第6章 終わる世界 Ep3 眼下の敵(リヴァイアサン) Part12
勝負の行方は?
海神との闘いが幕を閉じる時・・・
残されたのは?
闇に染まりし海の王たる邪龍の鬣から・・・蒼き光が迸る。
包み込んでいた数十の太い髪が光に千切れ、跡形もなく噴き跳ばされていく。
蒼き光の中から人の形が現れ出た。
蒼き髪を靡かせる女神の姿を・・・
「馬鹿なっ?!余の束縛から逃れ出られたというのか?
この海神獣の縛めを破ったと言うのか?!」
驚愕の表情でリヴァイアサンが叫ぶ。
「お前は完全体では無いと言っていた筈。
ならばどうやって神の束縛から逃れ出られたというのだ?!」
蒼き髪の女神に向かって吠える邪龍。
紅き邪瞳の先に居る者の魔法衣が蒼くなっていた。
見詰める先の女神の変化に漸く気付いた邪龍が問う。
「お前は・・・お前は何をしたのだ?
その魔法衣の変化は何を意味しているというのだ?」
蒼き前髪から覗く右目が先程までの赤さが薄らぎ、幾分か蒼さが伺えた。
「私ですか?
私はミハル・・・魔砲師のミハルって人間の娘です。
さっきまでデサイアさんが闘っていたようですけど。
今度は私が闘う事になりました・・・あの、海神様ですよね?」
「・・・な・・・ん・・・だと?!」
対峙する者同士が見つめ合う。
ミハルは相手に対し丁寧に。
リヴァイアサンはあっけに取られて。
「あ、あのですね。
デサイアさんは私に海神様を倒せと仰られたんですけど。
どうして人間を滅ぼそうとされているのですか?
神様なら人を護ってくださる筈ではないのでしょうか?
なぜ他の神様方も人を滅ぼそうとされるのですか?
私の知っている女神様は人の味方をしてくだされているのに・・・」
悲しそうに訊ねるミハルに対し、邪龍はその訳を教える。
「お前達人間が邪だからだ。
人間は己が欲望のまま海を穢し、海を我が物としようとしている。
陸だけに留まらず海にまで戦いの場を拡げたのは、
人の傲慢さが生み出した戦争という穢れし物。
そのような人をのさばらしておくのは我慢できんということだ」
リヴァイアサンの口から海神ポセイドンの言葉が返される。
「戦争という災禍を、海にまで拡げた人を懲らしめて何が悪いというのか!
人を罰するのも神の務めであるぞ?」
確かに一理あるのだが、ミハルは首を振る。
「そうだとしても、人類全てを滅ぼすのはやり過ぎです。
一部の悪い人達だけを罰すべきです、それも殺さずとも良い筈です!」
戦争は確かに巨悪と認める。
人が海を穢しているのも解る。
だが、ミハルは人を信じている。
いつかは戦争もなくなり、人々が殺し合いをせずに済む時が来る事を。
「私は信じています・・・人間を。
いつかはきっと戦争もなくなり、人々の上に幸福が訪れるのを。
だから海神様、お怒りを鎮めては戴けませんか?
もう少し待ってはくださいませんか?
人は必ず自分達の愚かさを反省し、争いを繰り返す事を辞める筈ですから」
邪龍に詫びるかのように、ミハルが頭を下げる。
「お前・・・本当にそう考えておるのか?
どこまでお人よしなのだ?なぜそう言い切れる?
人の欲は終わりが無いのだぞ、邪な心は絶える事はないのだぞ?」
邪龍は頭を下げて頼んで来る女神の魔法衣を着た人の娘に訊ねる。
「少なくても私はそう考えているのです。
私の中に宿る女神さんはどう考えておられるかは知りませんけど。
私は人の心が闇に貶められても、
きっといつかは気が付いてくれると信じていますから。
・・・だって私の大切な人もそうだったから。
悪魔に身を貶められても、邪な心を聖なる心に換えてくれましたから。
だからっ、私は<希望>を捨てたりはしません!」
蒼き髪の少女を観る邪龍の中で、何かが音を立てる様に崩れ始める。
「そなた・・・ミハルとか申したな。
そこまで言い切るには何か確証でも持っているのか?
人が自ら滅びの道を歩まぬと言い切れるような物を持っているのか?」
リヴァイアサンが求めるのは己が心の救済でもあった。
海の神として支配下にある海に平穏を齎せるかのカギを求めていた。
「えっと・・・確証とか、物ではありませんが。
私の愛する人は神から人間へとなられた筈です。
・・・まだ再会してはいませんけど・・・きっと人に生まれ変わられた筈です!」
ミハルは肌身離さずに持っているリーンのネックレスを取り出すと。
「私には心を同じくする女神様が居られます。
私達がリーンと呼んでいる女神様・・・彼女が居る限り人は滅びません。
彼女が護ってくれる限り私は諦めません、人の世界が滅ぶのを喰い止めるのを!」
リヴァイアサンに差し出した。
自分が信じるモノ・・・全てを。
((バギンッ))
人の真心に触れた邪なる者が、砕けて行く。
「そなたの真の強さが解った。
人たる者の強さがこれ程までだとは・・・知らなかった」
リヴァイアサンが苦しみ悶え始める。
「そなたにもっと早くに逢えれば善かった・・・残念なことだ。
余の罪は重い・・・余は信じる事を忘れ去っていたようだ。
それを取り戻してくれたのは、そなたの真心」
邪龍が悶え、辺り構わず暴れまわる。
「戦いで受ける痛手よりも、もっと痛烈な人の想いを教えられた。
余が邪なる神と堕ちたのを聖なる心で解き放ってくれたのだ。
余はそなたに感謝を贈る。
海神として、人たる者を導かん者として・・・」
暴れまわる邪龍から光が離れて行く。
「ミハルと申した人の娘よ。
そなたに贈ろう、そなたに付き従う下僕を。
この邪龍の暗闇を打ち破るが良い。
さすればリヴァイアサンはそなたに忠誠を告げるであろう。
人間を護る新たな僕となろう」
今迄話していた声が変わり、重々しい海の神ポセイドンの声が響き渡った。
「え?!でも・・・倒さなくても悪い事をしなければ良いだけなのに?」
ミハルが苦しみ悶える邪龍を庇おうとしたが。
「やはりそなたの心根は優しさに満ちておるようだ。
心配せずとも善い。
邪龍は滅んでも、聖なる龍は滅びはせぬ。
苦しみから解放されるのを待ち望んでおるのだ」
ポセイドンに教えられたミハルが邪龍に臨む。
「そっか、苦しいんだね?
邪な心から解放されたいんだね?
それなら・・・消し去ってあげなきゃ・・・だね!」
聖槍を構えたミハルが邪龍に呼びかける。
「リヴァイアサンっ、ちょっと痛いかも知れないけど!
我慢出来るかな?我慢してね!
私の全力全開の魔砲で祓ってあげるからっ!」
女神の魔法衣を着たミハルが槍を突き出す。
「デサイアさんっ、お願い力を貸して!
私の力とあなたの力を併せて・・・あの子を助けてあげよう!」
ミハルには観えていた。
リヴァイアサンの中で苦しむ者の姿が。
巨大な邪龍とされた本当の海の王たる者の姿が。
暗闇に囚われた少年の姿が・・・
<憑代よ・・・そなたが放て。
そなたが呪われし者を救え。
そうしなければそなた自身の呪いも解けはせぬのだから>
デサイアの声が聞こえた。
自分の中で何かが変わった事に気が付いた。
ー これは?この力は?
これがデサイアさんの力?
・・・まるでリーンに抱かれているみたいに・・・温かい!
女神の魔法衣から金色の光が溢れ出す。
まるでミハル自身が光となったかのように。
「いくよリヴァイアサン!
これが私の全力全開!シャイン・トゥ・デサイア=ブレイカー!」
翳された槍の先に、巨大な光輪が現れる。
魔法陣の中心に次々に金色の光が集まり出す。
巨大な光の塊が魔法陣一杯まで集まり切ると。
「リヴァイアサンっ、あなたを解き放ちます!
シューゥトォッ!! 」
ミハルの槍が振り下ろされた。
金色の弾がリヴァイアサンを包み込む。
「ブレイクッ!」
弾をはじけ飛ばさせる。
((キュゥワアアァンッ))
神の結界が光に包まれた・・・
__________
漸く指揮系統が回復した。
突然光に包まれた画面がブラックアウトして、情報が途切れていたが。
「なっ?!なによ・・・これぇっ?!」
女神ミハリューの叫びがモニターまでも揺るがせた。
画面にはあろうことか何も映ってはいない。
唯、何かが。
何者かが独り佇んでいるだけだった。
「叔父貴様?
あの海神の叔父貴様は?
ポセイドンの叔父貴はどこに行ったのよぉっ?!」
画面に佇む少女の姿に、女神ミハリューは叫んだ。
怒りと苛立ちを隠そうともせず。
「なんて事なの?!
あの海神ポセイドンともあろう叔父貴が・・・
あんな半端者に負けるだなんて!」
苛立ち怒るミハリューは辺り構わず当たり散らす。
神殿の中はとんでもない破壊に見舞われる。
「アイツぅ・・・あのバグめぇ~っ。
八つ裂きにしても飽き足らないわ!
こうなったら・・・全部隊をあの船に向けてでも。
完全に始末してやる・・・抹殺してやるからっ!」
気に入らない事があったら赦しておけない性分なのか。
殲滅の女神たる者の意地か?
はたまた単なる性悪娘なのか・・・
ミハリューは女神たる娘への憎しみを増大させて行った。
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ホマレが消えたミハルを追って甲板まで出て来た時。
「なっ?!なんやあれは?!」
海中から光が浮き上がって来る。
まるで昼間に現われた夜光虫の塊の様に。
「敵か?味方・・・ミハルなんか?!」
勢いよく海面まで浮上してきたその正体は?
((ザッパァアンッ))
ホマレの顔が蒼白となる。
観ていた全ての乗員達も・・・
「かっかっかっ、かんちょーうっ?!」
ミツル3尉が思わず呼んだ。
「うむ。立派な龍だな・・・」
ミノリかイナリか判らないが艦長席に居る者が、独り納得する。
見上げた海獣に、ホマレは口から泡を吹く。
「ウチ・・・なんか悪いモノでも喰ったんやろか・・・」
白目を剥き掛けたホマレの耳に、聞きなれた声が聞こえた。
「ホーさんっ、ホーさんっ!
ただいまぁっ・・・・って?!どうしたの?」
その声は龍から聞こえてくる。
「うぎゃぁっ?!ミハルが龍になっちまったぁ!」
更に白目になり気絶寸前になるホマレの前に海獣が近寄って来る。
巨大な海獣は戦艦<薩摩>と同じ位の長さを持っている。
その海獣が甲板まで後少しの所まで伸びあがると。
「なにを馬鹿なことを言うのよ?
私はここ。こっこでぇ~すっ!」
ミハルの声が、やはり海獣の頭部から聞こえてくる。
・・・が、よく見ると。
頭の角を片手で持って、こちらに手を振っている魔法衣姿のミハルが笑っていた。
「ば・・・か・・・や・・・ろ・・・うぅ・・・きゅうっ!」
しかし。
やはりホマレには印象が強過ぎたようだった。
「ああっ!折角かっこよく帰って来たのにぃっ?!」
ミハルの声がホマレの耳に届くことはなかった・・・
・・・いや。
違うと思うぞ・・・ミハルたん?!
ミハルたんはとても現気に戻ってこれたようですねぇ・・・
まるで何事も無かったかのように・・・って?
ぎゃあっ、海獣だぁ?!
誰でも初めて観たら・・・驚くでしょうに!
良い迷惑だったなホマホマ。
次回 終わる世界 Ep3眼下の敵 Part13
君は託される、人と魂・・・全ての<希望>を!
人類消滅まで ・・・アト 91日





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