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婚姻と、慣習


  *


 ルチルティアナが意を決し、言葉を紡ぎ始める。その声は火傷の後遺症で掠れてはいたが、確固たる意思をもって発せられたものだと誰もに思わせる響きを持っていた。


『高位貴族、公爵家や侯爵家の婚姻に際し、この王国ではある慣習が存在するのをご存じでしょうか。アメリア様は知っておられると思いますが、男性の方にはご存じ無い方も多いかと思われます』


 王家に準じ王族とも婚姻を交わす公爵家、そして王家の血筋を引く者とも婚姻を交わす可能性のある侯爵家。この王国において貴族の中でも、公爵と侯爵というのは特別な意味を持つ家柄であった。


『私の家は辺境伯であり、爵位の高さとしては侯爵と同等の価値を持つとも言われてはいますが、本当の意味においてはそれらには該当しません。また、我がクリストル家は女子の少ない家系でもあり、その慣習について恥ずかしながら私はそれまで全く知らなかったのです』


 黙ったままアメリアが頷き、先を促す。ルチルティアナは心を落ち着けるかのように大きく深呼吸すると、続きを語り始めた。


『ジェダ様のジェイド家は侯爵の家柄。故に、私が嫁ぐに際し、その慣習が適用されます。──その慣習とは、聖教会による、花嫁への身体検査です』


 ルチルティアナがそれについて知ったのは、つい最近の事だった。短い休暇の際にジェイド家を訪問した折、ジェダの母であるジェイド夫人から告げられたのだという。


 ジェイド夫人はルチルティアナを安心させようと、その身体検査について簡単に語って聞かせたようだ。曰く、形式だけのもので臆する事は無い。もし痣や古傷など何らかの瑕疵があったとしても、少し袖の下を渡すだけで丸く収まるのだ──と。


 元々の由来は、王族とも関わりを持つ可能性のある花嫁が、きちんと健康で子孫を残すのに問題が無いかを調べる為のものだったようだ。今は倣わしも形骸化しており、余程の事が無い限りは引っ掛かる事はまずないらしかった。


 しかし、とルチルティアナは続ける。


『この傷だらけの醜い下半身、とりわけ酷い状態の股を見られれば、花嫁に相応しくない──という判断を下されるであろう事は明白でした。それ程に、私の身体は有り得ないレベルで傷付いていたのです』


 二人は何度も話し合い、それを切り抜ける方法を模索した。


 そしてようやく──あの計画を思い付いた。


『怪我や傷ならば高位の治癒魔法を使えば治りますが、もうすっかり痕となった古い傷跡は治す事が出来ません。──ならば、傷跡を新しい傷にすればいい。そう私達は気付いたのです』


 傷跡を、新しい傷に。──その言葉の意味するところは。


『そうです、私はあの日、自ら……香油を被り、自ら、火を身体に放ったのです』


  *



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