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付与された最強の剣技で世界を守れって、本気ですか? ~授かりし禁忌の力は全てのハンデを無効化する~【28000PV突破感謝!】  作者: 寝る前の妄想人
第3章 賢者の空中庭園

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第69話 賢者の空中庭園

 朝日が差し込むハースベルの庭先に、双子の元気な声が響いた。


「父さん! 母さん! いってきますっ!」


 リアとノアは声を揃えて、門へと駆け出す。

 旅装束を模した軽装の上着に、小さな肩掛け鞄が揺れ、朝の光を跳ね返していた。


 門の前には、緋色のショートカットのエルフ――マルシスが魔導書を片手に立っていた。

 タイトな錬金術師風の装束に身を包み、どこか気品を漂わせながらも、相変わらず表情は涼しげで動かない。


 その姿を見つけた母・シンシアが、小走りで駆け寄る。

 手にした布張りのバスケットを、恥ずかしそうに差し出した。


「マルシスさん、これ……よければ皆さんでどうぞ」


「これは?」


「今朝、早起きしてフィンベリーパイを焼いたんです。甘すぎないように、ちょっとだけレモンをきかせてます」


 マルシスはまばたきを一度だけし、わずかに耳がピクリと動いた。


「……ありがとうございます。甘いものは、好きです。私が全部食べますのでご安心を」


「み、みなさんで召し上がってくださいね……?」


 口調は変わらず淡々としていたが、声音にほのかな柔らかさが滲んでいた。

 それを見て、エルドが嬉しそうに頷いた。


「うちの妻のパイは最高なんですよ。きっと気に入ってもらえると思います」


「あなた、もう……お客様の前で褒めないで」


 シンシアは頬を染めながら、笑顔をこぼす。

 エルドは照れたように肩をすくめ、ふわりと彼女の腰に腕を回した。


「パイだけじゃない。スープも、焼き魚も、……いや、君の全部が最高だよ」


 その言葉に、シンシアはふっと目を見開いて、恥ずかしそうに微笑む。


「……あなた」


 甘い空気が、朝の日差しの中にふわっと広がる。


 夫婦のいちゃこらを見背つけられたカナリアは、ジト目であきれたようにぼやいた。


(はいはい、朝からごちそうさまです)


「また始まったよ~見てらんない!」


 ノアが顔をそむけながら、マルシスの背中を軽く押す。


「早く行こう! マルシスさん!」


 タイミングを合わせたように双子が声を重ね、早い出発を促す。


「では、夕刻には戻ります」


 マルシスは簡潔にそう言うと、礼儀正しく一礼した。

 続いて、リアとノアの前に、小さな銀鎖のペンダントを一つずつ差し出す。

 その中心には、淡く揺れる光を宿した宝石が埋め込まれていた。


「これは……?」


「転移用の位置安定装置です。移動時に、体の座標を保つ役目を果たします」


 淡々と説明しながら、マルシスは取り出した小型の黒杖をすっと構える。


「……離れず、しっかり私につかまってください。飛びますよ」


「えっ!? どこかに“飛ぶ”の!?」


 双子は一瞬戸惑い、すぐに慌ててマルシスの身体にしがみついた。

 リアは腰に、ノアは腕に、それぞれ掴まりながら、ぎゅっと力を入れる。


 マルシスは空を仰ぎ、静かに詠唱を口にした。


「風よ、光よ、空へ導き、道を繋げ──」


 その瞬間、足元からふわりと緑色の風が巻き起こる。

 温かな光が三人の身体を優しく包み、衣の裾がふわりと舞い上がる。


「うわあっ!」

「浮いてる……!?」


 空気がわずかに震えたかと思った、その瞬間――


「……あ、言い忘れていましたが」


 マルシスが視線を空に向けたまま、まるで天気の話でもするように淡々と告げる。


「初回の転移時、吐く人が多いので気をつけてください。……私の服が汚れてしまいますので」


「えっ!?」「そんなにすごいの!?」


 双子の顔が同時にひきつる。


「空転の律、《ルマフーレ》」!


 詠唱が終わった次の瞬間にはもう――

 一筋の光の軌道が空に向かったかと思うと、三人の姿は風と光に溶けるようにその場から掻き消えた。

 残されたのは、ひとひらの光の粒だけ。


 門の前に立ち尽くすエルドとシンシアは、空を見上げたまましばらく沈黙していた。

 やがてそよ風が頬を撫で、二人は同時にふっと微笑む。


「すごいなぁ……」


 呟くエルドの横で、シンシアがちらりと夫を見た。


「ねぇ、あなた……」


「ふたりがいないと寂しい、って話だろ?」


 エルドは笑って、空を見上げる。


「うん、俺もそう思ってた」


「それもあるけど……」


 シンシアはそっと目を細め、少しだけ照れくさそうに、でもどこか真剣な眼差しで言った。


「ねぇ、私たち……まだ二十代じゃない?」


 エルドが、ちらと視線を向ける。


「……ふたりに兄弟がいても、いいかなって思ったことない?」


 一瞬の間。

 そして、エルドはにやりと笑い、何の前触れもなくシンシアを軽々とお姫様抱っこした。


「今日は仕事、休みにしよう。久々に二人きりで、ゆっくり過ごそうか」


「きゃっ、も、もう……っ!」


 軽く小突きながらも、シンシアの頬はほんのりと赤らんでいた。


 やがて家の扉が静かに閉まり、

 ハースベルの朝に、ひとときの熱の余韻が流れていった。





 キュィィィィィン――!


 鋭い高音とともに、全身を吹き抜ける突風が襲う。

 まるで光のトンネルを滑っているような感覚。

 上下の感覚も曖昧になり、身体がふわりと浮いた。


(うわっ、なにこれ……! やば、酔う……!)


 リアは目をぎゅっと閉じ、ノアも必死で風に流されながらも体勢を保つ。

 空間が揺れる中、マルシスの淡々とした声が響いた。


「……間もなくです。ご注意を」


 上下左右の感覚が消えたまま――


「ドサッ!」


 二人同時に尻もちをついた。

 衝撃で少し跳ねた鞄が地面に転がり、リアは小さく呻き声を漏らす。


「いったた……もー……」




 ――やがて、世界がゆっくりと静まり、景色が輪郭を取り戻していく。


「感覚が戻りましたら、お声かけ下さい。」


 マルシスの落ち着いた声が耳に届いたときには、ぼんやりとしていた視界がはっきりと形を成し始めていた。

 リアとノアはまばたきを繰り返しながら、ゆっくりと足元に意識を戻していく。


 ふと、空気を吸い込んだ瞬間――胸がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。

 どうやら、ここは地上よりも空気が少し薄いらしい。


 だがそれすらも、目の前に広がる光景の前では些細なことだった。


 蒼く澄んだ空がどこまでも続き、太陽の光がやわらかく肌を撫でる。

 朝の風が頬を抜け、髪をそっと揺らす。


 足元には朝露に濡れた草が茂り、一歩踏み出すたびに冷たくみずみずしい感触が伝わってきた。


 そして島の縁へ近づいたその時――

 遥か下に広がる大地が、まるで小さなジオラマのように小さく霞んで見えていた。


 その景色すべてが、まるで空想画の中の世界のようだった。


「わっ、これめっちゃすごい! 雲の上じゃん!」

「……ほんとに浮いてる……信じられない……」


 カナリアとノアは顔を見合わせ、再び視線を空へと戻す。


 身体がふわりと浮くような錯覚に包まれながら、胸の奥からじわじわとわき上がる高揚感。

 好奇心、不安、期待――さまざまな感情が入り混じり、未知の場所で始まる新たな日々を予感させた。


(やば……めっちゃファンタジーの世界じゃん……感動)


 そんなカナリアの内心をよそに、マルシスはいつもの無表情で淡々と言葉を続ける。


「お二人とも、素晴らしい身体能力と体幹ですね。……嘔吐する様子すらありませんね」


「どうやってここまで来たの!? さっきの魔法なら、どこへでも行けちゃうの?」


 興味津々で問いかけるノアに、マルシスは珍しく、得意げな笑みを浮かべた。


「それもこれも、偉大なる賢者――ギルバート様の発明と魔法研究の成果です」


 マルシスは少しだけ胸を張ると、澄んだ青空の中に指を伸ばした。

 その先には、宝石のように輝く巨大な岩塊が悠々と宙を漂っていた。


「あの岩をご覧ください。名称を"磁空石"と言い、とても稀少な鉱石です」

「磁空石は、小片でも本体に引かれ合う集合性を持っています。その特性を利用し、風と光のマナを流し込むことで――」


 マルシスは、さきほど渡したペンダントをちらりと見やりながら続けた。


「ちなみにそのペンダントも、磁空石の欠片を封じたものです。転移中の位置安定にも役立っています」


 そこまで言いかけたところで、再び語り口調に戻る。


「……さらに、ギルバート様が開発された魔ほ――」


 カツン、と控えめな音が響いた。


「ハウッ……」


 マルシスの頭に、杖の先が軽く当たる。


「なーんでお前が得意気に語ってるんだ」


 いつの間にか隣に立っていたのは、白髪まじりの髪に深い知性を宿した瞳、落ち着いたローブ姿の賢者――ギルバート・ピアソンだった。



「ようこそ。カナリア、ノア。賢者の空中庭園――ギルバート・レアーへ」



 その声が静かに響いた瞬間、風が吹き抜け周囲を覆っていた霧雲がすぅ……と音もなく晴れていく。


 ゆっくりと視界が開けていく中、二人の目の前に現れたのは――


 無数の空島が空に浮かび、虹のような浮遊橋がゆるやかに連なる幻想的な大地。

 風にそよぐ草花が陽光を受けてきらめき、空に咲くように舞い上がる。


 それは、まるで伝説の中にしか存在しないはずの“空の楽園”そのものだった。

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― 新着の感想 ―
移動魔法で吐く話がでるのは最近だと珍しいですね〜。 目眩や立ち眩みで済ませる作品が多いのは、ゲ◯の印象が悪いからかも? (´ε`) 空中庭園……なんだろ、ラ◯ュタみたいな感じかな? (´・ω・`) …
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