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心理と、甘言


  *


 アメリアが目を移したスクリーンには、狂ったように笑いながら鞭を振り下ろす令嬢の姿があった。


 ──王子達と同じく、魔道具である鞭の力に浸食されて、友人を打ち据える事に悦びを感じているのだろう。


 そして床に倒れ伏し鞭打たれている令嬢は、ドレスがビリビリに破れ、白かったであろう肌は血で真っ赤に染まっている。痛々しい悲鳴と嗚咽を漏らしながら、涙と涎と鼻水と、そして吐瀉物を床に撒き散らしていた。


「あらあら、こちらも酷いものね」


「えてして人間というのは同じあやまちを犯すものでございますね。愚かしい……いや、面白いと言うべきでしょうか」


 表情を動かさず紅茶を啜るアメリアに同意し、ディアマンテスが哄笑を響かせる。


 ──アメリア達が誘拐し石牢に閉じ込めた生徒は、全員で二十人。それぞれ五人ずつ四つの組に分け、今は互いのグループの存在が分からないよう個別に対応している状態である。


 アメリアが王子達に最初のゲームの案内をしたのと同様に、二つ目の組である女生徒五人で構成されたグループには、ディアマンテスが最初の注意とゲームの案内をしておいたのだ。


 残りの十人に関しては、【睡眠】の魔法を調整する事でまだ眠らせたまま放置している。折を見て目覚めさせ、前の組と同様にゲームをさせる予定となっている。


「しかし心理というのは怖ろしい。その出目が何を指し示すのかも事前に知らされていないにも関わらず、サイコロを振っただけで自分が運命を選んだ気になっているのですから」


「……このような非現実的な状況、極限状態に放り込まれれば、誰だって簡単に騙されるわ。自分が考えた、選んだ気になって、思考を誘導されている事に気付かない……それはごく自然な心の動きじゃないかしら」


 ディアマンテスの虹色を帯びた白い瞳と、アメリアの深く透き通る紅い瞳が絡み合う。執事は見上げるアメリアの頬に触れるか触れないかの距離で撫でる仕草をし、次いで腰を折ると耳許に唇を寄せ囁いた。


「では貴女も、極限状態に置かれれば、甘言に惑わされてくれますか……?」


 低く柔らかく、深みを携えた声は響きをもって、彼女の鼓膜を震わせる。笑む唇から漏れる吐息は熱く耳朶をくすぐり、──紅い瞳は長い睫毛の影で僅かに揺れた。


「そうね、……その瞬間になってみないと、分からないわ」


「──否定なさらないのですね」


 ディアマンテスは笑いながらアメリアから身を離した。さらりと長く艶のある純白の髪が流れ落ち、アメリアの肌を微かにくすぐった。形の良い唇から漏れた吐息は、幾ばくかの熱を含んでいる。


 アメリアは感情を落ち着かせようとするかのように、そっと紅茶を口に含む。華やかで気品がありながらも柔らかな香りがふわりと立つ。アメリアはカップを戻すと、果物の盛られた器に手を伸ばしながらスクリーンを眺めた。


「鞭打っている方は確か、パリーア公爵家のパールと言ったかしら。打たれている側はアンバー・アンビス伯爵令嬢ね。どちらも女騎士を目指していて、鍛錬も積んでいたようだわ」


「パール嬢のご母堂は元女騎士団長でしたね。対するアンバーの叔母に当たる方は現役の女騎士団員だった筈……おやおや、第二王子のグループと全く同じ構図ですね」


「王子もだけれど、彼女達もここからどうするつもりなのかしらね……」


 アメリアは睫毛をそっと伏せ、ほうと小さく溜息をついた。スクリーンの向こうでは、鞭が肉を叩く音と悲鳴、それに笑い声だけが響き続けている。


「……本当に、愚かだわ」


 呟いた声は泡のように弾け、ほろほろと崩れ落ちて消えてゆく。


 果実が口内を甘く蕩かす。絡み合うように響く悲鳴に、アメリアは再度、溜息を零した。


  *





人間の心理というのは脆いものです。

そんな分けで、別グループがちらちらと……。

次はこちらの令嬢グループのお話。

次回も乞うご期待、なのです!



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