魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔Act18最終話闘い済んで・・・
「はあっはあっはあっ!」
ミハルは村の外へ向けて走っては隠れ、隠れては走る。
ー 40対1の戦い。
でも私は諦めない。
みんなの元へ還る為に。みんなとの約束を守る為に!
((ガンッガンガン))
ミハルの傍の崩れた建物に銃弾が当たる。
「くっ!」
ミハルは銃撃に怯まず数メートルにまで近寄って来た歩兵に拳銃を撃つ。
((バンッ バンッ バンッ))
ベレッタが火を噴き敵兵が飛び退く。
((ガンガンガンガンッ ビシッ!))
「あっ!・・・くっ!」
横合いからの一撃を受けて、左肩を弾が掠め去る。
破れた所から血が滲み出る。
「はあっはあっはあっ・・・」
傷口を押えた右手に付いた血を見て、ミハルに死の恐怖が襲い掛かる。
ー 駄目、恐怖に負けたら・・・諦めたら駄目。
強くならなきゃ、強くなるんだ、ミハル!
自分に言い聞かせ、闘う意思を高める。
ー まだ闘える。まだ諦めてはいないんだから!
ミハルの想いは誰かに届くのか・・・
「うおおっ!悪魔めっ死ねぇっ!」
雄叫びを上げた男が銃剣で襲い掛かって来た。
ミハルは咄嗟に銃を撃つ。
((バンッ!))
男の腹部を撃ち抜いたが、男はそのままミハルに銃剣を振りかざす。
ミハルはその男目掛けて撃ち込む。
((バンッ! カシュッ))
ベレッタの弾が切れた!
弾倉には一発の弾も残されては居ない!
2発を喰らった男がもんどりうって倒れた後から、もう一人が現れ小銃を構えて姿勢を高くする。
ー 弾が無いっ。撃たれるっ!
ミハルが拳銃を構えたがブローバックしたままのベレッタに気付いたその男が薄く笑った。
ー みんな、ごめんなさい。
私やれるだけやったんだよ。でも、もう・・・
ミハルは覚悟を決めて目を瞑る。
銃声を待って。
((バシュッ))
狙撃音が耳を打つ。
「え!?」
目の前の男が後ろ向きに倒れるのと同時に、
「ミハルっ!早く来いっ、こっちだ!」
振り返ったそこには。
「ミハル!急いで此処まで来るのよ!」
「先輩!早く。援護しますっ!」
「奴等を抑えておくっ早く来いっ!」
搭乗員も、整備員も皆が皆、ミハルに声を掛けて手を振って呼んでいる。
「みんな。どうして・・・戻って来たの?」
ミハルが驚いて訊くのを・・・
「馬鹿っ!そんなことは後でいい。早く来いっ!」
そう叫んでラミルはマシンガンを乱射する。
「早くっ、先輩っ!」
ミリアが大型手榴弾を投げつける。
((バッガーーンッ))
慌ててしゃがんだミハルの上を爆風がよぎる。
「ミハル!みんなで迎えに来たのよ。早くこっちへ来なさいっ!」
リーンがマシンガンを撃ちながらミハルを呼ぶ。
皆がコイコイと手を差し招く。
「はっ、はいっ!」
リーンの声に我を忘れて走り出すミハル。
ミハルを狙って銃弾が爆ぜる。
「この野郎!いい加減諦めやがれっ!」
マクドナード軍曹が投射機で手榴弾を撃つ。
((グワンッ))
狙われた敵兵が2人程、吹っ飛んだ。
「少尉っ!リーン少尉っ!」
ミハルがみんなの居る崩れた建物の処へ駆け込んでリーンに抱き付いた。
「良く頑張ったわね、ミハル」
リーンはミハルの頭をそっと撫でてやった。
「良く頑張ったな!良かった良かった!」
キャミーがミハルの肩を叩き労うと。
「いっ、痛っ!」
ミハルが左肩を抑えて蹲る。
「ミハルっ!手傷を負ったのね。大丈夫?」
リーンが心配して訊ねると。
「大丈夫です。こんな傷位・・・いつっぅ」
苦悶の表情を浮かべるミハルを見たミリアの頭から湯気が噴き出す。
「うっきぃーーっ!よくもミハル先輩をっ!」
肩から提げて来た鞄をひっくり返し、手榴弾を全て出すと。
「必殺!乱れ投げえっ!」
次から次へと放り投げだした。
ボカンボカンと炸裂する手榴弾に怯んだのか敵兵は撃って来ない。
「少尉。ありがとうございます。助けに来てくれたのですね?」
ミハルがリーンを見上げて礼を言うと首を振ったリーンが指を指し示す。
「私だけじゃないわ。小隊全員があなたを救う為に来たのよ」
リーンが振り返ったその先には、搭乗員も整備員も全員がミハルを見て笑い掛けていた。
「みんな・・・ありがとう。嬉しいです!」
その顔にミハルは微笑み返す。
((ガンッ ガン ガン))
建物に向って敵弾が当たる。
「さて、ミハルも助けられたし、長居は無用ですね」
キャミーが応戦しながらリーンに言う。
「そうね。・・・でも、囲まれたらしいわ」
リーンが街道沿いに新手の部隊が来るのを見てため息を吐く。
「一体何人居やがるんだ・・・ったく!」
ラミルが銃を構えて愚痴る。
「先輩、これを!」
ミリアが新しい拳銃を渡す。
それを受け取って敵の歩兵を迎え撃とうと構えた時。
((グワーーーンッ バガーーンッ バガーーンッ))
敵兵の居る処で連続に爆発が起こり、
新たな部隊から銃弾が撃ち込まれ数人があっという間に倒された。
「何だ?・・・あれは?」
キャミーが立ち上がって呆然と見詰める。
「少尉!ミハル先輩!味方です、援軍ですっ!」
ミリアが嬉しそうに振り返って教えた。
「何だと!騎兵隊様の到着かよ!」
ラミルが悪態を吐くが、その顔は嬉しさに溢れていた。
「よしっ、これで助かる。最後まで気を抜くなっ!」
マクドナードが全員に檄を飛ばす。
「はいっ!」
小隊はそこで一塊となって身の安全を確保しつつ、攻略支隊が到着するのを待った。
ミハルは雄雄しく闘う小隊員が、頼もしく見えて嬉しくて微笑んだ。
「ミハル、ありがとう。あなたのお蔭で村の多くの命が救われたわ」
リーンが礼を述べる。
「いえ、私ではなく、クーロフ大尉以下戦車隊隊員の命で救われたのです。
礼は彼等に言ってあげて下さい」
ミハルは悲しげにそう告げて焼けた戦車を見た。
「生存者はいませんかー。誰か居たら返事してくださーいっ!」
ミリア達が村の人を探して声を掛け始めた。
その姿を見たミハルも歩き出す、リーンを伴って。
敗残兵に気をつけながらミハルは初めてこの村へきた時入った酒屋の所まで来ると、
崩れた酒屋の前で倒れている男女を見つけた。
「あれは!アリシアさん。・・・ロカモフ上等兵!」
ミハルとリーンが駆け寄り、2人を抱き起こす。
ミハルはロカモフに、
「ロカモフさんっ解りますかミハルです。シマダ・ミハルです!」
ロカモフは目も開ける事が出来ず、か細い声で答える。
「ああ。ヤポンのお嬢さんか。アリシアは無事ですか?」
そう訊かれてリーンの方を向くと、静かにリーンは首を振る。
それでもミハルは。
「うん大丈夫。大丈夫ですよ。ロカモフさん」
咄嗟にミハルは嘘を吐いてしまう。
「そう・・・か。良かった。
これで僕はあの娘にやっと謝りに逝ける・・・神様に会え・・るんだ」
そこまで言って、ガクリと首をうな垂れるロカモフ。
「ロ、ロカモフさんっ!」
ミハルが声を掛けると、か細い声で最期に愛しい人を呼んだ。
「か、かあさん・・・かあさん・・・」
その声が最期だった。
ミハルは拳を握り締めてロカモフをそっと横にした。
「ミハルこの娘も、もう・・・」
微かに息は有るものの腹に重戦車の機銃弾を受けて、
内蔵が飛び出した状態で、最早手が付けられなかった。
「お母さん、お父さん、お爺ちゃん・・・」
家族を呼びながら死に絶えようとするアリシアが、
ミハルを見上げて何かぼそぼそと呟いている。
「何?アリシアさん。しっかりして?!」
アリシアの言葉を聞き取ろうとして口元へ耳を寄せる。
最期に言い残す言葉を聞き取ろうとして・・・
「・・・悪魔め!
あなたさえ来なければこんな事には為らなかったのに、疫病神。
還してお爺ちゃんを・・・村人を・・・帰しなさいよ!」」
アリシアは何かを掴もうと手を上げ様とするが、力尽きてその手が地に落ちた。
そしてもう何も言わなくなってしまった。
ミハルがアリシアの言葉に呆然としてリーンに顔を向けると、
顔を左右に振ってアリシアが絶命した事を告げた。
ー 私は・・・死神。・・・悪魔なの?
ミハルはうな垂れて息絶えたアリシアを呆然と見詰める。
「ミハル。もう行きましょう」
リーンが声を掛けて来るまでミハルは身動ぎもせず、
アリシアの亡骸の傍に立ち尽くしていた。
ミハルが気付かない間にキャミーもラミルもミリアもずっと後に立って待っていてくれていた。
ミハルは泣き出しそうな顔でみんなを見てこう言った。
「私がこの村を滅ぼしたんです。
アリシアさんの言った通り、私は悪魔。死を呼ぶ死神・・・」
ミハルは声を震わせて必死に涙を堪えていたが。
「誰のせいでもない」
キャミーが一言呟く。
「そう。誰が悪い訳でもない」
ラミルも顔を背けて後を継ぐ。
「まして、ミハル先輩のせいなんかじゃ絶対にありませんから」
ミリアが首を振ってミハルを庇う様に言う。
「ミハル。みんなの言う通りだよ。
あなたのせいじゃない。
誰のせいでもない。
憎んでは駄目。
恨んでは駄目。
憎しみや恨みが戦争をより悲惨なものにするのよ」
リーンがまるで誰かが救ってくれた時の様な事を教えてくれる。
その言葉にミハルはリーンを見詰める。
ー ターム、あなたなの?
リーンの金髪がタームの姿に重なる。
そのタームが・・・タームの魂がミハルに語り掛ける。
ー ミハルあなたが優しい魂のままで居られる様に、
優しく強い、ミハルで居られる様にみんなで護っていてあげる。
もう誰も泣かなくて済む世界を目指すあなたの為に・・・
リーンの姿を借りたタームがミハルに告げる。
ミハルの瞳に小隊全員の姿が映る。
その一人一人がミハルに微笑む。笑い掛ける。
眩しく輝く皆の笑顔に救われたように感じる。
ー 教えてくれたんだねターム。私の目指す所を・・・
ミハルはふっと息を吐くと。
「はいっ、リーン少尉!
私っ挫けませんっ。負けませんっ!
この小隊を護って闘うのが約束ですからっ!」
ミハルは顔を上げて皆に笑顔を振りまいた。
「おーいっ、そろそろ引き上げるぞぉっ」
マクドナード軍曹が力作車の上で乗車を急かす。
小隊員全員が多かれ少なかれ傷を負って包帯やガーゼで傷を覆い、激戦だった事を物語っている。
攻略支隊の援軍で鹹くも窮地を脱した小隊は、
復旧と整備の為に一度エンカウンターの基地まで戻る事となった。
それはこの激戦を闘い抜いた者への神の祝福の賜物とでも言うべきものであった。
しばしの休養を与えられた者達は、更に激しい戦場へと向かう事になる。
その運命を知りつつ彼女達はエンカウンターの基地へと戻る。
「ミハル。今回はいろいろと勉強になったわ」
リーンが美しい金髪を靡かせて砲塔に座って声を掛けて来た。
「はい。・・・申し訳有りません、ご迷惑をお掛けしました」
ミハルが悪鬼に堕ちた事を謝る。
「ほーんと。恐かったのよ、ミハル」
リーンが遠く離れていく村を見ながらポツリと言う。
「え?そんなに恐かったんですか。私が?」
ミハルはリーンが自分を見てくれなくて焦ってしまう。
「私ってどんな顔してたんですか?そんなに恐いって?」
ミハルが焦らされてリーンに助けを求めると・・・
「こーーーんなっ、顔っ!」
リーンが両目を指で吊り上げて、ドヨーンとした顔をしてミハルに見せた。
「・・・リーン、酷い・・・」
ミハルが涙目で抗議すると、
「うそうそ。そうじゃなくって・・・本当に恐かったのは、ミハルを失う事」
リーンが真顔になってミハルを見た。
((ドキン))
ミハルの心臓が鳴る。
「憎しみや恨みであんなにもミハルが変わるなんて想いもしなかった。
でも、信じていたのよ、いつかは元の優しくて強いミハルに戻ってくれるって」
((ドクン ドクン))
「それに、戻ったミハルは前よりずっと輝いて見えた。
どうして?
今のミハルは少し前までのミハルよりもっと強く美しく見えるのは・・何故?」
リーンは微笑み掛けながら小首を傾げて訊く。
「うん、それはね。教えて貰ったんだ・・・
二人に・・・大切な二人に・・・ね」
ミハルは胸に手を当てて答えた。
「2人?誰と誰?」
リーンは尚も小首を傾げながら訊く。
「うーんと。それはね、リーンとリーンの後に居る人だよ」
ミハルの答えにリーンは振り向く。
「誰も居ないじゃない」
リーンが不審がって訊ねてくる。
「居るよ。ずっとあなたと私を護ってくれているんだから」
ミハルの瞳にはリーンと、
リーンと同じ金髪をして微笑み掛けるタームの姿が重なって見えていた。
第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔 END
エピロローグ
「カチューシャ。なんて書いてあるの?」
一人の老婦人が小さな子供を抱いた母親に聞く。
「ええ。
あの人・・・クーロフの事が書かれてあって・・・
手渡しできない事が謝られてあるわ。お母様・・・」
「あの子の事が・・・そう、それでなんと書いてあったんだい?」
カチューシャ婦人が子供をあやしながら微笑む。
「クーロフは立派な人だって。
罪も無い人々を護って闘い戦死したと・・・後はその手紙を読んでください」
夫の戦死を書いた手紙なのに、何故か微笑む婦人に老婦人は怪訝そうに顔を顰める。
「どんな死に様だったのかが書いてあるのかい?」
老婦人の言葉に首を振ると。
「いいえ。あの人が生きた証。あの人の生き様が書いてあるのです」
そう言って子供を抱き上げるカチューシャ婦人に、
納得がいかなさそうな母が訊く。
「そう・・・
それであの子の事を誰が知らせてくれたんだい?
こんな大そうな封筒に入れて」
老婦人が白い大きな封筒を見て訊く。
その封筒には、金の菊花紋章が付いている。
「お母様、その人はね。
クーロフが大事に持っていたという写真まで送ってくれたんですよ」
カチューシャ婦人が机の上にある子供達と一緒に笑うクーロフ少佐の写真を指して、
「日の本の国を遠く離れたフェアリアに居る方から送って頂いたのですよ。
遠過ぎてお会い出来ない事を書面で謝っておられますのよ、その方」
「そうなのかい。・・・で、その方は何てお名前なの?」
老婦人はカチューシャ夫人が涙を零しているのに気付いた。
「その人の名はね、お母様。
日の本の国のフェアリア駐在一等武官、マモル・シマダ三佐。
・・・お若い方みたいね」
カチューシャ夫人は戦死扱いをされて少佐となったクーロフの写真を見て微笑んだ。
エピロローグ 終
Ep1街道上の悪魔・・・如何でしたでしょうか?
Ep1ではミハルがその優しさ故に悩み苦しみそして救われるのですが、
闘いの中大切な友との約束に気付き、目指すべき目標を知る訳です。
これからもミハルを通して人間臭い悩みや、戦いを描いていきたいと思っています。
この第2章では戦闘シーンがメインですが、登場人物の人となりもメインテーマとして描いています。
第97小隊隊員、中央軍司令部の暗躍。
リーンの味方の人達。その人々が織り成す物語。
そして、次回から語られる<双璧の魔女>の伝説。
ミハルとリーンは伝説の様にフェアリアを救う事が出来るのか・・・。
次回予告 Ep2 伝説の魔女と皇女
君は伝説を知る。その真実の物語を・・・





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