魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep3破談Act8金色(こんじき)の瞳
「トゥラお兄ちゃん駄目っ!」
幼女の口が叫ぶ。
何かに気付いた様に・・・。
次の瞬間、幼女の声が届いたのかトゥラが振り返った。笑みを浮かべて。
<ドガアアァンッ>
爆煙が炸裂し、周りの空気を震わせた。
「しまった!ロッソアの奇襲部隊がもうこんな所まで!」
眼を見開き動揺するマクドナードの視線の片隅で、
幼女が駆け出すのが解った。
「うわっミハル。待て、そっちに行っては危ないっ!」
慌てて幼女の後を追いかけるマクドナード。
走る幼女が目指すのは榴弾が着弾した場所。
そこには・・・。
「トゥラお兄ちゃん・・・どうしたの?」
幼女が立ち止まった先には、少年が横たわっていた。
・・・息を絶えて。
「ミハル・・・。」
マクドナードがミハルを掴もうと、そっと手を伸ばした時、それは現れた。
「ふふふっ、あーははは。死んだ、死んじゃった。
この魂も我々の物だ。」
トゥラの亡骸の前で、妖女が笑う。
「何を言っているんだミハル。」
マクドナードが妖女の手を掴んで振り返らせる。
「うっ!その瞳の色は!」
マクドナードの眼に写った顔は醜く歪み、笑う赤く染まった瞳の妖女。
「くっくっくっ。此処に居る者は皆殺される。
あの戦車達によって・・・。
我が手を下さなくてもな。」
邪な者の声が、妖女から搾り出される。
「お前が・・・ミハルを乗っ取っている者か!」
マクドナードの声が怒りに震えた。
「ふんっ、お前等に答える必要あるまい。この地で死ぬがいい。」
「なんだと!」
妖女に向ってマクドナードが怒鳴る。
「にゃはははっ、死ねっ、死んで我々のものとなれ。」
赤い瞳を向け続ける妖女に、マクドナードが叫ぶ。
「誰がこんな所で死ぬものか。
オレ達は生き残ってやる。
生き続けてミハルが還って来るのを待っていてやるんだ!」
「ほざけ。ザコが。」
妖女が、嘲笑う。
<グワアアァンッ>
砲撃がどんどん近寄りだした。
「くっくっくっ。間も無くロッソアの戦車が此処へ来るだろう。
マトモな対戦車兵器を持たぬ補給所へ。
そして奴等の砲火で、皆死ぬ事になるのだ。我が手を下す事もあるまい。」
「言う事はそれだけか妖女。だったらその身体から出てゆけ。
ミハルの身体から出てゆけ!」
マクドナードが妖女を掴んで叫んだ。
「小うるさい奴め。よかろう、精々この身体を守って死んでゆくがいい。」
マクドナードに掴まれた妖女の瞳が閉じる。
そして・・・。
「んあ?ありぇ?どうしたのマクドナードのおじちゃん?」
黒い瞳に返った幼女が、驚いた様にマクドナードを見てから、
その後に横たわっているトゥラを見つけた。
「・・・トゥラお兄ちゃん?どうしてそんな処で寝ているの?
風邪ひいちゃったら、こまっちゃうんんんだよ。」
幼女は小首を傾げて呼びかけたが、
トゥラは身体の周りを血で染めて、
紫色の顔を微笑を浮かべたまま息絶えていた。
「ミハル・・・もう行かないと。
敵が来る。殺されてしまうぞ・・・オレ達も。」
そう呟いたマクドナードが、幼女を抱かかえて走り出した。
脇目も振らず力作車まで戻ると、
「曹長っ!駄目です。囲まれました!」
力作車で戦闘準備を行っている兵士が、別方向を指で指し示し教えた。
ー生き残るには闘うしかない。-
「戦闘配備。リーン中尉に救援を頼め。
出来るだけ永く生きろ。生きるんだ!
決して諦めるんじゃないぞ!」
僅かな兵力で、敵部隊と交戦する事を選んだ。
「しかし、我々にはまともな対戦車兵器もありません。」
「そんな事は解っている。だが、オレ達は約束したんだ必ず還ると。
約束したんだアイツが帰って来るのを待つと。
だから諦めるな、絶対に諦めるなっ!」
マクドナードが叫ぶ。
自らに言い聞かせる為にも。
「そう。諦めてはいけない。絶対に・・・。」
マクドナードの横で、妖女が呟く。
「うん?何か言ったか?」
マクドナードは自分の耳に聴こえた妖女の口調が、「ミハル」だったのに気付いた。
「ミ・・・ミハル・・・なのか?」
その声に振り返った先に眼に写った者は。
「マクドナード曹長。曹長の言った通りです。
諦めてはいけません。リーンだって助けに来てくれますから。」
幼女の口から出たのは、ミハルの言葉。
「ミハルっ、お前!」
そこに居るのは、金色の瞳をした妖女。
しかし、その言葉を聞いたマクドナードには・・・。
下士官服を着たミハルの姿が重なって眼に写っていた。
「曹長、私に武器を渡して下さい。敵を食い止めてみせますから。」
金色の瞳をした妖女から、ミハルの言葉が聞こえる。
「ミハル・・・解った。こいつを使え。」
マクドナードが、対戦車銃を差し出す。
「了解です。」
妖女が重い銃を軽々と受け取ると、
「なっ!何だとっ!?」
妖女の手に渡った11ミリ対戦車銃が、20ミリ対戦車銃へと変わった。
「ミハル・・・お前は・・・。」
「はい・・・私は今、半分闇の力を使っています。
どれだけ保つかは、解りませんが。
リーンが来てくれるまで曹長達を守ります。トゥラ君の仇を討ってあげます。」
金色の瞳をした妖女と化したミハルが、銃を片手に力作車から飛び降りた。
「ミハルっ!辞めるんだっ、オレ達の事は守らなくていいんだ。その力を使うんじゃない!」
マクドナード曹長が手を伸ばし止める。
だが、妖女ミハルは金色の瞳で闘う。
その魔力を闇に喰われても。
ーマクドナード曹長。私は約束したよね。皆を護ると。
その願いはまだ終ってはいないから。-
闇の中でミハルは苦しむ。
魂を徐々に闇へと侵蝕されて。
ーでも、私は負けない。どんなに苦しめられても。
きっと約束を果せると信じているから・・・。うっ!くっ!-
闇の中でミハルの魂に黒き霧が突き刺さった。
金色の瞳。
幼女に宿る本当のミハル。
魂を拘束されても抗い、約束を果そうと闘いに挑む。
金色の瞳はその輝きを徐々に失いつつも、立ち向かう・・・。
ーさあ!来なさい・・・力尽きるまで・・・私は闘うから・・・。-
妖女ミハルが20ミリ対戦車銃を構える。
近付き砲身を向けてくるロッソアの戦車へ向けて。
闇に削られていく魂。
仲間を護る為、決死の戦いを挑むミハル。
妖女の姿で抗うミハルは、その金色の瞳を燃え立たせていた。
次回 侵蝕
君は闘った、持てる全てを投げ出して。その魂を失おうとも・・・





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