閑話1
少し戻った話です。
これはまだアキリアが騎士長をしている時の話だ。
騎士長室だと言うのに何故か目の前でザイとイクトが何やら話し合いをしている。
「いいか、イクト。お前がこれから任務として向かう警護対象は騎士長の片思いの相手だ」
「おい!」
アキリアが慌てて立ち上がるが、ザイは無視するし、イクトも何故か真剣に話を聞いている。
「ファクトラン大公家の令嬢だが、ちょっと世間とズレている令嬢だ」
「失礼だろ!」
「だから、アキリアの想いも全然通じていない可能性が大いにある」
その言葉にアキリアは黙った。
「だからアキリアのことを知ってもらうために、機会があったらアキリアのことを話すんだ」
「機会ですか」
「そうだ。例えば令嬢の方から質問して来たら、10個ぐらい答えてやるんだ」
「わかりました」
「いや、わからなくていいから」
最早アキリアのツッコミも虚しい。あまりにも不安すぎる。
「やっぱり俺が護衛を」
そう言うとザイとイクトが同時に振り向き、首を横に振った。
「団長がダメだとおっしゃいました」
「お前はもう護衛には向かない」
二人にそう言われて大人しく椅子に座り直す。
「……、だから俺は別にリメラリエ嬢に惚れては」
そう言うとザイが白けた目を向けてくる。
「イルネア殿下に噛みつきそうな勢いで飛び出したって聞いたぞ」
「それは……」
「事実だろう。もっと潔くなれ」
ザイの言葉にアキリアは言葉に詰まる。
「本当にどうでもいいなら、リヴァランからの婚約の申込なんて、喜ばしいことだろ。祝ったらどうだ?実際そう言っているやつらはいっぱいいる」
その言葉に何も返せない。アキリアは、あのイルネアが彼女に触れたことすら許せなかった。正直他の誰が来ても許せる気にならなかった。
「行き遅れの令嬢と言われた彼女が、リヴァランの未来の王妃かもしれないなんて、大出世もいいところだろ。どうして祝えない?」
ザイの言葉に、アキリアは何も返せない。返さないどころか、そんな想像したくもなかった。
「変に格好つけてると、すぐに横から変なやつが出てきて掻っ攫われるって相場が決まってんの」
どこの相場だよと思ったが、これは後に正解だとわかる。
「……女性から言い寄られたことはあっても、言い寄ったことがない」
「ケンカ売ってんのかー!」
ザイの言葉に苦笑する。イクトも無表情で呆れられている気がする。
「違う、どうしたらいいかわからないんだ普通に。俺はこのままじゃ、何もできない」
「わかってんじゃん。そう、お前、ニルドールのままだと、なんもできないぞ」
アキリアは、養子に入った時に、アキリア=ニルドールとしては結婚しないこと国王と約束していた。アキリアには王家トランドールの血が流れてるいる。そのアキリアがニルドールで結婚をして、子供ができた場合、王位を巡って無用な争いが本人の意思に関係なく起こることが容易に想像できた。
アキリアはニルドールのうちは絶対に結婚はしてはならないし、できない。当然女性とそう言う関係になることも許されない。これは、大公家の当主であればその事実を知っている。
だからこそ、リメラリエの護衛には最適だったし、ファクトラン大公も護衛として側にいても、そう言う間違いだけは彼が起こさないことを知っていた。
ザイが知っているのは、アキリアが彼にそのことを話したことがあるからだ。イクトは何を言っているかわからないかもしれないが、口が固いことを理解している。
「お前って、そう言う条件があるから全然女性に興味がないのかと思ってたけど、健全な男だったみたいで俺は安心した!」
「バカにしてるのか?」
「ちょっとな」
と言って、ザイが笑う。だかこの友人もなんだかんだで婚約者すらいない。
「ザイ、そう言うお前は結婚しないのか?」
その言葉にイクトが反応した気がした。珍しい。
「俺?俺はまぁ、お前が無事に結婚できたら考えるさ」
「待つ意味あるのか?」
「そりゃ、お兄ちゃんから結婚してもらわないとな!」
「急に弟ぶるな」
「まぁ、これもあと少しかもしれないだろ?」
ザイは笑って言ったが、これも後に正解だとわかる。
名前が変わっても、変わらない関係性がすでにできていたが、それでも少し、寂しく思うのだ。




