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付与された最強の剣技で世界を守れって、本気ですか? ~授かりし禁忌の力は全てのハンデを無効化する~【28000PV突破感謝!】  作者: 寝る前の妄想人
第3章 賢者の空中庭園

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第97話 賢者ギルバートによるイクリス魔獣(モンスター)学① 出席点呼1分前

 私は二階の窓から身を乗り出し、広い中庭に立つ一本の大樹の影の下をのぞき込んだ。

 そこには腰を下ろして静かに待つ、賢者ギルバートの姿が遠くに見える。


(……遅刻しちゃう!)


 授業は三十分から。

 現在時刻は──壁掛け時計に目をやると二十九分。

 残された猶予は──あと一分しかなかった。


 ギルバートがこちらの視線に気づき目が合った。

 細い笑みを浮かべながら、自分の手首を軽く指さす。


 ──“時間がないぞ?”


 言葉にはせずとも、その仕草ひとつで十分だった。

 背筋に冷たいプレッシャーが走る。


(や、やばっ……完全に見つかったし、試されてる?!)


 普通の生徒なら間に合わない……だけど!

 私とノアの──刀神と剣神の身体能力なら、全力で駆け抜ければ間に合う!

 そう確信し、二人で視線を合わせ足に力を込めた瞬間。


 廊下の曲がり角から伸びる長い脚と、赤い髪。

 マルシス先生が冷ややかな視線を浮かべながらすっと姿を現した。


「廊下を走ってはいけません」


 彼女の瞳が、こちらの動きをぴたりと封じる。


 (……っ、完全にタイミング悪すぎ……!)

 歩いていたのでは、とても間に合わない……。


「ねえさん、こっち!」


 その声に振り向くと、ノアがにっと笑う。


「よいしょ」


 そう言うや否や、私の身体をひょいっと抱え上げた。

 ……よりにもよって、お姫様抱っこ。


「ちょ、ちょっとノア!?」


 抗議する暇もなく、窓枠を蹴ったその瞬間――宙に投げ出される。


 え、えええっ落ちる~~!?

 思わず悲鳴を上げかけたその時、ノアの指先から青白い光がほとばしった。



 一瞬で形作られたのは、窓から地上へ伸びる氷のロングスライダー。

 きらめく氷面を滑り降りながら、私たちは一気に中庭へと滑り降りていく。


 風は頬を心地よく撫で、眼下には光あふれる中庭と大樹の枝葉。

 絶景と爽快感に、ほんの一瞬だけ恐怖を忘れた。


 その刹那、背後から「勝手に遊具を作るのも禁止です」と、マルシス先生の声が聞こえた気がしたが──氷の滑走は速すぎて、一瞬で遠ざかってしまった。


 凄い! 魔法使いは瞬時にこういう発想が出るんだな~。

 こちとら無属性なおかげで、脳筋プレイばっかり思いついちゃう……。


 でも。


「これなら余裕──だね!」


 そう思わず笑みをこぼした瞬間、ふと横を見る。


 ……ノアが、まっすぐに私の目を見て爽やかな笑顔を浮かべていた。


「ねえさん……実は言わなきゃいけないことがある」


 声まで妙にシリアスで、場違いに格好つけている。

 胸が一瞬、ドキリと跳ねる。


(確かに……血縁フィルターを外せばイケメンなのよね。女子たちが惚れるのも分かるけど……この状況で何キメ顔してんの!?)


 冷静にツッコミを入れてみせたが、頬の熱だけはどうにも誤魔化せなかった。


 だがノアの笑顔が、加速と共に徐々にひきつっていく。


「……ね、ねえさん。実は……」

「……?」

「止まり方、考えてなかった!」


 ゴゴゴゴゴ……!


「なんですとーー!?」


 氷のスライダーは容赦なく加速し、中庭へ猛スピードで一直線。


(ちょ、ちょっと待って!? このままじゃ全力でギルバート様に突っ込むコースなんだけどーーっ!?)


 賢者ギルバートの姿が近づくにつれ、その輪郭がますます明確になっていく。


 ぶつかる──!


 そう思った瞬間、ギルバートがゆるりと指をくいっと曲げた。

 その仕草ひとつで、氷のスライダーの終端がぐにゃりと歪む。


「えっ!?」「ま、曲がった!?」


 最終部はありえない角度──九十度に折れ曲がり、軌道を完全に反転。

 次の瞬間、私とノアはロケットのように空へと打ち上げられた。


 氷のスライダーの猛スピードで打ち上げられた私とノアは、想定よりはるか上空まで放り出された。


「う、うそぉぉぉぉぉーーーっ!!」

「ちょ、ねえさんしっかりつかまってーっ!!」


 青空に悲鳴が響き、中庭からのギルバートの視線が一斉にこちらに釘付けになる。


(ギルバート様……! 手をかかげて“結構とんだなー”みたいな表情やめてください!!)


 余りの勢いに、私を抱っこしていたノアもたまらず手を放し、離れ離れになってしまう。


「──浮遊フーレ!」


 ノアの口から風魔法の詠唱がほとばしり、彼の身体はふわりと風に抱かれて落下を減速させる。


「姉さん、手を!」


 必死に片腕を伸ばしてくるノア。


(あと少し──!)


 私も手を伸ばす。だが──指先がかすめただけで、掴むことはできなかった。


「ノアっ!」

「姉さん!!」


 次の瞬間、私の身体は空を裂くように急降下。

 景色が逆さまに流れ落ち、空気の刃が頬を切り裂くように突き刺さる。

 心臓は胸を叩き破るほどに暴れ、肺の奥まで冷気で凍りついていく。


(剣速で……勢いを殺すか!?)


 一瞬、そんな無茶な選択肢が脳裏をよぎる。


 ──いや、この高さだ、ケガどころじゃない。


「あ、そうだ……!」


 私は咄嗟に鞄へ手を伸ばし、マルシス先生の授業で貰った魔導アイテムのグローブをとりだす。

 きゅっと指先まで通すと、手のひらに魔力の感触が馴染む。


(これなら──!)


 迫り来る地面へ、私は迷いなく手を突き出した。


「お願い!」


 魔力を込めた瞬間、グローブの紋様が鮮やかに緑色の光を放つ。

 次の瞬間、手のひらから烈風が吹き荒れ、落下の衝撃を正面から打ち消した。


 ドンッ、と砂煙が舞い上がる。

 だが──足はしっかりと大地を踏みしめていた。


(なんとか……成功!)


 息を吐き、胸の奥に張り詰めていた緊張がほどけていく。


 間もなく、ノアもふわふわと風に抱かれて着地した。


「ふぅ……ねえさん、やっぱ無茶するなぁ」

「ノアのせいでしょうが!」


 私は深呼吸をひとつついた。

 このグローブ、このまま愛用品にしてしまおうかと思うほどだ。


 ふと視線を上げると、ギルバートがこちらを見ていた。

 その手は、いつでも魔法を放てるように半ばまで構えられたままだ。

 私の失敗を見越し、即座に支えられるよう準備してくれていたのだろう。


 ありがとう賢者様。と胸の奥がじんわりと熱くなる。


 ギルバートはしばし私たちを見つめ──そして、肩を震わせた。


「……く、くくくっ」


 抑えきれぬ笑いが零れ、ついには声を張り上げて大爆笑となる。


「あははははっ! ワッハッハッハ!!」


「えっ……」


 あまりの反応に、私とノアは顔を見合わせて固まった。


 笑いの合間に、賢者は手を叩きながら言葉を紡ぐ。


「いやぁ……何百と講義をしてきたが、こんな登場をした生徒は──君たちが初めてだ!」


 やがてギルバートは笑いを収め、すっと立ち上がった。

 その瞳は先ほどまでの茶目っ気を一掃し、厳然たる賢者の光を宿している。


「……では、座りたまえ。時間も丁度だ!」


 空気が一変する。中庭に程よい緊張感が張り詰め、先ほどまでの騒動が嘘のように、私たちの背筋が自然と正された。


「それでは、授業を始める!」


 朗々とした声が大樹の影に響き渡る。


「イクリス魔獣モンスター学──講師はこの私、賢者ギルバート・ピアソンが務める!」


 私とノアは、大樹の下に据えられた平らな石に腰を下ろした。

 ついに始まる、賢者様の授業。胸の奥で高鳴る鼓動を押さえきれず、期待にわくわくしながら待ちかまえる。


 目を輝かせる双子を前に、ギルバートはひとつの巨大な大壺へと手を伸ばした。

 指先でその表面を軽く撫でた瞬間――。


 パコッ。


 壺の蓋が静かに浮かび上がり、中から色彩豊かな砂粒がふわりと宙へ舞い出す。

 砂は光を反射しながら渦を巻き、やがて――立体の世界地図を描き出した。


 その砂の地図は常に変化し続ける。

 風が吹けば海に波が立ち、雨や雪などの天候状況さえも表している。

 さすが賢者ギルバート──その再現度はあまりにも高い。


「すごい! 本物みたい」


 ノアが勢いよく立ち上がった、その時――。


 ガサッ、と音を立ててノアのリュックが転がった。

 勢いよく口が開き、中から色とりどりのモンスターフィギュアがドサドサとこぼれ落ちる。


「ぎゃっ……!」


 ノアの顔が青ざめる。授業中に“おもちゃ”を広げるのは、さすがにまずい。

 あわててかき集めようとする弟に、私も半ば腰を浮かせた。


 ギルバートがすっと歩み寄り、床に散らばったフィギュアのひとつへ指先を伸ばした。

 触れることなく――魔力でそれをふわりと引き寄せる。


「……ふむ。おお、これはちょうどいい」


 口元に笑みを浮かべると、残りのフィギュアたちまでも宙へと持ち上がった。

 色とりどりの人形が浮遊し、光に照らされてくるくるとい砂の立体地図へと沈み込んでいく。


 ザラリ……と音を立て、砂が波紋のように広がった。

 次の瞬間、砂の中から魔獣たちの姿が浮かび上がり、まるで生きているかのように動き始めた。

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― 新着の感想 ―
文字通り飛んで向かったんですねw (´ε`) おもちゃを使った授業は一体どうなるのか? (´・ω・`) 魔法の幻想的な描写が多くてギルバートの授業は否応なく期待してしまいますね〜。 (*´ω`*)
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