魔鋼騎戦記フェアリア第2章エレニア大戦車戦Ep1街道上の悪魔Act10悪夢と希望
「・・・・ターム」
ぼそりとミハルの口から元同乗者の名が呟かれる。
「待っててね。みんな殺してあげるからね」
そう口走るミハルの口元が、醜く歪む。
「ふふふっ、一人も残さない。
一人も生かしておかない。
皆殺しにしてやる。誰も許さない・・・」
呪いの言葉を吐くミハルの瞳は黒く澱み、悪魔の如く血走っていた。
そんなミハルを見てリーンは悲しむ。
ー 私の判断が間違っていた。
私が戦争を美化していただけ。
解っていた筈なのに。
村民を虐殺する様な軍が降伏なんてしない事を。
それなのに甘い期待をして。
その結果、ミハルの心を壊してしまった・・・
ミハルを壊してしまったのは、この私・・・
なんとかミハルを取り戻そうと、話し掛けたが取り付く暇も無かった。
キャミーもミリアも、ラミルでさえ話す事は出来なかった。
皆が失望の表情で見詰る中、ミハルは全弾を魔鋼弾とする様リーンに意見具申し、
リーンが拒むと喚き散し強行に魔鋼弾に弾種転換させた。
そして、味方が到着するのを待たず攻撃を掛ける様に進言してきた。
「心配?味方なんて要らない。
私が皆殺しにしてやります。
一両も残さずに消し飛ばしてやりますから。
うふふっ!あはははははっ!」
笑うミハルは、昨日までとは別人になっていた。
薄気味悪い笑いを溢し搭乗員と何も話さず、
タームと言う女性の名を呟き、今迄一度も装填した事が無かった同軸機銃を全弾装填させた。
そして時折、狂った様に笑う。
ー 駄目だ。ミハルを更迭しなければ・・・
リーンは苦渋の判断に迫られる。
ー 今、ミハルを更迭したらミハルは本当に狂ってしまう。
でも、小隊全員を危険に晒すのを防ぐにはミハルを搭乗員から外すしかない
リーンは隊の安全を優先すべきだと判断を下そうか迷っていた。
「小隊長、お願いが有ります」
ラミルとキャミー、そしてミリアがいつの間にかリーンの前に来ていた。
「ミハルの事ね。
解っているわ。搭乗割から外しましょう」
リーンが漸く決心をして3人に告げると。
「少尉、ミハルをそのままにしてやってください」
キャミーがリーンに反対する。
「私達が何とかカバーしますから」
ミリアがリーンにお願いする。
「あいつを・・・ミハルを外さないでやってください」
ラミルもリーンの判断を翻す様に願って来る。
「みんな・・・そんなにミハルの事を?」
リーンが三人を見詰ると3人が揃って頷く。
「いいわ、解った。私達でミハルを取り戻しましょう」
リーンは3人に自分の本当の願いを言った。
「ターム・・・私が軍隊に入って初めての友達。
初めて優しくしてくれた大切な友達。
もう直ぐ、もう直ぐ会いに行くから。
あなたを見捨てた奴らを一人残らず殺したら、
あなたを助けてあげられなかった私も一緒に行くから。
待っててね、カールさんとラバン軍曹と共に」
ミハルは血走った瞳から涙を零してマチハに縋りついた。
ミハルの脳裏にあの懐かしい日々が甦る。
配属された初めての実施部隊。
初めて出逢ったその日の事を・・・
「はじめまして!
私本日付けをもって本車に配属になりますシマダ・ミハル一等兵です。
宜しくお願いしますっ!」
ミハルが出来るだけ元気に大声を上げて申告する。
良く晴れた日中の太陽の光が降り注ぐ中で。
3号E型軽戦車の車長、髭面のラバン軍曹が見下ろして言った。
「よー、ヒヨッコよく来たな。えーと、なんて言ったっけ?」
ラバン軍曹が、ミハルの名をもう一度聞く。
「はっ!シマダ・ミハルで、ありますっ!」
敬礼したままミハルは答える。
「はーっ、新兵って感じねー。ほら、敬礼を解きなさいミハルちゃん」
横に立つ同じ一等兵の少女がミハルが、カチコチに固まっているのを楽にさせようと気安く声を掛けて来る。
「私は、本車のドライバー、ターム。同じ一等兵。
配属は1ヶ月前なんだ。宜しくねミハルちゃん」
そう言って右手を差し出してくる。
「え?えっと、はい。
宜しくお願いします。ターム一等兵」
まだカチコチに硬いミハルの手を強引に握って、
「ほら、タームでいいよ。同じ階級なんだから」
タームがミハルに微笑んで握手する。
「え?でも、ターム一等兵の方が、先任ですから」
ミハルが戸惑うと、車体に腰を掛けたラバン軍曹が笑いだす。
「ミハルは硬いなぁ。
オレのクルーは、階級抜きで名前を呼ぶんだ。だから、オレもラバンでいいぜ」
ラバン軍曹の横で、車体ハッチから半身を出している赤毛の女の子も。
「オレもカールでいいぜ。よろしくな、ミハル!」
にっこり笑うと綺麗な白い歯が見えるカールが、自己紹介した。
「は、はいっ。あの、その。
ラバンさん、カールさん、宜しく・・・です」
ミハルの目に、3人の笑顔が焼きついた。
火の光を浴びる3人の顔が・・・
ー ラバン軍曹、カール兵長、そしてターム。
ごめんね、逃げてしまって。
一緒に苦しんで上げられなくて、生き残ってしまって。
もう直ぐ・・・会えるからね
血走った目から涙を流し続けるミハル。
ミハルの記憶に、心優しいタームの面影が甦る。
配属させられて右も左も解らないミハルにずっと親切でずっと優しく、ラバン軍曹に怒られても庇ってくれる。
一度操縦席に座ると凛々しく頼もしく車体を操るその姿。
長く美しい金髪、青く澄んだその瞳。
いつも一緒に居てくれて、いつも私の事を想ってくれる愛しい人の姿。
記憶の中でタームの微笑みが自分に向けられてくるように蘇る。
ー ああ・・・ターム。あなたの事が眼に浮かぶ・・・
記憶が蘇る・・・仲間達との想い出が。
ある夜・・・
「あら、ミハル、珍しいね。ミハルが手紙を書くなんて」
タームがミハルの傍によって覗き込む。
「うん。もしかしたら最期になるかもしれないから」
ミハルは寂しそうにタームを見上げて言った。
「そんな不吉な事、言わないの。で、誰に書いてるの?」
タームが嗜めて、差し出す相手を訊く。
「弟に・・・たった一人残った肉親に・・・」
ミハルが少し笑いながらタームに言うと、
「たった一人残った?
そういえばミハルの家族の事、聞いていなかった・・・
というか、教えてくれなかったよね。
教えてくれないかしら、あなたの家族の事を」
タームはミハルの横に座って見詰る。
「言っちゃいけないって言われてるんだ。
言えば弟、マモルをどうされるか解らないんだ」
ミハルはタームの視線が痛くて顔を背ける。
「ミハル。
私にだけ教えて。
あなたの事を知りたい、知っておきたいの」
タームがミハルの肩にそっと手を置いて訊く。
その優しさに耐えられなくなった。
「私。
私ね・・・ヤポンから来て、父母は軍の研究所に勤めていたの。
父も母もその研究所の爆発で死んでしまって、弟と2人なんだ。
身寄りも無いこの国で弟を生かす為に軍に入らされて。
もし、私が死んでしまったら弟はこの国でたった一人になってしまう。
そう想ったら堪らなくて・・・私、私!」
ミハルはタームに抱き付いて泣いてしまった。
そんなミハルをそっと抱くと。
「あなたを死なせはしない。
どんな事があっても、ミハルだけは死なせはしないから」
タームは優しくミハルに自分の決意を教えた。
「そうだ、どんな事になろうとも、お前だけは生き残れ」
「オレ達がミハルを守ってやるさ。絶対だ!」
いつの間にかラバン軍曹とカール兵長が傍に立っていた。
「みんな・・・ありがとう」
真剣な仲間たちの言葉に、涙を流して嬉しそうにミハルは三人を見た。
ー 私の事を知って、皆が約束してくれた。
私を護るって、私だけはどんな事があっても生き残らすと・・・
ミハルはマチハに縋り付いた手を離し、ぐっと握り締める。
そして運命の日に有った事を思い出す。
辛く悲しく・・・やりきれない・・・思い出を。
ミハルがたった独り生き残った、あの闘い。
その記憶が蘇る。
ただ一人生き残る事になったその訳が。
次回 悪夢と希望 Act11
君は記憶の中で何を見るのか





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