4を捉えて射撃を続ける。
「撃っ!」
((グオオオーンッ))
マチハは敵弾でボロボロになりながらも、まだ戦闘力は失われてはいなかった。
狙われたM4の車体が炎上する。
「後少し、後少し頑張れっ私!」
ミハルは肩で息を吐きつつ次の目標を探す。
「先輩っ!これが最後の魔鋼弾ですっ!」
ミリアの声が胸を締め付ける。
ー ああ、そうか。これが最後の弾か。
善く撃ったなあ、16発も撃つ事になるなんて。
さあ、最期の弾は誰に撃ち込んで欲しいの?
ミリアが装填した魔鋼弾の目標をリーンに訊く。
「リーン・・・リーン中尉。
どの車両を狙いますか?最後の魔鋼弾ですよ?」
ミハルが照準器から目を離して、リーンに振り返る。
「そうね、じゃあ左側の一番奥に控えて進もうとしないM4が居るわよね。
多分指揮官が乗っていると思うから。あの車両にプレゼントしてあげて?」
にこりと笑ったリーンが目標を指示する。
微笑み返したミハルが頷くと。
「では、敵の指揮官殿に戦争を教育してやりましょうか!」
そう言うと、その車両に向けて砲を旋回させた。
ー これが最期の魔鋼弾。
これを命中させなきゃ、終われない。
絶対に命中させてやるんだ!
ミハルの照準器の中に、2両のM4でカバーされた奥に控える指揮車らしい敵戦車を捉える。
ー 前の2両が邪魔している。その少しの間を抜いて撃ち抜いてやるっ!
前で指揮車を護る様に停車している2両の間は1メートルにも満たない。
ミハルはその僅かな隙間を通して奥のM4の正面下部に狙いを付ける。
ー 2両の内どちらかが少しでも動けば奥のM4には当たらない。
敵が此方に発砲するタイミングで撃てば敵も停車している筈・・・
ミハルはじっとそのタイミングを測る。
そして2両のM4が、マチハ目掛けて発砲した。
((チッ))
ミハルの指は敵が発砲するのと同時にトリガーを引いた。
弾が空中で交叉する。
魔鋼弾が2両の僅かな隙間を抜け・・・
((グワッ ガガーン))
奥に控えていたM4の正面下部を貫いてエンジン室まで破壊した。
((ガンッ ガギイイーン))
マチハの砲塔正面に2発の75ミリ砲弾が命中し、2発とも辛うじて貫通はされなかったが。
「あうっ!」
命中した所が砲身の付け根付近、照準器付近の2箇所。
その衝撃の為ミハルは額を押えて仰け反った。
「命中!奥のM4撃破!」
「ミハルっ!大丈夫っ!?」
キャミーの声とリーンの声が重なった。
リーンがキューポラから飛び降りてミハルを抱える。
「えへへ。やりましたよ中尉。あの隙間を抜いて命中させてやりました!」
ニコリと笑ってリーンを見返すミハルの押えている手の間から、
血が流れ出ているのを見たリーンが照準器を見あげると照準器ガラスが割れてしまっていた。
「良くやったね、ミハル。御苦労様!」
労いの声を掛けるリーンに抱えられたままミハルはコクリと頷いた。
「左側の敵が退がります」
ラミルが振り返って知らせる。
「車長!右舷の15両が近付きますっ!」
ミリアが観測報告を入れる。
ー 15対1。
しかも、もうこちらには魔鋼弾がない。
47ミリで闘うには魔鋼騎のレベルを下げて3号J型に戻るしかない。
装甲の薄い車体で、砲力の劣る砲で、しかも照準器が壊れた状況で。
そしてもう帰ることが出来ない足回りで、どう闘えばいいの?
リーンはこの状況の中で考える。
ー 私達の約束は生き残る事。
こんな無茶な闘いで死んで堪るものですか。
絶対生き残ってみせる、諦めないってさっきも思い直したところなんだから!
リーンは決断した。
全員で生き残る事を。
諦めず生き続ける為に闘う事を。
「みんな、左舷に脱出。
マチハを放棄します。
脱出後は固まって行動するわよ。全員で還るのよ生きて!」
リーンがミハルの手を掴んだまま皆に命令する。
「ですが中尉。
もう敵は手の届きそうな所まで接近して来ています。
捕虜になる位なら、いっそ・・・」
ミリアが迷って瞳を曇らせる。
そんなミリアに額を押えたミハルが一喝する。
「馬鹿っ!諦めるんじゃないっ!
私とリーンが居るんだから一人だって殺させはしない。
全員で生きて還るんだ。解った!?」
ミハルの瞳は未だ闘志を失っていなかった。
「せ、先輩・・・はいっ!解りましたっ!」
ミリアが瞳を大きく見開き頷いた。
「車長!左側の残存M4の動きが妙です。
ただ単に退がっていく様な感じではなくて、何故か回避運動を取っています?!」
ラミルの報告にリーンとミハルが顔を見合わせる。
「回避運動?」
同時に2人が聞き返す。
「右舷側M4隊も動きが止まったっ!」
キャミーが報告する。
「あっ!M4、2両が突進して来ます。こちらに砲を旋回中っ!」
ミリアの声が引導を渡す為に突撃してくるM4を知らせる。
ー駄目か・・・
ミリアの叫びに皆が最期の時が近付いた事を悟った。
突撃し、マチハに狙いを定めたM4が射撃する為に停車する。
「ミハルっ!!」
リーンがミハルを力一杯強く抱き寄せる。
まるでミハルの身体を護るかの様に。
自分が身代わりになってでも、ミハルを救おうとするかの様に・・・
力尽き満身創痍のマチハとミハルの前に敵のM4が迫る。
至近距離からの砲弾を防ぐ術を無くしたマチハの中で、皆は覚悟を決めて最期の瞬間を待つ。
次回 希望への輝き
君は最期の瞬間に何を想うのか・・・





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