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怒号と、提案


  *


三人が注視する中、倒れていたもう一人の令嬢が身を起こす。


 ──ゴトリ、と重い音が響く。金属で出来たそれを脱いでゆっくりと立ち上がったのは、戸惑いの表情を浮かべたガーネッタだった。髪には沢山の綿が塊となって付いていたが、頭を振り何とかそれを払い落とす。


「……こんな事になるなんて」


「ひい、痛い、ああ、血が、血が! 誰絵か、誰か──」


 その呟きはトパーゼンの苦悶の叫びに打ち消される。ガーネッタは血を流しのたうつ令嬢を見下ろし、そして周囲をゆっくりと見回した。皆は呆気に取られた表情で未だ固まったままだ。


「何、何が、起こったの!? アンタ何をしたの!? 答えなさい、ガーネッタ!」


 いち早く我に返ったサフィーリアが怒鳴ると、その声につられるようにルヴィエラとスピカもはっと息を飲む。三人は一旦魔銃を下ろし、状況を理解しようとガーネッタやトパーゼンに目を遣った。


 綿埃を払いながら視線を彷徨わせていたガーネッタは、少し躊躇しつつもしかし意を決したように口を開く。


「……わたくし、やはり死ぬのは嫌でしたので。ゼロになる瞬間、咄嗟にあの箱を被りましたの。重いと思っておりましたあの箱、……意外と軽かったのですわ」


 皆がガーネッタの指さすものに注目する。脱ぎ捨てられたそれは、あの魔銃が収められていた金属の箱であった。箱の側面には何か小さな物が当たったような深い凹みが出来ている。


「てっきり持ち上げられない程に重い物と思い込んでいたが、……どうやら金属の板ではなく、中空の材質で出来ていたようだね。それで見た目よりも随分軽かったのか」


 ルヴィエラが感心したように呟くと、隣でサフィーリアがトパーゼンを指さし再び怒鳴った。


「箱の材質なんてどうでもいいわ! 何でトパーゼンが倒れたのよ!?」


 怒号に紛れてスピカがトパーゼンの許によろよろと近付き、怪我の具合を診ようと試みる。しかしトパーゼンの水色だったドレスの上半身は血でぐっしょりと濡れ、止血などしようにも間に合わないであろう事は一目瞭然だった。


 ガーネッタはその様子を少し苦しげな表情で眺め、そしてまた箱に目を遣って言葉を零す。


「恐らく、トパーゼン様の撃った弾が箱に弾かれ跳ね返って、それが偶然トパーゼン様ご自身に当たってしまったのだと……。箱を被っていたわたくしが衝撃で倒れた程ですから、きっと弾の威力は相当だったのでしょう」


 ガーネッタの言葉に息を飲み、そしてルヴィエラは沸々と湧く怒りに顔を紅潮させた。


 ──この女は、トパーゼンを自分の行動で殺してしまう結果を導いたというのに、何故こんなに堂々と立っているのか。本来、死ぬのはガーネッタだった。その死を他人に転嫁したというのに、何故責任を感じて泣き崩れないのか、赦しを乞おうとしないのか──。


 ガーネッタを虐めの標的としてしか認識していないルヴィエラには、理解が出来なかった。怒りと共にガーネッタに魔銃を向ける。


「本来は君が死ぬ筈だったんだ、ガーネッタ! なのに何故そんなに悪びれない!? 何故そんなに普通に喋っていられる!? 謝れ、詫びろ、懺悔して罪を償え……!」


 魔銃を構えるルヴィエラに、しかしガーネッタは傍に落ちていた魔銃を拾い、ルヴィエラに銃口を向けた。それは一発目に弾が込められていたトパーゼンのものではなく、トパーゼンの様子を診る際に放り出されたスピカのものだった。


「──わたくしは、今までずっと我慢してまいりました」


 静かな声出ガーネッタが告げる。その落ち着いているが圧を含んだ声に、叫ぼうとしたサフィーリアさえ押し黙り、ガーネッタに注視した。


「貴女方はずっとわたくしを虐めの標的にしてまいりました。わたくしは何をされても、ただ黙って従っておりました。何をされようと、多少名誉や身体や精神が傷付けられようと、生きていさえすればどうにかなるものだ──そうわたくしは知っております。だからこそ、何をされようと耐えてまいりました」


 ガーネッタの瞳が燃えるように、深紅の奥で炎が揺らめいている。おどおどとしていた表情が引き締まり、それまで伏せ気味だった顔は堂々と上げられ、何かを覚悟したかのように背筋がピンと伸びている。


「しかし貴女方は命を差し出せと言った。犠牲になって死ねと言った。──それだけは、従えません。断固拒否させていただきます。このガーネッタ・ガーネット、命だけは決して譲れません。例えわたくし以外の誰が死のうとも!」


 凜とした声が皆の鼓膜を撃つ。雰囲気の変わったガーネッタに、誰もが怖じ気づいた。ルヴィエラは少し震える唇で、怯えたようにガーネッタに問う。


「ならば、君はどうするつもりだ。我々を殺すか? 復讐の為に、撃ち抜くというのか?」


「そんな、嫌よ、私! 死ぬのは嫌!」


 サフィーリアはガーネッタを睨みながらルヴィエラにしがみ付く。スピカはもう動かないトパーゼンの手を握り締めている。ガーネッタはそんな三人を順番に見回し、おもむろに首を振った。


「わたくし、無闇に殺生するつもりはございません。──ですので、賭けを致しませんか、ルヴィエラ様」


 そしてガーネッタは、今日初めての笑顔を見せた。


  *



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