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付与された最強の剣技で世界を守れって、本気ですか? ~授かりし禁忌の力は全てのハンデを無効化する~【28000PV突破感謝!】  作者: 寝る前の妄想人
第3章 賢者の空中庭園

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第80話 赤髪エルフ──マルシスによるイクリス魔法学①「魔法階級」

 賢者の空中庭園ギルバートレアー 講義室


 ふたりきりの教室には、静かに張り詰めた空気が漂っていた。

 椅子の軋む音ひとつなく、カナリアはまっすぐ前を見つめている。


 その隣では──弟ノアが、瞼をこくんこくんと揺らしながら、今にも眠りそうに舟を漕いでいた。

 時おり肩がびくりと跳ねては、無理やり意識を戻している様子が、かえって目立ってしまっている。


(起きてるつもりなんだろうけど……ほぼ寝てるな。これは)


 カナリアは小さくため息をつきつつ、視線だけは前から逸らさなかった。


 教壇に立つのは、赤髪のエルフ──マルシス女教授。

 白衣風の装束にリボンタイをきゅっと結び、静かな口調で言葉を紡ぐたび、赤い髪が光を受けてきらりと揺れた。


「──というわけで、少し前置きが長くなりましたが……さて、あらためて“魔法”とは一体何か。分かりやすく説明しましょう」


 彼女が指先を軽く振ると、ふわりと宙に淡い光が灯る。

 魔力で作られた“光のチョーク”が浮かび、空中へすらすらと文字を描いていった。


「魔法とは、“術者のマナを星──つまり属性神に捧げることで発現する、奇跡の現象”です」


 白い光の文字がゆらゆらと揺れ、教室の壁や机に反射して、ふたりの顔を柔らかく照らす。


「属性を持つからといって、誰もが魔法を扱えるわけではありません。聖印核に刻まれた才覚とはまた別に、“魔術師としての適性”が必要です。つまり、魔法を扱えるというのは──選ばれた才能、ということですね」


 再び指をひと振りすると、光の列が縦に並び、六つの階層が宙に浮かび上がった。


「魔法には、基本的にこの六つの階級が存在します。用途も威力も、段階によって大きく異なります」


 光の文字たちは、解説に合わせてひとつずつ輝きを増しながら、ふわりと揺れた。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 灯火級トーチ…… 火を灯す、水を清める、小さな風を起こすなど、日常生活魔法。


 霧術級ミスト …… 煙幕や水蒸気、火球など、初歩的な攻撃や補助魔法等。


 秘術級ミスティック …… 実戦向きの攻防及び回復魔法。兵士や前衛の魔術師が扱う。


 精霊級スピリット …… 自然現象を操る高位魔法。精霊と同等の威力を持つ。


 天空級ゼファー …… 結界、天候操作、都市防衛。国家戦力に匹敵する大魔法。


 星級アストラル …… 神話級の領域。到達者は歴史に名を刻む、究極の魔術階級。


 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「補足しますと──冒険者ギルドで“魔術師”として認定されるには、霧術級ミスト以上の魔法が使えることが条件です。一般人が到達できる限界は、秘術級まで。それ以上は……選ばれた者のみの領域です」


 その言葉を聞いたリアは、そっと視線を落とした。机に置いた手を握りしめる。


(……くぅぅぅ、いいなぁ! 我が魔力はすでにアストラル級に達している……とか、言ってみたかった)

(つまりは、魔法が扱える一般人の限界は秘術級ミスティックまでってことね)


 ふと、マルシスが双子の方へ目を向ける。


「ノア君の氷魔法は、現時点でもすでに精霊級に達しています。年齢を考慮すれば、かなりの規格外。将来的には、さらにその上──天空級も視野に入るでしょう」


 ノアは最初こそ背筋を伸ばして聞いていたが、説明が進むうちに瞼が重くなり……ついに背もたれに身を預け、ぼんやりとあくびをひとつ。


 まるで緊張感とは無縁の世界。

 その様子を見たカナリアは肘で小突いてアシストするが、当の本人はまるで意に介さない。


 その様子に、マルシスの目尻がピクリと動いた──が、講義を続けた。


「さて……カナリアさん、あなたについても触れておきましょう」


 カナリアが「えっ?」ときょとんとした目を向ける。


「あなたには“聖環”が存在しない。つまり、先天属性がない。そのため魔法は使えません。ですが──それはすべてにおいて不利とは限らないのです」


「どういう事です……?」


「この星のあらゆる生物は、必ず属性を持ちます。それは、常に“有利と不利”の相手がいるということ。しかし──あなたには“属性が存在しない”。それは、どんな属性からも極端な弱点を突かれない、ということでもあります」


 リアは、はっとしたように顔を上げた。


「さらに──あなたには“刀神の才覚”がある。魔法は使えずとも、接近戦においては最高の才能を持つ者。敵を自分の土俵に引き込めば……あなたは誰よりも強くなれるでしょう」


 マルシスは人差し指を立てて、やや厳しめの口調で続けた。


「ただし。魔法攻撃に対する魔法防御も行使できないのも事実。今後はその対策が必要になります。対魔法装備、耐性防具、魔道具の活用が必要になります……ですが戦い方を工夫すれば、十分に補えます」


「……なるほど」


 リアは小さく返事をして、胸元で手を握りしめた。


(属性って……ジャンケンみたいなものなんだ。火は水に弱くて、風に強い。でも、私はその輪の外にいる。なら──魔法に対する防御術さえどうにかできれば……なんとか、なるかもしれない)


 マルシスが静かにリアの左肩へ手を伸ばし、聖印の位置に触れる。


「失礼します」


 マルシスの右目に宿す“解析”の聖印が淡い光を帯びると同時に、指先に一筋の光が走る。

 その緑の瞳が細められた。


「……なるほど。確かに属性の感覚はまったくありませんね」


 カナリアはその様子をじっと見つめる。


(マルシスさんの右目……あれが聖印? 私の魔力情報を読み取ってる? 鑑定系なのかな)


「不思議な感覚です。本当に“属性”の気配がない。でも魔力がないわけではないですよ、ほら──」


 小さく閉じた掌に、かすかに青白い光が灯る。


「魔力自体は発せられる。でも……それを混ぜ合わせる“エレメンタル”が、どこにも存在しない。だから発現しないんですね。つまり……魔力だけが、星に還っていってる」


「……さしずめ、星から見れば、カナリアさんは“マナだけ貢いでくれる、都合のいい女”という事です」


「なんか嫌だなその例え」


「……というわけで、そんなあなたに朗報です。──じゃじゃーん」


 無表情な顔に似合わぬテンションで、マルシスは机の引き出しから何かを取り出す。


「“魔力注入型・魔法発現機”です。一般的にはマジックアイテムと呼ばれています。詠唱も才覚も不要。魔力を込めれば誰でも魔法が発動する、便利アイテムですね。高価なうえ応用は利きませんが……戦術の幅を広げるには有効。魔力検知されにくいのも利点です」


「すごい! ちょっと見せてください!」


(ま、まさかの魔導具ッ……! これ、もしかして……飛べる? 浮ける? 空爆、いける!?)


 カナリアが目を輝かせて前のめりになる。


「そのグローブを装着し、魔力を込めると──」


 マルシスの説明が終わる前に、机上のグローブを颯爽と装着する。

 緑の宝石がはめ込まれたその装置に、魔力を込めた──その瞬間。


 ――ボンッ!


 教室内に突風が巻き起こった。


 髪が逆立ち、マルシスが教材用に集めた書類が一気に宙へと舞い上がる。

 カナリアの脳内では“魔法少女カナリア”の妄想が爆走する──が、

 暴風の中、髪と紙がぐちゃぐちゃになって我に返った。


「うわっ! ごめんなさーい!」


(いい年して私ったら何やってるの!もう!)


 舞い上がった書類の群れが、空中でピタリと停止する。

 マルシスが、まるで空をなぞるように指先を動かし、魔力で紙を操作していた。


 紙たちは寸分の乱れもなく整列し、静かに空中浮遊する。


「……このように、慣れない人が使う場合の魔力の調整は、慎重にお願いします」


 無表情のまま、静かにひと言。


 その一言で、カナリアはしゅんとおとなしくなった。


「はぁい……」


(どうしても魔法に憧れがあって、ちょっと暴走してしまいました)


 マルシスはちらりとノアの方を見て、ため息まじりにぽつりと漏らす。


「……今の騒ぎでも起きませんか」


 ちらりとノアを見る。そこには、も完全に夢の世界へと旅立った少年の姿があった。

 口元はうっすら半開き。手は机の上にぐでんと伸び、まるで“ここが寝る場所だ”とでも言わんばかりの無防備さ。


 まつげの奥でまどろむ瞳はぴくりとも動かず、時おり小さな寝息が聞こえるほどの熟睡ぶりだった。


 (……これは、完全に落ちてますね)


 マルシスは目元をわずかに細めると、静かに右手で銃の構えをとる。

 指先から“ぴゅっ”と、小さな魔法の水弾を飛ばす。

 それはノアの頬めがけて真っ直ぐに──


 ぴしゅっ……ぼすっ。


 ノアの机から、土の壁が音もなくせり上がり、水弾を吸収して消えた。


「……ふむ」


 マルシスは次に、実験用の小さなエレメンタルストーンを風の魔法でいくつか宙に浮かべ、ノアめがけて飛ばす。


 ビュン!


 ──だが。


 緑石は途中で炎に包まれて燃え尽き、

 光石は闇に吸い込まれ、

 赤石は冷気で凍り落ち、

 黄石は風に弾き返され、ふわふわと教壇へ戻ってきた。


 どれも、ノアには触れることすらできない。


「無意識下で、すべて反属性で対応しますか」

「……魔導都市エルドランシアで“天才”と言われた私が、この才能の前では茶番のようですね」


 マルシスの目線の先には、机に突っ伏したまま──

 完全自動防御を成立させて眠っている少年、ノア・グレンハースト。


「……嫉妬、すら起きませんね。これはもう、ある意味尊敬の域です」


 そうぼやきながら、空中に散っていた書類が一か所に集まり、紙の巨大な扇子はりせんを形作る。


 そして──


 バシンッ!


 ノアの机に、容赦なく叩きつけた。


「ノア君。起きなさい。授業中ですよ」


「うひゃっ!?」


 ノアが跳ね起きる。

 教室はふたたび、静けさを取り戻した。


 リアはぽかんとした顔でその様子を見つめ、心の中でぽつりと呟く。


(魔法が効かない相手は……物理で起こすのね)

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― 新着の感想 ―
マルシスの魔法講座は分かりやすかったです。 ただの食いしん坊キャラでは無い! ヾ(・ω・*)ノᕦ(ò_óˇ)ᕤ 苦手属性が無いのは、悪く無い性能かと。 ノアは寝ていても自動防御で羨ましいです。 (*…
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