魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔Act13悪夢と希望
朝日が差し伸ばした手に温もりを与えた。
「ターム、ありがとう」
その右手に光る宝珠は碧き輝きを取り戻し、更に美しく輝きを放っていた。
神の盾を現す紋章を浮かべて。
「ミハル?起きたの?」
リーンが悲しげな声で呼びかけると、
すっと立ち上がったミハルの瞳は、黒く美しく光を取り戻していた。
「リーン少尉。今、何時でしょうか?」
突然ミハルに尋ねられて、
「え?7時だけど?」
戸惑ったリーンが答える。
「少尉。もう一度村へ行って来ます。許可して下さい」
ミハルは朝日に照らされて輝かしく見えた。
「ミハル?・・・戻ったの?・・ミハルっ!」
リーンが歓喜の声を上げるのを制すると。
「時間が有りません。
早く止めないと村が戦場になってしまいます。許可を!」
ミハルがリーンに迫り、許可を求める。
「う、うん。
でも、歩いて行ったら、とても時間までに戻って来れないわ」
リーンが決断を下せずにいると。
「はーっはっはっはっ!そんな事も有ろうかとっ!」
突然、二人の後ろで大声がする。
マクドナード軍曹以下搭乗員も、整備班員も全員が2人を見ていた。
「早く行って来い。こいつでな!」
マクドナードが指をくいっと後ろに向けて指し示したのは。
「早く乗れ!ミハル!」
ラミルがアクセルを噴かせ跨っているバイク。
「軍曹。ほんとにもう。どこから出したのよ?」
リーンが呆れたように言うと、
「ミハル!命令!
軍使としてアラカンの敵部隊に投降、若しくは退却を進言する様にっ!」
「はい!」
ミハルは敬礼しラミルが待つバイクに向おうとすると。
「ミハル先輩!これっ!」
ミリアがクーロフ大尉のジャケットを渡す。
「あ、ありがとう、ミリア」
ミハルはそれを受け取りバイクの後に跨る。
「ミハル、これを大尉に返すのも、重要な仕事よ」
リーンがミハルに渡した物は彼の写真。
「これは?クーロフ大尉の写真?」
その写真に写るクーロフ大尉と数人の子供達。
その誰もが笑っている。
ふと、裏を見るとそこには文字が記されている。
「クーロフ先生。どうか無事に、生きて帰って。
そうロッソア語で書いてあるの。
ミハル、これを彼に返してあげて。大切なものだと思うから」
「はい!
必ず彼に返します。そして生きて帰る様に説得します」
ミハルはリーンに頷いて敬礼する。
「よしっ、行くぞ。掴まれっ!」
ラミルがギアを入れて急発進する。
((ドドドドッ))
その後姿を見送って、皆が胸を撫で下ろす。
「よかったな、おい。ミハルが元へ戻って」
マクドナードが整備班員達に笑う。
整備班員達はそれぞれに肩を叩きあって喜んでいる。
その姿を微笑んで見ているリーンへ。
「どうやって戻ったんでしょうか、ミハルの奴」
キャミーが走り去るミハルの姿を追いながらリーンに訊く。
「さあ・・・」
リーンはふっと、ため息を吐くように答えてから・・・
「神様は居るみたいね。こんな戦争の中でも」
そう言ってキャミーに微笑んだ。
「ミハル、もっと飛ばすぞ。おっこちるなよ!」
ラミルがアクセルを限界まで開ける。
「はいっ!」
黒く長く美しい髪を靡かせて、ラミルの腰にしがみ付くミハルは思った。
ー ターム、ありがとう。
あなたのお蔭で私は人として生き返れた。
あなたのお蔭で人を救う事が出来る!
ミハルは目の前に近付く村を見詰ながらクーロフ大尉達を救おうと決意を固めた。
「分隊長、もう直ぐ敵軍が来ます。全車を配備に着かせますか?」
ロカモフが無線のスイッチを入れながら訊く。
「そうだな。各車を村から遠ざけて配備に着かせろ」
クーロフはそう言って自分の胸ポケットに手を入れて、
「そうか。ジャケットごと渡してしまったか。
・・・許してくれ、みんな」
クーロフは教え子に謝ると顔を引き締めて命じた。
「よしっ、行くぞ。各車始動。配備点まで前進せよ」
そう命令した時。
「大尉!あの娘です。シマダ君が此方へ来ます」
ロカモフが振り返ってクーロフに知らせる。
クーロフがすぐさまキューポラから飛び出して、
此方へ向かってジャケットを振るミハルを迎える。
「大尉ーっ!」
ミハルは元気良く、大声で呼び掛けて来る。
「シマダ君、どうしたのだね。もう直ぐ戦闘が始まろうとしているのに?」
ゴーグルを掛けた少女が運転するバイクの後に座っていたミハルが、
バイクから飛び降りてクーロフの元まで走ってくる。
その手にジャケットを大事そうに持って。
「大尉っ、すみませんっ。
大切な物を勝手に持って行ってしまって。お返しします!」
両手でジャケットを差し出すミハルに、
「こんな物の為に危険を冒すとは。君も無茶な事をするね?」
クーロフ大尉は差し出されたジャケットを受け取りながら笑い掛ける。
「いえ、ジャケットではありません。
大尉の心を支えてきた大切な物を、お返ししたかったのです」
ミハルは真剣な瞳でクーロフを見詰める。
「大切なもの・・・この写真かい」
クーロフはジャケットのポケットから写真を抜き出して、ミハルに微笑んだ。
「大尉。その子達の為にも死んではいけません。
必ず生きて帰るのです。
お願いです武装の解除を、投降して下さい」
ミハルはクーロフを見詰て降伏を勧告する。
そんなミハルを微笑みを絶やさず見て、クーロフは答える。
「昨日も言いましたが、それは出来ません。
故郷の家族の事を想えば。ありがとう、シマダ君」
「ありがとうシマダ。僕達は決めたんだ故郷の家族の為、自らの粛罪の為に」
いつの間にかロカモフが傍に来ていた。
「ロカモフさん。
あなたの罪はなんだというのです。
私の友達を助けられなかった事ですか?
それとも車長を救えなかった事ですか?」
ミハルはロカモフに対して質問する。
「あなたはタームを助け様としてくれた。
譬え助けられなかったにせよ、努力してくれたのでは有りませんか?」
ミハルの質問に身体を丸めて屈み込んだクーロフが答える。
「ロカモフに罪はない。
罪があるとしたら、私の方だ。
我々が軽戦車に近寄った時、彼女は数人の男に嬲られていた。
その彼女はずっと彼方の自分の陣地の方を見ていた。
まるで誰かをみまもっているかのように静かに見詰ていた。
自分が犠牲になる事でその誰かを追わせなくする為の様に。
そんな英雄的行為を見たロカモフは、彼女を助け様と止めに入った。
だが、あいつらは上官だった。
上官反抗罪にすると脅されたロカモフはそれでもあいつらに掴みかかった。
卑劣な豚共からあの娘を助ける為に。
しかし、我々が見ている前で奴等は彼女を撃った。
苦しみもがくかと思った彼女はロカモフに微笑んだんだ。
助け様としたその行為に感謝するように。
死の苦しみの中で・・・
そして、キューポラから半身を乗り出した彼女の車長が、
彼女を苦しみから解き放つためにかこう言ったのだ。
(「もういい、ターム。もういいんだ。約束は果たしたんだ、オレも逝くぞ。」)と。
それがどんな意味か解らないが、彼女にトドメの一発を放った。
それが彼の最期の勤めだったのだろう。
銃を自らの頭に放って、彼もまた死んでいった。
・・・忘れようとしても忘れられない。
彼女達を救えなかったのは上官である私の責任だ。
許して欲しい」
ー ああ、ターム。
そんな目に会わされてでも私を助け様と・・・
ラバン軍曹にも酷い決断をさせてしまって。
苦しかったでしょう、辛かったでしょうに・・・
ミハルは心の中で二人に謝る。
じっとクーロフを見詰ながら真実を知り、涙が溢れてくるのを止められなかった。
クーロフに頭を下げられ、謝罪されたミハルは。
「すみません。知らなかった・・・
真実を知りもしないで、助け様とした恩人を憎んで・・・
悪魔に魂を渡す所でした」
ミハルは涙を流し、クーロフ達に謝る。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
クーロフ大尉、ロカモフさん。皆さん許して、許して下さい」
ミハルは自らの愚かさに涙する。
そんなミハルをそっと優しく抱締めて、
「いいんです。許します、もう泣かないでミハル」
クーロフはミハルを許す。
「ありがとう、ミハル。君に逢えて良かった。
我々も少しは救われたよ。
君に真実を話すことが出来て。
これで堂々と彼女たちの元へいける。
彼女たちに謝る事が出来る・・・ありがとう」
クーロフもミハルに感謝する。
2人の魂が粛罪の時を迎えた。
しかし。
その時、再び闇が間近に迫っていた・・・
「分隊長!味方の方から近付く車両がありますっ!」
クーロフ達が驚いて街道を見ると、半軌道車を先頭に数両の戦車が現れる。
「あれはっ!奴かっ、あの小太りの特務隊の野郎かっ!」
クーロフが悪態を吐く。
「何をしに帰ってきやがったんでしょう?」
ロカモフが不審そうに大尉に近づくと、
「おそらく、我々の処分の為だろう」
クーロフ大尉は肩をすぼめて答える。
「そ、そんな。だったら早く投降して下さい」
ミハルは慌ててクーロフに勧める。
「ミハル君、ジャケットを写真を返してくれてありがとう。
もう逢えないと思う。
君は無事に日の本へ帰ってくれ。それが私の願いだ」
クーロフが右手を差し出す。
その右手を握り返すと。
「クーロフ大尉、約束します。私は必ず帰ります。
だから大尉も犬死はしないでください。
最後まで諦めないで、あの子達の為にも」
ミハルの言葉に微笑んだが、返事はなかった。
「さあ!奴等が来る前に戻りなさいシマダ・ミハル。御機嫌よう、サ・ヨ・ナ・ラ」
最期はヤポン語で別れを告げた。
ミハルは立ち止まってクーロフ大尉を見詰る。
ー 死なないでクーロフ大尉。
あの子達の為にも、大切な人の為にも・・・
ミハルの想いは伝わる。
戦車兵達は皆、バイクに跨るミハルに手を振って別れを告げていた。
「出すぞ、ミハル」
ラミルがゴーグルを着けて出発を知らせる。
「はい。・・・さようなら、クーロフ大尉、ロカモフさん」
ミハルは走り去る村へ向って別れを告げた。
その時何かの飛翔音の後・・・
((グオオーンッ))
村の民家が砲撃を受けて崩れ去る。
「!何だとっ!」
ラミルが驚いて街道を進んでくる戦車を見ると、
6両の重戦車KG-1が発砲するのが見えた。
「何をするの!?やめてっ、その村にはまだ人が居るのに!」
ミハルが敵部隊に向って叫んだ。
ラミルとミハルの目の前で殺戮が始まる。
村を救う為、リーンは決断する。
正義の戦いを!
義勇の闘いを!!
次回 街道上の悪魔
君は生き残る事が出来るか!?





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