第6章 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part6
ミハエルは飛ぶように奔る!
助け出す手段を考え付いて。
<間に合え!>
・・・願うのは唯一つ!
ミハエルは飛ぶようにして走った。
いや、飛んで往ったと云うべきか。
希望を見つけられた感激を胸に秘め。
助けられると希望に胸をときめかせ。
最下層の牢獄に辿り着き、門の鍵が開け放たれるのを待つ間も。
((ギッ ギギギィーツ))
門が開く。
扉が開け放たれていく。
開いた門の前でミハエルは立ち竦む。
一度訪れた時とは違う雰囲気を感じて。
赤黒き瘴気が渦巻いている空間を観て・・・
「なによ・・・なんなのよ?この間と違うじゃないの?!」
僅か数時間前に訪れた時には、こんなに闇は濃くはなかった筈だった。
開かれた扉の中に観えるのは、赤黒き闇の空間。
そこはまるで闇の世界にも思えた。
闇の住人が住む世界かと見間違える位に、立ち込める霧は濃かった。
一瞬立ち入る事を躊躇してしまっていたミハエルが、扉の中に踏み入る。
「ユピテルの気が感じられない・・・というか、モニタリングも不能なんじゃないの?」
瘴気が立ち込める中を歩む。
ゆっくりと・・・だが、確実に前へと進んで行く。
歩む途中で何者かの気配を感じる。
それも何個もの・・・闇の住人らしい邪な気を。
「お前達!居るのは解っているのよ、此処に何の用があるというのよ!
返答次第によっては唯ではおかないからね!」
右手にデバイス剣を取り出し、魔砲力を放つ。
闇の中で取り巻いていた気が薄れて消えて行く。
その中で、何個かの怪しげな気だけが阻む様に居座っていた。
「言っても判らないのなら。
剣の錆にでもしてやろうか?それともこの殲滅の女神を知らないとでもいうのかしら?」
凄んだ訳でも、威嚇した訳でもなく。
邪魔する者を排除するのは当然とでも言った風にさらりと言い放った。
その姿は女神としての威厳を伴い、邪なる者に恐怖を与える。
((ズザザッ))
立ち阻んでいた闇の住人達がミハエルの周りから逃げ去る。
逃げ去る者を横目で確認していたミハエルが、悍ましい者達の姿に気付く。
<あれは・・・ケルベロス?!それにオーク共?!
あ・・・あれはオーガーじゃないの?!
なぜ神の神殿に闇の眷属達が集まっているのよ?!>
消え去る闇の住人達を見送ってデバイス剣から紅き光を消す。
「ま・・・さか?!アイツらを使ったというの?
ユピテルはどうやって呼び寄せられたというのよ?!
ここは神の神殿なのに・・・なんの目的で・・・」
自分が呟いた言葉に記憶が蘇る。
悍ましい過去を。闇の世界で魂が穢された時の事を。
「馬鹿な?!そんな事を赦す訳がない・・・ユピテルが。
いくら女神と謂えど・・・耐えれる筈が無い。
仮死してしまう・・・私もそうだったように。
何度も・・・なんどでも・・・」
青ざめた声が悪い結末を否定しようと漏れ出る。
呟く間にも闇の住人達が次々と帰って行く。
どれだけ居たのか。どれ程の数が集まっていたのか。
悪魔達の居場所と化していた牢獄に、
闇の気配が消えたのは最初に訪れた場所に辿り着いた時だった。
<ユピテルの気もバリフィスの気さえも無い・・・
まるでどこかに掻き消えたみたいに・・・でも>
ミハエルには感じられていた。
此処へと手繰り寄せる者の気配に。
それだけが辛うじて心の拠り所となっていた。
<ミハルは・・・死んではいない。
今、感じているのは間違いなくミハル自身から放たれている>
手繰り寄るミハエルの視界に何かが観えた。
<倒れている!ミハルっ?!>
近寄る足を速めた時・・・
((ベチャッ))
まだ数メートルは離れている足に違和感と鼻に衝く異臭が。
「な・・・なに。なんなの?」
足をあげて異臭を放つモノを観てしまう。
「魔汁・・・闇の穢れし麻薬?!ここまで?」
足先とミハルらしい影との距離を観て立ち竦んでしまう。
「そんな・・・まさか・・・こんなに・・・」
なにが起きたのか・・・なにをされたのか。
闇の粘着くジェル状の魔汁が辺り一面を覆い尽していた。
交り合った色が、どれだけの魔物が放ったのかを示していた。
「くそっ!獣共メ!逃がすんじゃなかった!始末してやれば良かった!」
口惜しがるミハエルは、闇の中で吠える。
微かに感じるミハルの気だけが拠り所な状態で。
「ミハル!助けに来たのよ!返事して!!」
粘着く床を駆け寄った。
倒れているミハルの元へと・・・
観るに堪えない・・・
観てはいけない姿だと感じた。
「あ・・・ああ・・・あああっ?!」
声を詰まらせたのはワザとじゃなかった。
声が出なかっただけだった。
名前さえも呼びかけられず倒れた姿に手を伸ばすだけだった。
「酷い・・・惨過ぎる・・・これが女神の姿だというの?!」
倒れているミハルに、触れてはいけない物のようにそっと手を伸ばす。
((ひゅー ひゅー))
微かな息使いが漏れている。
((ごふっ ひゅっ ごほっ ひゅー))
息の間に口から魔汁が垂れ零れ出る。
仰向けに寝そべっている身体には無数の傷が付けられている。
身動きも出来ないのか、息をするのが精一杯なのか。
「ミハルっ!しっかりしなさいっ!」
手を出しかねていたミハエルが漸く正気を取り戻して呼びかける。
「私よミハエルよ!助けに来たの!」
堪らずユピテルが監視しているかもしれないというのに叫んでしまう。
「・・・ごほっ・・・リ・・・リーン・・・リーン」
息をするのもやっとなのに、リーンの名を呼び続けるミハル。
「しっかりするのよミハル!今、治癒魔法を・・・」
叫んだミハエルが魔法を放とうとミハルの胸に手を翳した時に目に映ってしまった。
闇の縛めを。
赤黒い首輪を・・・
「そんな・・・ミハルが・・・ミハルが堕ちてしまっている?!」
首輪の下、胸に刻まれた紋章・・・堕神の紋章に、目が釘付けとなる。
「そんな・・・ミハル。あなたが堕ちてしまうなんて。
私が遅かったから?間に合わなかったというの?!」
自分を見失って虚ろな目でリーンの名を呼び続けるミハルに訊いたが、
答えが返って来る筈も無かった。
「ごめんねミハル・・・やっぱりあの時死んででもあなた達を救うべきだった。
共に死んだとしても闘うべきだった・・・」
纏っていたマントを掛けて身体を隠してやりながら、ドロドロに汚された顔を拭ってやる。
謝罪の声をあげ、顔に纏わりついた髪を避けてやろうとミハエルの手がふれた時だった。
「えっ?!」
聴こえた。
微かだが、ミハルの声が。
<ミハエルさん、謝るのは私。
抗えなかったの・・・抗い続けられなくなっちゃったの、私には。
リーンまでも穢すと脅されちゃったから・・・だから・・・ごめんなさい>
心で謝るミハルの声が耳からではなく直接頭の中に届いた。
「ミハル?!あなたは・・・堕ちてしまったというの?」
声に出して訊いた。
それが自然なように思えて。
<うん・・・堕とされちゃった・・・大魔王に。
もうこの身体は私の思い通りにはならないの・・・話す事もできないの>
悲し気な声が頭に響く。
「そうか・・・リーンと同じと言う訳ね。
だとしても、秘密は奪われてはいないんでしょ?
ユピテルが求めているパスワードは無事なんでしょ?」
人類の消滅を司る者にとって、
ミハルの中に秘められたインストールフォルダが必要なのだと聞いていた。
フォルダにかけられた鍵を解除するには、無理やり鍵を壊して取り出すか、
若しくは解除用のパスワードをインストールするかのどちらかしかなかった。
ユピテルは無理やり解除する方法を嫌った。
もしかして壊す途中にトラップがあれば、自身も壊れてしまうと踏んだから。
無理やりに壊す事によってのリスクには手を出せずにいた。
だから・・・ミハルをずっと狙い続け、ここに手繰り寄せたというのだ。
ミハエルは身体を貶められても自我を保っているミハルに感謝した。
「ミハル、譬え身体の自由を喪う事になっても。
自分が誰であるかまでも失ってはいけないのよ!
リーンも・・・あなたを想い続けていたのだから。
ずっと私に抗って待っていたのよ、きっと来てくれるのだと。
助け出す事を諦めては駄目、大魔王を倒す事を諦めては駄目よ!」
身体に治癒魔法を施しながら、ミハエルが教えた。
<うん・・・希望は失わないよ・・・だけど。
リーンはどうなったのかな?リーンにだけは触れさせなかったつもりだけど>
悲しそうに答えるミハルに、訳を訊こうとした。
だけども、気が付いた。
ミハルの話した意味を。最初に言っていた事の意味が解って。
あれ程の数も居る闇の者に独りで立ち向かった事を考えた時。
「ミハル・・・そうまでしてリーンを護りたかったの?
自分独りで抗いきれるとでも思ったの?」
ミハルになぜだと訊いた。
<だって・・・リーンが辱められる姿を観たくはなかったもの。
私の御主人様に手を出させる訳なんていかなかったモノ・・・>
言葉少な気にミハルが答えた。
自分を差し出してでもリーンを護るのが全てだと言わんばかりに。
「馬鹿っ!馬鹿よミハルは!どうしてそんなに優しいのよ!
自分を捨ててまで護ろうとするのよ!それでリーンが喜ぶとでも思っているの?!」
叫んでしまった。
可哀想な娘に・・・言葉を荒げてしまった。
<そうだよね、リーンも同じ事を私に言ったよ。
私・・・リーンに怒られちゃった・・・ペット失格だって・・・>
ミハルの言葉に我に返った。
ミハルは言った・・・リーンに怒られたと。
「な・・・んですって?リーンの言葉を聴いた?
じゃあ・・・リーンは。
リーンは自我を取り戻していたというの?」
呆然とミハルに訊いてしまった。
それがミハルにとってどれだけ辛い事であったかを理解出来ずに。
<う・・・ん。大魔王が私を堕とす為に。
私の弱点を見破って・・・私の一番大切な人を穢そうとしたから。
自我を取り戻させたリーンに闇の者を嗾けようとしたんだ。
だから・・・私は堕とされるしかリーンを護る方法がなかったの>
悔やんだ。訊いてしまった事を。
悔しかった、自分の愚かさと遅すぎた事を。
「ごめん・・・ミハル。私に力が無かったばかりに。
助ける事が出来ずに・・・ごめん、ごめんなさいっ!」
薄汚された娘を抱きしめた。
自分を捨ててまでも大切な人を護ろうとした気高き娘を。
<ああ、替わってあげられるのなら。
私なんかが替わってあげれるのなら代わってあげたい>
心から自責の念が込み上げる。
「ミハル・・・堕とされたら。
闇の女神にされてしまえば・・・私の様に人間を殺す羽目になるのよ?
罪深い悪行に染められ・・・もう<理の女神>では居られなくなる。
それでも・・・いいのね?」
ミハエルの言葉に答えは還らず。
「私、此処に来る前に観たのよ?
闘う人を・・・希望の人を。
とっても勇敢な、とっても凛々しい男の子を・・・」
ミハエルが希望が現れた事を教える。
「ミハル・・・気が付いた?
あなたにとっても掛け買いのない人が希望。
あの子がつけているリングが希望・・・
その子と闘う事になっても良いの?嫌でしょう?」
ミハルの心が揺らぐのを感じる。
堕ちてしまえば、いずれは闘う事にも為り兼ねない事の意味を知り。
<嘘・・・どうして?どうしてマモルが?>
姉には直ぐに判ったのだろう。
自分がこれから辿る悲劇の幕開けがこんな事で起きようとは。
「だから・・・ミハルは闘ってはいけない。
例え操られているにしろ・・・戦ってはいけないのよ!」
そう告げたミハエルが癒しの魔法を中断して。
「ユピテルが現れない前に逃げ出そう。
それしか方法がない・・・リーンの事は後から救い出そう」
ミハルを連れ出そうと手を取った。
<そんな・・・リーンをこのままにしておける訳がないよ。
私が逃げたら・・・リーンが酷い事されちゃうかもしれないもの>
身体が動かせないミハルが逃げ出す事を拒む。
「だったら!ミハルはどうなるのよ!
ユピテルの思うがままにされちゃうのよ?!
きっとアイツの事だから酷い事をミハルにさせようとするに決まってるから!
ミハルの心まで貶めようとするに決まっているもの!」
ミハエルの言う通り。
悪魔の化身、大魔王は手段を択ばない。
必ずミハルの心まで支配しようとするに決まっていた。
<ミハエルさん・・・逃げても無駄だよ。
私の身体はもう・・・堕ちちゃっているもん。
操られる事から逃れる術が無くなってしまっているから。
新たな希望に・・・倒して貰う方が良いかも・・・>
それは、ミハルがマモルに倒される事を意味する。
姉が弟に倒される・・・姉弟が闘う事を意味する。
「馬鹿ッ!そんな弱気でどうするのよ!
あの子だって戦える筈がないじゃないの!
解った!ミハルがそうまで言い張るのなら・・・
とっておきの術を掛けてあげる・・・ルシファーに掛けたように!」
ミハエルが決意を固める。
「ミハル!
これは天使だった私が放てた最大魔法。
誓いという名の約束・・・契約よ!」
ミハエルの右手からデバイス剣が現れ出る。
「良い?ミハルは操られたとしても自分に害する者以外は攻撃出来ない。
自分に歯向かう者以外には危害を加えられなくする!
つまり、専守防衛だけ・・・挑まれない限り闘う事を辞める。
解ったわね!いくわよっ!」
問答無用にミハエルが剣をミハルに突き立てる!
貶められるミハル・・・
唯、心までも貶められ無かった事が唯一の希望なのか?
ミハエルは最後の手段に訴える・・・
そう・・・
魔王ルシファーに授けた魔法と同じモノをミハルへ掛けようとしていた・・・
ミハルは闇の中に堕ちたのか・・・助けられるのか?!
次回 終わる世界 EP10 End Of The World<終わる世界に>Part7
君は諦めない。君の心は抗える。そして・・・希望は消えては居ない!
人類消滅まで ・・・ アト 23 日





夏休みのオトモ企画 検索ページ