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付与された最強の剣技で世界を守れって、本気ですか? ~授かりし禁忌の力は全てのハンデを無効化する~【28000PV突破感謝!】  作者: 寝る前の妄想人
第四章 追憶は剣の輝き

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第170話 禁書 追憶回帰 アデル・ハーロウ『復讐』⑦

 アデルとユージンは収穫祭の会場へと到着した。

 村の奥に設けられた大きな広場では、収穫祭が賑やかに進んでいる。


「カンパーイ!」

「森と湖の恵みに感謝を!」


 楽器の音色が刻む拍子に合わせて、人々が集い、笑い、杯を交わす。

 屋台の明かりが次々と灯り、香ばしい匂いと甘い酒の気配が、夜の空気を満たしていく。


 広場のさらに奥側。

 火の明かりの向こう側には、村の裏手に広がる湖があった。


 水面は静まり返り、揺れる炎の光と賑わう人々をぼんやりと映している。


「結局ゴブリンなんてこないんじゃないか!?」

「森にいたのは確かみたいだが、襲ってくるとは限らないよな!」

「祝祭を中止にしなかった。シスター・ライアにも感謝しないと」


 周囲には森と霧、そして後ろには湖。

 村人たちは、その地形に守られるように集い、襲撃の疑いよりも酒と音楽に身を委ねている。


 会場に据えられた、大きな火柱の前へと、一人の踊り手が歩み出た。


 村の伝統衣装に身を包んだ、アデルの姉、マリン・ハーロウだった。


「マリンお姉ちゃんキレイ……」

「私も来年は巫女になりたい」


 彼女が舞う度に、火の光を受けて揺れる。

 刺繍に施された模様が、まるで生きているかのように浮かび上がった。


 祝祭は最高潮へと向かっていく。

 広場に集まった人々は、誰もが息を呑み、言葉を失ってマリンを見つめていた。


 そして、アデルの予言通り、巫女の舞が戦いの幕開けとなった。


 村の唯一の出入口に設けられた高台。


 弓矢で警戒する村人たちの中に――大人に混じって、闇夜に染まった森を見下ろす一つの影があった。


 アデルの親友の一人、ジェイク。


 彼は、親指と人差し指で小さな輪をつくり、そこから片目を覗き込むようにして、村の周囲を取り囲む森を見渡している。


 決して、遊んでいるわけではない。


 彼の輝く瞳には、遥か遠方までを寸分の狂いもなく映し出す。


 『完全視野』の聖印が、静かに輝いていた。


 闇でさえ、彼の視界では何も映らぬ黒ではない。


 森の奥――木々の隙間に、地を這うように広がる魔の気配。

 無数の赤い眼光が、村を包囲するように、不気味に輝いている。


「……来た!」


 理解したその瞬間に、ジェイクは迷わず弓を引き絞り、夜空へと狙いを定める。


 放たれたのは、――警告の矢。


 キュウウウウウウウン……!!


 甲高く、長く引き伸ばされた音が、夜空を裂くように鳴り響く。


 次の瞬間、村の空気が一変した。


 兵士たちが一斉に顔を上げ、武器を握り直す。

 武装した村民たちが、息を詰め、配置につく。


 緊張が、フィッシー村全ての者に連鎖する。


「ゴブリンどもだ! 来るぞおおおおおお!!」


 怒号が上がり、鐘が鳴り、足音が重なった。


 無数の影が、防壁へ向かって突撃してくる。


「ギャギャギャギャ! コロセぇぇぇ!」


 獣じみた咆哮が、村の周囲に一斉に響き渡る。

 開戦の合図は村の奥、祭りの会場まで鳴り響いた。


 キュウウウウウウウン……!!


「ジェイクの合図だ!」


 アデルは人波をかき分け、マリンのもとへ駆け寄った。


「姉さんは、安全な所へ!」


 即座に、マリンが首を振る。


「だめよ! 一緒にいるんでしょ!?」


 一瞬だけ、視線が交わる。――時間が、ない。


「……一匹でも多く、食い止めてくる!」


 アデルは言い切り、踵を返した。


「ユージン! 子供たちを頼む!」


 振り向きざまに叫ぶと、ユージンが力強く頷く。


「任せて!」


 その返事を背に、アデルは走り出した。


 戦いが、始まっている場所へ。


 ◇ーー


 村の入口では、高台から放たれる魔法と弓矢による遠距離攻撃が効果を発揮し、押し寄せるゴブリンたちを次々と蹴散らしていた。


 矢が闇を裂き、魔法の光が弾ける。

 防壁に辿り着く前に、倒れていくゴブリンも多い。


 隊長が戦況を見渡し、声を張り上げた。


「よし! アデルの情報のおかげで、有利に立てている! このまま数を減らせ! 入口に近づけさせるな!」


 ゴブリン本隊のさらに奥。

 屈強なボブゴブリンたちに担がれた粗末な玉座の上で、赤黒い王冠を戴せた一体のゴブリンが、悠然と鎮座していた。


 ――ゴブリン君主ロード・レッドキャップ。


 その手に握られた角笛が、夜空に向けて掲げられる。


 ブォオオオ……


 低く、不吉な音が森に響いた。


 次の瞬間。突撃していたゴブリンたちが、一斉に動きを止め、命令を待っていたかのように、森の奥へと一斉に引いていく。


「……ゴブリンたちが、引いたぞ?」

「俺たちに、恐れをなしたんだ!」


 安堵と歓声が、入口付近に広がった。


 だがその退却は、戦略的な一時撤退。むしろアレに巻き込まれない為のゴブリン達の回避行動。


 ズン……ズン……


 地鳴りのような振動が、足元から伝わり、地面を揺らす。


 次第にそれは、重なり――


 ドッドッドッドドドドドドドドドドド……!


 何かが、巨大な何かが近づいてきている。


「隊長! なにか……森の奥から、近づいてきます!」


「なにっ! もっとよく確認しろ!」


 見張りの兵士の声が、わずかに裏返った。


 次の瞬間。

 森の奥で、木々がつぎつぎと薙ぎ倒されていく。


 太い幹がへし折られ、枝葉が宙を舞い、

 その破壊を引き連れるように――それは、村へと迫ってくる。


 兵士や村人が、高台からその姿を捉えた時には、すでに遅かった。


 ゴブリンライダーに手綱を引かれ、二体の岩犀ロック・ライノが、入口へと突進してくる。


 巨体が地を踏み砕き、角が夜を切り裂く。


 ――バゴオオオオオオンッ!!


 凄まじい衝撃音とともに、強固に張り巡らされていたバリケードが、その圧倒的な質量を前に、紙屑のように砕け散った。


 入口を守っていた兵士たちと村人が、衝撃に耐えきれず、次々と吹き飛ばされる。


「ぐわあああああああ!」


 土煙が舞い上がり、視界が一瞬、白に染まる。


「ぐおっ……! 一体、なにが――」


 兵士達が呻きながら起き上がろうとしたが、煙の向こうから、影が飛び込んできた。


 ――ゴブリン。


 振り下ろされた刃が、迷いなく何度も体に突き立てられる。


「ギャギャギャ! ハイレタ!」

「ウバウ! コロス!」


 叫び声とともに、身体が崩れ落ちた。


 突破された入口から、武装した大量のゴブリンたちが、濁流のようになだれ込んでくる。


 隊長が、血と土にまみれた戦場を睨み据え、叫んだ。


「体勢を立て直せ! お前達いくぞおおおっ!!」


 その声を合図に、兵士と村人が再び前へ出る。


 剣がぶつかり、盾が弾かれ、怒号と悲鳴が入り乱れる。


 そこから先は、もはや陣形も何もなかった。


 人とゴブリンが入り乱れる、血みどろの白兵戦へと突入した。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 子供だけが通れる近道を走り抜け、アデルは村の入口付近へと辿り着いた。


 ――だが。


 そこに広がっていたのは、あまりに凄惨な光景であった。


 建物には火が放たれ、赤々と燃え上がっている。

 地面には、無数の村人とゴブリンの死体が折り重なるように転がっていた。


 血と煤の匂いが、喉の奥にまとわりつく。


「そんな……」


 思わず、声が漏れる。


「これじゃ……昔、見た光景と同じじゃないか……」


 驚愕と焦りに縫い止められ、アデルはその場に立ち尽くした。


 ――その背後。


 歪な剣を手にしたゴブリンが、足音を殺し、忍び寄る。


 次の瞬間、影が跳ねた。


「しまった!」


 振り向くより早く、刃が振り下ろされ――


暗黒槍ナイトスピア!」


 鋭く放たれた声と同時に、影が凝縮し闇の槍がゴブリンの身体を貫いた。


 断末魔も上げられぬまま、ゴブリンは崩れ落ちる。


 そこに立っていたのは――満身創痍のダークエルフ、クレットだった。


「アデル……もう村はだめだ。逃げろ」


「クレットさん……血が……!」


視線を落とすと、腹部から血が滲み、服を赤く染めている。


 それでも、クレットは自嘲気味に口角を上げた。


「……あんたの言う通りだな。ちゃんと戦装束に着替えてて、正解だったよ。普段着だったら……とっくに死んでた」


 アデルはクレットの肩を担ぎ、魔法具店の中へと滑り込んだ。


 扉を閉めると同時に、彼を床へ横たえる。


「今、手当します。動かないで」


 そう言いながら、治療の準備に手を伸ばす。だが、クレットは荒い息の合間に、無理やり笑った。


「あいつら……女なら見境ないからな……汚いもんぶら下げて、近づいてきたから……二十匹以上は、ぶっ殺してやったよ……」


 げほっ、と血混じりの咳。続けて、喉の奥から、がはっ、と嫌な音が漏れる。


「しゃべらないで!」


 アデルが声を荒げた、その瞬間。


 アデルが伸ばした手首を、クレットの手が掴んだ。


 力は弱い。だが、意志だけははっきりしている。


「……もう、いいんだ」


 掠れた声が、静かに続く。


「正直なところな……もう、体の感覚がない。たぶん……全身に、毒が回ってる」


「いや……助けます! 僕は、そのために、この時にこの時代に戻ってきたんだ!」


 アデルは、はっきりと言い切った。


 その必死さに応えるように、クレットは静かに、ほんの少しだけ笑った。


「あたし、ダークエルフだろ?」


 天井を見つめる視線が、どこか遠くを映す。


「本国の“白い奴ら”とは違ってさ……迫害や差別の対象として見られることが多くてね。生きていくのに、必死だった」


 少し間を置き、クレットは続ける。


「……そんなあたしでも、この村は受け入れてくれた」


 視線が、さらに遠くなる。


「でもさ……人として、やっちゃいけないことを、たくさんやってきた。結局、罰が当たったんだと思う」


 自嘲気味に、言葉が出る。


「女神さまは……見逃しちゃ、くれなかった」


 アデルは、その腕の中で、彼女の命が静かに消えていくのを感じてしまった。


「……なんで、お前が泣くんだよ。アデル」


 クレットが、かすかに笑った。


「死んじゃだめだ……! 生きのびてくれたら……今朝の話。了承します! 一緒に……あなたについていくから……だから……」


 アデルの声が、言葉が、震え途中で詰まる。


 クレットは、ゆっくりと目を細めた。


「……約束、覚えててくれたんだ。それに、私のために……泣いてくれる人間が、いるなんてね」


 掠れた息とともに、微かな笑みが浮かぶ。


「あたし、自慢できるものは……何もなかったけどさ……男の……見る目だけは、あった……ろ……? お前は死ぬな……アデル。」


 その言葉を最後に、クレットの身体から、ふっと力が抜けた。


 アデルの腕の中で、彼女の記憶と重みだけが、静かに残る。


 静かに彼女を横たわらせ、そっと、その瞳を手で覆った。


 そして、立ち上がる。


 外へ出た瞬間、待ち構えていたかのように無数のゴブリンが、アデルを取り囲む。


「コイツダ! ナカマ、タクサンコロシタ!」

「コロセェ!」


 一斉に、襲いかかってきた。


 だが――次の瞬間、閃光のような斬撃が走り、

 ゴブリンたちは肉片となって、ばらばらと崩れ落ちた。


(クレット……忘れない。そして、今は一人でも多く、救い出す)


 剣を握る手に、迷いはない。


「こいつらは……一匹たりとも、逃がさない」

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