魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep3破談Act25ミハル少尉
「それでは、ユーリ姉様、皇父様。行って参ります。
カスター、ユーリ姉様の事を頼んだわよ!」
敬礼しを終えた第97小隊は、新車両を受領し、
直ちにエンカウンターへ戻るべく宮殿前から出発しようとしていた。
「リーンこそ。必ず皆と共にこの皇都へ還って来るのよ。約束だからね」
ユーリが皇女のドレスで見送る。
「はい、姉様。必ず此処へ帰って参ります」
そう言い切ったリーンは再び姿勢を正し、
「フェアリア皇国、皇王陛下に敬礼。最敬礼!」
身体をくの字に折り、敬礼を贈る。
「リーンよ、頼むぞ」
皇父が一言述べてから答礼を贈った。
「直れっ、よしっ。総員乗車っかかれっ!」
リーンの号令で小隊員が、各車に乗り込む。
リーンも駆け足でマモルが砲手を務める一号車へ行き、新車両に眼を向ける。
MHT-7。ケーニヒス・ティーガーを元に試作された重戦車。
通常時でも10センチ砲を装備し、如何なるロッソアの戦車にもひけを執らない。
ましてや<双璧の魔女>の紋章を掲げるこの車両には
リーンとマモルが、リインとミコトが乗車している。
そして二号車。
リーンは後に控える車両を見てその実力を思った。
「ミハル・・・頼んだわよ」
キューポラに立つ、凛とした士官姿。
真新しい少尉の軍服。
碧い髪を靡かせて立つその姿。
まだあどけなさの残る容姿にそぐわない凛々しい瞳。
双眼を碧く染めて立つその姿にリーンは想う。
ー ・・・ミハル。
新たな車両で闘うあなたに、お願いしたいのは唯一つ。
私達の約束を果して、平和な未来へと共に歩もう -
リーンは二号車の車長席に立つミハル少尉に向って手を振る。
気付いたミハルもそれに応える。
リーンは頷き、前を向き直って命じた。
「第97小隊出発っ目的地はエンカウンター!ラミルっ、戦車前へ!」
リーンの号令と共にMHT-7は進みだす。
小隊の基地、エンカウンターへと。
青い<双璧の魔女>の紋章が、陽の光に輝く。
「一号車発進・・・続行する。
MMT-8(マチハ)発進っ、戦車前へ!」
ミハルがマイクロフォンを押して命じた。
長砲身75ミリ砲が風を裂き進む。
その車体に描かれた<双璧の魔女>の紋章を輝かせて。
一号車とは違う<双璧の魔女>の紋章を浮き立たせて。
「ミハル車長っ、ミハル少尉ってば!」
エンカウンターへ戻る途中の車内。
「はっ、はいっ?」
突然掛けられた声にミハルが驚く。
「いつまでも砲手ではないのですから。
もう少し全体の動きというものを確認して下さいよぉ」
装填手ハッチからミリアが文句を垂れる。
「う・・・うん。はい、ごめんなさい」
オドオドとミハルが答えると、
「私が二号車に配属になって感謝して頂かないといけませんね。
さすが、リーン大尉は善く解っておられる・・・ですね!」
「う・・・それを言われると。仰る通りです先任・・・シクシク」
下士官服のミリア軍曹に、涙目で納得する。
「ほら。そんなんじゃあ、部下に示しがつかないでしょ。
もっと威厳をもって指揮を執らないと!」
「はい・・・ミリア軍曹」
この2号車、パンター2型改。
量産されているパンターの発展型。
そう言われているが、実は全くの別物と呼べる中戦車。
パンターの車体より大きく、装甲も厚い。
見た目も中戦車と呼ぶよりは重戦車と呼ぶ方が正しいのかもしれない。
そして一番眼を引くのはその砲身。
長く突き出た砲は75ミリにして
1000メートル先の垂直甲板を200ミリ以上貫通出来る威力を持つ。
今、2号車としてミハル少尉の指揮の元、その勇姿を誇っていた。
「それにしても、ミハル先輩。一足飛びに任官した気分はどうですか?
私も下士官になってしまいましたけど。実感が湧きませんね。
先輩もそうだったんですね?」
ミリアがキューポラで一号車を見るミハルに訊く。
「ま、まあね。突然軍曹ってミリアに呼ばれた時は・・・
誰の事を呼んだんだろうって呆けてしまったものねぇ」
「そうですよね。そして今度はイキナリ先輩は少尉ですもの。
准士官を飛び越えて任官ですものね。
ユーリ皇女様には、いつもながら驚かされますよねぇ」
真新しい新色の下士官服を着たミリアがこれまた真新しく戦車士官服を着たミハルに言った。
「うん。幾ら私達がユーリ皇女を助けたって言っても・・・・
私は2階級、ミリアは兵から下士官に昇進させられて・・・
驚くより戸惑っちゃうよね?」
襟の金線一本の階級章を弄ってミハルが苦笑いを浮かべる。
「まあ、ミハル先輩は判ります。
魂を救ったユーリ皇女の恩人なのですから。
でも私なんて何も出来なかったのに。
皇王様からこんな物まで頂いちゃって・・・」
ミリアが胸に着けてある<枯葉騎士章>を弄ってミハルに笑いかけてくる。
「そうだよね。魔鋼騎士章に準じる勲章だもんね。
それを着けているだけで皆、一目おく事になるんだから・・・ね」
ミリアとミハルが他愛ない事を話していると、
「車長!小隊長から連絡。間も無く訓練を始めるそうです」
新しく無線手に配属されたアルムが伸び上がって教えてくる。
「うん。了解。
アルム、小隊長に返信。了解したと答えてくれるかな」
ミハルがアルムに返答を命じ、
「それじゃあ、ミリア先任。射撃の時は頼んだからね」
ミリアに装填を頼んだ。
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「で。リイン、本当にやるのか?」
キューポラに立つリーンにマモルの口からミコトの声が訊ねた。
「うん。確かめるって言ったでしょ。
奴の力が本物かどうか。それにミハル個人の力も・・・ね」
「むう。闇の力がどの様に作用するのかを・・・か?」
「そう。それがこれからのミハルにどう影響するのかをね」
リインは後から続いてくるMMT-8の姿を見て答えた。
「で・・・リイン。
まさかとは思うが・・・実弾でする訳じゃないよな?」
ミコトが少し不安げな顔をして訊いた。
「当たり前よ。そんな事出来る訳がないじゃない」
「ほっ。リインの事だから本当に撃ち合うかと思ったよ」
ミコトが胸を撫で下ろして言ったが、
「紅白戦は車体の確認。
その後、奴等が現れてくれるわ。その時には・・・ね!」
リインが北方を睨んでから教えた。
「そうか・・・もう此処まで。
マモルもまだ十分に闘える訳でもないし・・・な。
小手調べにはちょうど善かろう?」
ミコトもリインの見詰める方角に何かを感じ、納得した。
「では、リイン。始めるとするか。ミハルのテストを」
「うん。それじゃあ、私達は継承者に委ねて観覧してましょうか」
ミコトとリインは2両の戦車を見守る事にした。
「ええっ!紅白戦?リーンがそんな事を言ってるの?」
「はあ。単なる訓練では時間が勿体無いとか・・・」
栗毛の髪を短めにカットしたアルムが伝える。
「くうっ、いくらなんでも早過ぎるよ。
慣熟走行もしていないのに。でも言っても聞いてくれないだろうし。
だって・・・私、ペットだから・・・」
ミハルはリーンがどうして急に紅白戦を催して来たのか、
大体の見当は付いていた。
「多分、このマチハの性能検査というよりは、私の力を調べる為。
私一人の魔鋼力を調べるつもりなんだろうな」
「車長、見せてやりましょうよ皆に。
ミハル少尉の力を出現させた、このMMT-8の姿を!」
「ミリア・・・解ったよ。やってみよう!」
ミリアの後押しを受けて、ミハルが頷く。
突然の命令で、紅白戦を闘う事になったミハル達二号車クルー。
ミリアの後押しでミハルは全力で抗う事を決めた。
今、ミハルの新しい力が現れる。
<光と闇を抱く者>としての実力が今、試される。
次回 新しき力
君はこの世界で唯一人、<光と闇を抱く者>





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