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 リメラリエは、ぼんやりと図書室にいた。あの飲みの誘いから、一度もアキリアに会ってなかった。文官執務室から図書室へ行く時、二日続けて会ったため、また会うかなと思ったが、あれはどうやら奇跡だったらしく、あの後は会うことも、見かけることもなかった。

 ただ、忙しいのだろうなと、文官補佐をしているリメラリエでもわかる。隣国のリヴァランの使節団が来るからだ。しかも約20年ぶりと言うのだから、警備を担当する騎士たちはたまったものじゃないはずだ。


 リメラリエは、メディスに頼まれる資料を集め終わると、リヴァランについて記載された本を探した。

 リヴァランはトランドールと違い、魔力が今も多く残り、日常生活を過ごすにも魔力を使用していると聞いたことがある。

 他の国へ出たことのないリメラリエは、他国がどう言うところか、気になった。せっかく来るのだから見てみるのも良いかもしれないと思い、本を探し始めた。


 働きはじめて気づいたが、この国は仕事に対して割と緩い。前世の記憶の職場と比べるとすごい違いだ。

 多少図書室でサボっていたところで、誰も何も言わない。メディスにも頑張りすぎるなと言われた。あの文官執務室で一番働いているのは明らかにメディスだが……。

 

 そんなことを思いながらリヴァランの建国について書かれた本を見つける。内容は、リメラリエからするとなんか見たことあるな、と言う内容だった。

「世界の歴史って大体おんなじなのかな……」

 そんな呟きをしながら読み進める。


 リヴァランは、一人の非常に強い魔力持ちによる地域の統一が始まりのようだ。真紅の長い髪を持ったアイトリア=リヴァランと言う魔力持ちが、周辺域の暮らしを良くするためにリーダーとなって立ち上がったことがきっかけらしい。

 その地域はもともとあまり土地が豊かではなく、痩せた土地でギリギリの生活をしていた。そんな生活をどうにかしたいと、このアイトリアは常に思ってきた。彼は非常に強い魔力を持っていて、その魔力を活かすために、どうしたらいいかを考えた。

 魔力はあくまで媒体で、何かに使うとしても、大きなエネルギーが必要だ。そんな中、山脈近くの鉱山から、黒鉱石と呼ばれる石を見つけた。この石は普通の石ではなく、大昔に死んで土に還った生物たちのエネルギーを蓄えた石だった。

 これをみたアイトリアは使えると確信したらしい。その地域で一気に黒鉱石の採掘が始まった。


(石炭みたいなイメージか……)


 黒鉱石の採掘により、エネルギーの源が確保され、それにより魔力の使い勝手が圧倒的に良くなった。アイトリアを中心に、黒鉱石を使った新しい道具の発明が進む。発明が進むことでより効率的に黒鉱石の採掘が進むようになる。

 どんどんとそのエネルギーを使用することで、一気に地域は発展していき、アイトリアは周りに押されるように、その地域のリーダーとなった。それがリヴァランの始まりだった。


「ふうん……」

 そう思いながら続きを読もうと思ったが、思ったよりも時間が経っていることに気づき、あわてて立ち上がる。頼まれていた資料と共に、その本も借りていくことにし、踵を返した。



***



 あれから良いお酒を入手する余裕などないほど、アキリアは忙しい日々を過ごしていた。隣国のリヴァランが来るに当たっての準備に時間を取られて、リメラリエのことを気にする時間もなかった。ある意味アキリアには、有難いことだった。


 ザイには惚れたのなんだの言われたが、アキリア自身はそんな風には考えていなかった。確かに、リメラリエは他の貴族令嬢と違うところがあり、話しやすく、関わりやすい女性だった。屈託のない笑顔も好ましく思う。……、ただ、それだけだ。

 メディスとのやり取りを見てモヤモヤとしたが、所詮自分は、一時的な護衛騎士だ。それ以上でも以下でもない。それをよく自分に言い聞かせた。


 騎士宿舎の騎士長室には、アキリア、ザイ、そしてイクトがいた。

「あー、ついに今日からかー!」

 ザイの言葉にイクトが頷く。リヴァランは、今日から約2週間滞在する。アキリアもザイもすでに出迎えのための騎士としての正装になっていた。いつもの制服より装飾が多く、実用性はない。黒に金の刺繍が襟元や袖元にいくつも施されている。騎士団の腕章などもあり、正直動きづらい。

「イクト、しばらくここの対応を頼む」

「はい。かしこまりました」

 騎士宿舎側はイクトに任せ、アキリアとザイは騎士団長室に向かう。


 騎士団長室に向かうと、すでに他の班は騎士長と副長が集まっていた。

「また酒を飲みすぎてるのかと思ったぞ」

 一班のクァラが楽しそうに言ってくる。アキリアとザイの件は、周知の事実だ。しばらくネタにされる覚悟が必要だった。

「流石に飲んでません……」

 アキリアがげんなりして答えるとクァラが可笑しそうに笑う。


「始めるぞ」

 騎士団長の声に、全員が口を閉じる。

「いよいよリヴァランの使節団が来る。もう少しで、王都へ到着する知らせがあった。三班はすでに配置についていると思うが、二班も場内の配置に着くように。騎士長以上は城門へ行って出迎えだ」

 最終的な確認だけすると、副長は持ち場へ戻り、騎士長は、騎士団長と共に城門へ向かう。

 


 城門には、いつもより多くの騎士たちが配置されていた。アキリアの班に所属する騎士たちが黒い騎士服に身を包み姿勢良く並んでいる。

 少しすると、トランドールの出迎えの代表として、王子であるミリアルト=トランドールが姿を見せる。金色の髪に青い瞳をもつ、細い線の容姿で、今もやや不安げな表情をしていた。

 目があったような気がしたが、アキリアはサッと目を逸らした。


 ざわめきと共に使節団の姿が見えた。使節団の先頭は馬に乗っている者たちで、その後ろに馬車が続いていた。しかし、どの者が使節団の代表かは一目瞭然だった。

 

 先頭の黒い馬に、長い真紅の髪の若い男性が乗っていた。全身白の布地に、色鮮やかな刺繍が特徴的な長衣で、明らかにトランドールと異なる文化圏であることを示していた。金の装飾を手や首元にしており、背筋を伸ばし、前を見据える姿は、とても堂々たるものだった。

 また、後に続く者たちも、同じような服装で、もう少し色や刺繍が落ち着いたものになっている。これがリヴァランの正装なのだろう。


 丁度城門で一行が止まり、ミリアルト王子が一歩前に進みでる。すると、同時に黒い馬から赤髪の男が降りる。

 

「ようこそトランドールへ。ミリアルト=トランドールです」

 あらかじめ決められていただろう挨拶を王子がすると、相手も合わせるように挨拶を返す。

「イルネア=リヴァランだ」

「国王陛下がお待ちです」

 ミリアルト王子を先頭に、少し離れて騎士団長が歩き出し、その後ろをリヴァランの使節団が続く。馬や馬車は、別の入り口へ誘導される。

 アキリアはリヴァランの使節団の最後尾の後に続いた。



 歩いている間に、何人か城内で配置についている騎士や、城内で働く侍女たちを横目にしていく。彼らは使節団の邪魔にならないように、廊下の端に立ち、首を垂れる。

 国王の待つ謁見の間に向かうまでに赤い絨毯の敷かれた長く広い廊下がある。

 その手前にも同じように、廊下の端に寄り、頭を下げる姿の女性が見えた。


 すると、使節団の先頭で真紅の髪が列から離れるのが見えた。イルネア第一王子ーー長い真紅の髪を待つ彼が列から離れると、取り分け目立つ。彼が行こうとしてる方に視線を向け、アキリアはハッとして最後尾から、隊列を無視して走り始めた。


 イルネアは廊下の隅で頭を下げている女性の左手首をぐいっと掴んだ。掴まれた方は驚いて顔をあげる。

「見つけた」



 アキリアは手を掴まれた女性を庇うように、イルネアの前に立つ。

「お離しください。彼女が何か無礼を働きましたか?」

 アキリアの言葉に、イルネアは不思議そうな顔をする。

「いや?」

「彼女は、この城で働くものです。突然手を上げられては困ります」

 イルネアはリヴァランの使節団とはいえ、城内で自由に振る舞って良いわけではない。当然国王はそれを許さないだろう。

「それもそうだ。失礼した。……、また正式に」

 それだけ言うとイルネアはあっさりと手を離し、列の方へと戻っていった。


 アキリアが後ろを振り返ると、青ざめた様子の女性ーーリメラリエがいた。細い身体が小さく震えて、力なく掴まれていた左手を見つめている。

「……、リメラリエ嬢」

 静かに声をかけるとハッとしたようにリメラリエはアキリアに顔を向けた。

「アキリア様……」

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